趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第十七話 最悪なコンサート開演

 

 

「……えっと、メルルだっけ? 僕やこの場にいる子達に教えてほしいことがあるんだ。妖精が人間側に秘匿し続けている秘密について。良いかな?」

「……もちろん、構わないよ」

 

 

 虚ろな目や表情を晒しながらも、ブルームーンの魔法の影響下にある妖精――メルルは僕のお願いについて、嫌な顔をすることもなく承諾してくれた。

 

 

「……ちょっとだけ長くなるけど良い?」

「全然問題ないよ」

「……じゃあ、何から話そうかな。まずはね――」

 

 

 ――それからメルルは快く、僕達に『面白いお話』をしてくれた。その『お話』を聞いた僕達の反応は様々。

 

 

「――あははっ! お前達(妖精や悪魔)がどうせ碌でもないことを考えているだろうって予想はしていたけど、想像以上に人でなしじゃん! 僕の『お人形集め』なんて可愛いらしいものだよ!」

 

 

 あまりのおかしさに、僕は腹を抱えて笑ってしまった。正義を嘯き、幼気な少女を魔法少女にする妖精と。精神的に不安定な少女ばかりを狙い、魔女に堕とす悪魔がどちらも人間にとって有害であり、本質的には同一な存在(・・・・・・・・・・)であるという事実に。

 

 

 メルルが語った『お話』は、魔法少女であるマジカルライトやブルームーンにとっても信じがたいことであったらしく、困惑というかその事実に対する絶望。もしかしたら僕が魔法を使って妖精に言わせているという淡い希望。

 それらが入り混じった複雑な感情を味わうことができた。美味なり。

 

 

 そして、この場にいる僕以外の魔女――『刃』の魔女からは反応らしいものはない。彼女は度重なるお遊び(・・・)で心身ともに疲労しているので、残念だけど仕方ない。

 それでも少しでも元気な時に聞かせてあげれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知れるので、タイミングを見計らって『刃』の魔女にも教えてあげよう。

 

 

 というか、この情報は今の社会にバラすには『劇物』過ぎる。下手をしなくても、妖精と契約する子達がいなくなり魔法少女という正義の味方(『お人形さん』の素体)がいなくなってしまう。

 うん。この情報は僕の胸に秘めておくことにしよう。もしかしたら、別の魔法少女を虐める為の話の種にはなるかもしれないしね! ――それに、どこで話が洩れるか分からない。妖精や悪魔、魔法少女に魔女。そういった不可思議な存在がいるのだ。

 今も僕らを観察している誰かがいて、面白半分で真実を暴露する。そんな奴らがいる、というあり得ない想像が脳裏を過ってしまう。

 

 

(……まあ、そんなことは杞憂に過ぎないだろうけど)

 

 

「――じゃあ聞きたい話は聞けたし、メルルの役割も終わりかな。感動の再会も済んだことだし、今までお預けをしていたマジカルライトには『お食事』をしてもらうね! 嫌がっても、拒否権はないから」

 

 

 ――そうして、内心めちゃくちゃに拒否しまくるマジカルライトに加工(・・)した契約妖精(メルル)を丁寧に時間をかけて食べさせた。とても素晴らしかった。以上。

 これでメルルから妖精側に僕の情報が洩れる心配はなくなった。良かった、良かった。

 

 

「そろそろ撤収しますか」

 

 

 マジカルライトの『お食事』シーンを堪能した後、彼女と『刃』の魔女をミニチュアサイズにしてスカートのポケットにしまい、変身を解除する。

 そして、未だに魔法少女の衣装のままなブルームーンに向き直る。

 

 

「――お片づけも済んだけど、今は君をお持ち帰りする訳にはいかないんだ。()()()()()()()()()()()()()()、元通りの生活を送ってもらうよ。後一つだけやってもらいたいことがあるから。それで君が姉さんに魔法(・・)をかけた件は水に流してあげる」

 

 

 まだ感情が乱れ捲っているブルームーンではあるが、それは問題にならない。既に『お人形さん』と化しているので、「普段通りに振る舞ってほしい」とお願い(・・・)すれば、その通りに動いてくれる。

