とある巨大な海に面した連合国の盟主国で開催されている御前試合。
多くの騎士が集まるその試合で勝ち残った2人による最強をかけた戦い。
王道の騎士というべき鎧姿の男によるレイピアの刺突が襲い、ボウガンを手にしたオレンジのマフラーをつけた薄手のコート姿の男が後ろへのバク転を披露して回避しつつ、ボウガンで射撃をする。
最強と呼ぶにふさわしい二人の戦いを国民たちは楽しみ、玉座に座る王は満足げに眺める。
一方、その隣にいる王の妹の視線は常にボウガンを持つ騎士に向けられていた。
攻防がしばらく続く中、ついにボウガンの騎士がレイピアの騎士めがけて突撃する。
心臓を狙う刺突を紙一重の差でよけ、懐に飛び込んでゼロ距離からボウガンを撃てる状態にする。
あとは引き金を引くだけで終わる状態。
あおむけに転倒し、両脚で自らの身体を挟むようにして立つボウガンの騎士が向けるボウガン。
既にレイピアは手から離れており、敗北を覚悟した騎士は目を閉じる。
だが、ボウガンの騎士はボウガンをしまうと、ニッと笑って右手を彼に差し出した。
「見事なり!彼の者こそがポセンドン連合最強の騎士にふさわしきもの、今こそ、ナイトの称号とともに王家による海の祝福を授かるとき」
御前試合の勝者たる騎士は玉座に座る王とその妹の前にひざまずき、妹が王から受け取った剣を手にする。
刃には青い光が宿り、受章者たる騎士の肩を剣の平らな面で軽く触れ、光が彼の身体に宿る。
そして、自らの首にかけていた首飾りを騎士の首にかける。
祝福を受け取り、顔を上げた騎士は彼女に向けてひそかにウインクをする。
儀式のときは表情を見せないように心がける彼女だが、そんな彼の顔を見て、静かに笑った。
ハートランドシティ。
最先端技術が集結し、オボットによる清掃活動によって清潔感を維持しているこの町は3年前、世界の命運をかけた戦いの舞台となっていた。
1つはDr.フェイカーと彼を操るバリアン七皇の一人であるベクターによるスフィア・フィールド砲を利用したアストラル世界攻撃を阻止するための戦い。
もう1つはバリアン世界による侵攻。
これらの戦いは年端もいかぬ少年少女たちの手によって阻止され、それから3年は大規模な混乱はなく、それらの出来事は彼らの記憶からも消え去りつつあった。
『父ちゃん、母ちゃん、元気にしてるか?俺は今、ハートランド学園の高等部に通ってる。みんな、元気にしてる。話したいことがいっぱんあるから、早く帰ってきてくれよ。待ってるからな』
変わらぬ部屋の中で、遊馬は最新のDパッドを使って遠くにいる両親にメッセージを送る。
3年前の戦いの後、長らく行方不明となっていた遊馬の両親は無事にハートランドシティへ帰ってきた。
だが、やはり冒険家としての血には逆らえないのか、頻繁に妻ともども探検に出ることが多い。
違いがあるとすれば、時折メッセージやテレビ通話でやり取りができ、遊馬は明里に寂しい思いをさせることがないということだろう。
「遊馬ーーーー!!何してんの!小鳥ちゃん、待ってるわよーーーー!!」
「うわぁ!わかってるよ、姉ちゃん!今支度してっから!!」
大急ぎで準備をしていた荷物を持って1階へ駆け下り、居間にいる家族に挨拶をした後で飛び出していく。
「まったく、あのバカ…」
ため息をつく明里とテレビを見ながらお茶を楽しむ春。
ただ、すぐに明里は優しい笑顔を見せ、そのまま仕事部屋へと戻っていく。
「まったく、これについては先を越されちゃうなんて…」
二人はこれからデートをすることになっている。
1年前、中東部卒業の日に小鳥が勇気を振り絞って遊馬に告白し、それでようやく小鳥の思いに気づいた遊馬が受け入れたことで、晴れて恋人同士になった。
相変わらず、遊馬の無謀な挑戦やバカな行動に対して呆れたり突っ込んだりすることが多いが、少しだけ違うとしたら、小鳥が遊馬に頑張ってスキンシップをするなど、徐々にだが大胆になっているところだろう。
きっとそれは、彼らがよく知るカップルの影響も大きいかもしれない。
オボミも今はハートランドでオービタルと夫婦となり、子供のオボットとともにカイトの手伝いをする日々。
そう考えると、3年間変わらず在宅記者をしている自分に何かを感じてしまう。
(このままでいいのかしら?私…)
確かに、長らく在宅記者として数多くの記事を書いてきたことで、そこそこの評価は得ており、収入に関しても困ってはいない。
