趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第二十話 悪辣な一手

 

 

 私は友達(天音さん)を助ける為に、妖精と契約し魔法少女セラフィナイトとなった。その選択肢自体には後悔はない。

 魔法少女にならないという操との約束を破ってしまったことに対する申し訳なさはあったが、それもこの騒動を収めれば解決する。だって、操を守れる力も手に入ったのだから。

 

 

「へえ……あれがブルームーンか。確か『歌姫』の二つ名で有名な魔法少女だっけ? 何も困ったことはなかったはずなのに、こんなことをやらかすなんて何があったのかな? それとも元から魔女側よりの性格だったのかな? 彼女の魔法は、人の精神を操――」

「――黙ってくれない、セラフィック。天音さんのことを悪く言うのは許さない」

「おお、怖い怖い。怒らないでくれよ、セラフィナイト。私は現状を分析していただけだよ。それにしても、ブルームーンと契約している妖精はどうしたんだろうね? 個人主義者が多い悪魔とは違って、妖精(私達)は人類の協力者を自負しているんだ。よっぽどのことがあったとしても、君達に不利益になることはしないはずなんだけどね……」

 

 

 困ったように、肩を竦めるセラフィック。先ほど契約したばかりの妖精の態度に、少しだけ思う所がなくはないがその口から語られる情報は役に立ちそうなので、あまり賢いとはいえない頭で必死にかみ砕いた。

 

 

(……妖精のセラフィックから見ても、今の状況は異常ってことよね。それに自惚れている訳じゃないけど、私の呼びかけに天音さんが無反応はおかしい)

 

 

 思考を中断して、改めて天音の方に視線をやる。今の天音さんは名前にある通り月を連想させるような、青色のドレスを着込み、魔法少女としての姿になっている。

 だが、ライブ中に浮かべていた笑顔はどこにやら。今の彼女の表情は虚ろであり、無機質な人形のように感じられた。

 

 

 それに加えて、ここ数日間の付き合いで天音さんがこのようなことをするような性格の持ち主ではないことは、友達である私は理解していた。

 ならば、現在の彼女が置かれている可能性は一つしかないだろう。

 

 

「――操られているみたいだね、ブルームーンは」

「……ええ。そのようね」

「……だけど、奇妙だなー。一般人ならともかく、魔法少女や妖精を洗脳したりできるなんて。私が把握している限り、そんな魔法を使う魔女はいなかったような気がするけど。未確認の魔女かな?」

「相手は誰でも良いわ。天音さんを助けた後は、その魔女を必ず見つけ出して絶対にボコボコにしてやる。……それにただの勘だけど、天音さんを操っている魔女は私の探し物(・・・)について知っていそうだし」

 

 

 拳をぐっと握り締めて、決意をする。そして天音さんに――いや、彼女を魔法で操っている魔女に向かって宣言する。

 

 

「――精々、首を洗って待っていなさい。人形遊びが好きな陰気な魔女さん」

 

 

 その言葉が聞こえて腹が立ったのか不明だが、それが合図となり天音さんは私に襲いかかってきた。彼女がしないであろう、気色の悪い笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 ――魔法少女ブルームーンの武器は、その歌声であった。他の魔法少女のように、分かりやすく剣や槍といった武器を振るう訳ではなく、虚空から炎や雷を生み出して敵に放つような戦い方はしない。

 

 

 ブルームーンの魔法は、昔の船乗り達に恐れられていた人魚の歌声のように、それを聴いた対象の精神を不調に陥らせて、一時的に行動不能にさせる。

 その間に他の魔法少女と協力して相手を無力化したり、抵抗力が一番弱い相手を操って同士討ちさせたりするのが、ブルームーンの主な戦法であった。

 

 

 ブルームーン(天音さん)が急接近してきて、戦闘経験が皆無な私はその行動に驚き距離を取ってしまった。先ほどあれだけの啖呵を切ったというのに、及び腰な自分に思わず舌打ちをしてしまう。

 

 

「落ち着いて、セラフィナイト」

「……分かってるわよ、言われなくても」

 

 

 自分が思っている以上に、焦っていたようだ。深呼吸をして、焦燥感を抑える。うん、落ち着いた。

 

 

 そんな私の様子を、ブルームーン(天音さん)――を操る魔女は興味深そうに。あるいは可笑しそうに薄く笑っていた。

 天音さんの顔で、そんな表情をしてほしくないという怒りがふつふつと沸いて出てくる。

 

 

 改めて、攻勢に出ようとするよりも前に。ブルームーン(天音さん)は指揮者のように両手を振るうと、彼女の前に会場のどこからか二人の魔法少女が降り立つ。

 彼女達の表情も虚ろで、操られていることが伺える。しかし天音さんと比べて、動きが若干鈍いような気がする。もしかすると、操っている方法が別口なのだろうか。

 

 

