【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第7話「受愚戴転 -伍-」

 

 ――アイツは、俺の何倍も強くなってた。

 

 釘崎も、他のみんなも。

 俺だけが、寝て起きた時には置いてかれていた。

 

 けど――俺は言ったんだ。

 すぐに、追いついてみせると。

 

――

―――

 

 

 

「――布瑠部、由良由良――」

 

 虹龍から叩き落とされ。

 咆哮と共に肉薄する悪路王は――だが。

 

「――――八握剣異戒神将『魔虚羅』!!」

 

 一刀両断。正の呪力の塊――対魔の剣。

 

 遠慮なく切られたエースカード。

 最強の式神を前に、問答無用で祓われた。

 

 

 

 ――伏黒恵の『十種影法術』は、

 両面宿儺受肉時に使用されたものとは別物である。

 

 よって『大蛇』や『玉犬・白』以外の式神は健在だ。

 魔虚羅も含め、調伏済みであれば召喚可能――。

 

 

 

 彼の眼前には、まだ二体の特級呪霊――否。問題なし。

 

 

 

「式神をつける。婪佳久(らんかく)も離脱、禍福(かふく)を援護だ!」

 

 

 

 伏黒は背後を見やった。

 

 今回の任務の最重要目的。

 救助者を抱えて走る禍福と、悪質にも後追うターボババア――そこへ。

 

(あの速度、挙動――『投射呪法』か。なんでアイツに相伝が!? アレの術式は別だったハズ――いや今は!)

 

 

 

『蝦蟇』+『鵺』――『不知井底(せいていしらず)!」

「ゲコっ」

 

 

 

 ターボババアと、特級術師『婪佳久』の間、

 ジョイントは繋がれた。

 

 あえて一体のみの拡張術式は、そのぶん丈夫に。

 

 

 

「了か、ひゃっ――うわええぇあ蛙――っ!?」

 

 

 

 ターボババアの胴に巻き付く長い舌。

 羽の生えた蛙式神に抱きつかれる婪佳久。

 その足が浮き、連れ去られた先は――スピードの世界。

 

 それが、彼女の向かうべき戦場となった。

 

 

 

―――

――

 

 ……呪術師としての任務に、やり甲斐なんて感じたことはない。

 

 ただ、できるから。

 消費しないと、勝手に膨れ上がる呪力に潰されるから。

 

 お金がないから――そんな理由でやってきた。

 

 でも、今は。

 

 

 

『婪佳久、一時離脱をする――トチったら殺すぞ』

 

「――――誰にものを、言ってんだ!」

 

 ――少年に応え、少女は咆えた。

 

 

 

 引きずられる最中で両足を踏ん張り、

 ブーツの靴裏をゴリゴリ言わせつつ、

 

 開かれた、指先という十個の砲門。

 

 乱れ撃たれる指向性収束呪力放射(ホーミングビーム)は、

 前を逃げ走る少年の周囲、

 顔を出した、東京の悪意の数々をぶち抜いた。

 

 

 

 ……全方位から止めどなく剥かれる牙は、

 東京の結界から抜けられずに有り余った呪詛の発露だ。

 

 その悉く、禍福は蹴り潰し、踏破し、全速力で突き進んでいた。

 

 

 

 否。ここまで彼を走らせたのはそれだけではない。

 

 

 

「ぐるううぅ――シャーッ!!」

 

 

 

 走る禍福に、足と蛇の尾でくみついて。

 迫る攻撃に、繰り出される超速の迎撃。

 

 禍福の護衛につけられた式神もまた、道を開く。

 

 

 

 ――『大蛇(オロチ)』を継承した、虎葬(こそう)

 ――その本領は『反射速度』にある。

 

 

 

 かつての『嵌合獣・顎吐』の反転術式を、

 魔虚羅の不死性に並ばせるスピードに至らしめた最大要素。

 

 この場において、その効果は擬似再現された『落花の情』として表れた。

 

 大蛇から生えた上半身は牙と爪で、脅威の悉くをフルオートで跳ね飛ばし、彼の道を切り開く。

 

 

 

 が、呪力量は小さい。あくまでも雑魚専門。

 

 

 

 ――真後ろの、追跡者(チェイサー)

 

 特級の悪意を祓えるのは。

 同じく、特級術師以外にあり得ない。

 

 

 

「いい、加減に、止まれ――!!」

 

 

 

 巻き取られる蛙の舌(リール)に引かれ、肉薄した婪佳久。

 渾身の呪力による拳の一撃。が、

 

 

 

 一秒、その体制でフリーズした。

 

 

 

(――何コイツ。呪力の意図と術式効果が食い違ってる。術式を人為的にすげ替えられたみたいな――とにかく変なやつ!)

 

 

 

 一手早く動いた、ターボババアの手に胸を押されて理解する。

 妙にカクカクした動き方の正体。

 

 これは、過去に報告があった『投射呪法』――!

