趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第十九話 魔法少女セラフィナイト

 

 

 避難をしようとしてくる人達の流れに逆らって、私は天音さんの場所へと向かおうとしていた。だけど、その歩みは遅々として進まない。

 避難する人達の体に押し流されてしまうからだ。

 

 

(全然、進めない……!)

 

 

 と言っても、他の人達からすれば私の方が迷惑な存在だろう。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。先ほどの放送を全面的に信じる訳ではないが、天音さんに何かあったのは確実。

 このままでは利恵の時と同じように、私の手の届かない所に天音さんは行ってしまう。そんな予感があった。

 

 

 だから、本当は妹である操の近くに私はいるべきなのだが。衝動のままに駆けてきてしまった。

 けれど、この選択肢は正しかったのだろうか。操のことはもちろん、天音さんのことも友達として大切なのだが、何の力もない私が行った所で役に立てるのだろうか。

 

 

 そういった迷いが一度でも脳裏を過ぎると、振り払おうとしても消えることはない。思わず足を止めてしまいそうになる。

 

 

(……そうだ。力がないんだったら、その力を手に入れれば良いんだ)

 

 

 思い出すのは、少し前の――利恵が行方不明になってしばらく経った頃。今と同じように無力感に苛まれていて、力を求めていた時。

 私は一つの誘いを、契約を持ちかけられた。妖精から魔法少女にならないかという内容の。

 

 

 あの時の私は、その誘いを断った。だって、私は利恵の友人でもある前に操のお姉さんなのだ。操には余計な心配はかけたくない。

 魔法少女になってしまったら、必然的に争いの中に身を投じることになるから。

 

 

 でも、今はそんなことは言ってられない。利恵の時とは違う。頑張れば、まだ手が届く。

 

 

(――ごめんね、操。いつも約束を守るように言っている私の方が、約束を破ろうとするなんて。姉失格だね)

 

 

 自嘲の笑みが僅かに浮かぶが、すぐに表情を引き締める。

 

 

 大丈夫。操との約束を破ることにはなってしまうけれど、操が不安がることがないように圧倒的な力を持つ魔法少女になれば良いだけ。

 それで天音さんの問題を解決して、操に約束を破ったことを謝って。その後は利恵を見つけて、元凶と思わしき『刃』の魔女をぶちのめす。

 それら全部が片づいたら、操と利恵に天音さんも誘ってどこかに遊びに行こう。うん、我ながら良い考えだ。

 

 

 考えは纏まり、覚悟も決まった。

 あの妖精が言っていた言葉の続きを思い出す。

 

 

『――だけど本当に力を求める気があるんだったら、私を呼ぶといい。その時を楽しみにしてるよ』

 

 

 気がつけば、私の周りには人影はなくなっていた。もしかして、いつの間にか避難は完了していたのだろうか。いや、その程度の違和感など今は関係ない。

 

 

 私は虚空に声をかける。

 

 

「――ねえ、そこら辺にいるのよね? 妖精さん」

 

 

 傍から見れば、独り言を呟いている電波な感じに見えてしまうだろうが、私には確信があった。そこに妖精がいるということを。

 

 

 果たして、それは正解だった。

 

 

「――おやおや、ようやく声をかけてくれたね。待ちくたびれたよ」

 

 

 何もない空間が歪み、そこから一体の妖精が現れる。その妖精の体は虹色に発光していて、同色に輝く羽根を持っていた。荒んでいた心が落ち着くような温もりがある。

 

 

「……本当に自分勝手な話だと分かっているけど、私と契約してほしいの。友達を助ける為に」

「うんうん、良いとも。私達、妖精はいつでも悩める女の子達の味方だからね。お友達を助けたい。何とも素敵な動機じゃないか」

 

 

 芝居がかったように両手を空に向かって広げて、妖精は語る。

 

 

「なら、善は急げだ。もたもたしていると、そのお友達がどこか遠くに行っちゃうかもよ?」

「……分かってる」

「よし、この私と――セラフィックと契約してくれるかい?」

「……うん」

 

