【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 47話『旧総監部VS新総監部』

 

「ようこそお客人、この加茂憲泰(のりやす)恐竜絶滅展示館(ぶたい)へ」

 

 

 

 ネバーランドの舞台裏(ジャングル)が開かれた。

 その奥から現れたのは、黒い背広に同色のハットを被った男だった。

 

 大仰なスポットライトが集合し、人物像は浮かび上がる。

 

 口元には薄い笑みを浮かべているが、瞳は一切笑っていない。

 ギンギンと冷たく輝く眼光が、こちらを射抜くように見据えてくる。

 加茂家二十三代目当主であり、戦後を生き抜いた呪術師。

 この空性結界の制御者にして、第二次・死滅回游の運営役の一人。

 

 その登場を、原住民達(ロストキッズ)は拍手と平伏で迎え――夏油(かおる)・灰原結・パンダの三者は目を剥いた。

 

 

 

「いくつか補足させてもらおう。まず彼ら『観測者』が子供なのは見かけだけだ。私がそのように空性結界で演出させているだけね」

 

「……えっ」

 

 

 

 夏油勲は絶句し、未だ咽び泣き歓喜する子供たちを見やる。

 さっきまで遊んでいたコイツらは――本来、大人だというのだ。

 

 見た目が子供になっているだけで。

 成人していて、オッサンやオバさんも混じっているのだと。

 

 

 

「私と彼らは『他者間の縛り』で結ばれている。彼らは自分で選んだのさ。外で殺し合うより、ここで生きることを。私の鏖殺計画から唯一逃れられる『観客席』を独占しようとね」

 

「しかし席には限りがある。大人の都合で日増しに減らざるを得ないんだ。椅子取りゲームをさせるつもりはないので、私がクジひいて指名して追放しているんだよ。世知辛いよねぇ〜」

 

 

 

 ――『旅立ちの儀』という、残酷な間引きを、憲泰はまるで世間話のように語る。

 その声音は柔らかく口の端は上がったまま、しかし楽しげでもない目で。

 

 何をしたいのかは分からないが――。

 

 

 

「なるほど、つまりお前、黒幕だな! ここの皆がピーターパンとロストボーイになったのも、乙骨憂太の孤立も、お前の仕業っつーわけか!」

 

「うん、ピーターパン? 知らないよ、私はディズニーも英語も大嫌いだ。役を演じて自己防衛してたんじゃないかなぁ?」

 

 

 

 夏油勲はコイツが敵だと理解した。

 同時、困惑混じりに首肯する様子から、嘘をついていない事が分かった。

 

 ――言われてみれば、ネバーランドの外が恐竜の跋扈するジャングルなんて噛み合っていない。

 子供のみが暮らせる地域になっているのは意図しての結界設定だろうが――ここがネバーランドなのは、現地住民の意思!

 

 

 

「お前ら、本気なのか!? コイツが強いのはわかる。だが飼い殺され、一存で切り捨てられて、それでもいいのかよ!?」

 

 

 

 勲が叫ぶ。原住民達(ロストキッズ)のリーダー、ピーターパンに詰め寄り、真意を問いただす。

 

 ――真の盟主の手前、従者たちは笑顔も拍手も崩すわけにいかない――だが。

 

 夏油勲の指摘は、あまりにも的確に彼らを刺激しすぎた。

 

 

 

「――いいわけないだろ! けど他にどうしろっていうんだ、外で死ねって言うのか!? 僕らは弱いんだ。次の日にいられなくなるかもしれないとしても、このままでいたい。そう思うことの何が悪いッ!」

 

「……ッ!」

 

 

 

 胸倉を握り、押し返して、ピーターパンは叫んだ。

 決定的な関係亀裂の瞬間だった。

 

 夏油勲だけでなく、灰原結も言葉に詰まる。

 虚飾を取り払った結果、者の現実が剥き出しにされた。

 

 その態度を――相変わらず楽しむでも見下すでもない目で――加茂憲泰は首肯する。

 

 

 

「――そうだとも。さぁ楽園を荒らす者にはお立ち去り願おう! と言いたいところだが……皆すまない、実のところ私が呼んだのさ。儀式を進めるには、どうしても外の時間を持ち込む必要があってね。まっぶっちゃけ弱ければ誰だって良かったんだけど」

 

「「マジでいい加減にしろよ、お前!」」

 

 

 

 弾かれたように二人は走り出す。

 もはやこれ以上の語りなど不要だ。どう言われようと、何一つとして許容できない。

 あの軽快な口ぶりを一秒でも早く黙らせねば。

 

 

 

「おお怖い怖い。警備員さ〜ん、治安維持に務めたまえ!」

 

 

 

 対して、男は相変わらず目だけは笑わないまま、嘲笑と共に指を鳴らした。次の瞬間、

 

 

 

「了解だ、ボス――『神風(バードストライク)』」

 

 

 

 ――黒い暴風が、夏油勲を飲み込んだ。

 

 

 

「勲くん!? くそっ妨害できない、なんなのこの威力――!?」

 

