【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
安曇野禍福・婪佳久らは、名古屋地下鉄領域の迷宮攻略に動く。
抵抗する領域の主。差し向けられた式神軍団を突破せよ!
――
そのとき婪佳久に何が起きたのか――。
まず、婪佳久は走っていた。
作戦を伝えながら『入口』に向かい、トンネルをくぐり、
と、そんな時だった。
次に通ろうとしたトンネルが、眼前で爆破した。
(ついに結界機能にガタが来たか!? いや違う、これは――!)
「あれ!? 婪佳久ちゃん! ごめん一瞬誰か分からなかったわ!」
「『真球』ぅううう!?」
予想外の衝突事故!
自身の『拡張術式反転』と比較にならないほどのバカ火力。これには婪佳久も思わずビビった!
咄嗟の回避に全神経を動員し――『
「ごめんじゃ済まねーわ投げつけてくんなよ当たったら死ぬとこだったわ!」
「しょうがないじゃないの電車突っ込んで来る場合もあるんだし。ってアンタ『黒閃』起こしてるの? ……いやなんか微妙にカンジ違うわね、ずっとバチバチしてるし。シンプルに目に悪いからやめてくれない?」
「解除してられる場合ならそーしてるよ!」
かくして合流した、結界システムを乱す暴力女2名に――
(くそっ、繋がらない! そもそも思考傍受であって狙って出来た事じゃない、互いに不慣れだし今すぐもう一度はムリか――!)
「でもよかった、合流の手間が省ける。
「トーゼンよ、認めたくないけどそうしなきゃ死んじゃうものね。でどうすんの!?」
移動した軌跡が斬撃として機能する
婪佳久もまた、全身から立ち昇る呪力をゆらめかせ。
飛び込んでくる式神たちを、片っ端から蒸発させる。
「その『真球』で式神も結界ぶち壊して『領域の穴』に向かう、ギミックガン無視で一直線!」
「うーん悪いけど、それで済むなら苦労しないわね」
「ええっなんで!?」
婪佳久は「何故」と振り返るも、理解せざるを得ない。
――
初めこそ『無限の圧力』に手も足も出ず、式神は自爆特攻しているに過ぎなかった。
だが――確かに削られていた。『真球』に付与された呪力が!
「
今度は
減らされる一方だった『真球』の呪力が、ぶり返したのだ。
――婪佳久の手で呪力を注ぎ込まれた事で!
「まだ、なんか文句ある?」
なんという強引な解決法だろうか。
底なしの
「いーやないわね! これならいけるいけるわぃやっほー!!」
事こうなれば、『領域の主』はますます看過できない。
――
「誘導する! そのまま『領域の穴』に向かって!」
「おーあったのね脱出口! ってかこれ、私にだけ全部式神集まって来てない!?」
蟲の鎧に抱えられ、婪佳久は『真球』に耐えず呪力を送り続ける。
そして『真球』は天井を貫き、駅内ですらない
「
もし両腕で潰されたら即死は免れない場面。
しかし婪佳久は毛ほども臆さず、
(――『入口』に残った自分の残穢の呪力探知。直線距離で約2キロ。こんな超々遠距離呪力探知なんて初めてだ――これだけは絶対見失うな。いくら火力があっても着かなきゃ意味ない――!)