 

 妖精――セラフィックのその言葉に同意を示した瞬間に、私とセラフィックを繋ぐ見えない糸のようなものができる。それと同時に、不可視の『糸』を伝って力が私に向かって流れ込んでくる。

 あまりの力の強さに、軽い立ち眩みを覚える。

 

 

「うっ……」

「大丈夫かい?」

「え、ええ……」

「なら、良かった。契約も無事に完了したみたいだ。これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね? セラフィナイト」

「……セラフィナイト?」

「君の魔法少女としての名前だよ。本当は魔法少女本人に決めてもらうのが通例なんだけど、今回は緊急事態だからね。勘弁してくれるかな?」

「……私は別に構わない。それにしても、これが魔法少女に変身した私……」

 

 

 視線を落として、自分の姿を見る。お出かけ用の私服は一変していた。純白を基調としたドレスで、光の加減によっては虹色に輝いても見える。

 黒髪は金髪に変化し、天使の輪を模したアクセサリーで留められていた。

 

 

 力も体の底から湧いて出てきている。今なら何でもできそうだ。天音さんを助けることも、操を守ることも。

 

 

「――じゃあ、行こうか。優衣……じゃなくて、セラフィナイト」

「うん。こっちこそ、よろしくね。セラフィック」

 

 

 ――あれ? 私って、まだ名前を教えたはずはないんだけど。

 

 

 そんな疑問を気にしている場合ではなく、私はセラフィックを伴い再び駆け出した。

 

 

 

 

「ね、姉さん!?」

「すぐに戻ってくるから、大丈夫」

 

 

 そう言って、姉さんは僕を避難誘導をしていたスタッフの一人に預けると、人混みの中に掻き消えてしまった。想定外の行動で、反応が遅れてしまい姉さんの姿を見失ってしまった。

 

 

 何故姉さんが僕を置いて行ったのか。その原因はさっきの放送だろう。ブルームーンが乱心して暴れ始めた。

 そんな内容を聞いたせいで、友達想いで優しい姉さんは自分の身を顧みずに駆け出してしまったのだろう。()()()()()()()()()()()()()

 

 

(……これが利恵さんだったら、ちょっとだけ妬いちゃうけど納得はできる。だって、利恵さんは姉さんの一番の友達だから。……だけど、ぽっと出のブルームーンに僕が負ける?)

 

 

 信じたくはないが、現実はそうなってしまっている。たとえ、それが一時の気の迷いだったとしても。

 

 

(……ああ、腹だたしいな。やっぱりブルームーンを許すのはなしだ。と言っても、ここでこれ以上遊ぶのは危険だからね。早く引き上げさせようか――あれ?)

 

 

 一旦怒りを飲み込み、『お人形さん』となっているブルームーンに撤退の指示を出そうとした瞬間。ブルームーンとは別の『お人形さん』――フローラ(利恵さん)を通して、とんでもない状況を知ってしまった。

 

 

 僕が把握していない所で、姉さんは妖精と接触していたらしい。確かにそれらしい兆候はあったが、最終的には魔法少女にならないことを選んだはず。

 まさか保留という形にしていたとは。

 

 

 しかし、一歩間違ったらブルームーンの魔法に巻き込まれて、僕の意図しない形(・・・・・・)で姉さんが魔法少女になる所だった。危ない、危ない。

 

 

 そこで、ふとある疑問が過ぎる。

 

 

(……だけど、どうしてこのタイミングで姉さんの前に妖精は出てきたのかな? まさか――!?)

