趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第十六話 四体目のお人形

 

 

「――お疲れ様、ブルームーン。僕を助けようとして、馬鹿正直に誰にも伝えずに来てくれて」

 

 

 状況の変化についていけてないのか、表情は変わらないものの、『お人形さん』と化したことでブルームーンの混乱ぶりがダイレクトに伝わってくる。

 ご馳走様です。いや、この程度で満足できない。できる訳がない。

 だって、ブルームーンには怒ってもいるからね。姉さんに『イケナイ魔法』をかけた件を許したつもりは一切ない。

 

 

「まだ混乱しているようだから、もっと分かりやすくした方がいいかな? ――変身」

 

 

 今までオフにしていた魔力を解放する。そうすると、魔力が体から溢れ出して装いが魔女としてのものに変化していく。

 日本人に有り触れた黒髪は金髪へ。単なる私服は、某不思議の国に迷い込んでいそうな少女を連想させる、藍色のエプロンドレス姿に。

 

 

 変身が無事に完了したことを確認する為に、くるっと一回転しスカートが揺れる。スカートがふわりと元に戻って数秒が経過した後。

 スカートの裾を両手で摘み、カーテシーを見様見真似でやってみる。

 

 

「――どうも、改めてまして。魔法少女ブルームーン。今の僕は『無名』の魔女。これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね?」

 

 

 ブルームーンの思考が完全に止まってしまった。ああ、もう良い表情をしてくれるねぇ。一生懸命助けようとした相手が、裏で糸を引く黒幕と知って考えるのを止めちゃったみたい。

 

 

 ちなみに、『無名』の魔女というのは仮称である。僕個人としては、魔女としての二つ名よりも『お人形さん』での新しい遊び方を考える方が有意義なのだが。

 何れは(・・・)望まなくても、僕が表舞台に引きずり出される可能性はある。よって、それっぽい名前はおいおい決めておくつもりだ。

 

 

 まあ、それは今すべきことではない。

 

 

「――この程度で絶望するにはまだ早いよ? ブルームーンにはしてもらうことは山ほどあるんだから。どれだけ嫌だって心の中で思った所で、もう『お人形さん』になった君には拒否権はないんだけどね」

 

 

 でも、喋れないというのは可哀想だ。これからは嫌でも『お人形さん』としてお行儀よく(・・・・・)振る舞ってもらうから、最後の機会という訳でもないが多少は話すことを許可して上げるとしよう。

 多分だけど、疑問がいっぱいあるだろうし。目に見える反応があった方が僕も楽しめるからね。

 ああ、僕ってとっても優しい。

 

 

 わざとらしく指を鳴らす。ブルームーンの発言だけを自由にする。

 

 

「……操さん、嘘ですよね? 貴女や『刃』の魔女も、別の魔女か何かに操られているだけだと……」

 

 

 開口一番に、ブルームーンは縋るように言ってきた。自分でも既に答えは分かっているだろうに、必死に現実から目を逸らそうとして健気だねぇ。

 その退路を断つ為に、わざわざ目の前で変身して上げたのに。せっかくの親切を無下にするとは良くない子だ。

 とは言っても、僕は優しいからね。物分かりが悪い子にも、丁寧に教えて上げよう。

 

 

「ブルームーン。駄目だよ、事実から目を背けちゃ。僕は魔女で、君はまんまと罠にハマって僕の『お人形さん』になったんだから」

「……それなら『お人形さん』とはどういう意味ですか?」

「そのまんまの意味だよ。そこにいる『刃』の魔女と一緒で、君の意思や肉体の自由は僕の思いのまま。さっきまで、『刃』の魔女を通して話していたのも僕だよ」

 

 

 『刃』の魔女は精神的に壊れかけ(・・・・)だからね。あんまり遊べない(・・・・)のは残念だけど、表舞台には立てない僕の代役として使うには、今回のように重宝しそうだ。

