【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
迷宮領域に迷い込み、仲間と分断された禍福たちは、生存者達の隠れ家に逃げ込んだ――。
地下鉄迷宮領域の中、唯一残された隠れ蓑――赤池駅職員専用通路。
他の部屋のドアはあるものの、外部に露見するのを避けるためか、軒並み封鎖されている。その決して広くない空間に生存した一般人は――4人いた。
「あんたら大変だったろ? 『点』足りてるか? 俺なら譲渡できるぞ、5点しかねぇけど……」
「俺はいい。自力で呪力を捻出できる」
そのうち1人目が、最初に顔を出した清掃員のオッサンだった。
彼は余裕のない衰弱した面持ちながら、転がり込んだ禍福にわずかな物資を使おうとする。
「そ、そっか。やっぱ本物の呪術師なんだな、アンタら……いやそれでも! 血塗れでぶっ倒れてるじゃないか! ほらタオル使っとけタオル!」
「ぜんぶ式神の返り血だ、すぐ消える。これは横になって体を休めてるだけだ。放っておいてくれ」
「は、はぁ。まぁアンタのほどの人がそういうなら……」
禍福はというと、回復体位を取っていた。
今は小休憩だ。せめて体を休ませねば。状況は何ひとつ好転しちゃいないが、いざという時に動ける体にしておかねばなるまい。
――昔はそれこそ休みなくガリガリ鍛えてきたのだが、それはさておき――。
(……なんでそうも、見ず知らずの俺にこんなことを……?)
(いや。こんな事してる場合じゃない。今は一刻も早く、なんとか婪佳久と合流しないと――)
「――おぎゃぁああ!」
焦りと迷いに支配され、身を丸めた少年をよそに――大声があがる。
間違いなく人の喉で出た声音ながら、理性の欠片もない甲高い鳴き声。
ここには、赤ん坊がいたのだ。
そして若い女――2人目の生存者は、決して広くない通路であたふたと介助に追われていた。
「あわわわマズいって、音漏れたらヤバいよドア全部鍵閉めてるとはいえ!」
「エーッ赤ちゃん!? スゲー本物だ〜! えーとえーと、ベロベロバー!」
「んぎゃぁぁああ!?」
「はぁ!? え、呪霊! なんで呪霊いんの!?」
「ワーッ! 悪化した!!」
「ちょっ『
「え、仲間? 敵じゃなく? ……そ、それなら、まぁ……」
茶々を入れようとした化け物の影が、慌てた綺羅羅の言葉にシュンと引っ込んだ。
そんな最中に、3人目の生存者は「どいたどいた!」と割って入る。
「すいません通ります通りまーす! えっ、えーと、これをこうして――よし出来た! ほうらミルクでちゅよー、おっ、落ち着きましょうね〜」
ボサボサ頭に猫背の彼が持ち出したのは、通路に置かれた『補給物資』から『呪力保水液』だ。
――自力で呪力を捻出できない擬似術師に対する救済措置にして、クッソマズい事に定評のあるアイテムなのだが――若い猫背男が手に取ると、ペットボトルに詰まった液体の味は、
「きゃっきゃっ!」
「ふぃー、味変成功。わ、我ながら、ピンポすぎる術式っすよね、僕……」
「いんやいや、んな事ないって。おかげさまでウチら飢餓感あんま無いわけだし? とりま術式休めときな?」
「そーだぞー。どだい俺らが働き詰めなんて事自体、天地ひっくり返ってるも同然なんだからな」
清掃員服のオッサン、若い女、猫背男の三人。
そして赤ん坊は、状況に似合わず悲壮感なく笑い合っていた。
……この異常の只中にあって、正気を保ち続けていた。
「あのー……あなた達って、どういう人なの?」
「ふっ、よくぞ問うてくれたな!」
思わず口をついて出た星綺羅羅の問い。
隣の『
意気揚々と彼らは立ち上がり、こう答えた。
そう彼らこそ――!
