今日、ミレニアムに転校する 作:ミレニアムの小説増えろ
レアイベント……そう言ってキラキラした目で僕を捕まえた少女――アリスというらしい――に、僕はできる限り目を合わせないようにして下ろしてもらった。
なんだか分からないが、こうも期待の籠った目で見られても僕は何もできない。
そうやってコミュ障特有の”あ……”とか”えっと”とか言いながら告白する直前のようにもじもじしていると、元気いっぱいのアリスちゃんは自慢気に、”アリスはチュートリアルの後ろもしっかり確認します!隠しアイテムは見逃しません!”と胸を張って答えた。
なるほどゲーム脳だ。あった、あった。僕も一時期、棒ゲームに倣って何かしら壁や石材を見ると、あれからは石何個とれる、あの車からは鉄何個……と何かとゲームに絡めて見ていた。
だが残念かなアリスちゃん。僕は中盤にならないと無限購入できないタイプの回復アイテムでも、お茶目な開発者が残した隠し実績でもない。
ましてや終盤まで使えるような、明らかにおかしな性能をした隠しパーツでもない、キヴォトス科ボッチ属の元引きこもりだ。今は緊張から足と口が動かない。
ちょこっと残った勇気を振り絞ってアリスちゃんを見れば、にこーっとしたまま僕が何か言うのを待っていた。
「ぁ……えと、沢渡ルカです」
「はい!ルカですね!」
「……」
「……?」
居た堪れなさから言葉を発するも、自己紹介でターンエンド。一度会話が軌道に乗ればそこそこ話せるが、そもそも会話というのは最初の話題を見つけるところが一番難しい。
なんとか言葉を続かせようとして、目を右へ左へきょろきょろ動かす。
その間もアリスちゃんは変わらず、僕をじーっと見つめ続けていた。
それがまるで喉元にナイフを突きつけられているようで、僕は思わず口を動かす。
「と、友達ってどうやって作りますか……?」
挙動不審、ここに極まれり。ターンエンド、ライフはゼロだ。
……恥ずかしさを隠すように、頭の中でふざけたようなこと考えるようになったのはいつからだったろうか。
恥ずかしいと思ってませんよー!普段からこういうふざけたキャラで売ってるんですー!平常運転なんですー!と心の中の誰かに言い訳をして、なんとか平静を保とうとしている。
でもやっぱりダメだ、顔が熱い。変な人だと思われた。
さっきよりも何倍も勇気を出してチラっと相手を見る。
「なるほど……仲間集めなら酒場が一番です!」
「パ、パーティは4人までかな……」
「魔法使いと僧侶は必須です!」
良かったゲーム脳だ。
◆◆◆
「ルカは部活に入りたいのですか?」
「いやッチガ……本質的には部活に入りたいんじゃなくて部活に入ったことで得られる友達が……つ、つまり目的は部活に入ることじゃなくてその先で、部活は手段の1つでしかないというか……」
「わあ……!凄い早口です!」
「へ、へへへ……」
純粋無垢な笑顔に殺されかけながらもなんとか踏み止まる。今死ねって言われたら死ぬよ、僕。
クソっどうしていつもこうなるんだ。頭で考えた文章を言葉にしようとすると、言い切ることに注力しすぎて一息に話してしまう。
し、死にたい。逃げ出したい……それで全部なかった事にしたい……。
アリスちゃんだって、ちょっとこの人気持ち悪いし、早めに話を切り上げよ~とか後悔し始めた頃だろう。現にためらいもなく僕の手を握って……え?
