趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第十一話 サプライズのお返し

 

 

 

「いやー、我ながら上手くいったよ」

 

 

 多少は綱渡りではあったが、利恵さんの無力化に成功した。現在の彼女は、僕の『お人形さん』第一号のマジカルライトに背後から羽交い締めにされている。

 必死にその拘束から逃れようとしているが、所詮は少し戦闘ができる程度のサポーターが戦闘特化の魔法少女に勝てる訳がない。

 へへへ、暴れんなよ。

 

 

 と冗談はさておき、利恵さんの扱いをどうしようか。僕が魔女であることを知られた時点で、『お人形さん』にするのは確定だがそれ以外に関して。

 正直に言って、今の僕は二つの心の中で揺れている。このまま三体目の『お人形さん』として『(ドールハウス)』に飾りたいという気持ちと。

 そうしてしまったら、大事な友達がいきなり行方不明になり寂しい思いをしてしまう姉さんを憂う気持ち。

 

 

 というか、ついさっきまではテンションが上がっていてそのことが抜け落ちていた。僕の魔法『お人形遊び』による『お人形さん(使い魔)』化の効果で、利恵さんの行動を縛った上で元通りの日常生活を送らせることもできるが、心配な部分もある。

 

 

 先ほどの戦闘で、利恵さんの魔法によって僕の『お人形遊び』が無効化されかけてしまった。つまり他の魔法少女や魔女の中にも、同じようなことができる者がいる可能性が出てきたということになる。

 今回のように、純粋な魔法の格として僕の方が上で、すぐに上書きできるような状況であれば良いのだが、現実はそうも上手くはいかないだろう。

 

 

 魔法少女はほぼ例外なく、『管理委員会』に所属している。何十、何百も魔法少女が在籍する組織に『お人形さん』状態の利恵さんを送り出すには不安で仕方がない。

 遠隔で『お人形さん』が見聞きしたことは共有できるし、臨機応変に対応すれば有象無象の魔法少女には気づかれるとは思わないが、例外はどこにでもある。

 僕が知らない、強い(素敵な)魔法少女が利恵さんの『お人形さん』化を見破ってきて、それから連鎖的に僕の存在がバレる可能性が常につきまとってくるのだ。

 

 

 そんなストレスを抱えた生活は勘弁したい。よって利恵さんを『お人形さん』化したまま、日常生活に戻すことはしない。

 けれど、姉さんと利恵さんをずっと離れ離れにはできない。その二つの問題を一度に解決できる都合のいい方法なんて――。

 

 

「――いや、あったよ」

 

 

 突然独り言を呟く僕に、利恵さんがビクリと反応する。可愛い。しかし利恵さんの表情を見る限り、まだ諦めていないのだろう。

 僕を説得して、これ以上の凶行を防ごうとするのを。

 

 

 僕にそのつもりは一切ないが、利恵さんの視点では自分の命が危うい場面だというのに、()の心配をしてくれるなんて。

 非常に嬉しい限りだ。そんな彼女を『お人形さん』にしないといけないなんて、とっても心が痛む(踊る)

 

 

「……ねえ、操ちゃん。どうか正気に戻ってください。本当の貴女は、優衣さんが自慢する程に優しい子だったはずです。契約した悪魔に唆されて、一時的におかしくなっているだけであって、今の貴女は本来の操ちゃんじゃありません。優衣さんの為にも――」

「――あれ? さっきも尋ねませんでしたか? 身内に魔女がいることがバレた姉さんが、世間からどんな目に遭うのか。

 まさか、それを分かっていて僕を捕まえる気なの? ねえ、答えてよ利恵さん」

「くっ……!」

 

 

 悔しそうに顔を歪める利恵さん。うん、良い表情だ。これだけでご飯は三杯いけそう。

 だけど、ここで攻めの手を緩める訳にもいかないよ?

