【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 42話『羂索じゅじゅさんぽ①』

 

 とある洞窟の奥。人知れず稼働していた研究施設が、ある節目を迎えていた。

 

 

 

「――クククついに完成したぞ! にっくき鍋島家を今度こそ鏖殺せしめる獣が!」

 

「周囲一帯の地域も巻き添えを喰らうが知ったことではない! さぁ我ら龍造寺の力で消し去ってしまえー!」

 

 

 

 閉鎖空間で肥大化した積年の恨みが、ついに術として成立する。

 全身が真っ黒で、目は赤く、尾は二つに分かれた――大虎の如き『化猫』!

 

 その闇の大発明を、一同が手を叩いて賛美する。そんな場に――!

 

 

 

「はいちょっとお邪魔するよー」

 

「邪魔するなら帰って〜。って、誰だ貴様は!? なぜ私たちの秘匿洞窟研究所(ラボ)に侵入できる!?」

 

 

 

 ――パリーン。

 

 結界に穴が穿たれ、女はあまりにも容易く踏み込んでくる。

 

 暖簾に腕押しとでも言うべき気軽さで、幾重にも重なった防衛機構をすり抜けて――!

 

 

 

「しかし鍋島に龍造寺ときたか、懐かしい名前だ。まだあのお家騒動が続いていたとはね」

 

「終わってなどおらぬ! 今や先祖様も研究に合流し、こうして待望の『化猫』第2号が――!」

 

「特級騒乱の時期だったかな。その家、七十年くらい前に、呪術連合の過激派に皆殺しにされて滅んでるよ」

 

「「「「ひょっ?」」」」

 

 

 

 あまりにもさらりと告げられた歴史的事実。

 全員が口をあんぐりと開けるしかなかった。

 

 

 

「ちょっと結界構造拝見するねー?」

 

「おいこらっ、勝手に見るなっ! 我々の研究の結晶を!」

 

「あー、うんうん、なるほど。『肥前国を滅ぼす怪物を出力』するための結界ね……いや地域指定とか馬鹿でしょ。律令なんて今さら機能してないよ」

 

「「「「……えっ!?」」」」

 

 

 

 パリン、パリン、パリン。

 

 いとも容易く結界は破壊されていく。

 

 性能の底が見えた側から、女は『失格』とでも言うように切り捨てていく。

 まるでタマネギの皮を剥くように、この空間の法則そのものを解体していった。

 

 

 

「君ら、結界の要件定義(プログラム)を更新してなかったでしょ。あー、そもそも更新できるほど新しいシステムじゃないのか。はーっ、冗長性のない運用してるからこうなるんだよもー」

 

「ほら見なよ、化猫第2号ちゃん。生まれたはいいけど『どこに出撃すればいいんです?』ってキョトン顔じゃん。明らかに想定より規格ダダ下がりだし、労力もったいな〜」

 

 

 

 あれよあれよという間に、研究所はただの洞窟に戻されていた。

 畳みかけるようなダメ出しを終えた女は、背後を振り返り、笑いかける。

 

 

 

「さてアーサーくん。どうだい? 分かった?」

 

「あんたがパリンパリン壊して端折るせいで理解しきれませんでした」

 

「え~……。しょうがないな、次はゆっくり話すよ」

 

 

 

 無愛想な少年が立っていた。師匠直伝の辛辣ぶり。

 

 さしもの女もわずかにいじけた顔を見せつつ――改めて、ちょっかい相手に向き直る。

 

 

 

「貴様ぁよくも! よくも我が家が400年費やして構築した結界システムをぉ!」

 

「うん。コンコルド効果って知ってるかい君ら。細々やり続けて形にできたのは認めるけど、私なら10年かけないし――今の私なら、天逆鉾(これ)ひとつでご破産にできるよ」

 

「「「「ふざけるなぁぁあ!」」」」

 

 

 