 『お人形さん』化していることを他の魔法少女に気づかれる可能性はあるが、その点への対策もバッチリ。

 ブルームーンには『お人形遊び』の他にも、彼女自身の魔法で自分に洗脳状態を上書きし、僅かな違和感も消し去る。それでも疑問に持つような相手がいれば、その相手の認識能力をブルームーンの魔法で狂わせればいい。

 全くもって隙のない作戦だ。

 

 

 最後にブルームーンの頭を撫でて一言。

 

 

「多分だけど、普通に外で暮らせるのはこれで最後だと思うから。コンサートまでの時間をゆっくりと満喫してね。じゃーね」

 

 

 

 

 

 ――操さんではなく、正体を隠していた自らを『無名』の魔女と名乗った存在に私は罠に嵌められてしまい、危機的状況に陥っていた。

 『無名』の魔女が行使してきた洗脳魔法により、今の私は彼女の使い魔に近い状態になっている。

 

 

 現在、与えられている命令は二つ。操さんが魔女であるという事実を口外することの禁止、私に起こっている異常に気づかれることなく、あるタイミング(・・・・・・・)まで普段通りの生活を送ること。

 

 

 廃墟から自宅へ帰る途中で『管理委員会』の支部には体調不良で休むことを連絡させられた(・・・・)。当然、『無名』の魔女による監視がつけられていないことを確認した上で――もっとも術者と使い魔は魔力的に繋がっているせいで、初めから全て筒抜けだったが――他の魔法少女に助けを求めようとした。

 そういった類の行動を取ろうとした瞬間に、体が停止してしまう。そんな私の様子に違和感を持ってくれる人達も、私自身が魔法で意識を逸らしてしまうせいで、最終的には誰も異変に気づいてくれる人はいなかった。

 

 

 それは、本城さんも同様で。学校で直接会ったり、電話やメールでやり取りをしていても、私の体は見えない強制力によって何の異常も感じさせない行動しか許されない。

 

 

(……誰か助けてくださいっ!?)

 

 

 どれだけ誰かに助けを求める声を上げたくても、それが叶うことはなかった。私の嘆きを聞くのは、見えない経路(パス)を通じて、四六時中実は監視していた魔女が一人だけ。

 

 

『――無駄だよ。僕の『お人形さん』である君に自由はない。でも、もしかしたら奇跡が起きて助けを求める声が届くかもしれないよ? ほら、頑張って頑張って』

 

 

 こうやって、あの無害そうな少女の皮を被った魔女は時折耳元で囁くように、テレパシーを送ってくる。その蠱惑的にも感じてしまう声を聞きたくなくて。だけど、物理的な声ではないせいで何の対策もできず――そもそも使い魔と化している私には耳を塞ぐ自由すらないのだが――無情にも時間は経過していき、私の神経を徐々にすり減らしていった。

 

 

 私が魔女の使い魔になっていることは誰にも気づかれることはなく、ついにコンサートの日がやって来てしまった。

 

 

『――楽しみだねぇ、ブルームーン。いや、『歌姫』。いっぱい練習を頑張ったから、その成果をファンのみんなに見せてあげないとね』

 

 

 また魔女の声が脳内に直接響く。もう私にはそれに対して、悪態をつく余裕はとっくに残っていなかった。

 

 

 今の私は魔法少女の姿に変身した状態で、会場の控室でコンサートが始まるまで待機していた。ここからでも、コンサートを楽しみに待っていてくれているお客さん達の熱気や、興奮ぶりが伝わってくる。

 普段であれば嬉しいそれらも、私を追い詰める要因の一つとなっていた。

 

 

 さっきテレパシーで伝えられた魔女の言葉から察するに、私を使って(・・・・・)何かを企んでいるようだ。

 肝心な計画の内容は材料が少なく、推測することもできないがあの魔女のことだ。絶対に碌でもないことを考えているに決まっている。

 刻一刻と危機が迫っている事実を伝えられないことに、私は絶望することしかできなかった。

 

 

 携帯が鳴る。電話が来たようだ。しかし、今の私には連絡相手が誰であるのかはどうでも良かった。

 

 

『あららー? 天下の『歌姫』様の本番前に電話をしてくるなんて、空気が読めない人もいるもんだなー。いったいどこの誰……って、姉さん!?』

 

 

 珍しく動揺を露わにする魔女。どうやら電話をかけてきたのは、本城さんだったようだ。

 

 