ただ、ほんの少しだけしこりのようなものを最近は覚えるようになったのだが。
「よし…!これで《ホープ》のオーバーレイユニットはない。《ガスタの魔剣士ユウ》で《ホープ》を攻撃!」
「くそっ…!オーバーレイユニットのない《ホープ》は…攻撃対象になった時破壊される!」
「じゃあ、そのままダイレクトアタックだ!ウィンディ・ストラッシュ!!」
自爆して消滅する《No.39希望皇ホープ》を突っ切った《No.00ガスタの魔剣士ユウ》の2本の魔剣が遊馬を襲い、それを受けた遊馬が地面を転げまわった。
遊馬
LP2000→0
「くっそーーー!負けたーーー!!」
「やっぱり、強い…侑斗さん」
「やったね、ユウ!」
デュエルが終わり、ARビジョンが解除される中で侑斗の勝利を喜ぶウィンダが彼に抱き着き、倒れる遊馬のそばに小鳥が歩いてくる。
「でも、危なかったよ。遊馬君、ますます強くなってる。もしかしたら、本当にデュエルチャンピオンになれちゃうかもよ」
「そういってくれるのはうれしいけどよぉ、コテンパンにされちゃあ…」
3年前の戦いから、何度か遊馬と侑斗はデュエルをしているが、いまだに遊馬は侑斗に負けることが多い。
トータルでは124戦32勝92敗。
ただ、アストラルと出会ってばかりでデュエル初心者であった時の負けこみがその中には入っており、戦いを終えてからのデュエルだけで考えると勝ち越しとはいかないものの、それでも勝率が上がっている。
「ありがとう、侑斗さん。ウィンダ。遊馬に付き合ってくれて。2人とも、受験勉強もあるのに…」
「息抜きも大事だからね、受験勉強は自分なりにちゃんとやってるから、心配しないで」
ハートランド学園は高等部まではあるが、大学については別で運営されているものがあり、そこについては受験が必要になる。
侑斗の第一志望は一馬のいる大学であり、彼の下で歴史や異世界について学ぶつもりでいる。
そこで精霊としての力も役立てることができるかもしれないという思いがあり、居間も勉強をしていて、それはウィンダも同じだ。
高校3年生となると、誰もが未来の自分の道を探し、そこへ向かう準備をしている。
そのため、かつてのように仲間たちと一緒にいる時間も少なくなってしまった。
「けど…心配だな」
「心配?」
「蓮のこと、昨日会ったけど、ちょっと浮かない顔をしてたから」
「あー、くっそ、なんでこんなの書かないといけねーんだよ…」
今田に真っ白なプリントを手に、島のカード屋のカフェで天井を見つめる蓮。
プリントには進路についての記載があり、受験先や就職先についてを書くようにという指示がある。
提出期限があと3日で、数週間の猶予が与えられている中ですでに多くの生徒が提出を完了している。
「進路なぁ…」
3年前の戦いのときはそんなことを考える余裕はなく、戦いが終わり平和になってからはそんなことを考えずに日々を過ごしてきた。
侑斗たち幼馴染や3年前にできた仲間たちとのデュエルや璃緒とのデート。
そんな日々がずっと続くかのように感覚がマヒし、そして唐突にホームルーム中に配られたプリント。
「わかんねえなぁ…」
「何がわからないの、蓮」
いつの間に店に入ってきた璃緒が蓮の隣に座り、メニューを開くが蓮は驚く様子がなく、天井を見るだけ。
「進路だよ、進路。まったく思いつかなくてよー」
「ああ…そういえば、その時期よね。今って。島さん、ブルーハワイのかき氷をお願いします」
「はいよー、ほら、蓮君もこいつをサービスするから、クールダウンしな」
注文を受けた島が厨房へ向かう前に、蓮に小さいソフトクリームを出す。
せっかくのサービスのため、蓮はプリントから目を離してソフトクリームを口にする。
コーンではなく皿にのせ、トッピングもないシンプルなものだが、ほのかな甘みと冷たさに安心感を覚えた。
「すげえよ、侑斗たちは。もうこんなプリント出す前に進路をとっくに決めてたって感じでよ」
侑斗は一馬のいる大学で研究をし、竜司は地元の機械技術関係の企業でデュエルに関する新しい技術開発にかかわるために専門学校へ行くことを決めている。
瑠那も最近新たな産業として注目され始めたデュエルスクールの講師になるための勉強を始めている。
一緒に同じ時を過ごしていると思っている間に、いつの間に置いていかれていたという思いを抱かざるを得ない。
