【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 33話『ドクハク』

 

 ――彼が、これと決めたら一直線なタチなのは知っていた。

 ――だからわたしは、常に先手を取って動いてきた。

 

 変に振り切れないように、彼の行動と選択が少しでも減るように。

 でなきゃ生き残れない。わたしが()()()()()()()()――。

 

 なのに、なんでだ。

 

 ――どうして、こうなった!?

 

 

 

――

―――

 

 

 

 名古屋市営地下鉄△△線・緑ヶ丘駅。

 

 婪佳久(らんかく)は、気付けば(よろず)と共にいた――。

 

 

 

「あーこんなありがちなのにハマるなんて私も腕落ちたかしらねぇ。結界? 領域? 宿儺みたいな――いやデカいだけで質はそれほどか……」

 

 

 

 その余裕ぶりは平安猛者故か、現実が見えていないのか。或いは両方か。

 女は長い黒髪をかきつつ周囲を見渡し、まるで真新しさのない景色に悪態を吐く。

 

 対して、婪佳久というと――。

 

 

 

「そのへんどう思うよ、婪佳久ちゃ……ん?」

 

「――生存本能、悪意と。なんか欠けてる気がする。古典的な落とし穴には違いない、この空間そのものが呪霊の体内、いや――大掛かりすぎる。なんですぐ殺さない? 術式になんかしらの『縛り』が――?」

 

 

 

 背を丸め、爪を噛んで、ブツブツと矢継ぎ早に状況をあげつらい分析に徹していた。

 

 その真白の少女にとって、ここは最悪の環境そのものだった。

 

 

 

「あの~。あのー婪佳久ちゃん、もしもし?」

 

「――いやむしろ名古屋地下鉄は元からあるよな。呪物に改造して転用してる? どっちも在り得る。けどなんで必中効果をつけな――?」

 

「もしもーし! ちょっと!? シカトこいてんじゃないわよもしもぉーし!」

 

 

 

 ――婪佳久は術式『受愚戴転』の効果で、周囲のコントロールされていない呪力を吸収する。

 同時に、呪力情報から逆算して『負の感情』を感知でき――この場に立ち込める死の念(じゅりょく)すべてをフィードバックしていた。

 

 現状を飲み込む事自体が、彼女には最初にして最大の難問だった――なので。

 

 

 

 (よろず)は、殴って解決することにした。

 

 

 

「……、なぁに?」

 

 

 

 無言、ためらいなしのフルスイングだった。

 目の前のゲンコツさえ見落とした婪佳久は、苛立ち交じりに(よろず)を見返す。

 すぐに『受愚戴転』による治癒――『正の呪力』という呪力特性の再現によって治したものの――額の割れた痕跡は赤々と、白い貌を染めていた。

 

 

 

「なっさけないわね。切羽詰まりすぎて見てらんない。本当にタマついてんの?」

 

「いやついてるわけないでしょバカじゃねぇの?」

 

「てか声低っく! カレの前じゃどんだけ猫被ってたのよ」

 

「声の弾むシチュエーションに見えてるなら流石だね」

 

 

 

 目つきから何やら、最悪のコンディションそのものな婪佳久。

 それを知ってか知らずか、(よろず)は尚も駄弁り倒す。

 

 

 

「私だってねぇ。私の夫だってねぇ。甲斐性のないオトコで、放っておくとすーぐどっかほっつき歩く人だったのよ?」

 

「へぇそうなんだ夫いたんだ。てっきり万年独身ストーカーとばかり思って――ぅぐ!?」

 

「はぁ!? いるわよ、いるに決まってるでしょ。もうっ失礼しちゃうわねェ」

 

 

 

 ヘラヘラする間もなく、二発目が腹に綺麗に入った。

 

 今の婪佳久は、身体の呪力強化が一切できない。

 風穴が開きそうな衝撃に貫かれ、(くずおれ)れた婪佳久は盛大に胃液と血を吐く。手加減されているとしても、内臓破裂していないのは奇跡でしかなかった。

 

 しかしながら、とうとう宿()()()()()()()()()()()()(よろず)は止まらない。

 

 

 

