趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第十話 油断大敵ですぞ!

 

 

 昨日したばっかりの姉さんとの約束を破らない為に、一度家に帰った上で僕は「友達の家に遊びに行く」と嘘を吐いて街に繰り出した。

 ちなみに、一応学校に友達はいることはいる。ただ精神年齢との兼ね合いもあり、話題を合わせるのが大変だが。

 

 

 嘘を吐いてまで外出をした目的は一つ。新しい『お人形さん』の選定である。しばらく(・・・・)は今ある『お人形さん』を愛でるだけに留めるつもりだったが、どうしても一度点いた火を消すことはできなかった。

 

 

 もちろん今保有している二体の『お人形さん』は虐め――じゃなくて、大切に遊んでいくつもりだよ? だけど、何事にも新鮮な刺激は必要だからね。

 

 

 そんな考えの下、僕は街をぶらぶらしていた。しかし、ただ意味もなく散策している訳ではない。

 携帯で情報収集し、魔法少女が活動している現地に赴くのだ。生で彼女達を観察して、僕の『お人形さん』に相応しいかの視察である。

 見事にお眼鏡にかなったら、日を改めて襲撃計画を立てる。その予定だったのだが――。

 

 

(――うん。やっぱり誰かに尾行されているな?)

 

 

 少し離れた場所から物陰に隠れて、僕の後をつけ回す不審な気配が一つ。ただの人間であれば、たとえ成人男性であったとしても魔女に変身すれば僕でも容易に対処が可能だ。

 何なら『お人形さん』で再起不能にもできる。

 

 

 ただしこれが魔法少女や魔女であった場合、話がややこしくなる。相手がどっちであったとしても、僕の正体が世間にバレてしまう恐れがある。

 そうなると、僕の趣味活動に大きな影響が出てしまう。非常によろしくない。

 

 

(……それに姉さんや今世の両親に迷惑をかけちゃうからね。ただでさえ娘の一人の中身がこんなもの(・・・・・)になっているのに、それが実は魔女だったとか、自分のことじゃなかったら発狂ものだよ)

 

 

 だから、僕は自分が魔女であることや『趣味』に関しては墓まで持っていくつもりだ。万が一、趣味活動に支障が出そうになった時は、大人しく自刃する覚悟もできている。

 それはそれとして、止める気は微塵もないが(・・・・・・・・・・・)。これだけ可愛い魔法少女がたくさんいるのに、『お人形さん』にしないのは失礼だからね。家族に迷惑をかけない範囲であれば、僕は遠慮なく趣味に没頭するよ。

 

 

 あ、そうだそうだ。僕って今、ストーキングされているんだった。

 

 

(……まあ、誰でもいいか。一般人だったら不意打ちで、魔法少女か魔女だったら口封じも兼ねて『お人形さん』コースかな? 僕の好みに合う子だったらいいなー)

 

 

 そう方針をまとめて、適当な路地裏で魔女に変身し。スカートのポケットに忍ばせておいた人形サイズの『刃』の魔女を取り出して、元の大きさにする。

 間髪入れずに、『刃』の魔女に指示を下して未だに姿を隠す不審者に向けて攻撃を下したのだが――。

 

 

 ――物陰から姿を現した不審者の正体に、僕は一瞬だけ思考を止めてしまった。だって、僕をつけていたのは魔法少女で。姉さんの友人だったから。

 

 

(――あれ? 利恵さんがどうして? 姉さんに僕が魔女だってことがバレた? いや、それはない。バレてたら、もっと大人数の魔法少女に囲まれてやられているだろうし……だったら、何で利恵さんが? ……ああ、そうか。姉さんが心配して魔法少女である利恵さんに、僕が何をしているのか見てほしかったんだ。

 何もなければそれでよし、危ないことに首を突っ込んでいるなら手を退かせる)

 

 

「――いやー、本当に妹思いの姉だよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。うん、すっごく嬉しい」

 

 

 ――ああ、本当に僕のような人でなしには勿体ない最高の姉だよ。

 

 

 まあ、当たり前だが姉さんにそんなつもりはないに決まっているが。

 

 

 利恵さんに向き直る。彼女は思わず漏れていた僕の心の声に、ドン引きしているのか警戒しているのか。判別がつかない難しい表情をしていた。

 

 

(……そう言えば、生で利恵さんの魔法少女姿って初めて見るな)

 

 

 ――魔法少女フローラ。服装は色とりどりの花をモチーフにしたドレスで、髪は明るい緑色に変化し花冠で飾られている。

 

 

(……いいね、いいね。今日の獲物は利恵さんに――フローラに決定だ。どっちにしろ、僕の秘密を知ったんだ。彼女の『お人形さん』化は確定事項だし)

 

 

