【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
第二次・死滅回游の泳者となった安曇野禍福は、鬱々とした思いを綺羅羅に吐露する。
(なんか男オリ主がウダウダ言ってるだけの回なんで嫌だったら読み飛ばして下さい)



第2部 32話『葦ですか。』・下

 

「えーと、椅子椅子……あった! はい、どーぞカフちゃん、座って座って!」

 

 

 

 休憩室、と覚しき部屋のドアを開いて、星綺羅羅は椅子を禍福に寄越してくる。

 促されるままに彼は座って、埃っぽい部屋のなか、対面する。

 

 

 

「はい……あの。結局なんの話ですか、綺羅羅さん」

 

 

 

 ──作戦を考えるための時間。おそらく、そうなのだろう。

 わざわざ隠密結界を拡張させ、こんなことをしているのだ。そうに違いない、と彼は考えていた。

 

 だが、話題は思わぬものであった。

 

 

 

「ふう……カフちゃん。さっきの目は見過ごせないよ? まるで『ここで試してみよう』みたいな顔してた。弱い人を切り捨てる予行練習、とか考えてたでしょ?」

 

「……、『喇誑(ラテブラ)』の入れ知恵ですか?」

 

「まー、そんな感じ?」

 

 

 

 ――禍福の声音は、一転して冷たく低いものに変わっていた。

 

 綺羅羅は、内心「顔こえー」と気圧されるも、先輩としての矜持で顔には出さない。

 後輩に頼まれた以上、放ってはおくわけにはいかないし──実際、これは看過できる問題ではない。

 

 

 

「後にさせてください。俺個人の話なんてしている場合じゃありません」

 

「うわ。君本当に2年生? 可愛げないなぁ」

 

「俺たちは敵の領域に囚われてるんです。今すべき話じゃない」

 

「現実はそうだね。でもこれ、向き合い方のハナシだから」

 

 

 

 焦りに支配され、それでも辛うじて言葉を選ぶ禍福。

 対して綺羅羅もまた、真っ直ぐに向き直り、こう言った。

 

 

 

「別に弱者は助けるべきとか言いたいワケじゃないよ? 足手纏いなのは事実だしね」

 

「私が懸念してるのは、君が生存者(かれら)を切り捨てる事によって、もっと大事な何かを失うんじゃないかってコト――君、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 これは入れ知恵だけでなく、綺羅羅自身が直感で発した指摘だった。

 ここまでの道中、何度も彼に感じた危うさを口にした。

 

 その言葉に、安曇野禍福は――。

 

 

 

「――そうなる事の、何が悪いんですか?」

 

 

 

 抑揚のない声音で迷いなく。

 冷静に、温度を殺した言葉を返していた。

 

 

 

――

―――

 

 

「何かを持とうとしたから、俺は失敗したんです。手に入れた平穏なんてもんにしがみついたせいで……」

 

(なるほどね。これが『喇誑(ラテブラ)』ちゃんの話してた事か……)

 

 

 

 綺羅羅は伝えられた話を。

 禍福は、己の記憶を反芻する。

 

 

 

 ――あの自治区での一日を、一度たりとも忘れた事はない。

 

 日常にしがみついたせいで。常識に囚われたせいで。

 信用した奴らが殺し合いになった時、彼は動けなかった――婪佳久(アイツ)に手を穢させた。

 

 しかも、すべての主犯は自分の先祖だった。


 

 安曇野家のくだらないプライドが、また彼女を巻き込んだのだと知った。

 

 

 

「そんなモンのせいで大切なものが守れないなら、俺には要らない。それに……俺はもう、アイツとはいられない」

 

 

 

 その結果が、目の前の彼だ。

 彼は鬱々と背を丸め、手を組んで、虚空に目を向けている。

 

 

 

「あれでハッキリした。安曇野家がある限り、婪佳久は平穏を奪われ続ける――だから、せめて俺は、アイツから奪った平穏を返さなきゃいけない。自分のすべてを費やして、安曇野を滅ぼして――アイツだけは、また、平穏な世界で笑っていて欲しいんです」

 

 

 

 決意は固いようだ。内心の吐露、というよりも決意表明だった。

 苦渋の滲んだ声音ながらも、彼はそう言い切っていた。

 

 かつての出来事は、おそらく今後どうあっても忘れられないほどの衝撃だったのだろう。そう決心する事でしか、心を保てなかったのだろう。

 

 

 

「そっかぁ。……うん、話してくれてありがとう。何となくは分かったよ。君、本当に頑張ってきたんだね」

 

 

 