「いい? あんたも乙女なら自分の恋ぐらい自分で奪いなさい、掴みなさい! 夫が勝手に動こうものなら首を引っ掴んで黙らせなさい、それが妻の勤めなのよ!」

 

 

 

 小刻みに震える少女の背を、さながらビールジョッキでも持っているのではないかと握り拳を固め、ガンガンと叩きながら(よろず)は訴えかける。

 

 

 

「そっ、かぁ、(よろず)さんって、そんな荒っぽいのデフォなんだ……」

 

「いや本当はもっとラブラブイチャイチャしたいんだけど。仕方ないじゃない荒っぽいのは、呪術師なんだもの私」

 

「ぁぶ!?」

 

 

 

 立ち上がろうとした婪佳久は、呼吸のように自然に出た(よろず)の蹴りで容易く崩される。

 

 ――両者の実力差は開き切っている。婪佳久が反撃しないのは、本気を出された瞬間に殺されると理解しているからだ。

 これまで気まぐれで殺さずにいたが、気が変わったので撲殺します。というのは何ら不思議な事ではない。

 

 

 

「欲しいものは待ってるままじゃ掴めない。戻ってこない。取り返しに行きなさいよ。自分の愛なんでしょ? 女の子なんでしょ、恋なんでしょう?」

 

 

 

 ――二人がここに取り込まれた瞬間に分断されなかったのは、「ついカッとなった」(よろず)が婪佳久に殴りかかって、たまたま接触していたからだ。ただの意図せぬ偶然に過ぎない。

 

 

 

 (よろず)は婪佳久を憂慮などしていない。婪佳久について何も知らない。

 

 これは、ただ語りたいだけ語り、持論をぶつけているだけだ――しかし。

 

 

 

「少なくともそうやって、()()()()()()()()()()()まま生きるよりか遙かに建設的ってもんよ」

 

「……ッ!」

 

 

 

 その指摘だけは。婪佳久にとって酷く突き刺さるものだった。

 

 

 

「だいッたい、もう互いの秘密とか知り尽くした後じゃないの? 何を今さら誤魔化す必要が――」

 

「――意外だなぁ。アンタ想い人を生首にして『これが愛よ!』とか言うタイプじゃないの?」

 

「いやそれも愛だけど! それだけじゃないでしょ!」

 

(否定はしないんだ……)

 

「たとえばアレと、あとアレと! あーんな事とか! あーんなのまでしゃってウフフじゅるり。もうこの際だから抱き枕構築しようかしら――」

 

 

 

 婪佳久は食い気味に会話(?)を切り上げる。 

 言葉選びは適切だったらしい。

 

 (よろず)は婪佳久から興味を失い、恍惚とした顔になって脳内で持論を展開し出す。『それだけじゃない』自分の愛情表現(アイのカタチ)について考えるのに夢中になっていた。

 

 ――別れたい。1秒も早く、こいつと離れたい。

 

 

 

(よかったぁ、足折られなくって……禍福と分断されたのは痛いけど、こんなのに巻き込まれてたらって思うとゾッとしない……)

 

 

 

 これでもかと脳内でこき下ろしたいが、そんな余裕さえもない。

 虫の息でいた婪佳久は、最低限の自己治癒で立ち上がり――周囲を、探索して回る。

 

 駅構内には、呪力が満ちていて、餓死した遺体が散見される他には何の変哲もなかった。

 

 ――ただし、ある一点を除いて。

 

 

 

「血痕がある。新しい……わたしの血じゃないよね。さっきここ来なかったし――まさか、生き残りがいる?」

 

「見つけたらどうすんの?」

 

「……まぁ、助けられるなら、助けるよ」

 

 

 

 口実としては丁度いい。背後のクソ女に適当な返事を残し、血痕を辿って歩きだす――刹那。

 

 

 

 式神の大群が、二人目掛けて殺到した。

 

 

 

「「――なに!?」」

 

 

 

 変化はあまりに一瞬だった。

 車輪の轟音と共に線路を通過した暴走特急。

 その開いた扉から、滝のような蜜蜂型式神が雪崩れ込む。

 

 羽虫達は鱗粉のように、鋭い尾で空間に軌跡を描く。それは『結界の境界』であった。

 ひとつひとつは弱いが、二本三本、数十本も重なれば結界強度は底上げされ――。

 