な、なん――アッ手柔らか、あったかい……。
「パンパカパーン!ルカが仲間になりました!……これで一つ目のクエストは達成です!」
「ク、クエストって、どういう……アッすべすべする」
「アリスはこれまで色々なMMOで数多のおつかい*1をこなしてきました。大きなクエストも初めは地道なおつかいからです。任せてください!さあ次はどんなクエストですか!」
僕がレアイベントって話まだ続いてたんだ……。
けど、僕のクエストを進めたって特別な報酬もないし、特殊イベントも発生しないよ。せいぜい僕の好感度が上がるくらい。めんどくさい上、しょぼい報酬……これがゲームなら大炎上だ。
でも、とりあえず……。
「て、てぇ……放してください」
◆◆◆
放熱するように真っ赤になった顔をパタパタ扇ぐ。
ようやく一人になれたこともあって、ちょっと気を緩めた。
結局、あの後アリスちゃんは頼まれていた用事を思い出したそうで、何処かへと行ってしまった。
それが、いわゆるフレに呼ばれたから抜けますね^^*2、という僕から離れたいが為に付いた嘘でないことを願うばかりだが、恐らくその線は薄いだろう。
去り際に明日アリス達の部活に来てください!(曖昧)みたいなことを言っていたし、わざわざ距離を置きたい相手にそんな事言わないはずだ。
にしても恥ずかしいが大渋滞の一日だった。ただ話すだけでどうしてこんなになるんだ。
女の子と手を繋ぐ行為が恥ずかしいのか、あんなちっちゃい子にドキドキさせられた事実が恥ずかしいのか……こんな年にもなって友達が出来た事を喜ぶ自分の幼稚さに恥ずかしさを感じているのか……。
人と関わらない期間が長すぎたモンスターぼっちの僕にはもう分からない。
ああでも待て、早まるな。
友達ってそういうのじゃないだろ。
いわゆる友達になりましょって言葉は、それを言ってから友達になるんじゃない、元からある程度仲のいい二人が、お互いの関係を明確にする、言わば、私達もう友達だよね、という再確認で使われるのだ。
決して、言った傍から友達が増える魔法の言葉じゃない。
まあ、あんな突発的な事ばかり言うアリスちゃんの事だから、半ば本気なのかもしれないけど、これはどちらかと言うと僕自身の問題だ。
部活に誘われた事も、正直ちょっぴり嬉しいけど、とてもじゃないが行けない。
考えても見てほしい。
僕「こんにちは!入部希望です!」
部員「えっうわ。ノックもせずに一体だれ?」
アリス「アリスが呼びました!」
部員「あ、あ〜。ごめんね、今はちょっとメンバー募集もしてないというか……ほら、アリスちゃんもあんまり知らない人連れてきちゃダメでしょ」
アリス「う〜すみませんルカ、バイバイです!」
死にたくなるな。こんなこと言われた日には泣くじゃ済まないかもしれない。
うん、やっぱりアリスちゃんには悪いけど、明日は寮に引きこもることにしよう。
いつの間に震えのなくなった足で寮へと向かう。
もうさっきの爆発はなかった事のように静かで、へこんだ道路や爆破跡を清掃ロボットが直していた。
きっと、この誘いを無視すれば、ミレニアムで何か部活に入るということは無くなるだろう。
失敗を恐れて、自分の世界へと閉じこもるのだ。その未来を想像して、僕の心は少しだけ
何も進展しない、何も変わらない。けれど、何も
たぶん、ここが分岐点なのだろう。
新しく始める事を極度に恐れ、何にも挑戦せずに引きこもっていた
確かに失敗はなかっただろうけど、あの日の僕は常に薄く粘ついた不安に怯えていた。何とも言えない焦燥感が、お前はもう手遅れなんだとしきりに囁いてきたのを覚えている。そして僕はお決まりの言葉を言うのだ、”ああそうか、手遅れか、だったらもうしょうがない”
ごくりと唾を飲み込んだ。
背中を垂れる汗に、嫌に意識を持っていかれる。
いや、唐突なんかではない……常に頭の中にあったそれを隅へ隅へと追いやっていたのだ。
チャンスがあると、かえって見て見ぬ振りしたくなるのが僕なんだ。それがどうして今になって一丁前に悩んでいるのか。不意にミレニアムに来た日のことを思い出す。
駅のホームから決意をもって踏み出した足は、今じゃガクガクだ。
「少し、扉の前まで……アリスちゃんに挨拶するだけだから……」
結局僕は、何度も自分の中の嫌な予測を立てては壊して、誰に向けたわけでもない言い訳をこねくり回して……その末にゲーム開発部に行こうと決意した。
決め手となった理由が、とても人には言えないような最低なものだったのが、何とも僕らしかった。
パヴァーヌ一章では、C&Cと戦うと言われた時に、ノータイムで「部活は守りたいけど、ミドリやユズ、アリスの方が圧倒的に大事! いくらなんでも危険すぎる!」と言って拒否しようとしたモモイが好きです。
モモイ、お姉ちゃんになってくれ。