 ――うーん、思ったよりヤバいなこれ。と綺羅羅は内心で歯噛みした。

 

 話は、ほぼ『喇誑(ラテブラ)』から聞いた通りだ。

 

 彼は自分を犠牲にしすぎている。目的が定まりすぎている。

 

 

 

 だからこそ、婪佳久と分断された今、彼の精神状態は何よりも危険すぎる――。

 

 

 

「けど、これは請負なんだけどさ。死んでも勝つと、死んで勝つは違うよ。生きるっていう執念のない力は、()()()()()()――自分で言ってて、虚しい復讐だって思わないの?」

 

「そんなのは、元から強い人だから言える事です。俺は、こうやって頑張るしかない」

 

 

 

 同情でなく、理屈で綺羅羅は彼を宥めようとし、彼もまた理屈で振り払う。

 

 

 

 ――才能がない、という彼の自己認識は正しい。

 

 命を賭ける縛りは呪術において最もインスタントかつ莫大な強化をもたらす。

 にもかかわらず、彼の『爆縛呪法』は『投射呪法』に並ぶのが関の山に留まっている。

 

 彼の術式効果はブレイクスルーを起こし、これ以上ないと言うほどに強まったが、肉体がついてこない。純粋に扱い切れていない。

 

 働けば働くほど、無理を重ねるほどに、その感覚のズレは強まるばかり。

 10日前に『黒閃』を経たでさえ、この悪傾向はついに改善できずにいる。

 

 

 

 もっと、できるはずだったのに――。

 

 

 

「まだ足りない。もっと削れる。あの、全てから解き放たれた速さに至れていない」

 

「俺は元からそうなんです。ひとつのために他を切り捨てる。引き算を極めて、100から1に至る。このやり方でしか自分を高められない」

 

 

 

 年齢にそぐわぬ鋭利な眼光が、綺羅羅を貫く。

 

 ――彼の目には、本質的に『見たいと思ったもの』しか入っていない。

 ――ここにいない敵を。この死滅回游の首謀者を、少年は見つめていた。

 

 どうやったら、この死滅回游を終わらせられるかは分からない。ならば黒幕を叩くしかない。

 

 せめてヤツらも、同じ地獄に引きずり落とす。

 

 

 

「ひとつのために他を切り捨てることの、何が悪いんですか?」

 

 

 

 顔があがる。漆黒の意思を宿した目が綺羅羅を射抜く。

 彼の精神構造について、綺羅羅は詳しいとは言えない。ただ、その決意の重みを突きつけられるのみ――だが、

 

 

 

「いやぁ、悪いとは言ってないってば。けどさ、もう一個くらいは入れてあげてもよくない? もうちょっと身の丈広く持ってなきゃ、自分で限界を決めてるようなもんだよ?」

 

 

 

 心意気は買いつつも、やはり指摘せざるを得なかった。

 

 命を賭け金にして何が何でも成し遂げる、というならまだしも――単なる自暴自棄なら話は別だ。

 

 

 

「……俺が、自分で?」

 

「だってそーでしょ。復讐って得るものがない行為なんだし。今のために他を切り捨てて、自分を捨てて。そんなんだから勝って何を残したいのか、分からなくなってるんじゃないの?」

 

「……今は、俺の話なんてしてる場合じゃありません。こうしている間も婪佳久が死にかけてるかも――!」

 

 

 

()()()()()()()()()()()() そんなの呪術師として当たり前だし、彼女は自分で呪術師やるって決めてんでしょ。信じてあげないの?」

 

「――ですから、……俺に、そんな余裕は……ッ!」

 

 

 

 彼の焦りきった様子を、だが『ただ必死なだけ』だと綺羅羅は見据えていた。

 

 

 

 一歩間違えれば死ぬ、加速の術式。

 瞬発力に特化された短期集中思考。

 

 

 

 そう――彼は性質上、いつの間にか、何のために戦っているのかを忘れてしまうのだ。

 

 一点、ただ一点を目掛けて突っ走る。

 ひとつの目的が定まった瞬間、その達成に不要なものを『見なくなる』。自分事だろうが切り捨てる。そうして知らず知らず、当初の望みを見失う。

 

 

 

 それが――彼女だけは再び平穏を迎え、笑っていてほしいという大望とあっては、尚更に。

 

 

 

「あと、これは私情だけど。どんな理由であれ、女のコ置き去りにすんのは良くないと思うよ?」

 

「……!」

 

 

 

 まだ言うか、と禍福は睨みつけようとして、固まる。

 綺羅羅の顔には、自身の捨てた悲しみが浮かんでいた。

 

