趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第二十一話 失意と裏事情

 

 

 ――私は天音さん(友達)よりも、()を優先した。してしまった。姉としては正しい選択のはずなのに、どうしようもない程に大きな罪悪感を抱いてしまう。

 

 

 操られていて、自らの意思で言葉を紡げない天音さんに背を向けた瞬間に、こう言われた気がした。

 

 

 ――私を見捨てるんでしょうか? 実は酷い人だったんですね。本城さんには失望しました。友達の私よりも、魔女の口車に乗せられて、本当に危ない目に遭っているか分からない妹さんを助けに行くのですね。

 

 

 もちろん私が知っている天音さんなら、そう言わないはず。優しい彼女なら、納得してくれる。そう思い込み、私は幻聴を振り払おうとした。

 

 

(……操の無事を確認したら、すぐにでも戻ればいいだけよ。それに私じゃなくても、他の魔法少女達がきっと天音さんのことを助けてくれるはず)

 

 

 再び操をスタッフさんに預けた場所に戻ろうとした瞬間。天音さんの声が聞こえた。しかも、今度は私の罪悪感が生み出した幻聴ではなく、彼女本人の声であった。

 

 

 先ほどまでの操っている魔女が浮かべていた、生理的に受け付けない笑顔ではなく。助けを求める憐れな少女としての悲痛な表情だった。

 

 

 天音さんの口が動く。

 

 

「……助けてください。本城さん」

 

 

 多少の距離はあったが、魔法少女に変身したことで強化された私の聴覚は、そのSOSを一字一句取りこぼすことなく、拾ってしまう。

 操の所へ向かおうとした足が止まってしまう。

 

 

(……あれ? さっき天音さんが喋れるようになった? 本当に? 操っている魔女が言わせているんじゃなくて?)

 

 

 今の私には、どっち(・・・)が話しているのかを冷静に判断することはできなかった。助けを求める声色に、視線。そのどれもが本物の天音さんらしさを感じる一方で、これまでの魔女の言動から考えるに私を足止めする為の演技にも感じられた。

 天音さんを大事な友人の一人だと嘯きながら、私は目の前で話す彼女を本人であると自信を持って言い切ることができない無能だった。

 

 

 思考が止まる。焦りが加速する。天音さんを操っている魔女の魔法を考えれば、今こうしている間にも操に魔女の毒牙が迫っていてもおかしくない。

 私はいったい、どうすれば――。

 

 

「……ごめんなさい、天音さん。後で必ず助けに戻るから」

 

 

 改めて、操を優先する旨の言葉を天音さんに向かって言ってしまった。天音さんの表情が絶望に歪む。

 

 

(……あれは、魔女が無理やりにさせているに過ぎない。うん、そうよ。天音さんだって魔法少女なんだから、何の力も持っていない操を守りたいという気持ちは理解してくれるよね?)

 

 

 そう思い込まないと、良心の呵責で潰れてしまいそうだから。

 

 

 

 

 魔法で肉体を支配下に置かれた私には、自らの魔法で作り出された惨状と事態を打開しようとする魔法少女達――特に私の為に(・・・・)魔法少女に変身してくれた本城さん――を見守るしかできなかった。

 魔女が私の口を使い、本城さんが大切にしている人物に危害を加えることを仄めかして、動揺を誘う。

 その裏事情を知る身としては、実の姉ですら玩具としか見ていない人格の破綻ぶりに恐怖を抱く一方で。その事実を本城さんに伝えようと何とか手段を模索していた。そんな方法はないというのに。

 

 

 私の悪足掻きを面白く思ったのか、あの魔女は一つの賭けを提案してきた。

 

 

『――ねえねえ、ブルームーン。一つ、賭けをしてみない? 今から喋る自由だけは与えて上げるから、それで姉さんに何か言ってみて。僕よりも、君のことを優先して助けようとするなら、僕も君を解放して上げると約束するよ。あ、もしかして疑っているでしょ。姉さんが関わることだったら、僕はあまり(・・・)嘘を吐きたくないからね。安心してよ』

 

 

 これまでの魔女の言動を見て、いったいどこに信頼できる要素があるだろうか。と言っても、今の私に選択肢はない。

 もしも無視して魔女の機嫌を損ねてしまった場合に、本城さんにも魔女の怒りの矛先が向かってしまうかもしれない。

 それに、ほんの僅かにであったが、本城さんが私を助け出してくれる。そんな未来を期待していた。

 

 

 しかし、淡い希望は木っ端微塵に砕かれた。一瞬だけ躊躇うような反応を見せたものの、本城さんは私の本心からの言葉を偽物(魔女)のものと判断して去って行ってしまった。

 胸の中に、期待を裏切られた絶望だけが残る。理性では、妹想いの本城さんであったなら何らおかしくはない行動であることを理解しながら。

 