(……いや、今はそんなことよりも早く天音さんを助けて上げないと)

 

 

 

 

 僕はブルームーンの体を操りながら、姉さん――いや、この場合は魔法少女セラフィナイトと呼ぶべきだろうか――と戦っていた。自分でも言うのは何だが、僕と姉さんの姉妹仲は良く、喧嘩の一つもしたことはなかった。叱られたことは何度かあったが、それはどれも僕に非があった。今よりも小さい時に、精神が肉体に引っ張られて突拍子もないことをしてしまったことが原因だ。

 

 

 精神と肉体のバランスが不安定で、そこそこ危うい状態であった当時の僕を、姉さんや両親は見放すことはなく、真剣に向き合ってくれたのだ。

 だから、()()()()()今世の家族には迷惑をかけたくはなかった。

 しかし運命とはままならないもので、僕は魔女に。姉さんは魔法少女になって。

 初めての姉妹喧嘩が、こんな形になるとは想像すらしたことがなかった。以前までの僕であれば、罪悪感で潰れてしまっていただろうけど。

 

 

(……こういうのも、悪くはないかも)

 

 

 そう思ってしまう自分もいた。だって、僕を叱る為に怒られたことはあっても、今のように憎しみが込められたような。汚物を見るような視線を姉さんから向けられたことはない。

 

 

(……ぞくぞくしちゃって、おかしくなりそう)

 

 

 なけなしの理性が決壊しそうだ。せっかく変身直後に不意打ちで襲いかかろうとしたのを我慢したというのに、僕の努力が水の泡になってしまうじゃないか。

 

 

 深呼吸をして、昂っていた気持ちを抑制する。駄目だ、全然収まらない。僕をこんな気持ちにさせるなんて、姉さんは魔性の女だったり特殊なフェロモンでも放ってたりしない?

 現に僕だけじゃなくて利恵さんやブルームーンも、姉さんに対してただの友情よりも少しだけ重たい感情を抱いていたように見えていた。うん、姉さんが大好き勢(同族)ならではの嗅覚かな?

 

 

(……だけど、思ったより状況は良くないかもね)

 

 

 僕はただ単に興奮しているだけの変態ではない。一応ブルームーンを操る傍らで、今後の方針について考えていた。ちゃんとね!

 

 

 現状の一番不味いのは、姉さんにブルームーンが操られているという事実がバレてしまったことだ。正確に言えば、まだ憶測の段階のようだが誤差の範囲だろう。

 当初の予定である、ブルームーンの名声や評判を地に落とそう大作戦は充分な効果は発揮できそうにないなぁ。残念。

 

 

 でも、ブルームーンの裏にいるのが僕であると判明した訳でもない。あくまでも、他者を操る魔女がいるという可能性に過ぎない。

 それならば、いくらでも動きようはある。

 

 

 現在セラフィナイト(姉さん)は、ブルームーンの魔法で操っているインスタント魔法少女の二人を相手にしていた。

 セラフィナイトは魔法で作り出した神々しい光を放つ西洋剣を手にし、二人のインスタント魔法少女と互角に渡り合っている。

 

 

 もちろん嫁入り前の大事な姉さんの体には傷をつけたくはないので、手加減はしている。しかしそれを抜きにしても、セラフィナイトは初戦闘とは思えない程に上手く立ち回っている。

 なった動機を含めて、まるで魔法少女になるべくしてなったような逸材であった。

 

 

(……これじゃあ、()()()()()()()()のが馬鹿みたい。まあ、いいや。メインディッシュは最後にじっくり味わえれば、それでいいしね)

 

 

 それにインスタント魔法少女と魔女は僕の『お人形さん』ではなく、ブルームーンの魔法で洗脳し遠隔で操っているだけで。今回の作戦で使い潰す捨て駒に過ぎないのだから。

 

 

 もしも今回のトラウマを乗り越えて、正式に魔法少女を目指すというのであれば『お人形さん』に加えて上げなくもないけど。

 

 

 ブルームーンの魔法は強力であるものの、直接的な攻撃性はない。それに加えて、インスタント魔法少女や魔女を暴れさせるだけでも、それなりに意識を割かないといけない。

 よって、セラフィナイト(姉さん)の勇姿を後方で見守ることしかできないけど、今はそれだけで満足だ。

 だって、楽しみは最後まで取っておかないとね。ブルームーンや利恵さんも、そう思うでしょう?

