【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
一級術師・安曇野禍福に迫り来る決断の瞬間。
生存者を見捨てるか否か。彼の選択は──。



第2部 36話『彼岸で好きに言えばいい』

 

「──まずい! とうとう隠れ蓑(ここ)が式神に見つかっちまった!」

 

 

 

 素人目でも分かるほどに、変化は絶望的だった。

 

 ドアを叩く音が、職員専用通路の閉鎖空間に、豪雨のように反響する。

 式神が、ひとつ壁の向こうに列を成して殺到していた。

 これまで見逃していたのが嘘だったかのように、明確にここを狙っている。それは死刑宣告に等しい状況変化だった。

 

 もはや、一刻の猶予もない。

 

 

 

「あーあ。隠密効果強化させたんだけど、焼石に水だったか~。10分保つかなぁ、これ」

 

「あーっこりゃダメだ! カフク〜休憩終わり! 出る準備して〜ハリーアップ!」

 

 

 

 綺羅羅は術式行使に集中、なんとか首の皮一枚で持ちこたえ、隠れ蓑の破綻を僅かに遅らせる。

 

 そして『喇誑(ラテブラ)』は部屋で塞ぎ込んでいた彼――一級術師・安曇野禍福を引っ張り出す。

 

 

 

「つーわけで禍福くん今すぐこの子『だけ』連れて逃げてくれ! 頼む!」

 

「「お願いします!!」」

 

 

 

 生存者一同の前に立たされ、顔を伏せた少年に、迷わず赤ん坊が差し出された。

 

 生存者一同の顔に悲壮感はなかった。彼らの結論は決まり切っている。

 強いて問題があるならば、禍福の返答であるが――。

 

 

 

「……依頼を受けた以上、ベストは尽くす」

 

「そ! そうか、ありがとう!」

 

「本当にありがとうございます!」

 

「じゃあっ、この子頼んだから!」

 

 

 

 ――それもクリアされ、彼ら三人は今度こそ安堵と歓喜を見せた。

 赤子を放そうとする手に強張りが抜け、自然な笑顔が浮かび、『喇誑(ラテブラ)』までもが「ヨカッたネー!」と喜んでいた。

 

 ――そんな、都合のいい場面なのに。

 

 

 

「……ただし、お前らも込みだ。その子はお前らが持っていろ」

 

 

 

 はい!? と生存者一同は目を剥いた。

 ほう? と『喇誑(ラテブラ)』は目を丸くする。

 綺羅羅は、微かにほくそ笑んだ。

 

 禍福は目を伏せたまま――よせばいいのに、わざわざより困難な方を選んでいた。

 

 

 

「はぁ!? いいのか! それめちゃくちゃ難度上がるだろ! そりゃできるものならやってもらいたいけど――」

 

「いっ、いや僕らはホントいいですから、止めた方がいいですよ! あっ、あんた今とんでもない顔なってますよ!?」

 

「そうだよ、私ら戦えないんだよ!? 返って全滅しやすくなるだけ、それじゃ意味がない!」

 

 

 

「――うるせぇよ! どうでもいいだろ、そんな事は!」

 

 

 

 そう禍福は叫ぶ。

 考え尽くし重くなった思考を吐いて捨てる。

 

 ――彼らの懸念は当然考慮した。彼らを安心づけられるだけの材料(つよさ)なんてない。そう考慮した上で――彼には、切り捨て()()()()()()

 

 

 

「その子を助けたいだと!? それにはテメェらも必要だろうが。子供一人が残される終わりの、どこが『助かった』だ!

 

 

 

 反論など許さないという気迫で指差されて、生存者三人は息を呑んだ。

 

 ――安曇野禍福という呪術師の始まりは、両親を、そして血族のすべてを失ったことだ。

 たとえ滅んで当然の家だったとしても。

 どこぞの馬鹿が振るった力のせいで、たやすく人の生涯が歪められ、屈服させられる『不条理』を――彼だけは、()()()()()()()()

 

 

 

「勝手に諦めてんじゃねぇ。責任を果たせ。その子の未来には、お前らだって必要なんだよ!」

 

 

 

 彼らに対して叫びながら、彼は自覚する。

 この言葉は、自分に対してのものでもあると。

 

 ――以前にも、命を張る価値のない相手のために戦う場面があった。

 だが、今回は違う。彼らは、鏡映しされた自分自身でもあったのだ。

 

 

 

(そうだ。それなら俺も、婪佳久と――未来を共にしていいのかも知れない)

 

 

 

 禍福は、そんな自惚れを思いたがっている自分に気が付いた。

 

 目の前の小さい命の無垢さに、ただ笑っていてほしかった少女の白貌を、垣間見ていた。

 

 

 

「――やるっつったらやるんだよ。俺が走って領域の主を見つけ出してブチ殺して、婪佳久(らんかく)含めて全員助ける、それ以外のゴールは在り得ねぇ!」

 

(((えっ婪佳久って誰!?!?)))

