今日、ミレニアムに転校する 作:ミレニアムの小説増えろ
自分が覚えている中で、最も古い喧嘩の記憶は幼稚園の頃だった。
理由は何だったか覚えていない。たぶん同じおもちゃの取り合いとか小さな口喧嘩とか……そんな些細なことだったと思う。
むしゃくしゃした感情を何事もないように受け流す……なんて大人な対応もまだ知らず、感情のままに殴ってやろうと手を振り上げた。
そしてそのまま殴りかかろうとして……けれども幼いながらにそれがいけないことだと理解していた僕は、本気で力を籠めることをしなかった。
それがどうしていけないのかは今になっても説明できない。
本気で殴れば相手を怪我させるかもしれない、泣かせてしまうかもしれない、やり返されるかもしれない……殴る直前、多分色々な考えが僕の頭を巡ったと思う。
色々あったと思うけど、とにかく当時の僕には幼さから、倫理的な問題はうやむやなまま、損得で相手を殴るのはまずいかもしれないという恐れが確かにあった。
それゆえに顔を避け、手を振るようにして、痛くないようにとボスっと相手の身体に当てる……。
感情から振り上げた拳を理性を持って振り下ろした。
心臓がものすごいうなりを上げて、緊張から一歩も動けず、窺うように相手を観察する。
不安でいっぱいで、怖くてたまらなくて、心がきゅうきゅうと悲鳴を上げたのを覚えている。
それが――僕にとって、人生で初めての「敵意」を持って行った、”暴力”だった。
◆
さめざめと雨が続いた日、僕は母校から逃げ出した。
両手いっぱいに荷物を持って、呼び止める人なんていないのに、隠れるように電車の中へと滑り込む。
窓の外には
僕は感傷に浸ることもせずそれを眺めていた。
当然だ。だってあそこは、僕の母校であると同時に全く知らない場所なんだから。
知らない街に知らない学校。頭に浮かぶ青い輪っかと小さな羽を生やした異性の身体。
そして――ごく自然に持ち歩いている一丁の銃。
およそ大人と呼べる存在はおらず、いたとしてもロボットや喋る犬ばかり。
町中を歩く”生徒”たちは皆当たり前のように武装し、当たり前のようにその力を振るう。
可笑しな夢だとほっぺを引っ張ていたのはもう一か月以上も前のことだ。
何が起こっているのか今だってまともに把握しきれていない。わかるのは、知らない身体で知らない世界に”生徒として”放り出されたということだけ。
一体何をすればこんな酷いことが起こるのだろうか?学校にも行かず、親に迷惑をかけて引きこもっていたのが悪だったのか。その罰で今ここに居るのだとしたらなんとも笑えない話だが、もしそうだとしたら、こんな世界に捨てられたのも納得がいく。
早々に学校から逃げ出して引きこもった僕が、学校によって統治された歪な世界に送られるんだ。神様の趣味もなかなかに悪い。
その上、失敗から学ばず”また”僕は逃げようとしている。きっと神様だって呆れているだろう。
けど、この世界ではどんなに逃げようとも生徒である以上、学校からは逃げられない。哀れにも退学が決まった生徒に待っているのは、帰る当てもなく放浪する日々。この世界において学校から見捨てられるというのは戸籍を失うようなもの。あの日縋るように逃げ込んだ僕の部屋も、もうここにはないのだ。
不安を隠すように一枚の書類を取り出す。
――転校手続きの書類。
僕はそれを穴があくほどじっくり見直し、記入漏れがないことを確認してから鞄に仕舞う。
そう、僕は転校するのだ。
今度こそ逃げずにしっかりと生徒になるために。
電車が止まり、無機質な扉が静かに開く。
竦みそうになる足を正して、引きずるように一歩を踏み出した。
目に映るのは伝統を重んじるトリニティとは正反対の超高層ビルがそびえ立つスマートシティ。
僕は今日、ミレニアムサイエンススクールの生徒になった。
◆
学校って聞くと、やっぱり学業のことが頭に浮かぶ。勉強こそが学生の本分だ、なんて言葉は前世で嫌なほど聞いた言葉だ。そして学業、と来たらやはり次は部活だろう。品正方向、文武両道、あと学業学業学業学業……うーん嫌な言葉だ。意味が重複してるのも含めて聞く度にげんなりしていたのを思い出す。
まあかつての僕は結局どれもまともにできなかったが、今は部活だ。
というのも僕には友達がいない。あまり考えていなかったが僕は転校生だ。もはや周りの人間関係はグループ化され、部外者の僕がこっそり入っていくスキマなんてありはしない。
転校イベントでありがちな、物珍しさからくる最初の会話を緊張で台無しにしてからというもの、すっかりボッチだ。