「「「我ら! 人生オワコン同盟だ!!」」」
――などと。三馬鹿は、今日まで考えてましたとばかりのポーズを披露した。
―
――
―――
「は、はぁ。まぁ確かに、日本全土が巻き込まれた以上はオワコン扱いもやむなしだろうけど――」
「いや、始まる前から終わってたからオワコン同盟だよ。ふたつ揃って二重でオワコン同盟」
「あー、そーゆー?(適当)」
「へーどういうコトなの!? 聞かせて聞かせて!」
聞く前から綺羅羅の興味は失せていた。
――彼らは全員が『擬似術師』だ。この死滅回游で初めて呪術師になり、術式と呪力を手に入れた――ありきたりな元一般人に過ぎない。
しかも、誰がどう見ても社会的地位が低そうな面々ときた。
しょーもない身の上話が始まるに違いない。
が、『
「まず俺は
「あー、なるほど透明マント、だからドアの内側全部に布かかってたんだ。てか親のスネ齧りすぎだし、自立してないでしょそれ。せざるを得なくなっただけでしょ」
「ククク酷い言われようだな、まぁ事実だからしょうがないけど」
綺羅羅からの正論
きっと、この恥も外聞もないのは元からなのだろう。
果たして『
「次ウチね〜。
「エーッ人間ってそんなんでも生きてけるんだ! すっげー人間の自由さスゲー! これが多様性ってヤツですか?」
「いやすごくない、すごくないからねコレ?」
(あっ素はマトモなんだ)
絵にかいたような地雷系ファッションを着こんで飄々ぶろうとした女は、だが変な影響を受けそうなバケモノを前にマジトーンでツッコミを飛ばす。
今日まで担保されたのが奇跡的なまでのマトモな感性をお持ちらしい。意外と地頭は良さそう、と勝手に綺羅羅は内心で評価した。
「え、えっと。僕は
「あー、うん、大体わかったからもういいから。早口なんないで」
「アッハイ」
うん、たまに呪詛師で見るタイプの人種だ。
こういう人は、呪霊が見えるとか関係なくコミニュケーションに難を抱えている。一番メンタルが心配になってくる。仲間に出会えなかったら普通に死んでいた事だろう。
「いやぁしかし小林さん。改めて口にしてみると……その」
「ああ! やーっぱ俺らの人生って終わってるよな〜! がははは!」
「だね〜」
「ですよねーははは」
「……ねぇキララさんやっぱスゴイよこの人たち。笑うしかないからだけじゃなく、マジで笑ってるよ? めーっちゃ友情硬いよ?」
「ああ、うん。まぁ、ある意味すごいね色々と」
総じて、年齢も性別もバラバラだが、彼らの団結は確かなものである事がよくわかった。平時であれば、彼らは得難い理解者同士であっただろう――だが。
……第二次・死滅回游という異常事態で出会った仲なら、話が別だ。
現に彼らは、赤ん坊を除いて、少なからず点数を保有している。
「――2つ、質問いいかな。まず、そこの『補給物資』ってどう手に入れたの? 基本パラシュートで地上に降ろされるでしょ、
「あーそれな、前まで仲間にいた『
「え。外って、領域の外? マジで?」
「あーコレそうなのか! どーやらマジみたいだよ綺羅羅サン、ほらあそこ! 確かに『道』が『死後強まる
「ん~? ……あ、ホントだ! なんか壁の先に道ある!」
綺羅羅は形のいい眉をしかめ、それを見つけて、星を宿した虹彩を細める。
――従業員専用通路の行き止まりに、薄っすらと道が延びていた。
微かながら、確かにどこかへと繋がる『光の道』が、壁の奥に敷かれていたのだ。
なにより、最も探知能力に長けた『
「うわー、わかりづらい上に小さいな。一人しか倒れなさそう……でも、なんでこれ使って脱出しないの?」
「できるならやってます〜」
「色々ワケありでして……」
「前までは障害物は何でもすり抜けて通れたんだけど、今じゃ式神に普通に襲われる。あくまで、外に繋がる道が残ってるだけなんだ」
なるほど、そりゃ無理だ。
――たとえ彼らが何か企んでいたとしても、自分の命を失ってまで嘘をつく事はあるまい。
――本物の呪術師の存在をより強く感じる『擬似術師』が、長期間領域の中に閉じ込められたとあっては、自身が危機的状況にある事は嫌でもわかっているハズだ――気狂いを起こしていないのが、奇跡的なほどに。
「フムフム。条件ありきで、道を敷く術式かァ……なんかカフクと術式似てンねェ?」
――しかし、もう『補給物資』が望めないなんて。彼らにとっては、命綱を絶たれたと同然の事実だろう。
「次の質問。その赤ちゃんって、結局誰と誰の子なの?」
「あー、それは――誰の子供でもない、です」
「この子のお母さんは、ここで出産した直後に死んじゃったの。介助なしだったから」
「……(わかっちゃいたけど。キッツいなぁ)」
「……あ〜……そっかぁ。そういう子なのかァ」
赤ん坊は己の身の不幸など知らず存ぜぬと、変顔する猫背男にあやされている。
彼の『感覚を誤魔化す』術式とやらで、きっと揺籠にいるような気分で、快適に過ごしてきたのだろう。
或いは――もういない、母親の腕の中だろうか。
「ああ。この子を見つけて、俺たちは不毛な殺し合いをやめたんだ」
初めて、
そう――彼ら生存者にとっては、ここからが本題なのだ。
「だから――頼む! この子だけでも助けてくれないか! あんたら、強いんだろ! 本物の呪術師なんだろ!?
