【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【前回のあらすじ】
死に瀕した婪佳久(らんかく)
今際の際、彼女が思い起こしたものは……?



第2部 35話『受愚戴転 -産穢-』

 

 ――行き倒れ、式神に食い荒らされた男女の屍。

 ――婪佳久が受け取った念は、男の側の記憶であった。

 

 

 

 赤ん坊を連れた夫妻は、逃げ惑ううちに、たまたま迷い込んだ。

 

 

 

 二人は赤ん坊のため、役割を分担した。

 

 夫は実行役だった。妻と赤ん坊の呪力が尽きないためにも、物資を奪うためにも、ひたすらに『点』を稼いだ。

 

 妻は命令役だった。

 式神に見つかってはお終いだ。弱者である以上、戦える相手と場所を選ばねばならない。

 たとえ餓死した死体が、あらゆる道に散見していたとしても。

 実行の瞬間には目を瞑り、赤子の目と口を塞ぎ続ける。

 

 そうして二人は生存できた。

 このでたらめな空間で分断されないため、彼等は共に在りながらも別の世界を生きた。

 

 

 

 そうこう、二週間ほど、互いの役割を全うしていた時だった。

 

 

 

「この子、もう自分じゃ泣かなくなっちゃったね」

 

 

 

 妻は、一言の弱音を吐いた。

 夫にとって、その内容はなんら重要ではなかった。

 彼女は『不満があった』らしい。口にされた以上、改善させねばなるまい。

 

 

 

 夫は、人生で初めて妻を殴った。

 その殺意を一点に叩き込んだ。

 

 手を汚すとはこういうことだと。

 お前が目を伏せたモノを。

 実行役として培われた『やってしまえ(マインド)』に従って。

 初めて、男は噛み殺してきた感情を表出させた。

 

 子を殺されると感じた妻に、隠し持った包丁を突き立てられようとも。

 その赤ん坊がどんなに絶叫しようとも。

 

 

 

 ――過ちを犯したと気付いたのは。

 その声に呼ばれて、式神たちが押し寄せた時。

 

 

 

 もう、全てが遅かった。

 その時点で二人は、ただ断末魔をあげる器官になり果てていた。

 

 壊れるまで叫ぶ。

 壊れても叫ぶ。

 

 

 

 かくして、その怨念は聞き届けられた。

 真白の少女。呪いを一身に受ける運命を負った、婪佳久(らんかく)の元に。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 ――ああ。なんて、バカらしい話だろう。

 

 最期だってのに、何故こんなものを思い出さねばならない。何故こんなものを見せられねばならない。

 

 あの男はなんだ。何より親として情けない。

 なんで、互いを傷つけるようなことしか出来なかったんだろう――。

 

 

 

 

 そう、滅茶苦茶になった脳みそでこき下ろしてるうち、こう思っていた。

 

 

 

(――あれ? わたしと同じじゃん)

 

 

 

 刹那――婪佳久の脳内に溢れる半年の青い春。

 

 彼女にとっての英雄がくれなかった、人としての幸福をくれる少年がいた。

 五条悟にはなかった強さが彼にはあった。

 

 

 

(……そっかぁ。あんな風に見えてたから。()()()()()()()()()()()()()()のかもな……もう何言っても、どんな怒っても、止まらなくなったもんな……)

 

 

 

 走馬灯というヤツだろう。共に戦った記憶、共に過ごした記憶の数々が流されていく。

 彼の思いそうな事を、彼の人間性を思い返す。

 眩しく、あっという間に過ぎ去っていくリフレイン。

 

 しかし――。

 

 

 

(あれ。よーく考えると……アイツって、ただただ考えなしのバカじゃね?)

 

 

 

 ――そう思った途端。

 全てを見た目が、赤く染まった。

 

 穏やかに眠りにつこうとした思考が、沸き立ち――急速に搔き乱されていく。

 

 

 

(もしかしてアイツ、単純に、わたしのこと見てなくない? もう復讐にしか目を向けてないよな?)

