【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
羂索ぶらり旅。この世紀末日本でマーケットに出かける――。



第2部 43話『羂索じゅじゅさんぽ②』

 

「あの、師匠(マスター)

 

「なんだいアーサーくん」

 

「毒入ってますよね。この次郎系ってヤツ」

 

 

 

 世紀末日本にポツンと佇むボロ屋台。

 錆びついた鉄骨と、風に軋むトタン屋根。電気の通ってない赤提灯の下、

 

 いかにもロクでもない肉の浮かぶスープと麺を、彼ら二人は仲良く啜る。

 

 

 

「君にはいいスパイスになるんじゃない? 私は反転術式で消してるけど」

 

「はぁ。まあ効きませんが……」

 

「しかし食えたものじゃないねコレ。調味料も具も少なくて大味すぎる。いやインフラも流通も崩壊した以上そうなって当然なんだけど」

 

「そこは第一次も変わらないでしょう」

 

「実際、餓死者出まくってたからね。身体呪力強化で誤魔化せないもんかね、そのぐらい」

 

「涼しい顔で言わないでください。選抜した過去の呪術師ならいざ知らず、巻き込まれただけの一般人には厳しいでしょう」

 

 

 

 屋台の主はとっくにくたばっていた。

 死してなお腕組みポーズなど、いっそ漢立ちと讃えるべきか。

 その血塗られた間抜け面を眺めながら、アーサーとその師匠は平然と無銭飲食を決め込む。

 

 誰も咎める者はいない。この世界では、それが当然だった。

 

 えてして最低限のカロリーを胃に収めた後、

 

 

 

「ご馳走様でした……師匠(マスター)。あのカードを見てもいいですか?」

 

「カードって遊戯王の? いいけど。スリーブは剥がさないでよ?」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 彼らはまったりと腰を落ち着けた。

 

 椅子とは、それ自体が今の日本で貴重だ。

 水道設備なんてもっと貴重だ。食後に歯磨きできるなんて何て豪華な事だろう。

 

 そんな貴重なリラックスのひと時で、

 珍しいアーサーからの要求に、女は目の色を変える。

 

 

 

「興味あるのかい?」

 

「まぁ、そんなところです……他にも色々あるんでしょうけど……今じゃ入手できませんよね」

 

 

 

 彼は、無心でカタログを捲るように、カードの束の絵をひとつひとつ眺めている。

 

 ――見せたことのない表情だ。この子にも、ちゃんと男の子な面があったのか。

 

 と、女はついつい笑みをこぼした。

 

 

 

「えーこんな世紀末現代日本に買える場所なんて……あっ、あるかも」

 

「買ってくれるんですか?」

 

「いいよ、紙幣が通じるならね。『(ポイント)』も持分的に問題ないでしょ。最悪殺してでも奪えばいいさ」

 

「……」

 

 

 

 さらりとした笑顔のまま女は言う。

 アーサーは真顔であった。

 

 

 

「えっ今のジョークだよ。笑わないの?」

 

「あなたなら普通にやるでしょう」

 

「そんな強盗じみたマネ自らやらないよ」

 

「そりゃそうか。鉄砲玉にやらせるでしょうね」

 

 

 

「ともかく、私は賛成だ。柔軟な術式解釈を養う上でもゲームはいい訓練になる。子供の発想力というのも存外バカにならない。時期(プラン)的にも、寄り道できるのは今のうちだ」

 

(ともかくって……)

 

 

 

 アーサーの冷ややかな目。

 軽い調子で流しつつ、女もまた悪戯げとは別の笑みを見せる。

 

 

 

「君が遊びだがるなんて珍しいからね。喜ばしいことだよ」

 

 

 

 ――彼女はアーサーに、この死滅回游が始まる前から衣食住を与え、娯楽も与えてきた。

 

 しかし彼自ら何かを欲しがったのは、これが初めての事だった――。

 

 

 

「善は急げだ。さぁ行こう」

 

 

 

――

―――

 

 

 

「善って……闇市じゃないですか」

 

「今どき市場が成立してる地域はここくらいだよ、高専のシェルターと北陸区画(ブロック)を除けば。『殺して奪う』が上等な世の中だからね」

 

 

 