 

 

 

 勝算も自信も無い。こんな事をすれば身軽になれない一方だ。

 それでも、自分で自分の背を押し切った彼に対し、

 

 綺羅羅と『喇誑(ラテブラ)』は、頷いて答えた。

 

 

 

「や~持ち直してくれたようでよかったよかった。せっかくの状況なんだし熱いとこ見せてよね?」

 

「そっか! たしかにそーだね! 子供には親が必要だもんね!」

 

 

 

 ――決心は済んだ、後は戦うのみだ。

 囃し立てるように鳴く式神らを蹴散らさんと、彼は走り出そうとする。

 

 その間際――後頭部を殴られたような急制動(そくばく)が働いた。

 

 

 

「あーっカフク、ストップ!」

 

「なんでだ!?」

 

「なんかマミーの声が聞こえるようになった!」

 

「――なんだって、婪佳久と!?」

 

 

 

 少年は足を止め振り返る。それなら話が変わってくる。狙ってもない好機だ。

 

 合流する手間が省けた。

 全員で作戦を考えられる――!

 

 

 

「綺羅羅さん、もうちょっとだけ保たせられますか!」

 

「そういうコトなら気にしないで~。15分は()()から」

 

「おわーすげえ呪力電話ちゃんと通じる通じる! エスパー? 念話? 何これおもしれー!」

 

「『喇誑(ラテブラ)』、婪佳久(あいつ)はなんて言ってるんだ!?」

 

「ファミチキくださいだってサ!」

 

「……、なに言ってんだアイツ?」

 

 

 

 ――意味不明すぎて冷静になった。

 呆けた少年を他所に、三馬鹿は「ぶふぉ!」と吹き出していた。

 

 

 

――

―――

 

 

 

「やー伝わるかぁ。流石わたしから産まれただけはあるね」

 

「ねぇマミーこれどういうコトなの? 呪力で感情を送り合ってるって認識でいいの?」

 

「まぁそんなとこ。わたしら13年も二心同体だったじゃん? 呪術的には一卵性双生児レベルの近縁なんだよ。その(つながり)を『共振』で増幅させて、この思考伝播(エスパー)が成立してるワケ」

 

「えっでも、今までワタシのキモチ伝わる事なかったよね? ってコトは、まさか! ついにマミーが心開いてくれたの!?」

 

「今そういうのいいから。そっちには(よろず)とわたし以外全員いるんでしょ? 情報送ってくれる?」

 

「あっハイ! 呪力(じょうほう)送信シマス!」

 

 

 

 ――仲良くなれたのは嬉しいけど、ワタシらこんな距離感だったっけ?

 ――つうか普段の三倍マシでペラペラ喋るじゃんテンションおかしくね?

 

 などと戸惑う『喇誑(ラテブラ)』を他所に、婪佳久は状況理解(インストール)を完了させた。

 

 

 

「なるほどね――『犍陀多(カンタダ)の道』って領域外に繋がる経路があって、生存した一般人がいて全員術式持ってると。ってか、そっちにも赤ちゃんいんの? まぁおっけ、大体わかった」

 

「『喇誑(ラテブラ)』、今から作戦についてを話す。原文ママで禍福たちに伝えてね」

 

「あっ、ハイ! 会話内容は全部口に出すんでそのまま喋って、どうぞ!」

 

 

 

 ――以降、婪佳久の発言は全て『喇誑(ラテブラ)』から禍福らに伝えられる。

 

 

 

「まず前提を確認しよう――この名古屋地下鉄は、敵術師の『領域』で間違いない。しかも、とにかく広い。まるで全貌が掴めない。少なくとも半径3キロは超えてる――絶対に『押し合い』は成立しない。正攻法じゃ崩せない領域だ

 

「でも用途は推測できる。こいつは『成長する』領域なんだ。今も少しずつ広くなってる。これまで地上から泳者(プレイヤー)を迷い込ませ、絶命時の呪力を吸って拡大してきたんだ」