 

 

 

 

 ――私は初陣というのに、洗脳状態の魔法少女を二人も相手にしていた。本当であれば、さっさと彼女達を無力化して天音さんの下に駆け寄り、正気に戻して上げたいのだが中々それは叶いそうにない。

 

 

 油が切れかかっているみたいに、どこか動きがぎこちない二人の魔法少女。しかし、それでも魔法少女になったばかりで、争いごとには全く無関係であった私には強敵に感じられた。

 

 

 彼女達の内の一人が、私に向けて魔力の光弾を放ってくる。それを反射的に両手で構えていた剣で切り裂き、消滅させる。

 

 

「――大丈夫かい? セラフィナイト」

「……一応ね!」

 

 

 契約妖精であるセラフィックの言葉に適当な返事をする。先ほどからそんな感じだが、別にそれは彼(彼女?)に対して冷たくあたっている訳ではなく、ただ単にそんな余裕が今の私にはないからだ。

 成り行きで魔法少女になってしまい、セラフィックのことは全然知らない私だが、この事態が収束して一旦落ち着いたら、ゆっくりと関係を築いていきたい。

 そう考えている。

 

 

 と言っても、優先すべきは天音さんを顔も知らない、悪趣味な魔女の支配から解放することだ。そう意識を切り替える為に、私は両手で剣を強く握り直した。

 

 

 ――私が扱える魔法は、『魔力を聖なるエネルギーに変換する魔法』だった。言葉だけであったら、私でも理解できる自信はなかったが、変身した直後には問題なく使用可能になっていた。

 まるで、それまで日常的に使っていたかのような感覚だった。

 

 

 『聖なるエネルギー』と言われただけではピンと来ないが、呪いの解呪――要するに他の魔法の効果を強制的に打ち消すことが可能ということが、感覚的に分かった。

 それ以外の使い方は、今は役に立ちそうにないので無視しておく。

 

 

 現在の天音さんが、姿を見せていない魔女に操られているのはほぼ確定事項と言っていい。そして、その天音さんがさらに魔法を使って、複数の魔法少女や魔女を操っている。というのが、今の有様だ。

 確定した訳ではないが、先ほどから感じている天音さんと他の魔法少女や魔女達の動きの違いから見て、まず間違いないだろう。

 

 

 私の魔法無効化の力を具現化させた剣で一撃でも与えれば、どちらの洗脳魔法も解除できるのだが。

 私が初戦闘ということもあり、拙い動きでは十回に一回攻撃が通れば良い方で、万が一当たったとしても天音さんの魔法で即座に洗脳し直されてしまう。

 

 

 ならば、天音さんにかけられている大元の洗脳を解こうとしても、取り巻きの魔法少女達が邪魔になり、戦況は膠着状態に陥っていた。

 

 

「……これじゃあ、埒が明かない!」

 

 

 吐き捨てるように言うが、現実は変わらない。ブルームーン(天音さん)を操る魔女は、あいも変わらずに気色の悪い笑みを浮かべるだけ。

 

 

 だけど、この膠着状態は決して私にとって悪い話ではない。この会場では、私以外の正式な(・・・)魔法少女が洗脳状態の魔法少女や魔女を相手に戦闘を行っているが、素人目で見てもそう遠くない内に決着が付くだろう。

 もちろん、前者の勝利という形で。

 

 

 私一人の力で天音さんを助けることができないのは残念だけど、我儘を言ってこれ以上彼女の尊厳を傷つける訳にいかない。

 

 

 そう考えを巡らせながら、戦闘を行っているとだんまりを続けていた天音さんを操っている魔女が小さな笑い声を上げた。

 

 

「ふふふっ。本当に尊くて、愛おしいよ」

「……何が面白いの? 何がしたかったのかは分からないけど、お前の企みも失敗に終わろうとしているのに」

 

 

 冷静な部分が、魔女の言動が挑発であると理解しつつも、タイミング良く私と交戦している二人の魔法少女の攻撃を止めたので、警戒は怠らずに魔女との会話に乗ってみる。

 相手もそこまで馬鹿ではないだろうが、何かしらの情報を、利恵についての情報が得られるかもしれない。そんな淡い期待があった。

 私の直感も、天音さんを操っている魔女が利恵の失踪にも一枚噛んでいると囁いている。

 

 

 そんな私の態度に、魔女は嗤う。

 

 

「……いや、ね。ねえさ――君からそんな冷たい反応をされるなんて、今までなかったから新鮮でね」

「――今まで(・・・)? お前、もしかして私と前に会ったことがあるの!?」

 

 

 私の疑問に、魔女は肯定することはなく。致命的な隙を作り出す一言を放つ。

 

 

「――謎解きに耽るのは構わないけど、急いで決着を付けなくて良いの? 大切な妹さんが無防備みたいだけど。しっかりと守っておかないと、()みたいな悪ーい魔女に手を出されちゃうかもよ?」

「――お前っ!? まさか、操にまで――っ!?」

「……その表情、凄く良いね。まあ、本番は後に取っておくよ。じゃーね」

「待ちなさいっ!? 逃がすとでも……!」

()に構っている暇があるの? セラフィナイト。早くしないと妹さんがどうなっても知らないよ?」

 

 

 その発言を最後に、私は操られている天音さんを後回しにするしかなかった。心の中で、必死に天音さんに「ごめんなさい」と繰り返しながら。

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