 

 

 一つの可能性に思い至り、反射的にフローラ(利恵さん)に命令を出してそれ(・・)を阻止しようとした。だって、今だと僕の作戦が。感情のブレーキがぐちゃぐちゃになり、自分を律することができなくなってしまう。

 

 

 だが、僕の命令が反映される前に姉さんと妖精の契約は完了してしまった。姉さんの姿は変身前と一変していて、それはもうとっても素晴らしかった。

 

 

 姉さんの打算のない優しさを体現したかのような純白なドレス。髪色は魔女に変身した僕のものと同じ金色で、それを留めるアクセサリーも合わさって、まるで天使のようだ。

 

 

 これまで見てきたどの魔法少女も、今の姉さんには及ばない。ああ、今すぐにでも姉さんを『お人形さん』にしたくなっちゃうなぁ。

 

 

(――いや、いかんいかん。ここまでやっておいて、ノリで行動したら全部がパーになっちゃう。……でもなあ、こんな時に姉さんが魔法少女になるなんて。衣装はすっごく可愛いし、動機も友達想いって王道っぽくて良いんだけどね……。あー、もうどうしたら良いんだ!)

 

 

 両手で頭を抱えてしまう。が、僕を保護してくれるスタッフを含めて誰もその行動に違和感を持たない。というか、そんな余裕がある人は誰もいないだろう。

 状況を整理する為に、思考に没頭できるので大変助かる。

 

 

(……このまま放置しておいたら、姉さんはブルームーンの所に行っちゃうよね。それでブルームーンが『お人形さん』になっていることに気づかれると、連鎖的に僕の正体がバレちゃう……。それは駄目だ。バレるにしても、このタイミングじゃない)

 

 

 そこまで考えて、計画を僅かばかり変更する必要に思い至る。ブルームーンが捕まってしまい、『お人形さん』になっていることや僕が魔女であることが露見するのは絶対に避けなければならない。

 だからブルームーンにはそろそろ撤退してもらおうと思っていたが、姉さんの存在が僕の計画を狂わせる。今の姉さんが、魔法少女としてどの程度の力を持っているか分からない。

 だけど、一つの確信がある。僕が何もしなければ、姉さんはブルームーンを救ってしまう。妹としての直感が告げてきていた。

 

 

(あー……嫌だな。妹としても、魔女としても姉さんが活躍するのは嬉しいはずなんだけど、一時的に離れ離れにならないといけないのか。最悪な気分だよ)

 

 

 どう嘆いた所で、既に賽は投げられた。このまま突き進むしかない。だから、今は我慢だ。

 

 

(……姉さん。いや、魔法少女セラフィナイト。少しだけ待っててね)

 

 

 ――僕は誰も気づかれないように、静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ――私が置かれている状況は、変わらずに地獄だった。私の魔法のせいで、強制的に契約を結ばされた魔法少女や魔女。

 彼女達は自分の意思に関係なく、暴れさせられていた。

 

 

 そんな彼女達を止めるべく、会場の警備についていた『管理委員会』から派遣されていた数名の魔法少女。数で劣ってはいたが、練度が成り立ての魔法少女や魔女とは比べ物になる訳がなく。最初は奇襲性もあって押され気味ではあったが、徐々に優勢になりつつあった。

 そう時間も要さずに、急発生した魔法少女や魔女達の制圧は完了するだろう。それを手伝うどころか、むしろ今の私はどっちかと言えば不可抗力とはいえ魔女側にいる。

 

 

 一方で、観客達の避難も順調に進んでいる。本城さんも無事に避難できているはずだ。あの魔女の言葉を信じるのではあれば、だが。

 

 

(……最悪本城さんが無事なら、他に望むものはありません)

 

 

 私の心の中は諦観が支配していた。何故なら、ここで私が助け出される可能性はゼロに等しい。

 今までの発言や行動から考えてみて、あの魔女がこの程度で私への嫌がらせを済ませる訳がない。

 それに運良く魔女の支配から解放されたとしても、私は魔法少女として活動することは――いや、何なら普通の生活を送ることすら叶わないかもしれない。

 

 

 今回の事件で、ブルームーン()は魔女と同じような存在として世間から認識されてしまった。洗脳されていたからとか、多くの一般人には関係ない。むしろ、魔女に敗北して操られる弱者のレッテルが貼られることだろう。