 

 

 

「あー、えーと、つまり。いっぺん領域に落とせちゃえば、あとは放っておくだけで死ぬ。例外ナシ。ってクソデカ罠がココなの?」

 

「そう。餓死者が多かった理由だろうね」

 

 

 

 早口に捲し立てる形で羅列される既存情報(ハウダニット)。浮かび上がる筋の通った推測。

 

 生存者一同も「そうだな、だいたいそんな感じだ!」と二週間滞在者として見解を述べる。

 

 と、ここで禍福が手を挙げる。

 

 

 

「――『喇誑(ラテブラ)』、婪佳久に質問しろ。誰が、なんの術式を付与して、この領域を作ったのか分かるか?」

 

 

 

 コガネの泳者(プレイヤー)検索が妨害され、この領域の主が誰かは分かっていない。婪佳久ならどう見るか、意見を仰ぐ。

 

 

 

「現時点ではまだ分からない。情報不足だから」

 

 

 

 返答は極めてシンプルであった。

 やはりそこは、『全貌が見えない』らしい。

 

 

 

「……強いて憶測するなら『ドルゥヴ・ラクダワラ』かな。『式神の軌跡を領域の境界とする』前例としちゃ、思いつくのはそのくらい」

 

「ドルゥヴって――乙骨先輩が、第一次の仙台結界であっさり倒したっていう、謎の泳者(プレイヤー)じゃないか」

 

「そうなの、だからアイツどんな術式だったか分かんないんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――相伝術式じゃないから取説(マニュアル)ないし。乙骨先輩も5分しか外付け術式(コピー)使えない以上、正規解釈なんて詳しく知らないっぽかったし――」

 

「復活した過去の呪術師。俺らが入学する前の話か……綺羅羅さんはどうですか」

 

「私も第一次未参加なんで管轄外(なんともいえない)かなぁ。ごめん」

 

 

 

「わかりました――どんな敵かは戦いながら探ろう。喇誑(ラテブラ)』、婪佳久に話を続けさせろ」

 

 

 

 補助監督がいれば、あるいは乙骨本人に聞けば、当時のことを確認できただろうが――現状では不可能だ。

 

 こればかりは、やってみないとわからないと禍福たちは判断する。

 

 となると、どうやるかだが――。

 

 

 

「んじゃこっから作戦の話するね。まず、わたし達は『領域の弱点』に向かう」

 

この領域には穴が空いてる。迷い込んだ時に通った『入口』と、『犍陀多(カンタダ)の道』っていう領域外に繋がる事実上の『出口』。この呪術的脆弱地点なら、付け入る隙がある

 

「わたしは『入口』に向かう。そっちは『犍陀多(カンタダ)の道』を通って『出口』に向かって欲しい」

 

 

 

 わかった、と禍福は迷わず頷いた。

 

 ――禍福の場合、ここにいる全員を連れて向かうことになるが、もう決意は決まっていた。

 

 

 

「『領域の穴』に着いたらどうする。そのまま脱出か」

 

「できない。通常の領域ならそれで済んだだろうけどムリだね――で、どう敵を倒すかなんだけど」

 

 

 

「結論だけ言う。わたしと『喇誑(ラテブラ)』がそれぞれの『領域の穴』に立って、共振した『受愚戴転』を最大行使して――この領域の全呪力を使()()()()()、破綻させる

 

「呪力を、使い切るって――相手が呪力を使い切るんじゃなく、()()()()()()()()()()食い潰すのか!? 可能なのかそんなの!?」

 

 

 

 突拍子のない発想すぎて、一級術師として禍福は瞠目し、綺羅羅もまた耳を疑う。

 

 領域を展開し返す正攻法では逆転できない、となれば勝利条件はエクストラウィンに限られる。

 そう理解はしていたが――これはあまりにも呪術のルールを無視した作戦内容だ。

 

 ――領域の結界内呪力に、他者が干渉する事はできない。

 いやそれ以前に、他人の呪力だ。

 呪力漏出(ロスエネルギー)ならまだしも、他者の扱う呪力を、婪佳久と『喇誑(ラテブラ)』がどうこうできるワケが――。

 

 

 

「やれる。希望的観測で言ってるワケじゃない。わたし達の術式でしかやれない手段になる、だから任せて! ……やってくれるでしょ、『喇誑(ラテブラ)』」

 

「モチロン! クソ荒技になるけどワタシもコレっきゃないと思うし! 一緒にやるよ!」

 

 

 

 ――できる、らしい。

 

 もう専門外すぎてよく分からないが、とにかくできるなら任せ――。

 

 

 

「いや任せられるか! どういう事だ順序をすっ飛ばしすぎだ、もっと詳しく説明を――!」

 

「アレ!? えっマミーもしもーし! もしもし!?」

 

(途切れた!? 婪佳久のやつ攻撃を受けたのか――!?)