 

 

 一方のブルームーンは、僕の魔法の利便性に驚いて呆けた表情をしている。が、それも一瞬でとある事実にたどり着いたのか、さらなる疑問をぶつけてくる。

 

 

「……では、マジカルライトとフローラの失踪も犯人は貴女ですか!?」

「うん、そうだよ。フローラ(利恵さん)ではほとんど遊べて(・・・)ないけど、二人とも可愛いらしい『お人形さん』に仕上がってくれたよ。魔法少女ブルームーン。君はどんな顔をしてくれるのかな?」

 

 

 僕の言葉に怯えた表情をするブルームーン。だけど、姉さんに働いた無礼はこの程度でチャラにする訳がない。

 

 

「――あ、その前に君の妖精には退場してもらおうか」

 

 

 ブルームーンが「これ以上何をするの?」と言わんばかりの曇った表情をしてくれる。虐め(遊び)甲斐がありそうだね。ぐふふ。

 

 

 

 

 予想外の展開の連続で、麻痺した思考が操さん――いや、『無名』の魔女の言葉を拾い、その意味を数秒かけて理解する。

 私は反射的に自由な口で叫んだ。

 

 

「――ルナリスっ! 私のことはいいので、逃げてください!? この魔女の情報を必ず『管理委員会』に届けてください!」

 

 

 こちらの行動を縛っていた――今は『無名』の魔女の魔法により体の自由はないが――人質はない。今まで無言を貫き、大人しくしていたルナリスに頼む。

 詳しい条件は分からないが、他者を――特に魔法少女や魔女を操るような魔女を野放しにしておくのは危険過ぎる。

 最低でも、こういった魔女がいるという情報だけでも届けないと。それが愚かにも敵の罠にかかった私にできる唯一のこと。

 

 

「……ブルームーン。うん、分かった。絶対に助けに――え?」

 

 

 その言葉が最後まで紡がれることはなく。一瞬の内に、ルナリスの首が宙に舞っていた。

 

 

 下手人は、先ほどまでの邪悪ぶりが嘘のように。文字通りにお人形(・・・)と化した無表情な『刃』の魔女だった。

 彼女の魔法によって創造された剣によって刎ねられたルナリスの顔には、驚愕の表情が浮かんでいた。

 

 

「まあ、これだけだったら逃げられちゃうから、食べやすいように加工(・・・・・・・・・・)してもらって――」

 

 

 その言葉に従うように、『刃』の魔女は再び剣を振るう。

 

 

「――『ソウルスラッシュ』」

 

 

 一閃。それだけで人型の妖精は、あっさりと魔力の塊に変貌する。ソレ(・・)を右手で掴んだ『無名』の魔女は、物凄い良い笑顔で見せつけてきた。

 『無名』の魔女がゆっくりと近づいてくる。

 

 

 嫌な予感がする。必死に迫る『無名』の魔女から逃れようと藻掻こうとするが、無慈悲にも体が動くことはない。しかし屈むように命令された時には、何の問題もなく――私の意思に反して命令通りの動きが実行された。

 

 

「い、嫌です……操さん。止めてくださ――んぐっ!?」

「はいはい、我儘言わないの。他の『お人形さん』も一人を除いて、きちんと食べてきたんだから」

 

 

 右手で口を開かされて、相棒だったモノ(・・)を押し込まれて追加の指示で咀嚼させられる。吐き気と嫌悪感で頭がいっぱいになるが、ソレ(・・)を吐き出すことは許されなかった。

 

 

 ごくん、とルナリスの成れの果てが音を立てて、私の体に取り込まれてしまう。内側から力が湧いてくるような感覚がやって来るが、吐き気でそれ所ではなかった。

 ぜいぜいと息を荒く吐く私の様子を見て、『無名』の魔女は心配する素振りを見せるはずもなく。むしろ満足そうにし、「良い子だね。よしよし」と頭を勝手に撫でてくる。不快感しか抱けない。