経験上、この手のコミュニケーションは初動でコケると復帰は難しい。
最初のチャンスを無駄にしたような僕が、既に出来上がってるグループに”ねえねえなにしてるのー?”と入っていく勇気なんてもちろんない。
そこで考えたのが部活動だ。
部活……というとまるで僕には縁もゆかりもないことのように聞こえるが、これでも中学までは真面目に学校へ行っていたし、部活にだって入っていた。
……放課後のたまり場としか機能してなかった漫研だけど。
……。
とにかく部活ならば、会話デッキが天気の話しかない僕でも、その部活に関することで話を広げることが出来るし、2年、3年と他学年の生徒もいることから混じりやすい。
先輩後輩の立場を利用した”先輩ちょっとこれ聞いてもいいですか”作戦も使えるしね。教わるという立場上、自分から話題を広げる必要性もないので初心者にも使いやすいのがポイントだ。
というわけで僕はさっそく良さそうな部活を探した。
セミナー、ヴェリタス、エンジニア部……うん、まあ僕には無理だ。
こういうのはあれだ、新しい事をしてみたい!みたいなマインドで行くと、専門用語の暴力で思考を壊され、最後には”え?そんなことも知らないの?なにしにここ来たの?”という顔をされて心を殺される。吹奏楽部でもうやった。枕にヘドバンして、羞恥心を消そうとしたことまで鮮明に思い出せる。
大体この手の部活に入るのは、誰かに教えてもらう前から自分で興味を持って行動するような奴なんだ。ほら、クラスに一人は居た、異様にコンピューターやら電子機器に詳しいやつ、ああいうのだ。
かといって、銃一つまともに扱えない僕にC&Cなんて武闘派部活に入れるわけないし……特別な技能もないのに科学バンザイなミレニアムに来たのは失敗だったかもしれない。
でも、やっぱりこんなアメリカも真っ青な銃社会で、ある程度の安全が担保されているというだけでもミレニアムに来た価値はあるはずだ。
友達がいないことなんて、日々の安全に比べれば大したことじゃない。部活動は諦めて、何とか別で友達を作れば良い。
そうだ、銃なんて恐ろしい。いくらヘイローがあるからと言って、あんなものを遊び感覚で人に向けるゲヘナや、あの陰湿なトリニティに比べれば何倍もマシだ。
――そう、マシなはずなのだ。安全な……はずなのだ。
だから、遠くの方で聞こえる爆音は花火か何かで、ビルにも並ぶ高さまで伸びた爆炎はホログラムに違いない。
そんな意味のない現実逃避を笑うように、生暖かい空気が髪を揺らす。小さく見える車が宙を舞っていた。
その光景を、傍を歩いていたミレニアムの生徒が、特に驚いた様子もなく友達と指をさして話していた。
◆◆◆
そうそう女性の身体になった衝撃が大きくて忘れていたが、僕の身体は相当に小さいらしい。
花壇の下に潜り込んでそれを実感する。
背中をぴとっと花壇にくっつけて、ちょっと膝を丸めれば、花壇に植えられた草木が身体をすっぽりと隠してくれる。机の下に隠れてるみたいで、避難訓練を思い出す。
草木が日傘代わりに日差しを防いでくれて、心地の良い涼しさだ。
小学生の頃グリーンカーテンなんてものを教えてもらったが、この世界に来てその効果をここまで感じることになるとは思ってなかった。
やることもなく、花壇の下からこっそり外を見る。
友達と談笑しながらゆっくりと歩く者、焦ったように小走りの者。
足首までしか見えないけど、その歩き方だけでもいろいろある。
ああ、あの子なんて、とてとて……なんて効果音が付きそうなちっちゃな足だ。地面に付きそうなほどの長い髪が、僕からもよく見える。
そのまま目を逸らそうとして、違和感に気付いた。
ちっちゃな足が、こちらを向いている。
なんだろう、急に立ち止まって……。
また何処かで起きた爆発を見るために足を止めたのだろうか、まあそうだとしても、とっくに足は震えて動けそうにない。
不思議に思うも、何ができるわけもなく、ただ僕はぼへーっと眺めていた。
「……?……!」
ガサリと草が揺れ……そして、
「え――。ひゃあ!?!?」
思わず情けない声を上げる僕を無視して、そのまま猫でも拾うみたいに軽々しく持ち上げられる。
突然日の下に晒され、固まった僕を見て……その少女はパァっと顔を輝かせた。
「これは……レアイベントですね!」
最近ブルアカ始めました。
良いですよね、ブルーアーカイブ。特にゲーム開発部は最高です、ロリだし。
ママもいるし、ゲヘナやトリニティと違って他の部活メンバーもみんな仲良しでほっこりする。
エデン条約編が面白いのも分かるけど、もっとミレニアム中心の二次増えないかなぁと思って書きました。