 先ほどの発言は、綺羅羅にとっても同じ事だ――どんなに相棒を、彼の豪運を信じていたって。たとえ再生すると分かっていても――こっちはいつも気が気でないっていうのに――。

 

 

 

「……ま。どう選ぶかは君が決めていい。私もベスト尽くすだけだしね。君の言う通り、ここは敵の領域内で、たまたま必中効果がなかったから死なずに済んだだけ。私達は生き足掻くしかない――何より信じてっからね。また金ちゃんと絶対会えるって」

 

 

 

 ――けど、すぐに呪術師としての顔に戻る。

 呪術師としての彼女は、今は隣にいない相棒との再会を信じているからだ。

 

 もう伝えるべき事は伝え切った。

 

 今の禍福は、置いていかれる側の気持ちをまるで見ていない。

 婪佳久は全てに優先されると定義づけていながら、婪佳久と向き合っていない――それを自覚した上で行動を貫くのなら、止めるつもりはない。

 

 

 

「呪術師にしちゃ恵まれた崖っぷちなんだからさ。せっかくなんだし、好きにしなよ」

 

 

 

 やることは変わらない、脱出のために動かねばならない。

 今、彼のためにできるのは、決断のための時間稼ぎだ。

 

 こればっかりは彼自身の問題だ。自分で決めてもらうしかない。

 

 綺羅羅は彼を気遣い、立ち去った。

 残された禍福には、命題が残される。

 

 

「……今更、なんでそんな……だってもう日本は、どうあっても……」

 

 

 

 ――彼の目は、とっくに向かう先を定めたつもりでいた。

 その迷いを、許容するか、或いは振り切って進むのか――。





次回は5/9(土)です。
もしくは5/13(水)です。そのときは間に合わなかったんだなと思って下さい。



【補足①】禍福のメンタルについて

 禍福ってさ、イカれてんだよね。

 ゴールが決まった瞬間、それ以外見れなくなって、自分の本音すら置き去りにできてしまう。この精神性自体は第一部から書かれてきました。



 そのうえで第一部終盤では、五条先生が全力で介入し軌道修正して、禍福は正しいレールに乗る事ができ、婪佳久も救われました。

 めでたし、めでたし〜。……とは終わらなかったのが本シリーズ。

 コレ、その場は何とかなっても禍福のメンタルの根本解決にはなってないんです。五条先生の軌道修正だって殴り倒すスパルタ説教でしたし。むしろ成功体験を与えて悪化させてますね。



 ただフォローしとくと、第一部のハピエンで彼の物語が終わってたら大丈夫だったと思います。
 安定した生活の中で、彼は自身の内面に時間をかけて向き合えたハズです。なにもかも死滅回游が悪いです。(……いややっぱ無理あるか? 一度でもコケたら死ぬのには変わりないし……)



 えっ、じゃあなんでハピエン覆してまで第二部やってんのって? 別にいいだろオリキャラなんだから。



【補足②】術式が強くなりすぎて体がついていけてない問題

 何故この問題が発生してるのか。原因はやっぱり五条先生です。

 第一部終盤の精神と時の部屋、もとい我流・簡易領域『蘇迷盧(そめいろ)』には大きなデメリットがあります。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 外界と時間の流れが異なる中でダメージが発生しないのは、結界の足し引きです。「この方法じゃ何のプラスも起こらないから許してね?」という縛りありきで成立してます。

 そのため、『蘇迷盧(そめいろ)』に入った前後で、彼の性能は全く上下してません。術式解釈(イメージ)が上がっただけです。

 その状態で『仮想の速度』とかいう謎術式効果をブン回して、第一部最終決戦では暴れ散らかしました。
 結果、術式効果だけが飛躍的に上昇。他ステータスが完全に置き去りという、デカすぎるギャップが生じてます。(育成失敗やないかーい!)

 第一部最終決戦の禍福は、自分で自分の限界を定めがちな彼が、初めて何もかもから解き放たれた人生最高の瞬間でした。コイツ五条先生に運命歪められすぎだろ……。



 なお、五条としても、数ある教育手段の中でコレは悪手と考えています。
 そもそもの用途としては「既に体が仕上がっていて、伸び悩んでる術師のケツを叩く」ものです。体が仕上がってない相手にコレやったらそりゃこうなります。

 でもあの時は状況に余裕なさ過ぎてこうせざるを得ませんでした。苦肉の策です。

 つーか五条がやれるだけの手を尽くしたのに、禍福のポテンシャル低くない? 最近じゃモジュロで亜光速出たんだぞもっと頑張れよ(比較対象がヤバすぎるだけな気もする)
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