 術者()への直接攻撃を警戒して、『刃』の魔女を射線上に来るように配置する。ちなみに、今の『刃』の魔女は肉体の制御は完全に奪っている状態で、思考する自由だけは残してある。

 ああ、僕ってとっても優しい。

 

 

 というか、さっき『刃』の魔女の方を見て、利恵さん。微妙そうな表情をしていたね。

 

 

(……確か『刃』の魔女(小夜さん)も、利恵さんと同じ学年だったね。あの顔からして……知り合い以下の関係性しかなさそうか。『お人形さん』の人質作戦はあんまり有効そうではないかな? 一応、反応を見るだけ見てみるか)

 

 

 ぱちん、と右手を軽く鳴らす。『刃』の魔女が喋れるようにする。喋れるだけだが。

 

 

「え? あれ? 私、話せるように……」

「八神さん!?」

「えーと……貴女は? いえ、この際誰でもいいわ。貴女、魔法少女でしょう? 私のことはいいから、朱里のことを助け――むぐっ!?」

 

 

 利恵さんと『刃』の魔女の会話を見守っていたが、余計なことを話そうとしていたので強制的に中断させる。『刃』の魔女の表情が、再び無表情で固定される。

 

 

「まだまだ元気だねー。『刃』の魔女。帰ったら、お仕置き決定だね」

 

 

 表情を変えることはないが、『刃』の魔女からの恐怖が伝わってくる。美味なり。

 

 

 僕と『刃』の魔女の異様なやり取りの様子から、利恵さんは何かを考える素振りをした後。今度は僕に話しかけてきた。

 

 

「……私の見間違いという訳じゃないですよね。貴女は操ちゃん。それは間違いないでしょうか?」

「うんうん? 僕は正真正銘、利恵さんが知っている操だよ。っていうか、最初から尾行していたから誰かと入れ替わるタイミングなんてなかったじゃん」

「……そうですか。操ちゃんが魔女になったのはいつ頃で、そこの八神さん――『刃』の魔女と貴女と関係は?」

「質問が多くて困っちゃうよ。……そうだね、親切な僕は順番に答えてあげる。魔女になったのはつい最近で、『刃』の魔女は僕の『お人形さん』だよ。これで満足?」

 

 

 僕の回答に、利恵さんの表情がより一層に険しくなる。いいね、あの顔。屈服させたくなる。知り合いの魔法少女という点を差し引いても、次の『お人形さん』候補には最適だ。

 

 

「……操ちゃん。貴女の魔法は他者の洗脳か支配の類ですね。その魔法は危険過ぎます。今なら私の方で『管理委員会』に話をして、処分を軽くしてもらうこともできます。どうか、大人しく投降してもらえませんか?」

 

 

 利恵さんからの提案に、時間をかけてゆっくりと首を――横に振ってあげた。

 

 

「断るに決まってるじゃん。魔女()は僕のしたいように振る舞う。魔法少女である利恵さんだったら、よく知っているでしょ?」

「……残念です。優衣さんの妹だから、できる限り穏便に対応したかったのですが、『刃』の魔女と一緒に『保護』させてもらいます!」

 

 

 

 

 魔法少女と魔女。善と悪という対極の位置にありながら、共通点はいくつかある。その内の一つが魔法。妖精のサポートの下、研究は進められているが不明な部分が多い。

 けれど、契約者の心の奥底に秘められた願望。それが発現する魔法に大きく影響を与えるという結果は出ている。

 

 

 例えば、私――魔法少女フローラの願い、言い換えれば魔法少女になってやりたいこととは、困っている人達が安らぎの表情を浮かべられるように魔女を倒すこと。

 そこ、妖精に流されてその場のノリで契約したとか言わない。

 

 

 こほん。多少逸れたが、私の魔法はその願いに基づいたもので、人々の感情に作用する効果を持つ。

 と言っても、集団どころか一個人すら操ることができる訳でもなく。リラックス効果がある花の香りを生み出したりできる程度。

 

 

 一見戦闘向きではなさそうな私の魔法であるが、一緒に戦う魔法少女のサポートや自分へのバフ、相手の戦闘意欲を削いだりと結構器用な運用もできる。

 

 

 そんな私と現在対峙しているのは、私の友人である優衣さんの妹の操ちゃんと、八神さんこと『刃』の魔女。

 二人の魔女を相手に正面から戦った場合、勝てる確率は低い。しかし、今回は話が違ってくる。

 

 

 先ほどの問答や八神さんの様子を見た限り、操ちゃんの魔法は人を洗脳し操る類のもの。そういった魔法を発現する子は、直接的な戦闘能力は低い傾向にある。

 発動条件は判明していないが、私が操られることさえ気をつけていれば問題ない。

 

 

(……こんな魔法を発現するなんて、操ちゃんに何があったのでしょうか? 大きなストレスを受ける出来事があった? ……いえ、それほどの異変があって優衣さんが気がつかないはずが……それよりも今は目の前の状況に集中しなければ!)