明らかな年下の格上に、なんらプライドのひとつもなく彼は大声で縋り付く。
彼の様子を、綺羅羅は「やっぱそーなるかぁ」と冷静に眺め、喇誑はやはり目を輝かせ感銘を受けて。
「――何を。言ってんだ?」
二人より先に、聞きに徹していた禍福が、その言葉に反応していた。
「――自分の事はいいだと? お前ら分かってんのか、死ぬんだぞ! 社会地位がどうなかろうが腕が折れようが、夢がなかろうが死にはしない。けどこれは違う。本当に命を失うんだ。アンタらは、人生を失うんだぞ……!」
少年は、義憤と困惑に声を振るわせる。
抜き身の
その場で誰よりも声を荒げた若者に、生存者たちは――。
「――いいんだ、どうせ俺らは助からない。生きてたって何も出来ないし、何も生み出せねぇよ……そういう人生だったんだ。これまでも、これからも」
「そーそ。あんま買い被らないで? ウチら、ただのしょうもないクズなんだから。生き残るためにはなんだってやってきたし?」
「そもそも、僕らが生活できてたのって、しゃ、社会や親に迷惑かけまくってたからで……もう社会も、日本も、無くなっちゃったじゃないですか」
彼らは、晴れやかに笑っていた。
悲観する余地もないほどに諦め切って、これまで騙し騙し目を逸らしてきた事実を、平然と自分事として背負い込んでいた。
現実を受け入れた大人の笑顔。不釣り合いに張り付いた、その表情を前に――少年は、ただ口を結んで黙るしかなくなる。
「俺たちの命なんてどうでもいい。ついていったって足手纏いだ。もう人生に未練なんてねえ、どうせオワコンだからな」
とっくに彼らは、彼ら自身を見捨て切っていた。自分可愛さの考えなど今更、毛程もなかった。
実際、正しい認識だ。この死滅回游に背景で山と屠られている雑魚の一部が彼らなのだ。
だが――ひとつだけ。「これだけは違う」と、異論を許さずに主張できる例外があった。
「――けど、この子は違うだろ!
丸い目は、いまだ状況を理解できないまま彼らの形相を眺めていた。
終わりを認識した彼らは、その手に残った、最後の夢と希望の結晶を差し出していた。
このバトンだけは継がなければ。
この想いだけは遺さねば、死んでも死にきれないのだと。
「だから頼む! その子だけでも、なんとか助け出してくれ! どうか! お願いします!」
「「お願いします!!」」
「……」
彼らは迷わず頭を下げた。失うものなんてない、とこれ以上なく示していた。
「そーか! 涙を呑んで送り出す! そーゆー終わり方もあるのか!」
『
だが禍福には、それを制止する様子はなかった。
(――これは、一歩目だな――
――このようなケースに陥る場合どうすべきか。彼の中で、既に結論は出ていた。
後は、口に発するだけ。踏み切るだけでいい。だから彼は、迷いなく返答を――。
「ちょーっと待った、ぜーいん一旦ストーップっ!」
――そんな時だった。
星綺羅羅が、全ての流れをぶった斬ったのは。
「えー、皆さん。『熱』があって結構だけど、性急すぎです。いや実際余裕ないんだけどさ……お願い! 私達に、ちょっとだけ決める時間をください!」
「――は?」
意味が分からない。なぜ邪魔をする。禍福は敵意に似た無理解の目を向ける。
――味方とはいえ、経緯は成り行きの途中加入者だ。自分の目的とそぐわぬ事をされては困る――が。
綺羅羅の明るさは、彼の視線などそっちのけであった。
「あーあとヒロちゃん。あの布って結界の一種でしょ? もう術式解除していいよ。私が制御下に置いたから」
「あ。ヒロちゃんって俺か――えっ!? あっ、ほんとだ、いつの間に!?」
まず、綺羅羅は彼らの負担の軽減を図った。
――そもそも、ここは隠れ蓑として脆弱すぎる。
アラが多過ぎて見過ごせない、目も当てられないほどにだ。
こんな体たらくでは、おちおち話なんてしていられない。
「話聞きながらマーキングは済ませた。たとえ見つかっても10分は保つ隠れ蓑にはなってるよ。私、
綺羅羅は「もちろんキミもそうだよね~?」と、禍福に視線を返す。
禍福は一旦、その場では黙って、困惑しつつも頷いた――考えあってのこと、らしい。
実際、外に出たら式神にまた襲われる、作戦会議は今、ここでしかできない事だ。
「わっ、わかりました! や、やってくれるんですね!?」
「術式、解除……ぅ、あ」
「おわーちょっ小林さん危な! 倒れるならこっちにしろし! やっぱ無理してたんじゃんもう……!」
「あわわわ! こっちも感覚ごまかさないと!」
ともかく、元一般人一同を置き去り、星綺羅羅は「いいから来な」と禍福の服端を掴んで、通路の奥に連れて行く。
「じゃー『
「いえっさー合点承知ィ! ……しかし、そっかァ。なんとか産まれられたんだねェ。……よかったねぇ」
赤ん坊の額を撫でる怪物に対し、危険を感じている者は、不思議といなかった――。
マージでこの章だけ導入が長い。上下分けさせてください。
投稿早めるんで許して()
次回は5/6(水)です。