 

 

「そりゃあ、答えられないよね。同じ血が流れている姉妹っていう理由だけで、他人は姉さんのこともどうせ魔女になると決めつける。

 ……そう言えば、似たような事例が一時期ニュースやネットで話題になってたね。姉妹のどちらかが魔女になった家庭では、残りの方を魔女にさせない為に本人の意思を無視して、妖精と契約させて魔法少女にさせたり。魔女の被害者達からの見当違いの復讐のターゲットにされたり。

 色々と問題になってたよねぇ。まあ、ある時期を過ぎたら不自然なぐらいに、ぱったりとそんな話聞かなくなったけど。何でだろう?」

 

 

 そう言葉を締めくくり、僕はわざとらしく首を傾ける。一方で利恵さんは何も返してこない。沈黙は時に肯定に、目は口程に物を言う。

 つまり、図星なのだろう。

 

 

「ええー、まさか正義の味方の魔法少女がそんなことしている訳ないよね?」

 

 

 まあ、ニュースで取り上げられることがなくなったと言っても、ネットには関連した情報がゴロゴロと転がっていて、ほぼ周知の事実だ。

 なので利恵さん一人が、こんな追い詰められたような顔をする必要は全くないのだが。

 

 

「……それなら私がどうにかしてみせます! ですから上原さんと八神さんを解放して、操ちゃんも悪魔との契約の破棄をしてくださいっ!」

「あのさ、利恵さん。そのぐらいの説得で折れるんだったら、僕は初めからこんなことしていないよ。それに契約者側にそんな権利はないの、忘れちゃった? まあ、いいや。じゃあ、お喋りはここまでね。利恵さんも『お人形さん』にしてあげる」

「それは止めてくださ――んむっ!?」

「一瞬で終わるから静かにしててね」

 

 

 ちょっとうるさかったので、マジカルライトに上手いこと利恵さんの口を塞いでもらう。痛くはないだろうけど、すぐに済ませてあげよう。

 無駄に怖い時間を引き延ばすのも、利恵さんに悪いからね。

 と、その前に――。

 

 

「――『刃』の魔女。そこでコソコソとしている妖精さんを捕まえちゃって」

「了解しました」

 

 

 僕の指示に返事をしたと思った次の瞬間には、『刃』の魔女は利恵さんの契約妖精を捕まえていた。いやー、仕事が早くて助かる。

 『刃』の魔女の強化アイテムとして――彼女の心の中で生き続けているシミターさんも喜んでくれているだろう。多分、きっと。

 

 

 それにしても、この妖精も馬鹿なものだ。逃げるのであれば、さっさと逃げればいいものを。

 本気で契約者(利恵さん)が心配だったのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの黒猫悪魔が勝手に植えつけた知識は歯抜けもいいところで、この妖精の思惑を正確に推し量ることもできない。

 どうせ、妖精本人に拷問紛いのことをしても吐くことはないだろうし、するだけ無駄だ。

 

 

 妖精か悪魔の一体でも食べれば、この問題も解決するかもしれないがそれは避けたい。たとえそれ以外にも恩恵があったとしても、別に僕はゲテモノ好きではないのだ。ただの『魔法少女集め』が趣味な一般魔女に過ぎない。

 だが、僕は食べなくても()()()()()()()()()()()『お人形さん』にはしっかりとお食事はしてもらわないと。

 

 

 けれど、シミターさんの時とは違って人間に近い姿をしている妖精を、そのままの状態で利恵さんに食べてもらうのは流石の僕でも躊躇する。

 絵面も猟奇的だし、その程度の倫理観は備えているつもりだ。

 

 

「――という訳で、()()をお願いするね。『刃』の魔女」

「はい」

 

 

 そんな僕達のやり取りに、異様な雰囲気を感じ取ったのか、これまで利恵さんを心配するような台詞を吐いていた口が一変し。

 命乞いの言葉を言い始める。

 

 

「……や、止めてくれるかな? 小さな魔女さん。私と契約者を――利恵のことを見逃してくれたら、君のことは絶対に言わないよ。私の命に代えても約束する」

「あのね。そんな薄っぺらい言葉を並べないでくれない? その場のノリでマジカルライトの妖精の時は殺すだけ殺して、結局取り逃しちゃったから。

 どうせ、君達(妖精)も悪魔と同じでリスポーンするでしょ?」

「そ、それは……」

「あはは、どうやらその反応は正解みたい。なら、なおさら生かして見逃す理由がないよ。諦めて、食べやすいサイズに()()()されてね」

「――『ソウルスラッシュ』」

「止め――」

 

 

 それが最期の言葉となり、『刃』の魔女の特殊な一振りによって妖精は見るも無惨な肉塊――に変わることなく、緑色に発光する魔力の塊に変貌した。

 