 どちらにせよ、一度の失態が私の人生に終止符を打つのだ。

 

 

 もう現実(地獄)を見るのも疲れた。もう魔女の笑い声を聞かせられるのも、同僚の魔法少女や観客達からの恐ろしいものを見るような視線に晒されるのも、

我慢できなかった。

 

 

 何も考えたくなくて、意識に蓋をして体だけではなく、心まで文字通りの人形に変わり果てようとした時。

 

 

 それまで上げていた笑い声や先ほどの動揺を一切感じさせない声色で、あの魔女はぽつりと呟く。

 

 

『――うん。まあ、仕方ないか。姉さんと触れ合える最後の時間になると思うから、しっかりと楽しむんだよ?』

 

 

 私はそれに返答することもできず、あいも変わらずに操られるしかなかった。だが、すぐに魔女の言葉の意味を理解する。

 

 

「――ごめんなさい、天音さん。待たせちゃって」

 

 

 今の私が一番会いたくない(会いたい)少女が、身に覚えのない衣装を纏って姿を現した。

 その声の主は、本城さんであった。

 汚れを知らないような純白のドレス姿は、まさに天使のような出で立ちで神々しく感じられた。その通常のものとは思えない装いから、諦観で麻痺していた思考が最悪な予想を導き出す。

 

 

(……もしかして、本城さんもさっきの私の魔法に巻き込まれたのでしょうか? 私は何ということを……!?)

 

 

 自責の念に駆られそうになるが、そこで違和感に気づく。

 

 

(……よくよく見てみれば、今の本城さんは正気を保っているように見えます。であるなら、私の魔法で無理やりに魔法少女にした訳ではないようですね。そこは安心しました)

 

 

 我ながら自分勝手なことばかりを考える。あの魔女に操られているとはいえ、大惨事を現在進行形で起こしているというのに。

 しかし、本城さんはいったいいつ魔法少女になったのか。タイミングから考えて、つい先ほどのことだろう。では、何故彼女はこんな危険な場所に来たのか。

 口が動くのであれば、逃げてほしいと伝えたい所ではあるが叶うはずもなく。けれど、巡る思考は止まらない。

 

 

(……まさか私を助ける為に、妖精と契約を!?)

 

 

 そんな夢のような、都合の良いことがあり得るだろうか。もしも今のこの状況が現実であるのならば嬉しいと思う反面、本城さんの妹を騙る魔女の異常性を思い出す。

 魔法少女を『お人形(使い魔)』にし、コレクションにして悦に入るという、個人の尊厳を徹底的に貶める最低最悪なもの。

 

 

 あの魔女は本城さん()を大事にしていると公言はしていたが、その倫理観は異常者そのもの。私が思い描くような一般的なものとは程遠いはず。

 それだけではなく、意図しているかは不明だが本城さんは魔法少女になってしまった。

 

 

 魔法少女()を目の前にした時に、あの魔女はどういった行動に出るのか。家族の情として見逃すのか、私と同じように『お人形(使い魔)』にしようとするのか。

 

 

 そのような事態にはなってほしくはないはずなのに、私は一瞬だけこう考えてしまう。

 

 

 本城さんも『お人形(使い魔)』になってしまえば、ずっと一緒にいられるのではないのか。そんな退廃的で、甘美な誘惑が囁きかけてくる。

 

 

(――はっ!? 私はいったい何を考えているのですかっ!?)

 

 

 いくら精神的に弱っているとはいえ、到底許される考えではない。

 

 

(……ごめんなさい、本城さん。私は貴女に救われる資格なんか――)

 

 

 そんな私の葛藤は知らずに、止まっていた体が再び動かされた。本城さんに攻撃を加える為に。

 

 

 

 

 

『――へえ、想定外の壊れ方だ。上手くいけば、その夢も現実になると思うから、精々僕の指示通りに踊ってね? ブルームーン』

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