「凌牙だって、プロリーグから声かかってるんだろ?お前は、何か考えてるのかよ?ま、あと1年あるけどよ」
しっかりしている璃緒なら、もうどこか決めてるんじゃないか。
そんな予想をしながら、視線を水を飲んでいる璃緒に向ける。
飲み終えてコップを机に置いた璃緒は一息おいた後で口を開く。
「なんにも。よく考えると、私…ずっと凌牙の後を追いかけてばかりだったから…」
3年前にとある記事がきっかけで起こった凌牙とのデュエルでも、彼からデッキ構築について何度もアドバイスを求めるなど、凌牙に依存するところがあることを指摘された。
人生においても、前世も含めて人生の基盤には必ず凌牙がいて、それゆえに前世は我が身を犠牲に《No.73激瀧神アビス・スプラッシュ》を浄化させ、3年前の戦いでも凌牙とともに一度はバリアンについた。
あの時は蓮の犠牲や侑斗がヌメロン・コードを破壊したことですべては解決したが、今もかつての判断に対する罪の意識はある。
「ま…お前は大丈夫だろ。俺やあいつと違って、まじめだからな」
「そんなこと言わないで、ちゃんと進路を決めなさい。私のナイト様」
「ナイトって…どれだけ昔の話してんだよ」
苦笑する蓮の脳裏によみがえる前世の記憶。
ポセイドン連合国最強の騎士を決める御前試合で見事に栄冠を勝ち取った蓮の前世であるホークは璃緒の前世であるメラグからナイトの称号とともに海の祝福を授かることになった。
なお、この御前試合には人間だった頃のドルベも参加している。
今考えてみると、璃緒がトーマスとのデュエルで意識不明となっている間、夢の中で蓮と交流することができたのはその祝福を受けた影響が蓮が転生するにあたって影響した可能性もあるかもしれない。
「そのナイトが、結局は必要な場所にいなくて、結局守れず死なせてしまった…」
ドン・サウザンドの計略によって守るべき民に殺されたナイト。
そして、そのあとでベクター軍によって操られた《No.73激瀧神アビス・スプラッシュ》を浄化するため、自ら犠牲となった王の妹。
バリアンと人間、その2つに転生をして再び巡り合うことができたことは喜ばしいが、同時に傷も思い出してしまう。
「悪かったな、璃緒」
「そんなこと…でも、正直に言うと…私が死ぬあの時に、あなたがいなくてよかった…確かに、悲しかったけれど…」
生き延びた兵によって持ち帰られた首飾りを見て、ホークの死を知った時は身が引き裂かれるほどの深い悲しみを覚えた。
そして、自らが犠牲となるときに思い浮かべたのは死後の世界でホークと結ばれることだった。
「でも、過去は過去。今は今よ…そうでしょう?蓮」
「…だな、璃緒」
アストラル世界に存在するエリファスの宮殿。
そこではアストラルと凌牙、そしてエリファスが会合を行っていた。
「終わったぞ、エリファス。悪かったな、俺の世界の民がまた騒ぎを起こした」
「いや、助かった。神代凌牙…いや、この世界に残された唯一のバリアン、ナッシュ…どちらで呼ぶべきか?」
「好きにしろ。どちらも俺であることには変わらない」
アストラル世界とバリアン世界が融合し、バリアン世界にいた人々はすべてアストラル世界の住民となったが、バリアンの住民としての記憶があるとともに、世界規模で考えると加害者と被害者が同じ場所で暮らしているようなもの。
アストラル世界の人々の中にはバリアンによる攻撃で傷ついた人々が数多く存在し、3年経過した今もトラブルが絶えない。
その調停として、凌牙やアストラルたちがアストラル世界で走り回っている。
「だが…こうしてかつてのバリアンの住民たちを見て分かったこともある。ドン・サウザンドによる記憶の改ざんを受けたのは七皇だけではないということだ」
「ああ…かつてのポセイドン連合の兵士だった奴らの話を聞いた。全員、とは言わないが…それに、蓮の存在もある。七皇の候補となる奴らもいただろう」
凌牙をはじめとしたかつての七皇はすべて、ドン・サウザンドが自らを復活させるための生贄となる存在だった。
だが、ピンポイントで彼ら7人が選ばれたわけではなく、蓮のように候補として選ばれた者も存在する。
その中から特に力がある者、強烈な恨みや無念を背負った者たちが選抜され、七皇となる。
実際、調査の中でオーバーハンドレッドナンバーズの素材と呼べるカードがいくつも見つかっている。
「一刻も早く素材の回収を急ぐぞ。ドン・サウザンドのようなものの手に渡ってはならない」