 

「んーー!?」

 

 

 自分の契約妖精の成れの果てに、心優しい利恵さんは塞がれた口で声にならない絶叫を上げる。

 ああ、可愛そう。誰だ、利恵さんを泣かしたのは。あ、僕だった。へへへ。

 

 

「では、お食事の前に――『お人形遊び』発動」

 

 

 僕の掌から、ドロリとした汚泥のような魔力が溢れ出したと思うと利恵さんの全身を覆い溶け込んでいった。

 利恵さんは、()()()()()()()()無事に『お人形さん』と化した。

 

 

 利恵さんにはその場から動かないように命令し、マジカルライトには利恵さんから離れてもらう。

 

 

「じゃあ、待ちに待ったお食事の時間だよ。メニュー名は『妖精のミートボール』かな?」

「や、止めてください……! 操ちゃん、まさか私にペタルのことを……!?」

「へえ、利恵さんの契約妖精、ペタルって言うんだ。一応大事な相棒でしょ? これからは文字通りに一心同体になれるからね。好き嫌いは駄目だよ? さあ、口を大きく開けて」

「止めて――」

 

 

 嫌がる素振りを見せながらも、『お人形さん』と化した利恵さんは従順に口を開ける。そして、そこに僕は妖精の成れの果てを運んであげた。

 

 

 ――くちゃくちゃ。

 

 

 咀嚼音が辺りに響く。

 利恵さんは嫌悪感や不快感を全面に押し出した表情で、しかし己の契約妖精だったモノを食べることを止めることはなく。

 実に十分以上の時間をかけさせて、『お食事』を終わらせた。

 

 

「ふふふ、残さずにちゃんと食べれて偉い偉い」

 

 

 利恵さんは吐き気を堪えるような表情で僕を睨む――いや、この顔はこれだけのことをされたのに、まだ僕が正気に戻ることを信じているという感じだ。

 まあ、最初から正気の僕には無縁の話だが(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 若干名残惜しいと思いつつも、利恵さんの意識や肉体の自由を完全に縛る。途端に無表情になり、三体目の『お人形さん』が完成した。

 

 

 だけど、これで終わりではない。先ほど思い浮かんできた素晴らしい考え(・・・・・・・)を実行する為に、僕は行動を開始した。

 

 

「――じゃあ、利恵さんには僕と協力して一芝居をうってもらうね」

 

 

 

 

 ――利恵に妹の操の後をつけてもらい、彼女が何も危ないことに首を突っ込んでいないことを確定させたかったのだが。

 運命というものは、相当に捻くれているらしい。

 

 

 利恵からの連絡を家で待っていた私に届けられたのは、全く別の第三者――『管理委員会』からの連絡であった。その内容は、以下のものだった。

 

 

『魔法少女フローラが『刃』の魔女と交戦をして、操はその戦闘に巻き込まれてしまった』

 

 

 それを聞いた時に、私は取り乱してしまった。だって、大切な妹と友人が魔女の手によって傷つけられたのだから。

 幸い二人の傷はそれほど大きいものではなく、回復魔法専門の魔法少女の治療を受けたら二日ほどで退院できるという話だった。

 

 

 場所は、『管理委員会』提携の病院。その病室にて。私は放課後に、操と利恵のお見舞いに訪れていた。二人は体には傷はないものの、元気がなさそうな表情をしていた。

 

 

「……ごめんなさい。姉さん。()が不用意に歩き回っていたせいで、利恵さんにまで迷惑をかけちゃって」

「……いえ、私の力不足が全ての原因です。優衣さんから操ちゃんのことを頼まれていたのに。すいません」

 

 

 二人が申し訳なさそうに、謝罪の言葉を告げてくる。それを否定したかったが、私が何を言っても彼女達は自らに非があると主張し続けるだろう。

 ただでさえ病み上がりの二人を相手に、そんな言い合いをした所で無駄に疲れさせてしまうだけだ。この場は私が折れるべきだろう。

 

 

 私は表面上二人の謝罪を受け取り、モヤモヤとした気持ちを隠すように曖昧な笑みを浮かべた。

 

 

 しかし、やっぱり私は自分のことを許せそうになかった。何故なら、今回二人が怪我をしたのは私のせいに他ならないから。

 

