【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
――循環する『魂の通り道』。
呪術において、肉体を破壊された魂は、ここを通って初めて死者となる。
ここで何が見えるかは、個人差がある。
空港に待つ仲間達との憩いの場かもしれない。
或いは、魂に関する術式の残滓か――。
「……なーぁんだ。結局やられちゃったのか」
今回は、後者だった。
孵らなかった水子の魂。呪いそのものになりかけ、なり損なったそれを――ツギハギの人形が歓迎していた。
「んで、結局どっちなの。人か、呪いか――ああいや、君には聞くまでもなかったか。見た限り
「まっ、しゃあないしゃあない♪ 俺みたく特例でもなきゃ先は長いよ、精々また頑張りな〜」
同情半分、無関心半分。それでも同族意識の言葉を吐き、彼はヒラヒラと手を振ってくる。
対して、水子の黒影は――。
「――あ、ごめん。もう行くから」
当然のように口を開き、明後日の方を向いていた。
「えっ、喋れたんだ。いつの間に――いやだから、お前の魂はもう『ここ』に来た以上は……」
「違う。呪霊じゃなく、人として」
「……、はぁ?」
形だけ可哀想ぶりつつも事実を伝えていたツギハギ顔は、硬直し腑抜けた声を漏らす。
「感謝はしてるよ。アナタがワタシの魂にも刻んでくれた記憶。カフクとランカクの幼い記憶が、人を知る土台になった」
淡々と、黒影はこう答えた。
「だから、
「さっきから何を言って――ソレは!」
なるほど確かに、通常の呪霊であれば問われるまでもない。だがソレだけは――『
「初めて、選べたんだ。誰に望まれたわけでもない、自分自身の意思で」
そう。正の呪力が扱える。
――『呪いの呪霊』になりかけたからこそ、呪霊のはずのそれは、人の術まで抱えている――人としての未来の切符も、持っている。
「これまで呪いだったけど――ワタシこれからは人になるね! 1000年なんて待てない。だってもう、あるべき形を知ったんだもの!」
黒い影は
――求められた事を、求められたままに。
それが呪いの呪霊。
それが新生・呪いの王、だった。
けど、彼が教えてくれた。それだけじゃないことを。
『またな……
だから、次がある。
――天逆鉾で呪いである事を剥ぎ取られ。
あの最後にくれた言葉があるから――。
「てか一緒にしないでくれる? ワタシ呪力で作られた側じゃなく、元から呪力決める側なんだけど?」
「……はぁ? 死ねよオマエ」
……真人にとっては、理解できるはずもなかった。
呪霊として絶対にあり得ない発想だった。
彼は人間の負の面の集合体だ。
だからこそ絶対に人間そのものにはなれないし、なろうとさえ思わない。
だからただ口をポカンと開ける他になく、
「残念もう死んでまーっす! じゃっ、またね! ツギハギのキューピッドさん!」
「ちょっ、なんだそれ自由すぎるだろ、俺らバカみたいじゃんか! チクショー!!」
置き去りにされる。
無理解の叫びを、ケラケラと笑い飛ばして水子は世界を逆走する。
自分で選んだ、自分だけのため。
他者の悪感情でしか自己を定義できなかった、これまでとは違う。
自我に目覚めたそれは、失った足を生やし――現世へと這い上がっていく。
(たとえそれが二人にとって余計なお世話でも。次が選べるのなら、ワタシは――!)
そう――人として、惜しまれる死が欲しいから。
―
――
―――
――安曇野禍福は『爆死』した。
最終ラインに立っていた彼の喪失は、戦線の崩壊を意味する。
だが、『
「キララさん! ワタシ蘇生に集中する! なにがなんでも時間稼いで!」
「――え、できるの!? どう見たって死――」
「できる、やって!」
「おっけえ信じた!」
焼死体を拾い上げながらの断言。
それを聞き、星綺羅羅は即座に彼から目を離す。疑う猶予すらなかった。
さっきまでは『
星綺羅羅は独力で――目の前の式神の大群すべてを相手しなければならないのだ!