 

 

 

「わ、うわ、あああ――っ!?」

 

 

 

 刹那、轢かれたみたいに身が弾かれた。

 

 (ロープ)はまだ繋がっている。

 ターボババアは走りをやめない。

 

 水切り石みたく地を跳ね、身が削られる。

 胸の中で式神をかばい、転げ回って、

 

 

「髪型、終わったんですけどッ!」

 

 

 

 ――上下左右、転げる世界を叩いて止めた。

 

 拳を地に打ちつけ、呪力量だけで他の運動をねじ伏せ、踏みとどまる力業。

 

 同時、不知井底にも呪力を与えて強化。そして、

 

 

 

「がん、ばって、蛙さんっ!」

 

 

 

 いっきに、跳ね飛んだ。

 

 音速突破の爆音。バネの力で距離は消え、

 激突する拳。今度は向こうがフリーズし、

 

「おらぁ! ――あばっ!」

 

 急制動について来れず、またも胴体着陸。

 慌てて彼を見て――安堵した。

 

 

 

 亜音速を出す相手に、完全に逃げ切っている。

 だがそうなると……、

 

 

 

「――バ〜ッ!!」

(――次、わたし狙いか!)

 

 直感。悪意を感知し紙一重、直撃を避ける。

 

(ワンパンできなかった。五条先生の蒼パンチで呪力減らしてきたから――?)

 

 この特級呪霊。防御は軟いが――禍福の『黒閃』に吹っ飛ばされても、婪佳久の一撃を喰らっても――次の瞬間には復活していた。

 

 

 

 ……呪霊は反転術式なしで自己回復できる。

 コイツは回復速度も、投射呪法で速めている。

 となれば、呪力の自然回復も同様!

 

 つまり、コイツの呪力は消費されるどころか強まっていく――!

 

 

 

(いっぺんにたくさん殴んなきゃ祓えない相手、けど――!)

 

「うぁっ!?」

「ゲコっ」

 

「――ぎゃははははッ!」

 

 

 

 ――ダメだ。まるで対応できない。

 また引っ張られて転がされる、翻弄される。

 

 反応できても速度が間に合わない。

 回避はできても捉えるなんて無理だ。

 

 けど、今暴走するわけにもいかない。

 婪佳久は、独力でこれを凌がねばならない。

 

「――ぁわ!」

「ゲコっ」

 

「バァーッ!」

 

 逆に、巻き付いた舌を、引っ張られる。

 近寄られ、拳が突き刺さって火花が散った。

 受け身も取れず転げ回る。

 

 

 

 とはいえ、やられはしない。

 

 

 

 ……『受愚載転』は常に呪力を体に籠らせる。

 立ち上った呪力は、常にオートガードしてくれる。

 

 なんなら呪力を自分中心に球状展開すれば、弾きとばせる。狙うはその瞬間――!

 

 

 

「――痛づッ……嘘。もう溜まるの!?」

 

 

 

 ――――マズい。いけない。

 呪力の膨れ方が大きすぎる――『暴走』が近い!!

 

 

 

「――ぅ、ぶ。――ぐッ、うっ!?」

 

 ターボババアに蹴り飛ばされる。

 なすすべなく吹っ飛び地を滑る。

 

 そこへ――ここぞとばかりに。

 

 

 

 禍福を追う事を諦めた呪霊ら。

 のべ299体が婪佳久に押し寄せた――!

 

 

 

(おかしい、東京なら、非術師の呪力は呪霊に向くはずなのに……)

 

 彼女がいるだけで、彼ら呪霊の生存域は破綻する。

 それ故の、絶滅危機を察知した『種』の本能的抵抗劇。

 

 

 

「ぅ、ぅううう――っ!」

 

 だったのだが……。

 所詮、低級呪霊の牙でしかなく。

 

 容易く――婪佳久の、全方位呪力展開(バリア)を前に塵芥と化した。

 

 

 

(クソっ、初見殺し切らされた――!)」

 

 

 

 今のは、攻撃でもなんでもない。

 ただの呪力の『漏出』。

 咄嗟に抱え切れない呪力を吐き出しただけ。

 

 ――特級呪霊を退けるには足りない。

 

 

 

「ご、ぶ――ぅ、……あ!」

「バーバババババば――!」

 

 故に、いいようにやられて、

 攻撃でなく、自壊を起こしたことで血反吐が出た。

 

 

 

(ああ、もう――2018年からいっつもこうだ!)

 

 

 

 そう――わたしの戦いは。

 いつだって、この術式こそが大敵だった。

 

 

 

――

―――

 

 本来――術師は、わずかな感情から呪力を捻出する。

 逆に大きく感情が振れたとき、呪力を無駄使いしないためにも。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 術式『受愚載転』。

 非術師の漏出した呪力が一身に集まる、呪縛。

 

 

 

 呪力が勝手に溜まる分、むしろ無駄使いは必須で。

 

 いつだって一人分の呪力じゃないから、

 わずかな感情の揺れは大きく現れてしまう。

 

 よって――呪術師の基礎技能は成立しない!