「なんだこの質と数の暴力は! 対応しきれな――!」

 

 

 

 夏油勲は、手持ちの呪霊を盾に。

 灰原結は、呪力強化され呪力の大きさに応じて伸びる(しきがみ)で。

 

 数を持ち出す彼らを――漆黒の特攻隊の(かりょく)が叩き潰し。

 

 ――夏油勲の背後を、術者本体が突く。

 

 

 

「冥冥!? 裏切ってたのか――おい待て気絶させるな、コイツは『器』なんだ!」 

 

「――なに?」

 

 

 

 パンダの叫びが、辛うじて夏油勲の一命を取り留めた。

 

 振るわれた大斧は刃を使わず、峰打ちで。

 首を狙わず、左足を叩き壊すに留まる。

 

 

 

「いっ、ぁ、あああっ!」

 

「勲くん!? テメェよくも……!」

 

「――パンダくん、本当かな。その発言は冗談だとしても笑えないよ」

 

 

 

 倒れ伏す夏油勲、駆け寄った灰原は長髪を逆立たせる。

 

 しかし意に返さず、斧を足元に突き立てて――編み込まれた長い白髪を揺らし、黒装束の女は雄麗に弱者達を見下ろした。

 

 

 

「ジョークで済んでたらよかったんだけどな。マジだよ、高専生でもないのにオレが付けられてるんだぞ。離反してて情報伝わってなかったのか?」

 

「……わかった。私も仕事を増やされるのは不本意だ。このくらいにしておくよ」

 

(――高専バッチはついたままだな。こりゃどう見るべきか――)

 

 

 

 しかし流石はパンダ。状況に囚われず淡々と情報を告げる。

 

 冥冥は、その内容を事実と受け取り――。

 

 

 

「それはそうと。君については特に問題ないね?」

 

「くっ――『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』、出力最大!」

 

 

 

 灰原結に矛先が向いた。

 吹き通る黒い旋風。

 

 対して、『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』が食い下がる。

 

 烏が本体に直撃する前に、無数の(しきがみ)が接触し身代わりになる。

 欠損しようと問題ない。元より呪力量に応じ伸びる(しきがみ)だ。

 

 なおかつ『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』は自動迎撃(フルオートカウンター)が本懐の術式――あらゆる角度で狙われようと、全方位で防衛線は張られ続ける。

 

 

 

 ――しかし。

 

 

 

(火力不足だ! 『神風(バードストライク)』は呪力出力が高すぎる、攻勢防御しきれない――!)

 

 

 

 押し切られるのは時間の問題だった。

 とても冥冥との実力差を埋めるには足りない。本体が攻撃してこないのは『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』を削り足りていないから。 

 

 否、たとえ冥冥一人を凌げたとしても――。

 

 

 

「――ふん。流石にこの程度か、小娘」

 

(こっちには全く歯が立たない! 術式なしの殴りでこれかよ!?)

 

 

 

 加茂憲泰に太刀打ちできない。

 彼はスーツに汚れひとつ作らず、灰原結の髪を掻き分け、格闘の所作に巻き込んで引き千切る。

 

 関節に巻きつく強化ワイヤーなど、本来ならばある程度の格上にとっても厄介極まるギミックだが――その程度で埋めようのない実力差が両者にあった。

 

 

 

「まったく、最近の教師は何をやっているのかね。術式で自己強化できるから基礎がおざなりになっている。こんなよくある初歩的な勘違いを正せないなど……」

 

「ボス、彼女は高専生ではないよ」

 

「あっそうなの。一般人あがり? なんだやるじゃないか」

 

「ぐっ――!?」

 

 

 

 評価によらず苛烈に打ち込まれ続ける一方的暴力。

 だが――格闘能力だけなら張り合える、と夏油勲は分析した。

 

 

 

(足が折られたからなんだ! オレの体にかかればこのくらい――!)

 

 

 

 傷の治りの速さ。両腕が焼き消されても五体満足に戻れる、呪力と関係ない修復能力を発揮し、立ちあがろうとする。

 

 ――『点』を呪力に変換すれば少なくとも格闘戦は成立する――その目論見は。

 

 ピーターパンたちに、妨害された。

 

 

 

「みんな攻撃しろ! 傷口を広げるんだ! コイツに何もさせるな!」

 

「なっ、どけ! 邪魔すん――ぃっ、ああ!?」

 

 

 

 子供たちが覆いかぶさり、武器ですらない木片が足に突き刺さる。

 個々人の戦闘能力は雑魚同然、しかし今の勲を立ち上がらせないことには十分かつ的確な処理だった。

 

 

 

(呪霊を使うべきか!? いや今の状態じゃ手加減して押し除けるなんて出来ない、誰かしら死ぬ――見ているしかできないのか!?)