(しっかし簡単に言ってくれるなぁもう!)
――
絶対に手に負えない数。できるのは致命的な崩壊を先延ばすだけ。
全身全霊で『
(この際、量産型が拾いきれないのはいい。問題は紛れて行動する
天敵は健在だ。その場しのぎ程度では破滅が目に見える。
綺羅羅は瓦解した戦線を回復させるため、打開手段を一刻も早く見つけねばならなかった。故に、
「こうなりゃ藁をも掴むっきゃないか! 生き残り三人組、何でもいいから術式使って!」
「「「もうやってます!」」」
ここまで着いてきた元一般人三名へ、綺羅羅は呼びかける。
言われるまでもなかった。
彼らとて命の危機は理解していた、黙って死んでられるハズもない。
「うおお寄るな寄るな! 頼むから一匹くらい見落としてくれ可愛げねぇな本当!」
――爆死した禍福は、『
これで『
「お願いします死なないでください殺せる人いなくなっちゃいます! なんか両親思い出すなりしていー感じの流れで生き返ってください!」
その手の赤子は彼のおかげで、攻撃を直撃しない限りは『高い高いされている』と認識して、絶望的状況なぞ何処吹く風と笑っている。
――だが焼死体に対しては焼け石に水、やらないだけマシ程度の効果しか見込めまい。
が、最後の一人だけは違った。
「あーもう馬鹿! バカ男! 全員助けてくれるんじゃなかったの!? なんで最初に死んでんのよ絶対女泣かせでしょアンタ!!」
隠し持っていた何の変哲も無い拳銃。しかし命中した瞬間。
――群れ全体が、ドミノ倒しのごとく一斉に崩れた!
「えっそんなことできたの!?」
「長くはムリ! 呪力全然扱えないんで1分も保たない!」
「上等、そのまま自衛して! 量産型は任せた!」
伊達にここで生き残ってはいない。術式負荷で鼻血を起こしつつ、彼女は慣れたようにリロードしつつ次々と妨害を撃ち込んだ。
――
小規模の現実改変だ。銃撃は着弾と同時、威力に応じた規模の体調不良――かぶれ、内臓炎症、筋肉痛などに置き換わる。
簡易的なプログラムでのみ行動する量産個体は、自身に発生するハズのない
結果――一糸乱れぬ連帯挙動に乱れが発生。
紛れていた
「見つけた、今度こそ通さない――術式拡張!」
綺羅羅を指を指し――奥の手を持ち出す。
それは、『
5つのマーキングを1対象に集中。
相反する『弾く力』を重ね、増幅させ――物理攻撃に転用する。
擬似的な、無下限呪術・術式反転『赫』の再現。
「
飛来する式神を『不可侵』もろとも、抵抗不可能の衝撃が弾き飛ばす。
呪力のない攻撃のため、ダメージは見込めないが距離が稼げた。
――こんな強引な使い方なんて想定されていない。極めて高い術式負荷で脳を壊され、鼻血を漏らしつつ――。
「さぁ、ぼちぼち復活してくれてもいーんだよカフちゃん!」
休む間もなく防衛戦を続行。
汗だくだくなまま、綺羅羅は永遠にも思える一瞬を捌き続ける――。
―――
――
―
拘束解除された『
――人の感情が呪力を産み呪霊を産む。
呪霊は呪力によって形作られる――転じて、『受愚戴転』による呪力特性変更は、呪霊を変身させる事すら出来る。
ただし現状の『
かくして、『
「――カフク。全部、キミのお陰なんだよ。ワタシがここにいるのも、
黒い卵と、人形であった。
漆黒の水球の中、四肢を落とした少年の焼死体を、人形は愛おしげに抱き上げている。
笑顔の仮面は役目を終え、剥がれ落ちて、隠れていた慈悲深い微笑が露出し。
卵の裏に広がる
「あなたが自分をどう思っていたとしても、キミが走ったから、今があるの」