 かくして彼らは、とある闇市へと出向いていた。

 崩れた建物の隙間を縫うようにして形成された市場は、無数の簡易屋台と照明で無理やり機能している。

 

 女の言う通り、確かにそこでは売り買いの様子が見られる。

 

 ――客は、点や物品で買い。

 店は、売り物には『補給物資』の生活用品や呪具、そして――情報を売る。

 

 

 

「――はぁ!? こんな地元住民でも知ってる情報に300(ポイント)だと!? ぼったくりだろうが!」

 

 

 

 ……みたいに暴れる客も勿論いるが、そんな時は、

 

 

 

「お兄さん面白そうな話してんじゃん俺も混ぜてよ〜」

 

「あぁん!? アッエッハイすいませ……」

 

「やー遠慮すんなよ、お熱く語ってくれてたじゃない。ちょっと裏で聞かせろや」

 

 

 

 と店奥から怖いお兄さんがこんにちは。

 笑顔で客の肩に屈強な腕を回し、連れ去っていく。

 

 そう――用心棒による暴力統治によって、この市場は成立しているのだ。

 

 

 

「ここでは生活必需品だけじゃなく、娯楽・芸術も生きている。だからカードショップも、ホテルやレストランなんかもあるんだよ」

 

 

 

 ホラここ、と女は地図を見せてくる。

 ふむふむ、とアーサーはそれを見やり、この街の構造を理解する。

 

 

 

「この街は発電所と畑を持ってる企業が仕切ってて、用心棒もやっているんだ。金や点のない貧乏人でも、彼らの畑仕事だとかで市場参入できるようになってる」

 

「……ほとんど小国家じゃないですか。自衛団(ジャパニーズヤクザ)には、そんな余裕があるんです?」

 

「ヤクザみたいなビジュアルなのは、こう。『舐められたら負け』の人種は、えてしてこうなるものと思ってくれ」

 

「……なんだか聞いてて調子が狂ってきますね。普通の生活って感じで……」

 

 

 

 ――君にとっては、これが普通の生活に見えるんだね。

 と、少しばかり感じながらも、彼女は素振りに出す事なく――コガネによる点の譲渡を完了させた。

 

 

 

「はいコレお小遣い。私もここに用があるの。別行動を許可するから、楽しんでおいで」

 

「……ありがとうございます。けど、別に私はアナタのモノじゃありません。お忘れなく」

 

「わかっているとも。まかり間違っても、腹を痛めて産んだ子と同列に見ちゃいないさ」

 

 

 

 などと、意味ありげに話す彼女から離れ――アーサーは街道を歩む。

 

 

 

 穏やかな顔のカップル、レストランで談笑する友人、大道芸人にチップを渡して囃立てる人々。

 灯りの下では、かつての平穏と芸術が、疑似的に再現されている。

 

 そのいずれも、両脇に強面スーツのボディーガードが控えているのが見える。笑顔の裏側に、常に暴力が控えていた。

 

 自分のような凶悪なツラをせねばならない人間は数少なく、いずれも目を伏せて歩いているばかりだ。

 

 

 

(なるほど確かに、今の日本では、『身の安全を保証される』事自体が高級なのか――)

 

 

 

 カードショップは、明らかに安い造りだった。

 トタンと木材を継ぎ接ぎした壁は隙間だらけで、外気がそのまま入り込んでくる。

 

 が、やはりこの街の一員なだけはある。ストレージに並ぶ商品の多種多様さは、アーサーの需要に確かに応えていた。

 色褪せたカードから未使用品までが雑多に並びながらも、一定の秩序が保たれている。

 

 彼はカードの並ぶ棚をひとしきり見て周り、

 

 

 

「よし決めた。なんかこれがいい。カッコいいし。店員さん、このデッキを売ってください」

 

 

 

 シナジーなんて度外視で、良いと思ったカードの束を集め、レジに持っていく――が。

 

 

 

「ククク金や(ポイント)なんていらねぇよ」

 

「?」

 

「欲しいのはテメェの命だ――ッ!」

 

「邪魔しないでください。今はただ遊びたいだけなんです」

 

 

 

 そこはやはり死滅回游。

 殺し合いの因果からは逃れられないのであった――。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「――やぁ、レジィスター。前も言っただろうだけど、そのファッションどうかと思うよ」