 呼吸を整えながらも、大事な相棒(ルナリス)を失う原因になった『無名』の魔女を睨みつける。今の私にはそれしかできないから。

 

 

「ふーん。思ったよりも我慢強いね。自分の契約妖精を食べさせるのもマンネリ化してきたし、今度はもうちょっと別のやり方でも考えてみようかな? まあ、今は関係ないか! それでね、一つだけ尋ねたいことがあるんだけど、いいかな?」

「……これ以上、いったい何を……。貴女の魔法であったら、強制すれば良いじゃないですか?」

「それもそうなんだけど、形は大事じゃない? まあ、答えてくれないんだったら、無理やり聞き出すけど。前置きはここまでにして……ブルームーン。君は歌を歌うことは好きかな? 『歌姫』って呼ばれるくらいだし」

「……」

「へえー、そう言っておきながら答えてくれないか。頑固だね」

 

 

 わざとらしく咳払いをした後、『無名』の魔女はこう言った。

 

 

僕の質問には正直に答えてくれる(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「……ぐっ!? わ、分かりました」

「うんうん。よろしい」

 

 

 口を固く閉じようとしても、私の意思を無視して従順な返事(・・・・・)をしてしまう。その様子により笑みを深めて、『無名』の魔女はもう一度問う。

 

 

「なら、もう一回聞くよ。君は歌うことは好き?」

「……は、はい」

「そうだよね。観客の人達を笑顔にしたいとか、そういう感じなのかな?」

「……はい」

「なるほど、なるほど」

 

 

 私の返答に、何やら考える素振りを見せる『無名』の魔女。たっぷりと時間をかけて、私の心にとっての()を吐き出してくる。

 聞くべきではないのに。耳を塞ぎたいと思ったのに。今の私にはそれらの行動を許可されていない。

 

 

「――なら、おかしくない? 君の魔法って、人の心を操るものだよね。承認欲求が強いのかな? 『歌姫』って呼ばれるぐらいに人気になったのも、その魔法を使ったお陰なの?」

「……違いますっ!」

 

 

 反射的にその言葉を否定する。私は歌うことが好きだ。私は自分の魔法が嫌いだ。だから自分に宿った力を使わずに、歌うことに全力を尽くして。聴いてくれる人達全員が笑顔になってくれるように頑張ってきたのに。

 そんな私の努力が否定されたみたいで、目の前の魔女の言葉()をこれ以上耳に入れたくなかった。

 

 

「――よし、決めた。君の大嫌いな魔法を存分に使わせて上げる。それで、僕の姉さんに手を出した分はチャラにするね」

 

 

 

 

 自分の契約妖精を食べさせられながらも、僕に嫌悪感満載の視線を向けてくるブルームーン。魔女であることが判明しても、一生懸命に助けようと見当違いな説得を試みてくれた利恵さんの時とは反応が違うけれども。ブルームーンの反応も良いよね。

 あの冷たい視線はゾクゾクする。

 

 

 まあ、遊ぶのはこの辺にしておこう。また遅く帰ってしまったら、姉さんに怒られてしまうからね。まずは以前からの不安の種を摘むとしよう。

 

 

「出ておいで、マジカルライト」

 

 

 エプロンドレスのスカートのポケットから、一体の『お人形さん』を取り出して元の大きさに戻す。ピンク色のドレス姿の魔法少女、マジカルライトだ。

 彼女の姿をブルームーンは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「……やはりマジカルライトの失踪も、貴女が犯人でしたか!? ならフローラも……!?」

「あー、そうだよ。マジカルライトは僕の記念すべき最初の『お人形さん』なんだ! 二体目は、そこの『刃』の魔女で、利恵さん……フローラは三体目の『お人形さん』だけど、姉さんにプレゼントしちゃったから今は持ってないんだ……。けど、こうして君が新しい『お人形さん』になってくれたことで、この寂しさも解消できそうだよ。でも、だからって『お仕置き』はしっかりとするからね」