まず、彼の残った胴体を『
虎杖の死刑を執行した乙骨と同じ手法だ。止まった心臓に無理やり
肺も同様だ。体内に刺さった呪具の破片・大量出血は呪力で焼き切って踏み倒しながら治癒し、無理やりに動かす。
――本来なら絶対に生還が有り得ない――だが、それでも。
「嬉しかったんだ。少しの間でも一緒にいられて、クラスメイトになれて。あなたが見せてくれる世界は、いつもワタシの視野を広げてくれた。どこまでも着いて行きたかった。でも――こっちに来ちゃダメ」
この二人だけは例外だ。
――『
たとえ『正の呪力』の扱いは婪佳久に劣るとしても、安曇野禍福にだけは――『大当たり』時の秤金次を超えた治癒効率を発揮できる。
「一回だけ、追い返してあげる。すぐは戻って来ないでよね」
胴体の蘇生が完了した。文字通り奇跡的に、彼は息を吹き返す。
すかさず、『
言葉を尽くし、魂を引き留めたからだろうか――かろうじて魂が肉体から消え始める寸前に間に合った。
今ここに。安曇野禍福が、新生する――。
―――
――
―
膝枕の上、仰いだ黒い
禍福は、再び目を開き――涙を溢していた。
「よかったァー。おはよ、カフク。起き抜けで悪いけど、まだ頑張れるヨネ?」
曼荼羅を通し、自らの存在を生命力に変えて消費した『
その心の全てを受け取って――感動し、震えた。
(――コイツは、こんなにも。一瞬でも未来を掴むために生きていたんだ。消えてもいいと思えるくらい――)
――『
それほどの飢えが――自分には、なかった。
(――アンタもそうだったのか。この道を遺した、あなたも)
「……カフク?」
少年は、ふと外を見やる。『道』の先、彼にはもうひとつの
――この『道』は、領域の外へ出れたのに、何度も戻って、仲間と赤子のために『補給物資』を送り届けた男の残滓だ。
ここを死場所と定め、呪力と命を燃やし尽くして走り切った――『
その指を、前へと向けていた。
「あぁ――わかった。俺も――!」
導かれ。彼は迷いなく。
――再び、『命を賭ける縛り』を自身に課し――己の命を、賭け皿に乗せた。
「えーっちょっカフク! そこは命だいじに――!?」
「「「禍福さん!?」」」
「よぉし来たぁ! カフちゃん、
飛び出す。黒い揺籠の外へ。
己を殺した女王蜂の元へ、少年は迷いなく直進する。
――物体をすり抜ける道。『
よって爆縛呪法の
彼は『
「『
――もう、走り切ったと思っていた。
あの時、
だからだろうか――失った日常は、戻って来ないのだと
「でも違った! まだ人生は続いてる、ならチャンスはある――俺は、俺たちの人生を取り戻せる!」
彼の復讐の方向性は変わった。
彼の目は、この道の向こう側を。迷宮の外に広がる――未来を、見ていた。
「だからもう、俺は止まらない!」
「この先の荒野に打ち立てるんだ。俺だけの、新しい未来を――!」
本当の意味で、彼は全身全霊で駆け抜ける。
このワンチャンスに全てを投じる。
壊れた『竜骨・改』を拾い上げ、失われた刀身を呪力で形成。
風車に挑むドン・キホーテと
瞬時、女王蜂と再び接敵する。
この領域で最大強化された『
だが――
「総てを清算して、身一つで自由になってやる!」
矛先に一点収束。すべての重さと速さと呪力を乗せた刺突が、式神の『核』を完膚なきまでに貫く。
――呪霊がそうであるように、式神にも核となる部位が存在する。その一点のみを狙って、刃が通されたのだ。
「――綺羅羅さん! 今度こそ俺が死守します、前進しましょう!」