 

 

 

 常に保有呪力量が一定でないから、

 呪力コントロールの基礎習熟からしてベリーハード!

 

 そのくせ、呪力のコントロール可能な出力を超えた場合――そのまま『暴走』一直線となる。

 

 呪術戦であろうと敵害心を出してはならない。

 常に最大の敵は、己自身!

 

 

 

 呪霊の個性が分かれるように、

 呪力特性に個人差がある様に。

 

 本来カテゴリが分かれる呪力を、

 丸っと握らされた上で――自分が掌握できるか。

 

 自分以外の呪力に常に晒されながら、自分を生き残らせねばならない。

 

 呪霊や仲間といる時でさえ、そうだ。

 コントロールされた負の呪力に対しては『暴走』したがるコイツを――自分が、御し切らねばならない。

 

 

 

 ――――あらゆる感情を。

 彼女は、飲み堪える他に生きられなかった。

 

 それ故の、これまでの軟禁。

 それ故に、これまで。

 呪力漏出が皆無の、五条悟としか行動は許されてこなかった。

 

 

 

 自分が――人間なのか、怪物であるのかを。

 自分以上の怪物は。

 何も教えてくれなかった――――。

 

 

 

―――

――

 

(……なんでだろう、わたし――今。あんまイライラしてない)

 

 ……踏みとどまる。

 強く。朧な力の像を掴んで、手綱を握った。

 

 

 

 ――わたしは、呪術師の仕事に甲斐なんて感じてこなかった。

 

 ただの、2019年から始めたバイトのひとつ。

 児童労働兼、生存活動に過ぎない。

 

 けれど、強いて言うなら。

 唯一の、恩人――五条悟との繋がりだった。

 

 

 

 五条家の別荘と、通信教育だけの私の世界。

 義務教育の終わりは、郵送の卒業証書。

 

 わたしの時間が進むのは、いつだって、五条先生がいる時だけ――。

 

 

 

「ゲハハははは――っ、バア――!?」

 

 人様を、サンドバッグにしまくった因果が廻った。

 

 

 

 ――黒い。フラッシュが目を焼いていた。

 

 怒りの鉄拳は顔面にクリーンヒット。

 遥か吹っ飛ぶターボババア。

 

 蛙の舌が外れ、不意に倒れる。

 慌てて、顔を見上げて、

 

 

 

「……よぉ。ずいぶん、苦戦してるようじゃないか」

 

 

 

 バチバチと、悪意を焦がす音がした。

 

 ――初めて、五条先生以外で、私の暴走を止めた人。

 ――初めてで唯一の、クラスメイト。

 

 

 

「……さっきの人らと、虎の式神は?」

 

「旧高専に預けた。式神は救助者防衛を命令されたらしい、向こうで居残りだ」

 

「あの距離、Uターンしてきたの」

 

「あぁ。最高速度だけなら、俺はアイツより上みたいだな」

 

 

 

 ぶっきらぼうな手を取って、立ち上がる。

 決して、最強には程遠い。けれど。

 

 

 

 ――そうか。わたしは、コイツを信じていた。

 だってコイツからは――予感がする。

 

 

 

「しかし、逃げるだけは性に合わん」

 

「完璧に勝つぞ」

「……了解」

「ゲコっ」

 

 

 

 わたしの時間を、前に進めてくれる。

 そんな予感が……!

 





起首雷同モドキなので、少年少女の共闘も書きます。
つまりは、同じように伏黒も……?
そこはお楽しみにお待ち下さい。



【オマケ①・『虎葬』登場秘話】
親友「提案がある」
筆者「聞こうじゃないかブラザー」
親友「虎葬出そうぜ」
筆者「えっ」

親友「ずっと考えてたんだ、虎葬ってなんの能力なのかなって。反射だ、きっとそれで反転術式を強めてたんだ。だってアイツ『顎吐』のパーツ足しかないんだもん。二足歩行だったし、足めっちゃ速い能力とかなんだよきっと」

親友「てことで、『顎吐』から『鵺』と『円鹿』引いたヤツだそうぜ」

筆者「なにその、ケンタウロスの余った部分みたいな」
親友「下半身が蛇で足もついてる。まさしく『蛇足』だ」
筆者「お、おう。やってみようじゃないか」

 結果、三輪ちゃんの理論値ぐらいの性能をした、
 カウンター特化型式神が爆誕したのだった……。



【オマケ②・婪佳久の戦闘スタイルは少年院呪霊】

・呪力を弾として飛ばす
・呪力をバリアみたく球状に広げる

 これは呪術初期での表現をイメージしています。
(漏瑚が「ヒャハッ」とか三下めいた声出してた時期)

 術式『受愚戴転』はあくまでも呪力供給源。
 攻撃方法としてはシンプルに呪力を纏う、呪力を飛ばす、となるのです。

 ただ、乙骨のように変幻自在とはいかず、
 まるで呪力量にコントロールが追い付いていないので、
 スマートな勝ち方はあまり望めません。

 なんとも、泥臭い戦闘能力ですね。
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