【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
――アイツは、俺の何倍も強くなってた。
釘崎も、他のみんなも。
俺だけが、寝て起きた時には置いてかれていた。
けど――俺は言ったんだ。
すぐに、追いついてみせると。
―
――
―――
「――布瑠部、由良由良――」
虹龍から叩き落とされ。
咆哮と共に肉薄する悪路王は――だが。
「――――八握剣異戒神将『魔虚羅』!!」
一刀両断。正の呪力の塊――対魔の剣。
遠慮なく切られたエースカード。
最強の式神を前に、問答無用で祓われた。
――伏黒恵の『十種影法術』は、
両面宿儺受肉時に使用されたものとは別物である。
よって『大蛇』や『玉犬・白』以外の式神は健在だ。
魔虚羅も含め、調伏済みであれば召喚可能――。
彼の眼前には、まだ二体の特級呪霊――否。問題なし。
「式神をつける。
伏黒は背後を見やった。
今回の任務の最重要目的。
救助者を抱えて走る禍福と、悪質にも後追うターボババア――そこへ。
(あの速度、挙動――『投射呪法』か。なんでアイツに相伝が!? アレの術式は別だったハズ――いや今は!)
「『蝦蟇』+『鵺』――『
「ゲコっ」
ターボババアと、特級術師『婪佳久』の間、
ジョイントは繋がれた。
あえて一体のみの拡張術式は、そのぶん丈夫に。
「了か、ひゃっ――うわええぇあ蛙――っ!?」
ターボババアの胴に巻き付く長い舌。
羽の生えた蛙式神に抱きつかれる婪佳久。
その足が浮き、連れ去られた先は――スピードの世界。
それが、彼女の向かうべき戦場となった。
―――
――
―
……呪術師としての任務に、やり甲斐なんて感じたことはない。
ただ、できるから。
消費しないと、勝手に膨れ上がる呪力に潰されるから。
お金がないから――そんな理由でやってきた。
でも、今は。
『婪佳久、一時離脱をする――トチったら殺すぞ』
「――――誰にものを、言ってんだ!」
――少年に応え、少女は咆えた。
引きずられる最中で両足を踏ん張り、
ブーツの靴裏をゴリゴリ言わせつつ、
開かれた、指先という十個の砲門。
乱れ撃たれる
前を逃げ走る少年の周囲、
顔を出した、東京の悪意の数々をぶち抜いた。
……全方位から止めどなく剥かれる牙は、
東京の結界から抜けられずに有り余った呪詛の発露だ。
その悉く、禍福は蹴り潰し、踏破し、全速力で突き進んでいた。
否。ここまで彼を走らせたのはそれだけではない。
「ぐるううぅ――シャーッ!!」
走る禍福に、足と蛇の尾でくみついて。
迫る攻撃に、繰り出される超速の迎撃。
禍福の護衛につけられた式神もまた、道を開く。
――『
――その本領は『反射速度』にある。
かつての『嵌合獣・顎吐』の反転術式を、
魔虚羅の不死性に並ばせるスピードに至らしめた最大要素。
この場において、その効果は擬似再現された『落花の情』として表れた。
大蛇から生えた上半身は牙と爪で、脅威の悉くをフルオートで跳ね飛ばし、彼の道を切り開く。
が、呪力量は小さい。あくまでも雑魚専門。
――真後ろの、
特級の悪意を祓えるのは。
同じく、特級術師以外にあり得ない。
「いい、加減に、止まれ――!!」
巻き取られる
渾身の呪力による拳の一撃。が、
一秒、その体制でフリーズした。
(――何コイツ。呪力の意図と術式効果が食い違ってる。術式を人為的にすげ替えられたみたいな――とにかく変なやつ!)
一手早く動いた、ターボババアの手に胸を押されて理解する。
妙にカクカクした動き方の正体。
これは、過去に報告があった『投射呪法』――!