この状況において、婪佳久が最も注力すべきは、『領域の穴』の呪力探知だった。
掴んだ
そんな胸の中の真白の少女に、ずいと虫女は顔を寄せた。
「なに、まだなんか文句ある?」
「やっぱり、さっきまでとは違う。なんか赤い模様ついてるし。
「そういうの今いーから働けっつうの!」
「かーっいいわね! これこれ! やっぱ呪術師の女はこうでないとだわ!」
「うっぜえわどのツラで言ってんだよコイツはもうッ!!」
などと、わーぎゃー喚く女二人の手前――デカブツがやってくる。
「えっなにあれ!? 一体だけバカデカいのいるんだけど!?」
「禍福から報告あったオリジナルの式神! 量産型とはレベル違うやつ!」
「なるほどね! 何かわからんが喰らえ!」
結界を壊すまでもなく軽々と進み、回転しながら迫る多重結界の土塊。
その『不可侵』と、『無限の圧力』が正面衝突した――結果。
「嘘ぉ! 『真球』を弾き返せるレベルなの!?」
――初めて、
(――こいつらの『不可侵』は『空域の分断』! 雑魚どもが絶えず妨害してくる上にコイツを倒さなきゃいけないってなると――)
「婪佳久ちゃん、庇ってられねぇわ! 死ぬ気で耐えなさいよ!」
「勝ってくれりゃーなんでもいい!」
だが、やるべき事は変わらない。
要は最短で『領域の穴』に到着さえすればいい。
全部を倒せなくても、前進さえできれば勝利は近づくのだ。
(そっちの
多くの式神にたかられながらも、呪具と『真球』で道を開き、婪佳久を抱え、蟲の鎧は飛んでいく。貴様らとは出来が違うのだと示すかのように、軽やかに――。
―
――
―――
――現在の『
この『道』は領域外へ繋がる直線であり、
この『道』では、呼吸の必要がなく、
この『道』では、物体を『すり抜け』できる。
ただし、式神は侵入可能。
この『道』の上、脱出に動く禍福一同へ――領域内式神の二割が動員された。
「時間稼ぎならバッチこい――『
まともに戦っては勝ち目がない場面。だからこそ綺羅羅は強かった。
――対象を五つ選び
本来なら敵だけを止めることはできない。
星綺羅羅を含めて、味方も全員、彼女の空間支配能力で動けなくなる。だが、
この死滅回游においては例外だ。
「綺羅羅サマ、次の命令はなんでしょうか」
「そのまま待機! 勝手に消えたら承知しないからね!」
「わかりました」
「他5名も! コガネ出しっぱにしといてよ!」
「「「「「はい!」」」」」
――コガネは、『いかなる場合も』
コガネの位置は変動せず、破壊されない。
それを利用し、綺羅羅は『味方と敵』でなく『味方のコガネと敵』に対して『星間飛行』を適用させ――味方のみが、自由に動ける環境を成立させていた!
これにより
「んじゃ『
「アイアイさー! 第二拘束限定解除でやっちゃうよー!」
そうして手をこまねく大群に、『
――
飛行した軌跡が、不可侵の結界となる。
たとえ弱い量産された『不可侵』でも、重れば
そうなる前に、間引きする。
「がぶ! ぺっ! ぺーっ! あーもう掃いて捨てるほどいるなァ本当!」
『
極めて簡易的な量産式神は、『
――過去『
しかし今の『
これによって――接敵数を少しでも抑え、分散させ、事態を綺羅羅の掌握し切れる範疇に留める。
「やっば、また正規ルート見つかった!」
それでも、圧倒的物量差は覆らない。
下手な鉄砲も数さえあれば当たる。
どんなに誘導と妨害を重ねようと、一定数が必ず突破してくる。
ひとたび正規経路が一体でも発見すれば、
「マーキング張り直す――禍福くん、守って!」
「了解っ――!」
――その危機を、高専最速が、つぶさに一匹ずつ叩き折る。
「――562、563、557、572――!」
蜂の波と少年の正面衝突。
しかし彼は針の筵になる事なく、その
その
彼が振るう『竜骨・改』は、式神の軌跡の間を縫うようにして、『不可侵』と接触しない形で、式神本体のみに打ち込まれる。
加えて、『爆縛呪法』による『擬似加速』効果で、
禍福の眼前の全個体に対して――狂いなく、執刀は為された。
「――841体! 捌き切りました!」
「助かった、マーキング変更完了。まだまだ粘るよ〜!」
僅か数秒で、いともたやすく『
綺羅羅は、再び戦線を展開。式神軍団はまたも回り道を余儀なくされる。
一見して万全の高専術師たちであるが――。
――それでも、二つ問題があった。
「「「ひいいいいマジで俺ら自分で走るしかないんですか!?」」」
「きゃっきゃっ! あぅ〜!」
「赤ん坊抱えながらじゃ戦えないのっ! 生き残りたきゃー自分でも頑張れ!」
まず、生存者一同の移動速度だ。
全力疾走してくれてはいるが、三人は所詮は元一般人。呪術師たちのフィジカルに及ぶべくもない。
『領域の穴』までの距離自体は1キロもないが――到着までには一定の時間がかかる。
「くそっ、また土の中に入る。加速を
「ごめんカフク! 式神減ったら掘削するから我慢シテ!」
次に、『道』の特性、物体のすり抜けだ。
今禍福達は、名古屋地下鉄領域を
当然、地中を通る場合もある。
さながら道路を考えず直線距離を示す人工衛星のマップ誘導だ。
――一歩足を踏み外せば死亡する、『命を賭ける縛り』で加速する禍福にとって――足元が見えない場所では術式が使えない。
解消するには『
つまり、この状況において、安曇野禍福は一定以上の速度が発揮できないのだ。
――十分すぎる。
「なぁ、やっばこの赤ちゃんだけでも助けてやってくれないか!?」
「どどどう考えても僕ら足手纏いですよね!?」
「私らなんて居ないほうが禍福さんも――!」
「うるせえ! 喋ってるヒマあったら走れッ!」
「「「はい!」」」
これが十分でなくしてなんだというのだ。
綺羅羅も『
今の禍福は最終防衛ラインなのだ。働けば働くほど、この二人が楽になる。
渡される対応数はごく一部。二人の物量と比べれば何て事はない――!