 

 

 

 門外漢は説明を求めるも、そんな猶予はなかった。

 まず――婪佳久からの思考傍受が途切れた。

 

 

 

「うーん時間切れ! ごめんもう誤魔化し効かないわ。その作戦で行こ!」

 

「はい!?」

 

 

 

 次に、綺羅羅がキャパオーバーを起こした。

 禍福は「何故」と振り返るも、理解せざるを得ない。

 

 ――ドアをぶち壊し、堰を切ったように流入しだす式神の大群。その圧倒的物量を前には!

 

 

 

「禍福さん、行こう! 俺たちは勝手に着いていく! できたら助けてくれ!」

 

「ささささ流石に覚悟はしてたけどいざ死ぬって思うと怖くなってきたのでじっとしてられないッス!」

 

「話よく分かんなかったけどワンチャンあるんでしょ!? 希望を感じさせられてから死ぬのはハナシ違うし!」

 

 

 

 ここに来て、生存者一同のケツにも火が付いた。

 ついに目先まで迫った破滅に、どうせ死ぬなら足掻いて死なねば、と遅すぎる決意に至っていた。

 

 ――言われなくても、走り出す準備はできている。

 

 

 

「ああもう分かった、分かったよ! とにかく俺の仕事は『領域の穴』に着くまで、後は任せていいんだな!?」

 

「イエス! それでオールオッケー! んじゃワタシ頑張って『道』無理やり広げるネ! レッツラゴー!」

 

 

 

 ――『喇誑(ラテブラ)』の温存された呪力を注がれ、薄くか細かった(そんざい)が補強される。

 そうして押し広げられた(レール)の上へ、彼は迷わず足を乗せた。

 

 ――元より、彼らは領域に囚われた時点で敗北している。

 たったひとつの逆転要素が生じただけでも、上々だ。

 

 

 

「この一か八かに全部を賭ける――全員で生存を目指すぞ!」

 

 

 

 踏み切ったが最後、脇目も振らずに一直線。

 安曇野禍福一同は、式神の進軍を背に、慌しく走り出す。

 

 それが呪術史上、前例のない脱出劇の幕開けであった。

 





禍福と婪佳久には、『呪術師として戦いを放棄する』考えなんてハナからありません。
この二人すら即逃げ出そうとする(よろず)って何なんだ?



【補足①】『ドルゥヴ・ラクダワラ』の情報を握る人物は()()()()いない

古い術師すぎて誰も認識してません。
二度目の受肉とかナレーションされていましたが、あれは読者への情報開示であって、乙骨の主観情報ではないと判断しています。

そもそも過去どの時代に一度目の受肉に成功したか不明ですし(さらっと宿儺の指みたいな事してるなコイツ)、
五条悟が旧総監部を抹殺したせいで過去の資料を探るのには時間がかかり、余計にコイツの詳細がわかる人間がいません。



【補足②】乙骨と婪佳久は一応交流がある

第一部開始前(禍福登場前)は、婪佳久がたびたび『暴走』を起こすため、『婪佳久係』が高専に必要でした。

五条悟が『全任務より優先して対応するため転移する』までの間、足止めできる特級相当の呪術師が必ず『婪佳久係』にアサインされていました。
(第一部本編でも禍福(天逆鉾装備)・伏黒・釘崎が必ず婪佳久の側に控えていました)

当然、乙骨も何度か過去対応しており、婪佳久とは知り合いです。

(なお、婪佳久が意気揚々と五条悟トークを持ちかけたところ、乙骨の反応が芳しくなかったため、以降あまり話さなくなりました)

第一部終了後は、婪佳久を元に作られた『呪術的疑似神経』をリカに食わせ、
乙骨は『受愚戴転』を模倣可能となり、第二部本編で使用しています。
その際、婪佳久は乙骨のコピー要件について話を聞いており、今回の内容(ドルゥヴの術式の情報不足)に繋がります。
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