「わ、うわ、あああ――っ!?」
刹那、轢かれたみたいに身が弾かれた。
ターボババアは走りをやめない。
水切り石みたく地を跳ね、身が削られる。
胸の中で式神をかばい、転げ回って、
「髪型、終わったんですけどッ!」
――上下左右、転げる世界を叩いて止めた。
拳を地に打ちつけ、呪力量だけで他の運動をねじ伏せ、踏みとどまる力業。
同時、不知井底にも呪力を与えて強化。そして、
「がん、ばって、蛙さんっ!」
いっきに、跳ね飛んだ。
音速突破の爆音。バネの力で距離は消え、
激突する拳。今度は向こうがフリーズし、
「おらぁ! ――あばっ!」
急制動について来れず、またも胴体着陸。
慌てて彼を見て――安堵した。
亜音速を出す相手に、完全に逃げ切っている。
だがそうなると……、
「――バ〜ッ!!」
(――次、わたし狙いか!)
直感。悪意を感知し紙一重、直撃を避ける。
(ワンパンできなかった。五条先生の蒼パンチで呪力減らしてきたから――?)
この特級呪霊。防御は軟いが――禍福の『黒閃』に吹っ飛ばされても、婪佳久の一撃を喰らっても――次の瞬間には復活していた。
……呪霊は反転術式なしで自己回復できる。
コイツは回復速度も、投射呪法で速めている。
となれば、呪力の自然回復も同様!
つまり、コイツの呪力は消費されるどころか強まっていく――!
(いっぺんにたくさん殴んなきゃ祓えない相手、けど――!)
「うぁっ!?」
「ゲコっ」
「――ぎゃははははッ!」
――ダメだ。まるで対応できない。
また引っ張られて転がされる、翻弄される。
反応できても速度が間に合わない。
回避はできても捉えるなんて無理だ。
けど、今暴走するわけにもいかない。
婪佳久は、独力でこれを凌がねばならない。
「――ぁわ!」
「ゲコっ」
「バァーッ!」
逆に、巻き付いた舌を、引っ張られる。
近寄られ、拳が突き刺さって火花が散った。
受け身も取れず転げ回る。
とはいえ、やられはしない。
……『受愚載転』は常に呪力を体に籠らせる。
立ち上った呪力は、常にオートガードしてくれる。
なんなら呪力を自分中心に球状展開すれば、弾きとばせる。狙うはその瞬間――!
「――痛づッ……嘘。もう溜まるの!?」
――――マズい。いけない。
呪力の膨れ方が大きすぎる――『暴走』が近い!!
「――ぅ、ぶ。――ぐッ、うっ!?」
ターボババアに蹴り飛ばされる。
なすすべなく吹っ飛び地を滑る。
そこへ――ここぞとばかりに。
禍福を追う事を諦めた呪霊ら。
のべ299体が婪佳久に押し寄せた――!
(おかしい、東京なら、非術師の呪力は呪霊に向くはずなのに……)
彼女がいるだけで、彼ら呪霊の生存域は破綻する。
それ故の、絶滅危機を察知した『種』の本能的抵抗劇。
「ぅ、ぅううう――っ!」
だったのだが……。
所詮、低級呪霊の牙でしかなく。
容易く――婪佳久の、
(クソっ、初見殺し切らされた――!)」
今のは、攻撃でもなんでもない。
ただの呪力の『漏出』。
咄嗟に抱え切れない呪力を吐き出しただけ。
――特級呪霊を退けるには足りない。
「ご、ぶ――ぅ、……あ!」
「バーバババババば――!」
故に、いいようにやられて、
攻撃でなく、自壊を起こしたことで血反吐が出た。
(ああ、もう――2018年からいっつもこうだ!)
そう――わたしの戦いは。
いつだって、この術式こそが大敵だった。
―
――
―――
本来――術師は、わずかな感情から呪力を捻出する。
逆に大きく感情が振れたとき、呪力を無駄使いしないためにも。
だが、ここに例外が存在する。
術式『受愚載転』。
非術師の漏出した呪力が一身に集まる、呪縛。
呪力が勝手に溜まる分、むしろ無駄使いは必須で。
いつだって一人分の呪力じゃないから、
わずかな感情の揺れは大きく現れてしまう。
よって――呪術師の基礎技能は成立しない!
常に保有呪力量が一定でないから、
呪力コントロールの基礎習熟からしてベリーハード!
そのくせ、呪力のコントロール可能な出力を超えた場合――そのまま『暴走』一直線となる。
呪術戦であろうと敵害心を出してはならない。
常に最大の敵は、己自身!