 

(――大体、なんだよ命かける縛りって。ふざけんじゃねぇよ、なに勝手に賭けてんだよ、もうその命は半分わたしのモンだろ――!?)

 

 

 

 あの時も。あの時も、あの時も――!

 

 彼と肩を並べて戦ってきた幸福の裏、無自覚に目を背けてきた感情が顔を出す。

 これまで積み重ねた得難い時間が。許容し肯定してきた全てが。許容し難いものに早変わっていく。

 

 

 

(やめてよ。置いてかないでよ。わたしだって頑張ってたのに! もう得るものを得た後なのに――!)

 

 

 

 不安と焦りで固まった頭が、不条理(こんなのおかしい)と自覚した途端、爆発した。

 

 一度暴れ出したら止まらない。

 行きようのない激情が炸裂し、死んだはず腹に怒りが点火され、轟々と回り狂う。

 

 とっくに体感覚の失われた、左右すらわからない暗闇の中でさえ、沸き立つエネルギーがあった。

 

 

 

 指向性は、既に示されていた。

 

 

 

(いや、違う――()()()()()()!)

 

 

 

 

 どこぞの暴力女の言葉の数々を思い出す。

 そうだ、とっくに答えは出ていた。

 こうすればよかったんだ。

 こうするしかなかったのだ。

 

 

 

(『追い着かなきゃ』じゃない。『引き戻す』んだ。思い通りにならないなら、首根っこ引っ掴んで! 足へし折ってでも閉じ込めて――わたしが、アイツを止める!)

 

 

 

 故に、死に体は最期に残る機能を行使した。

 目の前の敵など見えていない。自分の命の危機なんて頭になかった。

 唯一残った怒りという機能で、恐らくは地面を、少女は殴った、その結果――。

 

 

 

「次に、命を捨てる真似するようなら――わたしが、先に殺してやる!!」

 

 

 

 ――『呪いの聖母』に、黒い女神が微笑んだ。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――『黒閃』。経験した事のない現象の発生に、『◾️◾️◾️』は反応し、視線を向ける。

 

 

 

「我流・受愚、戴転――」

 

 

 

 『◾️◾️◾️』にさえ、眼下の少女は『死に体』としか認識できなかった。

 

 そんな死に体が。溢れる()()()()()()()()()()、殴りかかっていた。

 

 

 

「――『疑似紡操(フェイクブースト)』」

 

 

 

 ――『◾️◾️◾️』は単独での大気圏突破・星間航行・成層圏突入さえ可能な鋼の羽(フィジカル)を有する。なおかつ、呪力を扱える。

 接触すれば、壊れるのは婪佳久だけだ。元より放っておけば死ぬような欠損状態、なおさら砕け散るのみ――だが。

 

 

 

「全特性並列展開。『螺旋』、『正の呪力』、『黒く光る呪力』――『術式反転』!」

 

 

 

 死に体はなぜか、()()()拳をぶつけていた。

 

 拳は原型などなくぶっ潰れ、めくれ上がった肩骨が内臓を砕き、今度こそ爆散する。その間際――首の皮一枚で、瞬時に回復していた。

 

 自己治癒能力と、()()()()()()の集中によって!

 

 

 

「――始祖鳥ならぬ『終末鳥』ってとこかな……ま。なんだっていいだろ!」

 

「呪力持ってんなら! 呪力さえ通じるなら、さァ!!」

 

 

 

 今の婪佳久は、術式反転『歐帯(カラザ)』の効果を、身体強化に転用していた。

 

 黒い火花と白い治癒。相反する呪力特性を同時に回しながら、婪佳久は拳を叩きつける。

 暴力的な治癒力と破壊力との板挟み。

 潰れる。治る。潰れる。治る。

 その繰り返しだけで、少女は前へ進んでいた。

 