 

「1000歳のセーラー服も似合わねぇよ」

 

「そりゃ確かに」

 

 

 

 ――額に縫い目のついたやつがいたらここに通せ。

 といった、裏マニュアルが浸透していたのだろう。

 

 外の賑わいが嘘のように静かな一室。

 女は招待を受け、街の中核人物に接触していた。

 

 レジィ・スター――この死滅回游において復活した過去の呪術師の一人と。

 

 

 

「で、最近は調子どうなよ」

 

「見てのとーり、ここの元締めだよ。この街の舵を握ってる。契約事は書面に残さねえと、力技で無かったことにしようとする野蛮人が多いからね。俺がケツ持ちを買って出たのさ」

 

「なるほど、ここでの全ての契約は君を仲介して履行されると。確かにこの条件の君は強力だね。けどもう戦う気はないの?」

 

「ねぇよ。ただでさえ野次馬のつもりで参加して掘り返されて殺された後だぞ? 面白おかしく殺し合うやつを遠巻きに眺めるくらいしかしないさ」

 

 

 

 どんなに豪奢な椅子に座ろうと、結局そのスタイルは変わらないらしい。

 革張りの椅子に沈みながらも、男の全身は紙面で覆われている。これが正装とばかりだ。

 

 ニヒルな笑みの交錯は、策士同士の社交辞令か。

 

 彼は――少しばかり、深い話題に踏み込む。

 

 

 

「それよかそっちの方が気になるぜ。てっきり高専にやられてるもんかと思ってたんだが」

 

「んなわけないでしょ。確かに五条悟再誕(バグ)で2018年のプランは破綻した。でも私としては、再び潜伏し次のプランを持ち出すまでだよ」

 

「次のプランってのは、この死滅回游かい?」

 

「いや? 運営側の泳者(プレイヤー)ではあるけれど、具体的な役職なんてない。私はただ、死滅回游のシステムを貸しただけ。天元結界そのものの制御権を握ってるだけの、しがない野良泳者さ」

 

「で、見返りは? 死滅回游のシステムは、テメェが一千年かけた大機構だろ」

 

「無論タダではないよ。見返りがこれだ」

 

「――『天逆鉾』!? はぁ、ちょっお前それ今すぐに懐に戻せ。冗談になってねぇだろ」

 

 

 

 文字通り横転し、慌てふためく友人の様子を女は愉快げに眺め下ろす。

 

 久しく見れなかった、特級呪具の価値を正しく理解できる人間の反応だ。

 それも彼のものとなれば一際面白い。

 

 

 

「わかってるわかってる。驚かせてすまない。君の術式からして、これは天敵だったね」

 

「まったくだ。殺す前に話に来たのか単なるお喋りかどっちかにしてくれ」

 

「……実際のところ、聞かされた当初は机上の空論に過ぎないプロジェクトでね。ふっかけるだけふっかけてみたのさ。ところが私の死滅回游という前例、私が天元を支配下に置いていること。偶然ながらも条件が満たされ、この第二次が想定以上に早く成立した」

 

「しれっとテメェの掌中になってるのかよ、あの引きこもり。しかし、そうか。この第二次は棚牡丹か――五条悟の排除と、『天逆鉾』の入手――これだけ好条件が揃ったのも」

 

 

 

 ――つい、饒舌になり過ぎただろうか。

 

 顎に手をあて思考する男は、冷静に情報を咀嚼し、飲み込んで。

 そして、笑いをこぼして見せた。

 

 

 

「なるほど。確かにテメェはこの死滅回游に関与してないな――終わった後に何かをしようって、そういう魂胆(プラン)なんだろ?」

 

 

 

 迷いなく女は掌印を結ぼうとする。

 別に露見しても問題はない。今さら理解した所で止められる者などいない。だが、この男に限っては、この情報を持たせて泳がせるのは予後が悪い。

 

 どのみち第一次の基準で考えれば、殺し合いを放棄する泳者など論外だ。切り捨てる事に何ら躊躇いもデメリットもなかった。

 

 

 

 ――が。持ち出された書面を前に、その判断は覆る。

 

 

 