「貴女は……んぐっ!?」

「はいはい。僕は君に言いたいことは大体終わったから、必要な時(・・・・)以外は静かにしててね」

 

 

 これから行う作業には邪魔になるだけなので、ブルームーンの口を閉じさせる。よし、なら次の段階に進むとしよう。

 

 

「君達魔法少女は知らないだろうけど、妖精と悪魔は死んでもこことは違う世界で復活するんだよ。それを何故隠しているのかは、僕も把握出来ていないんだ。

 だから、これからするのはその真相を妖精自身に教えてもらうことも兼ねているの。そこで出番があるのが、マジカルライトなんだ」

 

 

 僕の言う、不安の種とはマジカルライトの契約妖精。名前は確かメルルだっけ? そこはあまり重要ではなく、大事なのはその妖精を間違って殺してしまったことだ。

 つまり、他の『お人形さん』のように契約妖精・悪魔を取り込ませていないせいで、復活後に僕の情報が共有される恐れがあるのだ。何れバレるにしても、『お人形さん』(戦力)が整っていない今の段階で、僕の存在が知られるのは避けたい。

 という訳で、以前から考えていたマジカルライトと契約妖精との間に存在する繋がり(パス)を利用する方法を実行させてもらう。

 

 

「――ブルームーン。マジカルライトに魔法を使って。僕の言うことに従うようにと、ね」

 

 

 無言で――強制的にだが――頷いてくれたブルームーンは、短く喉を震わせて言葉を紡ぎ魔法を発動させる。それは対象外であるはずの僕でも、一瞬ではあるがクラッとしそうになる。

 まともに食らっていたら、今頃僕もお縄になっていただろう。

 だけど、今の彼女は頼れる『お人形さん』だ。非常に心強い。

 

 

 ブルームーンの魔法で、既に『お人形さん』化しているマジカルライトを二重で洗脳。『お人形遊び』ではたどることができない繋がり(パス)を通じて、どこかにいるはずの妖精の精神を徐々に掌握していく。

 妖精が復活しているかは関係ない。マジカルライトに喰わせていない時点で、妖精の肉体はなくても魂は確実に存在しているので、共鳴自体は可能だ。

 この方法は、魔法少女や魔女を事前に『お人形さん』にしておく必要がある。魔法少女を通して妖精側に干渉するには、流石にいくら強力な洗脳効果を持つブルームーンの魔法でも、力が足りないからだ。

 これだけの準備が必要な上に、この方法は『お人形さん』にした契約妖精・悪魔の逃亡を防止する以上の効果は期待できそうにないのが残念だが。

 

 

(……よし、捕らえた!)

 

 

 多少時間はかかったが、マジカルライトの妖精の精神の掌握に成功。達成感に小さな笑みを浮かべながらも、次の作業へ移行。

 

 

「――マジカルライト。君の妖精をこの場所に呼んでくれるかな?」

 

 

 こくりと頷いてくれるマジカルライト。テレパシーで呼びかけをしているのか、つかの間の静寂が訪れる。

 しかしそれも僅かな時間であり、マジカルライトの傍に発光する魔力の塊のようなものが形成されたと思ったら。見覚えのある妖精が現れた。

 

 

「自分の契約妖精との感動の再会だよ? もっと喜んだら? マジカルライト」

 

 

 その妖精は主人と同様に目は虚ろであり、体というか存在感そのものが希薄だった。どうやら、まだ完全には復活してはいなかったようだ。

 そうであるなら、僕の情報が妖精側に漏れている可能性は低いだろう。助かる。

 

 

 じゃあ無力化も済んだことだし、洗脳が効いている内に妖精から『お話』を聞かせてもらおう。ブルームーンやマジカルライトも、面白いものが聞けると思うよ? うふふ。

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