 ――これまで『身体を呪力強化できなかった』のが、嘘のように。

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️――」

 

 

 

 『◾️◾️◾️(終末鳥)』の、認識が変わる。

 

 ――コイツは単なる虫螻(むしけら)ではない。

 ――自分は今、攻撃されている。

 

 よって『◾️◾️◾️(終末鳥)』は、現在の地球上に有り得えない身体能力(スペック)の数々を動作させようとした。

 

 ――その前に、

 

 

 

「ねー、あんたさぁ――ここ、弱いんじゃない?」

 

「◼️◼️◼️◼️――◼️◼️◼️◼️◼️◼️!?!?!?!?」

 

 

 

 最大の刺激を放り込まれて、大鳥は盛大に横転した。

 転げ回り、穴という穴から噴き出す自身の分泌液にまみれながら、『◾️◾️◾️(終末鳥)』は混乱し大羽をバタつかせる。

 

 そう――『◾️◾️◾️(終末鳥)』は、『アナフィラキシーショック』を起こしていたッ!

 

 

 

「だーっははは! やーっぱそーだよなぁ!? 今のテメェの免疫力の高さ。宇宙線耐えれるだけの設計思想なら――コイツは、特攻になる!」

 

 

 

 原因(アレルゲン)は、やはり婪佳久だった。

 否、正確には婪佳久『が』用意した。

 

 

 

「――ギャァアア! おンギャァアア!!!」

 

 

 

 婪佳久の背中を突き破って産まれた、『アレルギーの術式効果』を持つ呪霊が!

 狂笑する彼女によって、手掴みで引き出され、『◾️◾️◾️(終末鳥)』に叩き付けられていたのだ!

 

 

 

「ぁぶ!? ぁぐ! あッ、ァ、あぎゃぎゃぎゃあァ!?!?」

 

 

 

 何度も何度も叩きつけられる『アレルゲン呪霊』は、それでも死なせてもらえない。

 

 術式こそ持っているが、それは決して強い個体ではない。

 しかも術式効果は『軽い風邪』程度。

 実際、婪佳久には戦闘に支障が出る程度の症状は起きていない。

 

 だが、この敵にだけは、ピンポイントで最大効果を発揮する!

 

 

 

「そうらもっと喰らえ『◾️◾️◾️(終末鳥)』! テメーがぽこじゃか恐竜だの鳥だの産み落としたお陰だ、呪力量(エサ)だけは有り余ってんだよ!」

 

 

 

 悶絶する『◾️◾️◾️(終末鳥)』は、だが抵抗の身じろぎすら許されない。

 

 婪佳久は、自分と繋がった『アレルゲン呪霊』の『臍の緒』で!

 満足に動けないのをいいことに、その巨体を縛り上げていたのだ!

 

 屋外ならいざ知らず、地下鉄の駅構内という閉鎖空間によって成立した包囲網。

 

 『◾️◾️◾️(終末鳥)』も『アレルゲン呪霊』も、生き地獄から逃れたい一心で抵抗するが――その呪力量を前には圧殺される他ない。

 

 

 

「あぶぶぶぶぎゃああああ――!??」

 

◼️◼️◼️◼️――! ◼️◼️◼️◼️◼️◼️――ッ!!!?!?」

 

 

 

 

 ひたすらにぶつけ合わされて、2体仲良く体液を撒き散らし合い、苦しみ喘ぐ。

 さながら『ガリバー旅行記』と『トマト祭り』のコラボレーション。

 グズグズな絵図の中で、真白の少女一人だけが元気に暴れ回り、執拗にハメ倒す。

 

 

 

「しっかし、わたしやっぱ正当的な(フツーの)呪術師やれねーかぁ! この形でしか、――出来ない、んだなぁ……」

 

 

 

 背中を裂かれ続ける激痛、全能感に溺れる二律背反。

 少女は、ふと神妙な表情を浮かべていた。

 

