【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 50話『夏油勲の大義』

 

 ――夏油勲は、眼前のピーターパンを殺そうと駆け出す。

 

 先にラインを超えたのは相手の方だ。こちらが守るべき道理などない。

 思考を埋めた怒りと、殺害可能な格下であるという確信のもと、即座に行動が実行される。

 

 その間際――途端に、思い返す言葉があった。

 

 

 

『――力は! 強いからこそ容易に間違う!』

 

 

 

 過去に吐いた、自分自身の言葉が。

 噛み締められた奥歯の間を伝い、反芻されていた。

 

 

 

『力さえあれば、こんな間違いさえまかり通ると思い違ってしまうんだ――オレが、こういうことを終わらせねば!』

 

 

 

 違和感は、赤一色の思考に漏れ出し、急速に広がる。

 定められた鋳型からはみ出して、走馬灯のように。

 

 ――それは夏油勲の自我だった。

 彼だけの固有する記憶が、彼が築いた関係が。言葉たちが――そして何より。

 

 

(そうだ、オレは――弱者を踏み躙りたくて力を得たんじゃない――!)

 

 

 

 日下部篤哉の言葉が、

 彼に渦巻く殺意と、正面衝突したのだ。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 夏油勲の脳内は、()()()()()()()に支配されていた。

 

 

 

『――もうあの人ひとりでよくないですか?』

 

 

 

 見覚えのない金髪の青年がそう言っている。

 

 ――オレも、乙骨憂太に同じことを思った。

 灰原結を治し、過去に夏油傑を倒し、宿儺という爆弾すら解決できるという存在。

 この状況は初めから、自分一人で解決できる問題ではない。いっそ全て委ねることもできるだろう。

 

 だが、ここにいるのは自分だけだ。少なくとも今この瞬間は、自身で選択せねばならない。

 

 

 

 全てを振り切って、殺すか。

 或いは、弱者を庇護するか――。

 

 

 

『――どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するんだよ』

 

 

 

 見たことのない金髪の女が、そう理性的に諭してくる。

 極めて明確な二択だ。焦燥の只中にある心が、容易に飛びつきたくなる。

 

 けどオレには――。

 

 

 

『――はーっ待て待て。なんでそーどいつも極端から極端に走りたがるかなぁ、うちは』

 

 

 

 あの、どっちつかずな大人がくれた言葉があった。

 同じ仲間として尊重するのでなく、ただの子供に向けられた言葉が。

 

 

 

『そのくらいのズルなら見逃されるだろ、なにが『ちょっと』かさえ忘れなきゃーいいのよ』

 

『お前はそれでいい、好きに暴れていい。俺も責任取るからよ(三割くらいは)』

 

 

 

 彼は、気にしないでいいと言ってくれた。

 囚われるべき責務など、自分にはないのだと。

 

 

 

『正真正銘の子供なんだろ。なら頼むからガキはガキらしくしといてくれや』

 

 

 

 そうやって、ほどほどに分かってくれた大人がいて、そして、

 

 

 

『……、分かった――貴方の夢に、賭けてみる』

 

 

 

 こんな自分に、命を賭けてくれた仲間がいたから――。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「――殺さない! 殺さないけどムカつくからテメェらは殴るぞ喰らえぇッ!!」

 

「ぐぼぉああっ!?」

 

 

 

 疾走する勢いそのままに、ピーターパンの顔面に拳がめり込んだ。

 ただし、呪力強化なしで。

 

 

 

「そうだよな、お前ら弱いんだし被害者だし、仕方ねーよな! 尚更ムカつくなぁええオイ!」

 

 

 

 殴り倒す、蹴り飛ばす。

 共感を口にしつつも浴びせられる怒りが、一方通行で全員を巻き込んで、次から次へとしばき倒す。

 

 ――夏油勲は優れた格闘能力を持つ。

 ほぼ戦闘経験のない、子供の体をした元一般人たちなど相手にならない。

 

 

 

「だからいいか! これは報復でも制裁でもない! ただ俺がスッキリしたいがための、一方的な暴力だッ!!」

 

 

 

 しかし、決して殺意はなかった。

 彼は思い出したのだ。

 

 ムカついたら殴る、好きなやつは守る。それだけでいいじゃないか。

 なにも――全員まとめて殺すか殺さないか、なんて考えなくてもいいじゃないか!

 

 

 

「そうさ! 答えなんて出さなくていいんだ。答えの出る問題じゃないからこそマラソンゲームなんだ! であるならば――オレは『中道』を行く! 答えがないまま突っ走る! それこそが、オレの大義(ロード)だぁっ!!」

 

 

 

 若き躍動が、留まることなく暴れ回る。

 天真爛漫な、憑き物の落ちたような子供の笑顔は。

 その気が済むまで暴れ散らかして――遊び疲れたように、その場で大の字になって寝そべった。

 

 

 

「ふーっ、スッキリしたぁ〜……」

 

 

 

 対して、一網打尽された住民一同は。

 久方ぶりの痛みを受け、一周回って冷静になり――顔にそぐわない、大人びた顔立ちになっていた。

 

 

 

「あーそっか、そうだよな……こんなのガキの八つ当たりじゃん。こんなガキにこんな負荷かけてたなんて。本当にダメなんだな俺ら。死ぬしかないんだな……」

 

「……ピーターパン、さすがにさっきのは言い過ぎだよ……いや思ってはいたけどさ……」

 

