趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第二十四話 刃毀れ

 

 

 ――私は大きな後悔をしていた。だって、あの時に心の弱さにつけ込まれなければ、たった一人の親友を地獄に落とすことはなかったはずなのに。

 それとも、全てが切っかけとなった事件。その時に上手く立ち回っていれば、両親が死ぬこともなかったのだろうか。どれだけ自問自答をしても、過去の過ちから何も学ぼうとしない愚者の自分から答えが返ってくることはない。

 

 

 ――二人組の魔女によって、両親が殺された。警察や魔法少女は役に立たなかった。なんなら、警察の一人に両親の死を「有り触れた悲劇」と形容されて、期待するのですら馬鹿馬鹿しくなった。

 

 

 人の命を簡単に奪う魔女。役立たずの魔法少女に、警察。そして何より無力でありながら、無意味にも生き長らえてしまった自分自身。

 その全部が憎悪の対象だった。

 

 

 そんな心の歪み具合は、奴ら(悪魔)にとって格好の餌だったのだろう。自分達の同族が蒔いた種だというのに、それは無視して「復讐する力を与えよう」と。どこまでも上から目線で、傲慢なゴミくずだった。

 そんな奴らに騙されて、地獄への片道切符を手に取った私はもっと救いようのない大馬鹿者としか言いようがないが。

 

 

 契約直後に、偶然出会ってしまった親友の朱里。彼女の制止の言葉を振り切ることがなかったら、彼女が私の後を追いかけるように魔法少女になることはなく。あの魔女を呼び寄せることはなかっただろうに。

 

 

 私の知らない所で、朱里はその魔女の手に堕ちていて。操られていた彼女と、望まぬ戦いを繰り広げることになってしまった。

 その様子を面白可笑しく鑑賞していた魔女に不意を突かれて、私も傀儡の一体に成り下がるしかなかった。

 

 

 でも、心のどこかで安心している部分があった。もうこれ以上、自分の件とは無関係な魔女の命を奪う必要はないのだから。

 それだけじゃない。同じどん底にまで堕ちてしまった親友(朱里)がいてくれるのだ。だから、自分達を捕まえた(『お人形さん』にしてきた)魔女がどんなことをしてきたとしても耐えられる。

 そう思っていたのだが、あの魔女は幼い外見に反して、その中身は救いようがない程に悪辣であった。

 

 

 『お人形さん』にされてしまった後。女児向けの玩具を連想させる、洋式のお屋敷を模した物体。あの魔女が、『(ドールハウス)』と呼ぶ何か。

 そこでなら一緒にずっといられると思っていたのに。

 

 

 それは、とんだ勘違いであった。朱里と過ごせた(飾られた)のは、ほんの一瞬だけ。あの魔女は私達を精神的に追い詰める為に、別々の場所に置いてきたのだ。

 指一本を動かすだけではなく、声を出す自由すら剥奪されて、親友と共にいられる権利すら私にはなかった。

 

 

『――あはは。だから言ったじゃん。魔女と言っても、五人も女の子達の命を奪った罪人魔女が、親友と一緒に末永く仲良く暮らしましたとさっていう未来(結末)があると思ってたのかな?』

 

 

 魔女の声が、直接脳に響く。テレパシーに似た雑音を拒む方法はなく、私は徐々に正気を擦り減らされながら、自分が犯した罪を直視させられた。

 

 

『――君が殺しちゃった魔女達だけどさ。彼女達と少しでも話はしたの?』

 

 

 ――いいえ、していません。

 

 

『え? 嘘でしょ!? じゃあ、要するにその子達がどういった経緯で魔女になったのかも知らないってこと!? 信じられない!? ……ねえ、自分が魔女になった動機を思い出してみてよ』

 

 

 ――私の両親を殺した二人の魔女への復讐です。

 

 

『それは本当に? でも君が手にかけたのは、もれなく全員無関係じゃん。しかも、彼女達が契約した理由も知らないなんて、ちょっと……いや、大分薄情だと思うけど? だって、自分が魔女になったような経緯が他の子にあったと思わないの?』

 

 

 ――そ、それは。

 

 