 ――婪佳久に呪術師としての潜在能力(さいのう)などない。

 今開花したのは――『呪霊を産む』才能だった。

 

 

 

(――呪霊出産器官。『カフカ』、ってとこか)

 

 

 

 黒閃で活性化した、脊髄に生えた異常器官。かつての『喇誑(ラテブラ)』を、今ここで『アレルゲン呪霊』が誕生させたソレを、彼女はそう定義する。

 

 それは人体にはあり得る筈のない、呪霊専用の単為生殖器官だ。

 

 

 

(――呪力の負の感情を感じ取る、『受愚戴転』の術式経験によって獲得した後天的な異常体質じゃない。コイツは、わたしが産まれたときから備わっていた――)

 

 

 

 婪佳久は腹でなく、『カフカ』を用いて初めて呪力を十全に扱える。

 その呪術基盤を活用して初めて呪術師として機能する。

 

 その『呪霊を産む才能』は――千年に一度として有り得なかった、逸材なのだ。

 

 

 

(やっぱり。こればっかりは否定できないんだ――人間として外道なだけじゃなく、呪術師としても邪道なんだなぁ。わたし)

 

 

 

 空笑いながら、頬が濡れていたのに気付く。

 さっきまで散々な目にあったのに、ついぞ出なかった涙がこぼれていた。

 

 

 

 ――この異常器官を。婪佳久は、これまで認識する事すら避けていた。

 

 

 

 だって。本当は、()()()()()()喇誑(ラテブラ)』に打ち勝つ事で、自分の過去を決着させたかったのだ。ただの呪術師になって、終わりたかった。

 

 あの呪術師のようにはなれずとも、本気で憧れたのだけは本当で、原点だから。

 

 

 

 ――それだけは、術式のせいなんて言い訳の余地もなく、一生あり得ない事なんて認めるのは。婪佳久にとって、ともすれば死ぬよりも大きな苦痛であった――でも。

 

 

 

 もう、()()()()()()()()、手段を選んでいられない。

 

 

 

「あー、クソっ。ぁ憧れたのになぁ! 先生も先輩もアイツも! やっぱ思ってた何ッ倍も凄かったんだなぁ! こんな事しちゃって、アイツにどんな目で見られんのかなぁ、もう畜生っ!!」

 

 

 

 逡巡は刹那で完結した。

 今はとにかく時間が敵だ。

 

 『アレルゲン呪霊』は『カフカ』につながる自分の臍を引き切ろうと暴れる。

 釣られかけた魚のように逆らって、彼女の手から逃れようとする。

 ――知った事かと、婪佳久は我が子『で』巨敵を殴り倒す。

 

 

 

「うぎゃあー!?!? ぅアぁぁぁッ!?!」

 

「でもわたしもうい〜もーんッ! だってわたし自身が『最強』なる必要ねぇし! わたしが勝ち目を0から作れれば! 黒い女神サマの首根っこ掴んで従えてりゃー、それでいい!」

 

 

 

 ミスマッチから解放された肉体にしがらみなどない。

 絶えず纏わりつく『黒く輝く呪力』が光を増す。

 拳ひとつひとつを振るうたび、婪佳久の中でへばりついた何かが剥がれ落ちていく気がした。

 

 

 

◼️◼️◼️◼️……! ◼️◼️◼️◼️◼️◼️――ッ!!!?!?」

 

 

 

 対して『◾️◾️◾️(終末鳥)』の状態は悪化の一途。

 婪佳久の攻撃力と自身の免疫力で破壊され、重篤化していた。

 

 稼働困難な呼吸器でなお咳き込み、あらゆる脈が暴走し、あらゆる体感覚が絶不調に追いやられ、満足に権能を振るう事もできぬまま、ひたすらに嗄声を叫ぶ。

 

 しかし――この戦法が通用するのは、『◾️◾️◾️(終末鳥)』の場合だけだ。

 別形態に変貌しようものなら今度こそ勝ち目がない。

 