「もちろん、けど急いで! ぶっちゃけ私あと数分しか術式維持できな――」
「
残るは量産型のみだが――もはや、そこに彼の疾走を止められる者はいなかった。
「す、すげぇ。分かってたつもりだったけど――あんなに速く走れるのか」
生存者三名は格好の機会と察し、全力疾走しつつも、目を奪われずにはいられない。
少年は流星の如く『道』を駆け回り、迫る式神達を余波だけで蹴散らして、活路を切り開く。
それもこれも――『
「ま、まさか、え? こ、こんな事ってあるんだ……?」
「ぼさっとすんな『
『
彼は単に復活したのではない。新生したのだ――肥大化しきった術式効果に対応可能な『器』として。
心肺が破壊され、脳死寸前だった禍福を治すため、『
これまでは向上しすぎた術式効果に振り回され、一定以上に加速すると身体がついてこなかったが、彼の
意図せぬ結果であるものの――安曇野禍福は
「でもそっかーそうだね! キミはそうでないとだよ!」
彼に手を引かれ、『
彼が『線』を踏み外せば道連れだが、『
「キミはそれでいい! 想像の先へ行こう、アズミノカフク!」
「あぁ――行こう! 皆んなで!」
背を押され、少年は踏破していく。
彼と彼の連れ歩く災厄によって、量産型式神は悉く返り打ちにされ、留まることなく前進は加速し続けた。
そうして、彼らはついに目的地へと到達する。
――『領域の穴』。この名古屋地下鉄領域に残された、唯一の弱点へ――。
描写を練るのが間に合わず、投稿遅れちゃいました。申し訳ない。
こんな未来志向の強い話ってアリなのかな~呪術廻戦なのに。
まぁそんなのは今更か……。
【補足】禍福はコガネから死亡判定されていない
テンポの問題で省いた情報です。
冒頭でも説明した通り、本シリーズでは『肉体が死んだ』かつ『死後の魂となった』両方の条件が満たされて初めて、死亡者と見做します。
第二次・死滅回游におけるコガネも、同じ基準で泳者の生死を判断してます。
今回の禍福は肉体が死んだものの、魂が死なずに済みました。なので死亡判定されませんでした! ノーカウントなんだ! ノーカン! ノーカン!
……ちなみに過去の復活した呪術師(万や石流)は『死後の魂』が生きた体に入ってるバグ存在です。
五条悟も同じく魂は死者判定です。『魂の通り道』に着いた以上はね。
【裏設定】『
①この『道』の上では、完全な透明人間になれる
(呪術的にも物理的にも例外なくあらゆる観測を免れる。なおかつ、あらゆるものを『すり抜けて』通過できる)
②この『道』の上では時間の流れが外界と異なり、術式発動者にとっては膨大な移動時間が必要とされるが、現実時間では一瞬で移動完了する。
(つまり1億年ボタンによる光速移動の実現)
③発動するにあたり、目的地を必ず設定する必要がある。この『道』は『目的地の手前』までは続いており、道を外れるとスタート地点に強制転移される。
(術式発動者が強く意識できる場所でないと設定できない)
用途としては、絶対に情報を持ち帰る、絶対に特定の物品を届けることにのみ特化している術式。
領域外で補給物資を拾ったら、自ら『道』を踏み外すことで初期地点(仲間の元)に帰還し、物資を譲渡。呪力が尽きるまで同作業を繰り返した。
彼らには身の上を話すでもなく、ただそれのみに己の命を燃やし切った。
現代人か、復活した過去の術師かも分からない。行動の理由は赤ん坊への同情かもしれないし、何かの罪滅ぼしだったのかもしれない。
真実を知るのは、この『道』の彼方へと消えた当人と、安曇野禍福だけだ。