 

『あーあ、残念だねぇ。ブルームーン。姉さんは君よりも、僕の方が大事みたいだよ。うふふ』

 

 

 あいも変わらずに、あの魔女の言葉が脳内に響く。拒絶することができない雑音に、残り少ない正気が削られていく。

 

 

『賭けは僕の勝ちみたいだし、もうこの場にいる理由はないかな。インスタント魔法少女や魔女達が回収できないのは残念だけど、大事の前の小事。前座にもならない子達は諦めるしかないね。

 それに、今日からはブルームーン()で直接遊べるから、セラフィナイト(姉さん)を迎えるまでの退屈凌ぎには事欠かないだろうし。ぐふふ』

 

 

 ――その言葉を最後に、魔女は再び私の全ての自由を奪うと、魔法を存分に活用してまんまとコンサート会場からの逃亡に成功してしまい、私の平穏な日常は二度と訪れることはなかった。

 

 

 

 

 ――友達(天音さん)を見捨ててしまった罪悪感に潰れそうになりながらも、私は操がいるであろう場所に急いで向かっていた。

 血相を変えて空中を飛ぶ私の姿に目を向ける者もいるが、そのほとんどはすぐに我に返って外に逃げ出そうとする行動を再開する。

 平常時であれば、彼らの視線に恥ずかしさを覚えたであろう私の方も、今は気にする余裕がなかった。

 

 

(……大丈夫。操のことはスタッフさんがきちんと見てくれているはずよ、きっと。突然のことで迷惑をかけちゃったから、ちゃんとお礼を言わないと――)

 

 

 さっきの天音さんを操っている魔女の発言は、あの場から逃げ出すことを目的に私を動揺させる為以外の意味を持っていないはずだ。

 だから操は無事であり、返す足で天音さんの所に引き返せば無問題。そう信じ込みたかった。

 

 

 それとは反対に、私の脳裏には嫌な予感がずっとしていた。

 

 

 今もなお観客達の混乱を何とか収めて、必死に避難誘導しているスタッフさんの中から、私は目的の人物を探していた。

 そこで、ある違和感を抱く。時計を確認した訳ではないので、正確な所は不明だが私が操をスタッフさんに預けてから今に至るまで、それなりの時間が経過しているはず。

 

 

 だというのに、避難が完了しているか一段落しているということもなく、むしろよりパニックに陥っているようにも感じられた。

 よく見てみれば、廊下や壁といった施設の一部が破損しているのが確認できる。このような損傷を出すには、いくら混乱に陥っているとはいえ、何の力も持たない一般人では不可能だろう。

 つまり導き出せる結論は、これを行ったのは魔法少女か魔女であろうということ。

 

 

(――まさか、あの魔女が言っていたことは脅しでも何でもなかったの……!? 操……!?)

 

 

 慌てて、人混みの中から操の姿を探すことを再開する。違う、いない、いない、いない――。

 

 

(――あっ! あの人はっ!?)

 

 

 そこで操本人ではないが、彼女を預けたスタッフさんを発見した。近くに操の姿はないが、それはもっと安全な場所に連れて行ってくれたのだろうと、自分を納得させる。

 そのスタッフさんは避難誘導には参加せずに、むしろその邪魔にならないような隅の壁に背をもたれさせて、休んでいた。軽い負傷をしているようにも見えた。

 

 

 最悪な想像が、ますます現実味を帯びていく。

 

 

 焦る気持ちをなるべく抑えて、そのスタッフさんに話しかけた。

 

 

「――すいませんっ! 操は……私の妹はどこにいますか!? 無事でしょうか!?」

「ん? 君は……もしかして、さっきの子のお姉さん?」

「はい! それで操は……」

「……すまない。私達の力が及ばなかったばかりに、君の妹さんは……」

「――え?」

 

 

 ――スタッフさんが何を言っているか理解できない。理解したくない。だが、状況証拠だけでも、あの魔女が言っていたことが脅しや虚言の類でもなかった事実は充分に突きつけられていた。

 

 

「……本当に申し訳ない。言い訳のように聞こえるかもしれないが、突然魔女が現れたと思ったら一直線に君の妹さんを狙って、連れ去っていたんだ。もちろん私を含めて庇おうとしたのだが、相手が魔女となると一般人でしかない私達では……」

 

 

 その後も色々と話されたような気はしたが、ほとんど頭には入ってこなかった。だって、そうだろう。友達を一時的にとはいえ見捨てる選択をした上で、自分の妹を優先したというのに。それが無駄だったのだから。

 馬鹿で愚かな自分自身があまりにも滑稽で、無意識の内に乾いた笑みが浮かんでいた。

 

 

 だけど、そんな私を現実に引き戻す一言が投げられる。

 

 