 

 

 故に――このまま、押し切る。

 

 

 

「――アイツのためなら! 呪術師や人間ですらないとしても、なんにだってなれる、なんでもやれる。たとえ、アイツをブチ殺して(ひきずりおとして)でも――!」

 

 

 

 無茶苦茶を言っていると自覚しながら、不思議と彼女の心に矛盾はなかった。

 

 ――今なら世界が自分に応えてくれる。

 確信と共に、最後の拳が掲げられる。

 

 

 

我流『受愚戴転(じゅぐたいてん)』・拡張術式反転(フルダンプ)――

 

 

 

 ドプン、と大気が息をした。

 まるで栓が抜かれたように、その場全ての呪力。

 5億年を生きた種族の遺産(残穢)が余さず――少女の手へと収納される。

 

 最大稼働する背面(カフカ)が、全身を覆う紅い呪印(どうかせん)を伝い、総てを前へと押し出す。

 

 手元の呪霊は、婪佳久から押し付けられた術式行使の脳負荷のあまり血涙を流し――!

 

 

 

「――”空輪(くうりん)” ”醒告(せいこく)” ”虧盈(きえい)(ヒビ)”」

 

 

 

 そう作られたが故に、決められた詠唱を吐いた。

 そして婪佳久の掌は、人差し指と親指を結び『来迎印』を象る。

 

 詠唱と掌印をあえて短縮しない『縛り』で、呪力漏出率(エネルギーロス)は大きく軽減され。

 発生するタメは、婪佳久の『出の速さ』で踏み倒される。

 

 

 

「どんな事があろうが、何色に染まろうが――最後に、わたしだけは笑ってやらぁ!!!」

 

 

 

――伽殊螺(ガストラ)

 

 

 

 壊れた蛇口が、0距離で爆ぜた。

 白い掌を割って、真っ赤に押し広げられた呪印(かこう)が、爆光(マグマ)()き出す。

 

 文字通り拳を、それどころか腕を爆発させる『無制限』解放に、呪力制御が両立した結果。

 呪霊諸共、雑な(ムダのない)大振りで振るわれた馬鹿力でもって――木端みじんに、消しとばされた。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 ――彼女の周囲の結界システムは、その威力だけで破綻しかけていた。

 

 面積の大半を失い、散り散りに分裂した『◾️◾️◾️(終末鳥)』が生命活動を停止させ。

 役目を終えた『アレルゲン呪霊』が祓われるのと同時――盛大な地鳴りが響き渡り、崩れかけた空間が、結界術(じんりき)で立て直されていく。

 

 

 

(……あっぶな。そうじゃん、わたしも囚われの身なんだった。つい勢いで足元ブチ壊すとこだった……)

 

 

 

 傷口(バグ)を埋めようと施される辻褄合わせ。

 土台が崩れれば、自分も仲間も、どうなるか分からない。

 

 全力を出しきって肩で息をする婪佳久は、大人しく揺れが収まるのを待ち、注意深く状況変化に目を配った。

 

 そして、その変化を観測した。

 

 

 

 空間修復のどさくさに紛れて――『◾️◾️◾️(終末鳥)』の破片が、ひとつ残らず『消失(もちさられた)』した瞬間を。

 

 

 

「まただ。外からの結界術(アクセス)――!?」

 

 

 

 興奮しきった目が剥かれる。

 とっくに右腕は治っていた。

 少女は無自覚に爪を噛んで、ゾーン状態の思考を回転させる。

 

 

 

(間違いない、『領域外』からの結界術だった。単独でアクセスされた? あーくそッ、領域内(ここ)からじゃ探知しようがない!)