 

 

 意識を現実に戻す。八神さんは五人の魔女の殺害を単独で為すほどの力を保有している。動きからして、本人の意思が介在していないようで、私でも多少は戦闘が成立しそうなのは不幸中の幸いだろうか。

 だからと言って、勝てる訳ではない。

 

 

 だが、私の魔法は今の八神さんには相性が良いと予想を立てる。彼女が操ちゃんに操られているのであれば、『人の感情に作用する魔法』は効果は覿面なはず。

 

 

「――『アロマセラピー』」

 

 

 魔法を発動させる。私を中心にして魔力をある効果を持つ香りに変換し、ここ一帯に満たしていく。私と睨み合っている――無表情だが――八神さんの手がピクリと動く。

 そのような命令が与えられていないのに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ん?」

 

 

(……やっぱり気がつかれてしまいますか!)

 

 

 八神さんの異変に、術者の操ちゃんがいち早く察知する。驚いた顔をするものの、それも一瞬。状況を把握した彼女はにやりと笑みを浮かべる。

 

 

「――へえ。精神的な異常を治そうとする(・・・・・・・・・・・・・)魔法か。これで『刃』の魔女を僕の支配下から解放するつもりだね」

 

 

 小学校低学年とは思えないほどに、冷静に状況を分析する操ちゃん。そんな彼女の様子に、若干の違和感を抱くも何も問題はないはず。

 

 

 『アロマセラピー』は周囲の空気に混じって、それを八神さんが吸っているのだ。既に効果は出始めている。後一、二分もあれば八神さんは完全に正気に戻るだろう。

 『管理委員会』のデータベースで見た八神さんの魔法の中には、『アロマセラピー』の効果を無害化できる魔法はない。

 唯一の懸念は、再度操ちゃんに洗脳の魔法を八神さんに使われることだが、そういった素振りを見せた瞬間に私が全力で妨害すれば解決する。

 自分に魔法でバフをかければ、動きが雑な八神さんをいなしつつ、操ちゃんの魔法発動の邪魔ぐらいなら私でも可能である。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「うん、これは困った。絶望的な状況って、こういうことを言うのかな?」

 

 

 お手上げといった感じで、肩をすくめる操ちゃん。何故か、彼女の一挙手一投足に意識が奪われる。いや、それで問題ない。

 発動条件が不明な操ちゃんの洗脳魔法が、使われるかどうかで警戒しているのだ。何も私は間違っていない。

 

 

 操ちゃんはその小さな口を開こうとする。彼女の言葉が発動のトリガーになる可能性があるので、本来では聞くべきではない。

 すぐにでも、操ちゃんに攻撃を仕掛けるべきだろう。そう反射的に考えて、体が勝手に動いていた。

 しかし、そんな稚拙な一撃は同じく動きに精彩を欠いた八神さんに防がれてしまった。

 

 

 その間に、操ちゃんは私にとって()となる言葉を吐く。

 

 

「――僕が魔女だと知って姉さんはどんな反応をするのかな? 妹が魔女になったとした世間は、姉さんのことをどう見るのかな? 憐れな被害者? それとも、同類? 教えてよ、魔法少女」

 

 

 意図的に考えないようにしていた可能性。魔女の身内が、特に年の近い姉妹はどういった視線に晒されどんな目に遭うか。

 それを魔法少女()はよく知っているだろう?

 

 

 どうせ魔女になると偏見を持たれて、最悪の場合――。

 

 

「――はい。隙ができちゃったね、利恵さん。マジカルライト、お願いー」

 

 

 ――あ。

 

 

 敵の目の前で間抜けにも、意識を飛ばしてしまった。当然、相手がそれを見逃すはずもなく。

 操ちゃんの指示に従い、死角から八神さんとは別の人物が私を背後から羽交い締めにしてきた。その人物が、マジカルライト――魔法少女に変身した上原さんであることに気づいた時には、全てが遅かった。

 

 

(完全に失念していました……! 上原さんが八神さんと同じように操られている可能性を!)

 

 

 私は目が虚ろな上原さんにがっちりと体を押さえられて、全く動けなかった。私が上原さんを振りほどこうとしている間に、操ちゃんは上原さんと八神さんに触れて洗脳を上書きしていた。

 これで、私の作戦は瓦解してしまった。

 

 

 私の無様な姿を見て、操ちゃんは先ほどよりも深い笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 

「――姉さんをとっても大事に思ってくれていて助かった。ありがとうね、利恵さん。妹としても、利恵さんみたいな人が姉さんの友達で良かったよ。うふふ」

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