「やられてもしょうがないことしてたよね……」

 

「あぁ。ボクたちは、自分の罪を飲み込もう……」

 

 

 

 彼らは抵抗できなかったし、する気もなかったのだ。

 彼らはクズであっても、自覚のあるクズだった。

 

 心のどこかで、いつかこうなるかもしれないと理解していた。

 

 意味があるかは分からないが、妖精たちに告げ口した罪悪感があった。

 互いに互いを蹴落とし合い、絶対強者に守られる優越感を得てきた。

 疑心暗鬼を笑顔で誤魔化して、押し込めてきた。

 

 ――ついに、自分の番がやってきたのだ。

 そう思って、終わりを受け入れていた。

 

 

 

 そんな倒れ伏したピーターパンたちに、ズカズカと夏油勲は歩み寄った。

 

 

 

「あーすまんすまん、いくらクズでもやりすぎたよな……ほらっ、食えよ」

 

「……へ?」

 

 

 

 すっ、と100%の善意で、差し出されたモノにピーターパンは驚愕する。

 彼の手に収まっていたのは、呪霊の塊――簡易的な『浴』だった。

 抽出された体液は高密度の呪力の塊だ。

 

 ――この第二次・死滅回游において、呪力が尽きれば術式剥奪により死を迎える。これを食わせることは、その回避に繋がる!

 

 

 

「あっ、そうか。殴りすぎて顎開けねぇか。じゃっ、ねじこんでやるよ! はいあーん」

 

「いやちょっ罪を呑むってそういう意味じゃ――んぎゃぎゃぎゃ!?」

 

「「「「ひぃっ! なななな何やってんだオマエぇっ!?」」」」

 

「オイ逃げるな食え! 食えなきゃ死んじまうだろーがオレの呪霊が食えねぇってのか、アァッ!?」

 

 

 

 そこからは、生き地獄だった。

 現地住民(ロストキッズ)の口に、片っ端から突っ込まれる呪霊玉。

 既に負傷していた彼らが逃れる術などなく。

 例外なく、呵責なく。彼の温情がブチこまれた。

 

 

 

「「「「ぎゃあああゲロ雑巾の味がずるぅうう……がくり」」」」

 

「えーそうかぁ? そんなことないだろう――うめえええ! これが罪の味ってヤツなのか〜ッ!?」

 

 

 

 否、夏油勲だけ味覚が狂っているのである。

 

 かくして、住民達は完全制圧された。

 もれなく、泡を吹いて倒れる格好で。

 

 

 

「――かっ、(カオル)くん!? どうしたの、これ!?」

 

「邪魔だったんで全員気絶させときました! 灰原さんはこの檻の中です、治療お願いします!」

 

「わっ、分かった!」

 

 

 

 彼らを跨いで、到着した乙骨は檻に駆け寄った。

 

 ――数分後。

 

 

 

「――かなり酷い傷だったけど、命に別状はなかった。あとは自然と目を覚ますと思う」

 

「じゃあ呪霊玉(コレ)食わせたら、すぐ起きますかね!?」

 

「いや『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』が反応すると思うからやめてね?」

 

「えーっ攻撃のつもりはないんですけど!」

 

(ないんだ……なさそうだな……)

 

 

 

 思わず乙骨は苦笑しつつ、

 灰原結の体を牢から出し、住居のベットに横にさせる。

 

 傷は治して、血を拭いた。呼吸も安定している。

 現状、それ以上はできない。

 

 

 

「煮え切らない事しか言えなくてごめん。反転術式のアウトプット――他人の治療はかなり呪力を使うんだ。僕はこれ以上、消耗するわけにいかない」

 

「いえ、そんな事は! オレたちで黒幕をぶっ倒せばいいだけの話です! おかげで仲間が助かりました、ありがとうございます!」

 

 

 

 勲も納得し、晴れやかな笑みで返答する。

 今は時間がない。彼女の復帰を待つより、加茂憲泰(のりやす)の打倒が優先なのだ。

 

 

 

「……僕の方こそ。ありがとう、(カオル)くん――どちらも選ばないでくれて」

 

「えぇっ!? なんで乙骨さんが頭下げて……!?」

 

 

 

 乙骨は、そんな彼に礼をした。

 出逢った当初こそ青ざめていた乙骨の顔には、今は安堵の色が濃かった。

 

 

 

「君は、どちらを選んでもよかった。だけど、選ばないことを選べたんだ――だから君は、夏油傑にならない」

 

 

 

 ――ここまでの道中。乙骨には、いくつもの救えない命があった。積み重なる責務があった。

 夏油勲との出会いも、重責のひとつとして受け取り、緊迫したものだが――実際は違った。

 

 

 

「――君の中の宿儺は、僕が倒す」

 

 

 

 数少ない、希望を見た。

 夏油勲の可能性を、また一人信じた者が生まれたのだ。

 

 

 

「……はいっ! いようし、そうくれば! 力を合わせて、加茂憲泰を打ち倒しましょうぜ!」

 

「勿論。僕らで倒そう、絶対に……!」

 

 

 

 誓いと共に、確かな絆が結ばれた。

 

 そうして、意気揚々とジャングルに出ていく二人は。

 この後――『恐竜の王』と相まみえるなど、知るよしもなかった――。

 





これもう日下部篤哉編なのでは?

叩き台が誤って投稿された件、誠に申し訳ありませんでした。
どうかご放念ください思い出すだけで死にたくなるので……。
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