 本城さん。私に新しくできた友達。始めこそは、仕事の一環として不本意ながらも、魔法をかけて操るような真似をしてしまったというのに。彼女は私と友達となってくれた。

 確かに本城さんにはその時の記憶が魔法の影響で曖昧になっているが、それでも無意識に私に対して忌避感を抱いてもおかしくないはずなのに。

 

 

 出会ってから付き合っている時間もまだ長くはないが、本城さんは私の大切な友達だ。そんな彼女からの連絡に、壊れかけていた心がざわつく。

 本城さんの声が聞きたいと無意識の内に求めてしまう。

 

 

『……うーん。不審がられると困るから、電話に出てもいいよ。ただし、くれぐれも変なことは口走らないように。だって、姉さんのことは巻き込みたくないよね?』

 

 

(……どの口が言いますか)

 

 

 あまり変なことは考えないようにしないと。ある程度の思考はあの魔女に筒抜けになってしまうからだ。

 

 

 一応許可された行動である為、何の制限もなく電話に出ることができた。

 

 

『……もしもし、天音さん。これからコンサート本番だけど、大丈夫? 最近あんまり元気がないように見えたから』

「……大丈夫です。少しだけ練習や魔法少女としての仕事での疲れが出てしまっただけです。もうすぐ始まりますので、短いですが終わったらまた連絡をください」

『ごめんね、忙しい時に電話しちゃって……!』

「いいえ、気にしていないです。むしろ、本城さんの声が聞けて元気が湧いてきました」

『……もう、恥ずかしいこと言わないでよ。じゃあ、妹と一緒に応援に来ているから頑張ってね!』

 

 

 本城さんのその言葉に、彼女がこのコンサートに来ることを思い出す。このような状況に置かれてなければ、友達である彼女が来てくれるのは喜ぶべきことなのに。

 

 

 今日のコンサートは危険だ。今からでも帰るように伝えようとしたのだが――。

 

 

「――本城さんっ!? 今すぐにでも――っ!?」

『どうかしたの!? 天音さん!?』

「……何でもないです。では、もう切りますので……」

『本当に大丈夫――』

 

 

 そこで連絡は終了させられた(・・・・・)。それと同時に、あの魔女の声が聞こえてくる。

 

 

『――ねえ、ブルームーン。約束と違うんだけど……他の『お人形さん』だったら、お仕置きものだよ? まあ、このコンサート(お仕事)が終わったら、存分に可愛がってあげるから。え、何々? 自分のことはどうなってもいいから、姉さんを巻き込まないでほしい? そんなの当たり前じゃん。姉さんの安全には充分に気を遣ってあるから安心して、コンサート(お仕事)を頑張ってね? というか、『お人形さん』がご主人様()に意見するのはマナー違反だから、そこら辺もじっくりと後で教えてあげる』

 

 

 

 

 ――今日は待ちに待った『歌姫』こと、魔法少女ブルームーンの公式最後(・・)のコンサートの日だった。当然だが、その事実を知る人間は僕とブルームーン本人しかいないのだが。

 

 

 姉さんも新しい友達の晴れ舞台ということもあり、応援する気満々だ。その気合いの入れ具合は、一応姉さんの妹として生きてきた僕でも初めて見る程であった。

 

 

 コンサートの開始時間に間に合うように、余裕を持って僕達は事前に調べていたルートで会場へと向かっていた。何とその道中では、逸れてはいけないということで姉さんが僕の手を引いてくれた。

 多少の気恥ずかしさもあったが、妹としての役得だと思って堪能し無垢な少女の仮面を被っていた。

 

 

 しかし、その裏では一定の自立行動を許している『お人形さん』――ブルームーンの様子の観察をして、内心我ながらあくどい笑みを浮かべていた。

 もちろん、他の魔法少女に『お人形さん』化がバレないように対策を施した上でだ。と言っても、他者の認識能力に干渉できる魔法を持つブルームーン限定の方法であることが残念だが。

 

 

 似たような魔法を行使できるフローラ(利恵さん)では、効力に差が結構ある為断念したのだ。

 と言っても、フローラ(利恵さん)は姉さんの所有物(『お人形さん』)をしている今の方が楽しそうだから良いかと思考を打ち切る。

 今だって飽きもせずに、姉さんに必死に呼びかけているが、魔法少女や魔女でもない姉さんが気づくはずもない。放置していても問題ないだろう。

 

