【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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幕間②
第2部 45話『251217_管理補佐者定例』


 

 結界内――人目に触れぬ座標に設けられた仮設の会議室。

 

 無機質な空間に、四つの気配だけがある。

 

 家同士の確執はある。にもかかわらず、同じ卓を囲んでいるという事実そのものが、この場の歪さを物語っていた。

 

 最初に口を開いたのは、場違いなほど軽い声音の女だった。

 

 

 

「お帰り〜。いやー見事に言い負かされてたね〜!」

 

 

 

 悪戯げに歪む狐目。白髪をたたえた男装の麗人――五条高長(たかなか)が、椅子の背にだらしなく体重を預けて笑う。

 

 それに、即座に棘のある声が返る。

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

 足を組み、禪院迦具土(かぐつち)は不機嫌を隠そうともしない。

 

 その横で、静かに視線を落としていた男が、低く言葉を挟んだ。

 

 

 

「……素直に残念だな。やはり羂索の弟子の排除はできないか」

 

 

 

 感情を抑えた声音。本来なら啀み合いの絶えない者同士であるが、確かな悔恨を安曇野(あざな)は滲ませた。

 

 そして最後に、場の均衡を取るように口を開く老獪がいる。

 

 

 

「まったくもってだ――しかし悲観する必要はない。依然として、我ら運営と羂索は対等な競争関係にある」

 

 

 

 年長者然とした落ち着き。加茂忠行(ただゆき)は指を組み、卓上で静かに論を整える。

 

 

 

「第二次の運営統括は我ら初代当主以外に務まらない。天元を用いてまで、我々の業務を妨害するメリットは羂索にない――どちらの目的が先に果たされるかが勝負だ。我々は組織力でもってヤツよりも現状を活用し、第一目標(せいか)を収めようではないか」

 

 

 

 理路整然とした言葉に、場の空気がわずかに収束する。

 

 異論はない。

 

 短く頷き合うだけで、結論は共有された。

 

 

 

(――う、うれしい! 久々に会議らしい会議ができている……ッ!)

 

 

 

 内心、加茂忠行(ただゆき)の胸は珍しく、胃痛でなく高揚で満たされる。が、今はそれどころではない。すぐに議論を次へと移らせる。

 

 

 

「さて五条の。高専の連中はどうかね?」

 

「おおかた予定通りでーす。序盤の足止めがガッツリ効いてるね――最初の1ヶ月で特級連中は軒並みフリーズさせたうえ散り散りに転移させた。結果、今だって一般人保護がやっとこさした程度だし」

 

 

 

 五条高長(たかなか)は、その目を開眼させ、コガネの全情報を見て取った。

 そうして整備された資料が、三名にコガネが開くデバッグウィンドウで共有される。

 

 

 

「……うむ、そうでなくば困る。我々とてゲーム成立に大きな代償を支払っている。その程度の『縛り(たしひき)』は成り立たねばな」

 

「それでも想定より対応が早いな、第一次の学び――東京の一斉疎開対応での経験が活かされたと見える」

 

 

 

 加茂、安曇野は合理的に頷いた。

 分析結果は当初の想定通りだ。

 

 呪術高専がいかに奮闘しようと、最初の一ヶ月の足止めによって、既に日本は手遅れとなっているのだから。

 

 

 

「……強いて不安材料を言うなら、禪院真希だけ何とかならない?」

 

 

 

 五条はふと眉を顰め、目線を向ける。

 彼は両手をあげ、肩をすすめた。

 

 

 

「やれたらとっくにやれとるわ、保留でええ。あの女は今、通信のロクにつかん中で伝書鳩やってんねや。戦闘は極力避けて、逃げるが勝ちの立ち回りしとる。やらしい女よなぁ」

 

 

 

 ふんぞり返った禪院は、一応負けて逃げ帰ってきた立場など忘れたかのように鼻で笑う。

 

 

 

「だからこそ、あらゆる通信施設を、我々が手ずから一斉破壊する必要があったのだ。今回は結界(コロニー)による電波阻害が効かないからな」

 

 

 

 現代人でも無いくせに、安曇野は平然と最適解を吐き捨てた。

 実際、妥当な扱いであると五条は頷く。

 

 

 

「まぁそうだよね。ウチらの所在がバレない限りは問題ない。移動時は空性結界を利用した転移を徹底し、監督泳者(エリアマネージャー)とはコガネを介した最低限の連絡のみ行う。物理的な痕跡は避けること。わかってるよね迦具土(かぐつち)くん?」

 

「へいへい。香水に靴ぅ変えて外出しとるやん五月蝿いなぁ」

 

「ホント発見されたら命取りだからね? 会議内容をリークされたらたまったもんじゃない。くれぐれも監視カメラとトラップは点検を怠らないように――まさかこんな形で現代機器に詳しくなるなんてなぁ」

 

 

 

 軽口で締めながらも、言っている内容は徹底したリスク管理。

 

 えてして議題は次へと移る。

 

 

 

「あとは、安曇野禍福かな。あいつ速すぎるでしょ。コイツだけはフツーに京都に着いちゃうよ。糾くん、もっと監督泳者(エリアマネージャー)差し向けて来んない?」

 

 

 

 名指しされた安曇野が、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出す。

 

 

 

「やっておるやっておる! けどもこれがだな、どいつも正面から倒されるんだなこれが! ガッハハ天晴れよ我が祖先!」

 

 

 

 豪快な笑い声が空間に響く。

 それに対する反応は、見事に揃っていた。

 

 

 

(((また始まったよ祖先自慢が……)))

 

 

 

 誰も口にこそ出さないものの、空気がすべてを物語っていた。

 

 

 

「なぁ。現代に祖先おる家だとこうなってまうのか?」

 

「こればっかりはワシも同じリアクションだった気がするし何も言えん」

 

「てか、お前は先祖自慢せんのかい。五条のボン」

 

「ちょっ禪院の。何故そういらない口を挟む!」

 

 

 

 一番まずい矛先に話題が振られ、加茂は声を荒げた。が、件の五条は存外、軽く聞き流す。

 

 

 

「ノーコメント……糾、ウチらの立場上、敵なのは忘れないでよね?」

 

「おう分かっているともさ。なに、天逆鉾は羂索めが奪ったんだ。一歩間違えれば死ぬ程度の男なぞ軽く捻ってくれよう――少なくとも、あの忌まわしい女だけでもな」

 

 

 

 声音に、露骨な敵意が滲む。

 その手に収まった魔刀は、鞘の中で刻一刻と抜かれる瞬間を待っている。

 

 ――流れを断ち切るように、禪院が足を組み直した。

 

 

 

「なんでもええ。羂索に負けるのだけは認められん――けど、忘れんじゃないぞ」

 

 

 

 低く、しかしはっきりとした声音。

 

 場の全員が視線を向ける。

 特に、『六眼』を持つ五条高長(たかなか)は注視した――彼が術式を使う場合を警戒して。

 

 

 

「ウチらは仲良しこよしのために黄泉がえったんやない。羂索に勝ったとして、その後は俺たち同士で手柄を奪い合う。別の生存競争が始まるだけや」

 

 

 

 言われるまでもない、とばかりの殺意が視線で交換されていた。

 

 それは同意でもあり、警告でもあった。

 

 四人は敵であり、同時に、今だけは同じ陣営に立つ。

 

 

 

「生者か死者なんて関係あらへん。彼岸の境界を壊された列島上(このくに)で、勝利の盃を得られるのは一人だけ――せいぜい、背中を気ぃ付け合おうや」

 

 

 

 その危うい均衡の上で、

 第二次・死滅回游の儀式運営は、続いていく――。




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