呪霊の個性が分かれるように、
呪力特性に個人差がある様に。
本来カテゴリが分かれる呪力を、
丸っと握らされた上で――自分が掌握できるか。
自分以外の呪力に常に晒されながら、自分を生き残らせねばならない。
呪霊や仲間といる時でさえ、そうだ。
コントロールされた負の呪力に対しては『暴走』したがるコイツを――自分が、御し切らねばならない。
――――あらゆる感情を。
彼女は、飲み堪える他に生きられなかった。
それ故の、これまでの軟禁。
それ故に、これまで。
呪力漏出が皆無の、五条悟としか行動は許されてこなかった。
自分が――人間なのか、怪物であるのかを。
自分以上の怪物は。
何も教えてくれなかった――――。
―――
――
―
(……なんでだろう、わたし――今。あんまイライラしてない)
……踏みとどまる。
強く。朧な力の像を掴んで、手綱を握った。
――わたしは、呪術師の仕事に甲斐なんて感じてこなかった。
ただの、2019年から始めたバイトのひとつ。
児童労働兼、生存活動に過ぎない。
けれど、強いて言うなら。
唯一の、恩人――五条悟との繋がりだった。
五条家の別荘と、通信教育だけの私の世界。
義務教育の終わりは、郵送の卒業証書。
わたしの時間が進むのは、いつだって、五条先生がいる時だけ――。
「ゲハハははは――っ、バア――!?」
人様を、サンドバッグにしまくった因果が廻った。
――黒い。フラッシュが目を焼いていた。
怒りの鉄拳は顔面にクリーンヒット。
遥か吹っ飛ぶターボババア。
蛙の舌が外れ、不意に倒れる。
慌てて、顔を見上げて、
「……よぉ。ずいぶん、苦戦してるようじゃないか」
バチバチと、悪意を焦がす音がした。
――初めて、五条先生以外で、私の暴走を止めた人。
――初めてで唯一の、クラスメイト。
「……さっきの人らと、虎の式神は?」
「旧高専に預けた。式神は救助者防衛を命令されたらしい、向こうで居残りだ」
「あの距離、Uターンしてきたの」
「あぁ。最高速度だけなら、俺はアイツより上みたいだな」
ぶっきらぼうな手を取って、立ち上がる。
決して、最強には程遠い。けれど。
――そうか。わたしは、コイツを信じていた。
だってコイツからは――予感がする。
「しかし、逃げるだけは性に合わん」
「完璧に勝つぞ」
「……了解」
「ゲコっ」
わたしの時間を、前に進めてくれる。
そんな予感が……!
起首雷同モドキなので、少年少女の共闘も書きます。
つまりは、同じように伏黒も……?
そこはお楽しみにお待ち下さい。
【オマケ①・『虎葬』登場秘話】
親友「提案がある」
筆者「聞こうじゃないかブラザー」
親友「虎葬出そうぜ」
筆者「えっ」
親友「ずっと考えてたんだ、虎葬ってなんの能力なのかなって。反射だ、きっとそれで反転術式を強めてたんだ。だってアイツ『顎吐』のパーツ足しかないんだもん。二足歩行だったし、足めっちゃ速い能力とかなんだよきっと」
親友「てことで、『顎吐』から『鵺』と『円鹿』引いたヤツだそうぜ」
筆者「なにその、ケンタウロスの余った部分みたいな」
親友「下半身が蛇で足もついてる。まさしく『蛇足』だ」
筆者「お、おう。やってみようじゃないか」
結果、三輪ちゃんの理論値ぐらいの性能をした、
カウンター特化型式神が爆誕したのだった……。
【オマケ②・婪佳久の戦闘スタイルは少年院呪霊】
・呪力を弾として飛ばす
・呪力をバリアみたく球状に広げる
これは呪術初期での表現をイメージしています。
(漏瑚が「ヒャハッ」とか三下めいた声出してた時期)
術式『受愚戴転』はあくまでも呪力供給源。
攻撃方法としてはシンプルに呪力を纏う、呪力を飛ばす、となるのです。
ただ、乙骨のように変幻自在とはいかず、
まるで呪力量にコントロールが追い付いていないので、
スマートな勝ち方はあまり望めません。
なんとも、泥臭い戦闘能力ですね。