 とにかくその女が、この場を支配していた。

 

 本人にとっては何気ない寄り道。

 だがそれだけで、凡百年の研究など及ぶべくもないのだ。

 

 

 

「ああ、こんなんでもコイツらそれなりに強いから今の君じゃ手こずっちゃうよ。私やっとくから君はあっちね」

 

 

 

 故にこれは、後進育成というやつだ。

 一人で片付く仕事を、あえて少年にも分け与える。

 

 

 

「こいつなら、いい練習台になるはずだよ」

 

 

 

 化猫――特級の実力を目指して設計され、なるべくして失敗した決戦用呪骸の後処理を。

 

 

 

――

―――

 

 

 

「――ォ゛ォ゛ォ゛……ギャァ゛ア゛ァ゛ッ!!」

 

(――師匠(マスター)の嘘つき!? なんですかこれは! フツーに馬鹿強いじゃないですか!)

 

 

 

 言葉通り、アーサーの身体は既に何度も弾き飛ばされていた。

 

 化猫の本懐は巨体だけではなかった。

 踏み込み一つ、爪の一振り一つから飛ばされる、呪力の“余波”!

 

 地面を抉り、空気を裂き、回避したはずが余波だけで体勢を崩される。

 二股に分かれた尾は生き物のようにしなりながら、角度を選ばぬ波状攻撃を鞭のように叩きつけてくる。

 

 

 

(この巨体(フィジカル)と軽快さで、この術式効果。対して私の『進化』は尻上がり、初動を止められなかった時点で圧倒的に不利ぃ――!)

 

「――グル゛ァ゛アアアアっ!!」

 

 

 

 喉の奥で潰れたような咆哮。

 言語ではないが、明確な“敵意”がそこにあった。

 

 赤い双眸がただ一点。アーサーだけを射抜いている。

 

 

 

(――イメージしろ。コイツに打ち勝つイメージ。勝てる進化系統は何だ?)

 

 

 

 これでもかと脅威を叩き付けられようとも――アーサーは真正面から睨み返す。

 

 彼の術式は、ひとたび発動すればノンストップだ。

 コントロールできるうちは多少『進化』の方向性に変更(ハンドル)が利くが、どのみち最初の定義を誤れば、勝つ道は閉ざされる。

 

 暴力に撹拌される思考。

 弾き出された、彼の答えは――!

 

 

 

(違う、ただ術式を使うのでなく! 変えるべきは発動方法!)

 

 

 

 アーサーは術式を解放。

 ただし『進化』の命令を右腕からに指定。

 

 そして全身を覆う結界を作成し、区分けさせ――右腕を分割(きりすてた)

 

 

 

「……んにゃう?」

 

「がっ、あああ!? でも……これならば!」

 

 

 

 化猫も困惑を禁じ得ない、まるでメリットのない行為。

 だがこれでいい、とアーサーは笑う。

 

 切り落とされ、独立した彼の右腕はベキベキと音を立て――卵へ変化し、孵化。

 

 顔を出した二足肉食恐竜は、いの一番に目にしたアーサーを、親だと認識していた!

 

 

 

「ミギーと名付けます! コイツに私は殺されかかっております、さぁ殺しなさいッ!!」

 

 

 

 アーサーは叫び、つい挙動を止めてしまった化猫に挑みかかる。

 

 ただでさえ不利条件なのだ。

 右腕を失い、彼は先程よりも激しい抵抗に身を焼かれる。

 

 だが――ダメージを顧みず、彼は食い下がり特攻し続ける。

 

 

 

「問題ない! 自分自身を『進化』し、脳構造が歪まされる苦しみに比べれば――ッ!」

 

 

 

 アーサーの本懐。それは変化に抗う力、圧倒的な自己!

 

 傷つきながらも絶えず続けられる彼の抵抗。

 そこに命惜しさなどカケラもない。

 文字通り死ぬまで行われるのは見るに明らか!