「――こんな所で油を売っている暇はあるのかい? セラフィナイト。早く、さっきの友達の所に戻らないと。彼女は君の助けを待っているはずだよ」

 

 

 私の契約妖精であるセラフィックから、声がかけられる。

 

 

 ――そうだ。まだ天音さんが、私のことを待っていてくれているはず。順番が逆になってしまうことは、操には後で謝るとして、すぐにでも天音さんの所に行かないと。

 

 

 周りの反応を気にすることなく、私は元来た道を戻った。今度こそ、友達を助ける為に。

 

 

 ――しかし、そんな私を待っていたのは、操られたままの天音さんが会場から逃走したという事実だった。

 

 

 

 

「――想定外のことが多い上に、最初は計画が破綻しちゃって『もう、おしまいだー』とか思ってたんだ。でも、我ながら良い機転を利かせたと思うよ……って、さっきからぼうっとしているみたいだけど、僕の話をきちんと聞いているのかな? ブルームーン」

 

 

 気持ち良く話していたのに、ブルームーンが無視するような態度を取ってきたので、「僕、怒っています」と伝わるようにわざと表情を作り、声のトーンを落とす。

 見事にそれに騙されてくれたブルームーンは、これ以上僕の機嫌を損ねないように、一生懸命に首を縦に振って「話を聞いていた」と意思表示を行う。

 その健気さに免じて、僕は笑顔を浮かべてブルームーンを許して上げた。ちなみに、ブルームーンが言葉で弁明したりしないのは、『お人形遊び』の効果で行動を制限しているからだ。現状、許可しているのは首や表情を動かすことだけ。

 

 

「大丈夫、大丈夫。僕は怒っていないから」

 

 

 その僕の言葉に、ブルームーンはあからさまに安堵した様子を見せる。うふふ、こうしていると本当の『お人形さん』に見えてくるから、ついつい虐める時に力が入り過ぎてしまう。

 我ながら困ったものだ。

 

 

 可愛らしい反応を見せてくれるブルームーンを横目に、僕は現状や過去のことを整理していた。

 

 

 ――魔法少女セラフィナイトとなった姉さんと、『お人形さん』にしたブルームーンで戦っていた時。わざと姉さんの不安を煽り、彼女が大事な()の所に行こうとする前に、とある自作自演を実施。

 

 

 いつかの時のように、スカートのポケットに忍ばせていた『お人形さん』――『刃』の魔女を等身大の大きさに戻して、僕自身を襲わせて連れ去ってもらう。

 これで傍から見れば、僕は憐れな被害者にしか過ぎないだろう。完璧で隙のない作戦だ。姉さんと離れ離れになってしまっているという点に目を瞑ればだが。

 

 

 本当は僕だって最後まで躊躇したのだが、あの状況で『お人形さん』のブルームーンを姉さんから逃がす為には、あの方法しかなかった。まあ、仕方がなかったって奴だろうか。

 

 

 現在の僕は『刃』の魔女に攫われている立場である為、表立って歩けない。ので、『お人形遊び』の応用で第二の『(ドールハウス)』を作成し、いつぞやのように自分も『お人形さん』にして、その中で隠れて生活していた。

 『お人形さん』化していると、食欲や睡眠欲などがなくなるので潜伏をするのにはとっても便利だ。

 

 

(……でも、姉さんと触れ合えないせいでストレスが溜まりそうになるよ。いくら今の手持ちの『お人形さん』で遊んで(・・・)も、こればっかりは解決しない問題だからなー)

 

 

 心の中でため息を吐く。しかし姉さんの状況は、肌身はなさずに持っていてくれている『お人形さん(利恵さん)』を通して、逐一把握しているので問題ない。

 

 

 僕を連れ去った『刃』の魔女に対して。ブルームーンを操っていた魔女()に対して、姉さんは憎悪の感情を滾らせているようだ。

 

 あの騒動の後に、何やかんやで正式に『管理委員会』所属の魔法少女になったみたいで、力の研鑽に時間を費やしているらしい。妹としてだけではなく、魔女としての僕に対して、激情を二重にぶつけてくれる姉さんの様子を見ていると、気が早まってしまいそうになり自制が大変だった。

 その度に、他の『お人形さん』が昂った思いの犠牲になったという裏事情があったけれど、些細な問題だろう。

 

 

(……だけど、姉さんの魔法って僕の『お人形遊び』と相性が最悪なんだよね。気づかれないように、フローラ(利恵さん)の魔法で姉さんの意識を誘導させてなかったら、今頃大変だっただろうなー。下手したら、利恵さんの『お人形さん』化が解除されてたかもしれないし。油断大敵だよね。……まあ、色々と考えないといけないことはあるけど――)

 

 

 ――うふふ、次に会う時が楽しみだね。セラフィナイト(姉さん)

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