 

(……利恵にこんなことを頼まなければ。あの時、出かけようとする操を無理やりにでも引き止めていたら。そうすれば、二人が魔女に襲われることはなかったはずなのに)

 

 

 それだけでも気が病みそうになったのに、私を取り巻く日常は少しずつ崩れ落ちようとしていく。

 

 

 操が普段通りに学校に通えるように安心し、彼女を見送った後。私も学校を登校して、改めて利恵に礼を伝えようと思っていたのだが。

 

 

 その日はいつまで経っても、利恵が学校に来ることはなく。電話をしてみたり、メールを送ってみても返事はなかった。

 

 

(……まあ、次の日でもいいっか。利恵も疲れているだろうし、魔法少女として報告もあるから仕方ないか)

 

 

 だけど、次の日も。そのまた次の日も。利恵は学校に姿を現すことなく、一切の連絡が取れなくなってしまった。

 彼女の家を訪ねても、近くの『管理委員会』の支部に行っても答えは同じ。利恵は退院した翌日には、学校に行くと言って家を出たきり、行方不明らしい。

 

 

 信じたくなかった。まだ、ちゃんとお礼を言えていないのに。まだ、きちんと謝れていないのに。

 利恵は、私の目の前から姿を消してしまった。

 

 

 心配や不安で、徐々に調子が狂っていく。それを周りの人達に気づかれないように振る舞う。だけど、どこかでボロが出ていたのか。

 ある日、夕食を食べ終わった後に操に声をかけられた。

 

 

「……大丈夫ですか? 姉さん」

「大丈夫よ、少しだけ寝不足でね」

 

 

 そう言って、操を誤魔化す。だが、年齢の割には聡明な操は私の悩みのタネを言い当てる。

 

 

「……利恵さんのことですよね。姉さんが悩んでいるのって。私も聞きましたよ、利恵さんが行方不明になったと。

 私も利恵さんのことは心配ですし、その気持ちも分かりますけど、私にとって一番大切なのは姉さんです。だから、きちんと休んでください。利恵さんが戻ってきた時に、そんな顔をしていたら利恵さんが驚いちゃいますよ?」

「……そうね。ありがとう、操。心配かけたわ」

 

 

 そう言って自室に行こうとする私を、操は再び声をかけて呼び止める。

 

 

「待ってください、姉さん! ……もしも良かったら、これを受け取ってください!」

「これは……?」

 

 

 操が差し出してきたのは、小さな一体の人形。それは私の知る誰かに酷似していた。

 

 

「……これって」

「はい。利恵さん……魔法少女フローラのフィギュアです。いつかは利恵さんも戻ってくるはずですし、それまではこのフィギュアを利恵さん本人だと思って元気を出してください」

「……ありがとう、操」

 

 

 妹の優しさに、私は友人を模した人形を両手で抱き締めて涙を流した。

 

 

 ――決めた。操にこれ以上心配をかけない為にも、立ち直って利恵を見つけないと。

 

 

 二人を襲ったという『刃』の魔女。その正体は個人的な面識はないが、何と同級生であったらしい。

 そこはどうでも良いが、私の直感が利恵の行方不明に『刃』の魔女が関係していると囁いている。現に、利恵の他にも同級生の魔法少女が一人、ここ最近消息不明になっている。

 彼女は、『刃』の魔女の友人だったようだ。専ら、『刃』の魔女に連れ去られたという噂だ。

 

 

 そもそも利恵と操が襲われたのにも、何か理由があり。それが原因となって、利恵が再び襲撃を受けて攫われてしまったのかもしれない。

 

 

 こういう時の私の勘はよく当たる。『刃』の魔女の行方を追っていけば、利恵の所に行き着くだろうと。

 

 

(――待っててね、利恵。絶対に見つけ出してあげるから)

 

 

 ――そう決心を固める私を応援してくれるように、掌の中の人形が動いた。そんな気がした。

 

 

 

 

「あはは。これで利恵さんも、姉さんとずっと一緒にいられて嬉しいだろうし、姉さんも元気になってくれるしで問題解決! 我ながら良いアイデアだったね! まあ、利恵さんを手放すのは惜しかったけど……姉さんが笑ってくれるなら些細な問題だよ。それで、次の『お人形さん』は誰にしようかな? うふふ」

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