「おいおいやめてくれよ怖いなぁ。ところでここに俺が過去に受けた『虎杖悠仁に会わせてくれ』って依頼契約書があるんだが?」

 

「しかも天逆鉾を持ってるんだろ? こりゃあ少しでもリスクを感じたら使わざるを得ないなぁ〜」

 

 

 

 ――書面がブラフの可能性。

 ――万が一にも本物で、発動した場合のリスク。

 

 問題ない。支配した天元に、空性結界の機能を行使させれば、転移効果など踏み倒せる。

 だが、明らかに天元本人しか発動できない結界術を行使すれば、高専術師に感知され、捕捉されかねない。

 

 故に女は結論づける――殺す方が、手間だ。

 

 

 

「……はーっ、やめやめ。全く君は食えないな〜。やらないよ、君を殺す事にメリットがない」

 

「そうしてくれると助かるよ。俺もこの話はこの場限りにしておく、広めるつもりはない。これは『縛り』だ」

 

 

 

 女は掌印を解き、両手をヒラヒラさせて戦意の無さをアピール。

 片や天逆鉾、片やレシート。

 机の下で銃口を向け合いつつ、

 

 

 

「折角お喋りに来てくれたんだろ? まったりしようぜ」

 

「そうだね……じゃあ弟子の育て方について相談してもいい? 私の話通じる相手が少ないからさぁ」

 

「そりゃお前、話のレベルを合わせる気がないからだろ。どうせスパルタロジハラ指導してんだろ?」

 

「失敬な。これでもかなり丁寧に順序立てて教えてますよ、私にしては」

 

「いやぁロジックの中身じゃなく伝え方の問題と思うぜ、お前の場合は。そんなんじゃついてくる結果(モン)もついてこねぇよ。呪霊みたく使い捨てる前提ならまだしもさ。いいか、都合よく下っ端と接する上で大事なのはな――」

 

 

 

 殺し合いになりかけたのが嘘のような談笑が。

 密室にて交わされていた――。

 

 

 

――

―――

 

 

 

「……これじゃ私が強盗して奪ったみたいですか。まぁそうなのですが…… 師匠(マスター)はまだでしょうか。いつ帰ってくるのやら……」

 

 

 

 ベンチに座ってカードを並べ、アーサーはデッキの回し方を考えていた。

 その元に――さすらいの決闘者(デュエリスト)が現れる。

 

 

 

「よぉ! 興味持ってくれたんだな、オレとデュエルしようぜ!」

 

「……ここで『領域』を使えば騒ぎになります。師匠(マスター)は私の独自行動を許可しました。外でやりましょう」

 

「わかったぜ! カタパルト・タートル! 射出⭐︎」

 

 

 

 空間転移は一瞬だった。

 視界が歪み、足元の感触が切り替わる。

 

 赤帽師の少年の叫びと共に、彼らは街の外、荒野に立っていた。

 

 

 

「えっ――あぁ。転移ですか。意外と結界術も出来たんですね」

 

「そりゃ領域使いだからな。さて、ここなら問題ないよな?」

 

 

 

 荒野には風が吹き抜け、砂塵が低く流れている。

 街の喧騒は完全に遮断されていた。

 

 

 

「ええ――戦いましょう。そのバカげたガジェット、私も使ってみたかったんです」

 

「デュエルディスクか? もちろん好きなヤツを選んでくれよな。漫画版もアニメ版も生得領域のオブジェクトとして完備(フルコンプ)しているぜ。さぁいくZE⭐︎」

 

 

 

 ――自分の使命も死に際も決まっている。

 その決意には揺るぎない。

 

 だから、一度だけでいい。

 この胸に産まれた遊び心を、今だけは――。

 

 

 

「「――決闘(デュエル)ッ!!」」

 

 

 

 宣言した両者を、領域が包み込む。

 空間が閉じ、外界から切り離される。

 

 その生物兵器は、ひとときの夢を見た――。

 





レジィのこと思ってたより好きだったのかもしれん。

てかただ殺したいだけで殺しにかかってくるヤツって何だよ元から呪咀師だろコイツ。絶対カードに興味ないだろ昔に転売ヤーやってそう。レアカードに釣られた一般人殺してそう。
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