(加速し切れないからなんだ。承知の上だろ、手を尽くせ! たかだか十数分、これまでに比べれば――!)
「また来た! 禍福くんお願い!」
「『
「あいよー! 爆速掘削おまちどー!」
不満ひとつなく邁進する彼に、次の
障害物が破壊された。
開けた視界で敵を捉える。
彼は刃を構え、加速する。
「術式解放『爆縛呪法』――!」
それは『命を賭ける縛り』で加速する術式。
足元の周囲10メートル、発生する『線』を踏む限り、Gや慣性のない『仮想の速度』が付与される。
その他を踏めばマグマ。棚上げされた衝撃に身を潰され即死、『命を賭ける縛り』が履行される。
(見えないけど、アイツもどこかで戦っている。信じろ、再会するんだ! アイツに――!)
リスクはバネ。ランナーズハイに従い、呪力出力上限を解放した体は刃を振るう。
このやり方のみを貫き、最年少で一級術師となった少年の迷いなき切先。
――だが。
――――相手は、その一手上をいった。
「――ぁ」
――――次の瞬間。
安曇野禍福の、両手両足が消えた。
「「「「……え?」」」」
音は小さかった。
踏み倒されてきた本来起こるべき自然現象が瞬時に起きた――爆縮音だった。
鍛え抜かれた肉体が、飛沫となって弾き潰れる。
彼が咄嗟に呪力強化を集中させた、頭と胴体だけは比較的原型を留めていたが、その他は完膚なきまでに破壊された。
大気摩擦が肌を剥ぎ取り、肉を炭化させ、骨子は瞬時に押し潰れ、175センチの人型が萎む。
手に持っていた『竜骨・改』は刃が爆砕し、高専制服の下に隠した投擲剣が軒並み爆ぜる。
――その『爆死』の瞬間まで、全員が犯人を見落としていた。
『領域の主』が扱うオリジナルの式神は、大型個体だけでなく――小型個体もいた事を。
たとえ前知識があっても判別できなかっただろう。なにせ姿形は量産型と全く変わらない。圧倒的物量に紛れて行動されては、呪力探知でも見分けがつかない。
『領域の主』は婪佳久側に物量をぶつけ、安曇野禍福側にはピンポイントの対抗策を用意したのだ。
この
その移動した軌跡には、最高強度の『不可侵』が発生する。
女王蜂は、安曇野禍福の足元を通過し、彼の『線』を踏もうとした足を弾き、脱線させた。
結果、彼自身の『
(簡易量産型の式神じゃない。領域システムの中枢に組み込まれたオリジナルの式神。『星間飛行』で妨害できない個体――!)
――誰もが、声を出せなかった。
何が起きたかわからない顔で、綺羅羅でさえ息を呑んで、大きすぎる瞬間的変化を受け止めきれずに眺めていた。
ただ一人、『
「ちょやばばばよりによって今かよオメー!?」
身を挺し、式神たちの追撃から禍福を庇う。
落下し始めた糸の切れた人形を拾い上げる。
悲嘆では間に合わない。
怒りでも足りない。
驚愕などしてられる時間はない。
たった今、戦線が崩壊した。
出力された答えはひとつだった。
「こうなったら――全部を、出し切る!」
――呪いの呪霊の成り損ない。
新生『呪いの王』は、
今回は物量戦を挑まれてるので、
……なんで禍福の十数倍の物量を難なく捌けるんですか(現場ネコ)