 

 

「あいだだだっ痛った! なんつー雑な切り口よ信じらんない! この私をこんな安物で切りやがって!!」

 

 

 

 (よろず)は斬撃の雨に波打たれ、押し流されながらも――肩にまとわりついた武器庫呪霊から、構築済みの呪具を振り撒き、自身も殴り回って破壊を振り撒く。

 

 一個体としての力は比べようもなし。いくら数があろうと押し潰されない局所的抵抗力。

 

 ――が、手負の婪佳久には、そんな芸当などできようはずもない。

 

 

 

(――無理! 戦略的撤退ッ!!)

 

 

 

 躊躇いゼロで前進し、婪佳久は目の前のトンネルへと飛び込んだ。

 運がいいのか悪いのか。たまたま(よろず)と離れていたのが幸いし、最小ダメージでワープゲートをくぐる。

 

 

 

(しかし、式神の比率が違かったよな。万さんに9、わたしに1くらい――式神内蔵の術式による領域だった場合、どんだけの高レベル――?)

 

 

 

 ――その思考が途切れた。

 転移は一瞬だった。全く別の駅のホームの上に着地する。新たな状況が目に飛び込む。

 

 ――式神に食い荒らされ、たった今殺されただろう細切れの男女が、彼女の目の前に転がっていた。

 

 

 

「――ぅ、あ」

 

 

 

 どうやら、最悪の出目を引いたらしい。先ほどの駅で見た鮮血は、ここに続いていたのだ。

 

 大気に充満した呪力でなく、たった今絶命した色濃い死念をフィードバックし、婪佳久は――。

 

 

 

 咄嗟に舌を噛んで、気絶を免れた。

 

 

 

(邪魔すんな。もう死んだんだろ足引っ張んなよ――黙って、わたしに使われろ!)

 

 

 

 叩き起こされ、最大まで刺激された神経が――次の生命危機に反応する。

 

 咄嗟に彼女は、自身の足元を爆破させた。

 

 その場の呪力を吸収し、叩き落とす。乱雑極まる早撃ち。反動で彼女自身も吹っ飛んだが問題ない。

 

 そうして初めて――背後をついてきた、強襲者(あらて)の魔の手から免れた。

 

 

 

「あー……やっぱり誤発注じゃないですか。あのジジイ、また駅をシャッフルしやがりましたね。結界座標しか教えてくれないクセに……」

 

 

 

 暗殺に失敗した強襲者は悪態を吐く。

 

 婪佳久は死体の角切り(かくぎり)に足を取られ、受け身に失敗。苛立ち混じりに肉片を呪力放射で消し飛ばしてから、その敵を睨む。

 

 

 

「……すごい見た目してんね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()よ?」

 

「――ッ」

 

 

 

 ――どいつもこいつも。わからない風を装っていながら、的確に傷口を抉ってくる。

 

 

 

 ソレは高揚していた。

 ソレは白いパーカーのフードから、蛇のように長い舌を覗かせ、涎を漏らし、鱗混じりのツラで笑っていた。

 

 

 

「まァ、いいでしょう。ここは臨機応変にィ――」

 

 

 

 少年そのものな背格好はやや猫背気味となり、腰からは長い三角の尾が突き出ている。それは正に――!

 

 

 

「――覚悟なさいッ、真ッ白女ァ!」

 

「だからさぁ――てめえは誰だよ」

 

 

 

 恐竜人間(リザードマン)そのものであった!

 





やっっっと導入終わった。週一投稿に戻します。
次回は5/17です。

サブタイ考えるのにいちばん時間かかったかもしれん。なんで俺は曲名縛りなら楽できるとか思ってたんだ……?



【補足】婪佳久は任務サボり気味

婪佳久は術式解除できず常にこの体質なので、普段は任務をあまり受けたがりません。

とはいえ「呪術師をやって初めて自分は人間になれる」という信念から、どんな任務だろうがどんな手段だろうが、やるからには躊躇いなく徹底的にやります。

呪術師としての自負が強過ぎる余り、自分で自分の任務の敷居を上げてるきらいがあります。

まっ今はサボれる状況じゃないんだがなガハハ!
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