アイリスの唄   作:NONE(ノー・ネーム)

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1話

『時の牢獄』事件後、○○はセレーナと過ごす事が多くなっていた。

 

任務完了後には端末で彼女の声を聞き、任務の無い待機期間中はセレーナの家に自然と足が向いた。

 

「……」

○○は頭を抱えた。元より○○は黄金時代の恋愛主人公のような鈍感な人物ではなく、相手の好意に対して気づかないフリをしている訳でもない。

 

ただ、軍人である以上、いつ殉職するかもわからない。

 

もちろん死ぬつもりはない。ないが、時に現実と理想は違うものだ。

 

志し半ばで命を落とす可能性は無いとは限らない。

 

だから……○○は常に一線を引いた上での付き合いを心掛けていた。

 

それは彼女……アイリス……いや、セレーナに対しても同じ……だった筈だ。

しかしそんな理性に反して頭はセレーナの事ばかり考える。

 

最近は特に酷かった。

 

「……指揮官」

 

金髪の青年は心底呆れたようにため息を一つ吐くと、○○を咎めるように呼びかけた。

 

「……ごめん」

 

「気が抜けている自覚があるのなら良かったです。ですが、いつまでもこんな状態では貴方自身は勿論の事、僕達レイヴン隊にも危険が及びます」

 

「……」

 

白髪の少女……リーフは○○の左手の治療をしながら心配そうに○○をみる。

 

「応急処置は出来ました。ただ、傷口がかなり深いので、しばらく左手を動かさないようにして下さいね」

 

「ああ……ありがとう」

 

「僕はルシアと反対側を偵察します。指揮官を襲った暴走体以外にもまだ居るかもしれません。リーフ、指揮官をお願いします」

 

「わかりました。リーさん、お気をつけて」

 

頷くと足早に廃墟の方へ向かっていくリーを見送る。

 

完全に背中が見えなくなったの頃、リーフは口を開いた。

 

「指揮官、口調はキツイかもしれませんが、リーさんは指揮官の事が心配なんです」

 

「大丈夫、わかってるよ」

 

三人で、ずっと一緒に戦ってきたのだ。

 

今更態度一つで変わる関係性ではないし、そもそも〇〇自身、リーの言葉にある優しさを実感している。

 

指揮官として情けない限りだが、リーはレイヴン隊で最も頭も状況判断能力が高い。

 

今〇〇がある悩みを抱えている事等、リーは最初から気づいていただろうに、今まで文句ひとつ言わずに待っていてくれたのだ。

 

今だって既に廃墟側はリーフのセンサーによる偵察が済んでいるにも拘らず、再度偵察を申し出た。自分より話し易いであろうリーフを場に残して。

 

「あの、指揮官の悩みって……セレーナさんに関係ありますか?」

 

「……どうして」

「『時の牢獄』事件後からですから。指揮官に迷いが出始めたのは」

 

「……ファウンス……士官学校ではさ、面接の時こんな質問があるんだ『――家族か、任務。どちらかしか優先出来ないのであれば、お前はどちらを選ぶ?』って」

 

〇〇は当時、当然のように任務だと答えた。

 

家族と呼べるものはおらず、身一つであった為、躊躇う要素も無かった。

 

もちろんその問いに家族と答えるものは面接段階で落とされる。

 

当然だ。それは――任務を放棄してでも家族を助けに行く。と言っているようなものなのだから。

 

時代が時代なら銃殺刑もあり得る軍紀違反だ。

 

〇〇は今、その言葉に回答を出せずにいた。

 

これを自分に置き換えたら――そう。セレーナがまた危険な目にあっていて、しかして自分はグレイレイヴンの指揮官として任務に就いている。

 

――俺は、彼女を見捨てて、任務を継続できるのだろうか?それとも任務を放棄して彼女を助けに行くのだろうか?大切な……家族とも入れるレイヴン隊の仲間を置き去りにして。

 

「俺は、彼女を切り捨てられるのだろうか?あんな……あんな残酷な世界を生き抜いて戻ってきてくれた彼女を……」

 

「指揮官……」

 

共感の涙を零すリーフに微笑みかけて頭をなでる。

 

答えはまた――出なかった。

 

「指揮官。ルシアーーただいま戻りました」

 

森林区画の偵察を終えた黒髪の少女――ルシアは心配そうに指揮官を見た。

 

「おかえり……聞かれてたか」

 

「はい――すいません」

 

「いや、良いんだ」

 

「指揮官」

 

「うん?」

 

「もしセレーナさんの身に何かあれば、指揮官は行ってください」

 

迷いのない紅蓮の瞳。ルシアは拳を握ると、引っ張った指揮官の右手に合わせた。

 

「大丈夫です、私達レイヴン隊が指揮官の居ない間は持たせてみせます。指揮官も指揮官の大切な人も、絶対に死なせたりしません」

 

笑みを浮かべるルシアに〇〇もまた自然と笑みを浮かべた。

 

ルシアの答えは根本的な解決にはなっていない。〇〇が想定するのはもっと――最悪の状況だからだ。

 

けれど、それでも……ルシアはその状況下でも同じ事を言うのだろう。大切な者の元へと向かえ、と。

 

「――ああ」

 

答えを出した。〇〇は――軍人だ。特別な感情を持つべきではない存在だ。

今まで一線を引いた上での付き合いを心掛けていたのだ。それを改めて、セレーナにも引き直そう――。

 

「指揮官」

 

「リー?」

 

暗い決意を固めようとした瞬間、突然頭上からリーが降ってきて、呼び止めた。

 

「僕に二週間……いえ一週間、時間をくれませんか?あなたの問題を解決できるかもしれません」

 

「あ、ああ」

 

突然の状況に空返事で頷く。

 

リーはルシアとリーフを連れ、離れた場所で何かを話し始め、〇〇は全員に悩みを聞かれた事に対する羞恥で今更ながら空を仰いだ。

 

 

 

 

 




本作品はセレーナ推しが八割、パニグレもっと流行れが二割の気持ちで構成されています。

パニグレやセレーナについて知らない人は見たら興味が湧くかも?な公式様のリンク

流離のレガート
https://youtu.be/Ol5qTLxKroE?si=6rx5DiPOlnBGYgsH

フォーサイト ドリーム 中点
https://youtu.be/ebM00Q7XRfw?si=xgzRUdg9O_eRukQf

フォーサイト ドリーム ストーリーPV
https://youtu.be/fGZDeiVisJ4?si=rVUCq5ESWx_y_dL7

長明の霽月
https://youtu.be/G-s8NTaIhkQ?si=AUzeO60cFVhN5rX1
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