 

 故に、急速成長していく二足肉食恐竜(ミギー)は、彼を生かすため――化猫の排除へと動いた!

 

 

 

「ぐぅるうううう――ォ゛オ゛オ゛オ゛ッ!」

 

「――ッ!」

 

 

 

 恐竜の形を与えられた、独立稼働する『進化』の術式効果は。

 その全存在を賭け、幾重にも姿を変化させ、化猫に噛みつき喰らいかかる。

 少しでも早く、この化猫を殺せる姿へと!

 

 

 

「ギャァ゛ア゛ッ、ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!」

 

(よし、ミギーの『進化』結果を基に、より最適な『進化』を私自身で行うつもりでしたが。十分、これだけで殺せます……!)

 

 

 

 痛みを耐え抜いた結果、形成が逆転する。

 自分よりも肥大化しきった殺意の塊によって、化猫は狩られる側へと追いやられる。

 

 それでもなお、両者は変わらぬ同じ眼で、互いを睥睨し続けていた。

 

 

 

「分かりますとも。私達の怒りに行き場などない。ただ破壊するだけだ――!」

 

 

 

 生物兵器同士、交錯する視線。

 その片方が、倒れ伏した。

 

 

 

「私が証明します。アナタの分も。命は無意味であるということを――」

 

 

 

 女から『天逆鉾』を受け、アーサーの姿は元に戻る。

 親を守り抜き、勝利に歓喜しようとしたミギーの姿も、嘘のように消えた。

 

 

 

 研究員は、諸共に死亡した。

 ここには、呪骸ですらなくなった大猫の屍が、横たえているのみ――。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「……うーん、55点ってとこかな。前回で学習した内容、特にドヴゥル・ラグダワラの結界運用を活かしたのは評価する。けどまだまだ詰めが甘い。そろそろ恐竜以外の『進化』やってもいいんじゃない?」

 

「冗長性を持たせました」

 

「やかましいわ」

 

「いてっ」

 

 

 

 などと、呑気な反省会を行っている所だった。

 

 

 

「あっ、あのっ。ありがとうございます! おかげで助かりました!」

 

「「……、えっ?」」

 

 

 

 洞窟の奥から、わらわらと一般人が出てきたのは。

 

 どうやら、そこら辺から人を攫って、結界の呪力源(でんち)として使い捨てようとしてたらしい。結界がなくなった今、彼らは拘束から解放された。

 

 研究員が皆殺しにされた現場。勝者と覚しき二人に対し、

 彼らは口々に感謝を述べ、頭を垂れる。

 

 

 

「…… 師匠(マスター)。これどうします?」

 

「そうだね……高専のシェルターになすりつけよう」

 

「結局それですか」

 

「しょーがないじゃん。私だって人助けのつもりなかったんだし」

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

「あーいやいや何でもありませんお気になさらずに。さ、皆さん外へ外へ~」

 

 

 

 などと、流れで一同は洞窟を出ていった。

 伊達に千年も他人の皮を被り生き続けてはいない。

 額に縫い目のついた彼女は、その点についても触れられないよう、ごく自然な流れで被害者一同と応対し――!

 

 

 

「えーみなさん。そこから真っ直ぐと歩いて行ってください。そうしたら見つけてもらえると思うんで。『縛り』を結んだとおり、くれぐれも私のことはご内密に」

 

「「「「無償で助けてくれるなんて……このご恩は忘れません!」」」」

 

 

 

 いや本当、そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。

 という内心を一切悟られる事なく、彼らをシェルターへと無事送り届けた。

 

 

 

「だってさ。お手柄だねぇアーサーくん」

 

「テイよく私がやったことにしないでください」

 

 

 

 彼女はワシャワシャとアーサーの髪を撫で回す。

 白いパーカーのフードに手を突っ込んで。

 

 ――やっぱり、息子そっくりの手触りだ。と実感しながら。

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