 

「パンダさん! なんとか止められませんか!?」

 

「無理だ! とてもじゃないが戦えねえ、簡単に殺される!」

 

「そんな――!」

 

「……すまん」

 

「――ッ……!」

 

 

 

 八方塞がりだった。今、呪霊を持ち出す強硬策を取れば確実に死人が出る。

 弱者を助けることが指針である夏油勲に、それはできない。

 だがこのままでは、唯一の仲間を失うことは明らか!

 

 

 

(オレは、動けないのか――『こんなヤツら』に邪魔されるだけで――!?)

 

 

 

 勲が再び顔を上げた時、すでに灰原結は立てる状態でなくなっていた。

 血の気が失せ、呪力がほぼ無くなり、稼働しなくなった『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』――ただの髪を掴み上げて、加茂憲泰は半死半生の女の顔色を覗き込む。

 

 

 

「わからないなぁ、なぜ君のような弱者が楽園を拒絶した? 君も『力には抗えないと思っている側』の人間だろう。なぜ諦めない?」

 

「私にはわかるんだよ、帝都における特級騒乱を思えば――戦乱に散った特級術師たちに比べれば、私など下から数えた方が早い――夢を拒絶した以上、せいぜい現実を噛み締めていきたまえ」

 

 

 

 灰原結が振り落とされる。

 頭から落下し、垂れ下がった長い手足が力なく投げ出された。

 そして加茂憲泰は踵を返し、歩き出す。

 

 その背に、パンダは叫んだ。

 

 

 

「おい待てェ失礼すんじゃねェ! 俺はお前を知ってるぞ! オマエは戦後初の特級術師、旧総監部のリーダーじゃねえか! かつての楽巌寺の上司サマが何でこんなことしてやがる!?」

 

「ああ、夜蛾の子か。聞いていたより小ぶりだな。いいとも、答えよう」

 

 

 

 顔だけ振り返り、吐き捨てる。

 

 

 

「――人生が終わらなかったからだ。日本が滅んでいたからだ!」

 

「第一次と違い、非術師全員が呪術持った以上もはやどうしようもない。しかも積み上げた物がなくなっている! 私が羂索に殺された後、私の機関を君たちは乗っ取ったそうだな。呪術高専――否、新総監部たちよ!」

 

 

 

 

 初めて、余裕の笑みでなく明瞭な侮蔑が顔を出していた。

 望まず蘇ったととれる発言は、なるほど一般的な泳者であれば当然の主張だ。

 

 だが、彼はその立場ではない。

 

 

 

「その日本を壊した側の運営が今のお前だろーが。なに逆恨み言ってんだ」

 

「あぁ逆恨みだとも、それが何か? 現代術師は情けない、守りたいと願った民は今や呪術で暴れまわっている。もはや私もやりたいようにやってよかろう」

 

「あーあ保守派の老害がタダの老害になっちまったか――のわぁあなんだこのプテラノドンは――っ!?」

 

 

 

 やれやれと煽っていたパンダは、「あーれー」とジャングルから飛来した翼竜にかっ攫われる。

 

 

 

「何とでも言え。異論があれば、実力でもって私を黙らせるがよい――冥冥、もう少し殺さぬ程度に痛めつけておけよ!」

 

 

 

 ネバーランドの舞台裏(ジャングル)が、音を立てて閉じだした。

 その奥へと立ち去っていく彼を、夏油勲を下敷きに原住民達(ロストキッズ)たちは拍手喝采で送り迎えつつ、

 

 

 

「さぁっ、今度こそ『旅立ちの儀』だ! さぁっ行っておいで! おめでとう、おめでとう!」

 

「えっあっいや私は……」

 

「おらっ有難いだろうが行くんだよっ!」

 

「ひぃいっ! あっありがとう皆行ってきます!」

 

 

 

 

 忠実な従者たちは主人への捧げものを欠かさない。

 ジャングルの奥地へと仲間を送り出し、もとい蹴り出した。

 

 そうして舞台は閉じ切り、ネバーランドは本来の姿を取り戻す。

 

 

 

「だそうだ。しかし虎杖くんほどでもない『宿儺の器』なんて刺激したくないし――ひとまず、君を痛めつけるとしよう」

 

「……」

 

「灰原さ――!」

 

 

 

 烏一羽の特攻と、振り下ろされる大斧の一撃。

 だが――嘘のように何も起きなかった。

 

 

 

「あーあ。こりゃまた随分と派手にやっちまってまぁ、勘弁してくれよ」

 

「……君か」

 

 

 

 割り込んだのは、ただの一刀。

 それだけで冥冥の攻撃が止んだ。

 そこに立っていたのは、一人の男。

 

 立ち込める血飛沫と残穢を、革靴が踏み分けて――トレンチコートが浮かび上がる。

 

 

 

「なんでこーもファンシーなとこに、こんなショボくれたオッサンが呼ばねぇとなのよ」

 

 

 

 シン陰流・師範。

 元一級最強。

 新東京校学長にして新総監部の盟主。

 

 ――日下部篤哉の、登場だった――。

 





圧倒的絶望下で現れるのはこの男~!
呪術の優しさ代表、日下部篤也!

次回! 日下部VS冥冥をお楽しみに!
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