 

 あ、そうそうブルームーンについてだった。ここ最近の日課となっていたブルームーンの監視という名のモニタリング。

 彼女も彼女で、外部に助けを求めようと無駄な努力を重ねていた。『お人形さん』になっている時点で、自力で僕の呪縛から逃れられる訳がないというのに。マジカルライトや『刃』の魔女が精神的に摩耗していたので、久しぶりに新鮮な反応が見れたので大変満足できた。

 いや、この程度で満足している場合ではない。だって、この後で見せてくれるだろうブルームーンの表情を想像するだけで、無意識の内にニヤけそうになるのを我慢するので精一杯だ。

 

 

 そんな僕の内なる葛藤を置き去りに、特に何の障害もなくコンサート会場に到着する。『管理委員会』がバックにあるせいか、スタッフに紛れて魔法少女と思わしき子が何人かいる。

 恐らくだが、会場の警備か何かだろう。思わずどうやって『お人形さん』にしようかなと考えそうになるが、頭を振ってその煩悩を打ち払う。

 あくまでも今日の目的は、ブルームーンが姉さんに魔法を使ったことへの『お仕置き』と、最近ここら辺で発生している連続魔法少女失踪事件の撹乱である。

 

 

 『管理委員会』側でこの事件のことについて、どのくらい把握しているかはブルームーンから聞き出している。どうやら似たような事件はなくはないようで、あまり深刻には捉えていないようだ。

 とはいえ、このまま調査にあたっていたブルームーンまでもが行方不明になってしまったら、『管理委員会』も本腰を入れて調査に乗り出して。

 凄腕の魔法少女や、人の捜索を得意としている魔法少女がいて投入された場合。僕の存在が露見してしまう恐れがある。

 

 

 家族の為にも万が一の時は覚悟をしているが、それは全くの無抵抗を意味する訳ではない。とは言ったものの、現状の『お人形さん』だけでは多勢に無勢。逆立ちしても勝ちの目はない。

 よって、より『お人形さん』の数を充実させる時間を稼ぐ為にブルームーンには汚れ役(・・・)をやってもらい、『管理委員会』の注意を惹きつけてもらう必要がある。

 もちろん、これはブルームーンへの『お仕置き』も兼ねている。自分の魔法が嫌いな彼女が、一番嫌がるようなことを暇さえあれば考えていた。

 その成果が結ばれる時が来たのだ。

 

 

 道中で姉さんがブルームーンに携帯で連絡をするというハプニングがあったが、せめてもの情けとして黙認してあげた。なんて優しいのだろうか、僕は。

 

 

 そして時間は経過し、コンサートは幕を開けた。流石は『歌姫』という二つ名を持つだけあって、彼女の歌声は素晴らしい。

 だけど、愚鈍な観客達は気づくこともないだろう。現在進行形で紡がれる音の旋律が、本調子とは程遠い強制的に歌わされている(・・・・・・・・・・・)という事実に。

 その笑顔の裏側で、必死に助けを。いや、逃げるように警告をしていることに。

 

 

 コンサートの最後辺りに差しかかった頃合いを見て、少々無理やりではあったが姉さんと一緒にお手洗いという名目で、一時的に会場から離れた。

 

 

 

(……これで気兼ねなく始められるね)

 

 

 『お人形さん』と化しているブルームーンと視界を共有し、肉体の制御を完全に奪う。

 突然止まったブルームーンの様子に、観客の多くが不思議そうに首を傾けているが、状況はまだ飲み込めていないようだ。

 まあ、どっちにしろ遅いけどね。

 

 

 ブルームーンの顔で嗤い、口をゆっくり開けると言葉の一つひとつに魔力を乗せて魔法を発動させる。

 

 

「――今日は()の為に集まってくれてありがとうね。一つだけお願いがあるけど、よーく聞いて」

 

 

 強制力を働かせて、観客達の耳を傾けさせる。と言っても、本当に聞いてほしいのは一部だけ(・・・・)だが。

 

 

「――お客様の中で妖精や、悪魔との契約を保留している女の子達にお願いします。()()()()()()()()()()()()()()()()。絶対にだよ?」

 

 

 ――ブルームーンの大嫌いな魔法を、最低最悪な使い方で使ってあげた。

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