 

(空性結界級の領域(ここ)に、崩れかかったタイミングとはいえ干渉できる人物――とんでもない結界術の使い手だ)

 

(アーサーは『天逆鉾』は師匠の呪具って言ってた。『天逆鉾』が消されたのはゲーム開始時――順当に考えりゃ運営サイドの大物術師――? いやそもそもアーサー自体何者だったんだ?)

 

「アイツ消えたし、つうか途中から喋れなくなってたし。情報は打ち止めか――ああもう。これだけじゃどんな呪術師かまでは絞れないなぁ」

 

 

 

 絶好調の思考でも『現状これ以上はわからない』と結論づける他になかった。

 

 なんにせよ、ヤツらはここからいなくなった。

 外敵について思考するのは、目の前の敵を倒してからだ。

 

 

 

「けど――今なら、できる事がある」

 

 

 

 開かれた右掌を見る。赤い呪印が変わらず浮かんでいるのと、『黒く輝く呪力特性』の持続を確認して、握りしめる。

 

 ――今の呪力消費量はバカにならない。『カフカ』の扱いに慣れていないせいだろう。この駅の呪力は使い切ってしまった。

 

 故に、前へ――次の駅へ向かうため。

 再び走り出した少女の姿は、トンネルの奥へと消えて行った。

 





曲名縛り? いいんだよ忘れて。
しかしこのサブタイ許されるのかなキショすぎんかな。どうやろ真依ちゃんに聞いてみよか。



【補足①】『黒く輝く呪力特性』って何?

テンポの問題で詳しく触れませんでしたが、これは贋作『黒閃』です。

『黒閃』の呪力を、婪佳久が『呪力特性』として解釈し、めちゃくちゃ劣化させて再現した粗悪品。
効果は『カフカの活性化(に伴う婪佳久の全パフォーマンス上昇)』です。

本来、本物の『黒閃』という現象は、下記3つでワンセットです。
①発生 五条悟でも狙えない複雑な条件を満たす
②呪力が黒く光り、呪力出力アップ
③ゾーン状態突入

対して『黒く輝く呪力特性』は、ほんの少しの上澄みを掬う行為に過ぎません。
『黒く光る』という『現象の一端』だけを持ち出した所で、正規の成立手順を一切踏んでいない以上、ほぼ効果は再現できていません。

0.000001%程度しか再現できてないです。(数字についてはツッコむな。とにかく低いんです)

ですが、『本来一瞬しか起こらない現象をずっと維持できる』『任意でオンオフできる』効果は大きく、ブッ壊れ呪力特性には違いありません。

(ぶっちゃけ相手から見たら黒閃が起きたように見える時点でクソビビりそう)

代償にクソ燃費です(贋作『黒閃』が出っぱなしなので当たり前)



【補足②】第一部最終決戦で婪佳久は身体呪力強化できてたじゃん。なんで第二部ではできなくなってたの?

あの時は直前まで『喇誑』と繋がっていたので、『カフカ』が活性化しており、身体呪力強化が可能となっていました。

ただし、婪佳久は『カフカ』を認識するのを避け、『呪術師としての勝利』を経験した事で、
当時の感触を忘れた状態で、適性のない正統的な呪術師としての教育を受け続けていました。

結果、第二部開始時点で身体呪力強化ができないままとなってしまいました。

ぶっちゃけ『カフカ』って人体にあり得ないものだし、使えばどんな副作用が起こるかわからないし、あんな事が起きた後だし、「怖いから動かさんとこう」と思うのは無理もありません。



【オマケ】1.5部の婪佳久について

 禍福と自分を比較して「置いてかれた」「追いつかなきゃ」マインドが、それほど強くない時期でした。

 良くも悪くも呪術師としてジャッチされる事のない、評価を気にしないで過ごせるほどの満ち足りた、穏やかな日々でした。

 ただ、彼が命を賭け続ける以上、不安は絶えなかっただろうし、遅かれ早かれ束縛に目覚めてたと思います。

 もっと穏やかな着地はできたハズだろうけど、時代がそれを許しませんでした。
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