『ほら、そうやって自分に都合が悪いことがあったら、すぐに目を逸らそうとする。そういうのは駄目だし、その子達にも失礼でしょ? 君がそんな態度を取るんだったら、お友達には会わせて上げないよ? あ、そうだ。君が反省しない分、その代わりとしてマジカルライトが罰ゲームを受けるなんて、どう? 我ながら良い考えじゃない?』

 

 

 ――それだけは止めてくださいっ!? 朱里は関係ないので、傷つけるなら私だけを。それに、どんな命令にも従いますので。どうか朱里には、これ以上手を出さないでください。お願いします……。

 

 

『うんうん、殊勝な心がけだねぇ。なら、ちょうど頼みたいこともあるし、協力を頼むよ。あ、でもそうやってゴマをすっても、君の罪が軽くなる訳じゃないからね? だけど、僕は親切だからね。『お人形さん』の持ち主として、君の犯してしまった罪と真摯に向き合っていきたいんだ。

 ――という訳で、ここに簡単にネットで調べたもので申し訳ないけど、君が殺しちゃった子達のプロフィールがあるよ。子守歌代わりに、じっくりと読み聞かせて上げる。……えっと、何々……一番最初の子は君と似たような理由だって! どうやら、目の前でお友達を魔女に殺されたみたい。ほらほらー、だから言ったじゃん。君が命を奪った相手は、人の言葉を解さない獣じゃないんだよ? じゃあ、次の子に行こうか』

 

 

 ――や、止めて、くださ……。

 

 

『ん? やっぱりマジカルライトに罰ゲームを代わってもらう? それは駄目? うん、分かった。よし、良い子。良い子』

 

 

 

 

 

 ――絶え間なく続けられる精神的な拷問の日々の中。時折、あの魔女(ご主人様)が表立ってできない活動を肩代わりさせられたりしたこともあったが。ある日を境にして、あの魔女(ご主人様)は私の所へ来なくなってしまった。

 

 

 嬉しい反面、寂しいと思ってしまう自分もいた。そんな自分の心境の変化に嫌悪感を抱く一方で、朱里はもちろんのこと、同じように『お人形さん』にしてもらった(・・・・・・)新入りにも会えていないので、孤独感が凄まじいのだ。

 

 

 ――次にご主人様がいらしたら、どんなお話をしようかな?

 

 

 そう瞬きの一つもできない体で、一生懸命お話ししたい内容を纏めていると。ご主人様が久しぶりに姿を現してくれた。

 

 

「やっほー。久しぶり。元気にしてた? 『刃』の魔女」

 

 

 ――はい。私は元気にしています! それで、今日はどんなお話をしますか!?

 

 

「そうだねー。ちょうど聞きたいことがあるんだ。君のご両親を殺した二人組の魔女について、教えてくれる?」

 

 

 ――もちろん! でも、後で罰ゲーム(ご褒美)はくださいよ? 私、寂しかったんですから。

 

 

 

 

 ――それで、具体的にはどんなことをお話ししたら良いんですか? ご主人様。

 

 

「そうだね……君のご両親を殺害した二人組の魔女が何を話していたとか思い出せない?」

 

 

 久しぶりのご主人様の来訪にテンションが上がっていると、そう尋ねてきた。うーん。私としてはあまり思い出したくない記憶であるのだが、ご主人様がお望みなら『お人形さん』な私に拒否権はない。

 無理やりに聞き出されるのも、それはそれで乙なものだが、私の一時の我儘でご主人様の機嫌を損ねたくない。また何週間も独りで放置されるなど、御免だ。

 

 

 既に自分が正気を保っているとは言い難いが、それでもこれ以上はもう狂いたくない。身動きもできない上に、時間感覚すら曖昧な空間で孤独感を味わいたくない。

 朱里とも会えない手前、今の私が縋れる相手はご主人様しかいないのだ。

 

 

 だから、忌々しい記憶であってもご主人様がご所望なら、いくらでも掘り起こしてやる。そんな私の必死な様子が伝わったのか、ご主人様はおかしそうに笑みを浮かべる。

 

 

 ご主人様が――朱里の次に、私にとって大事な人が笑ってくれている。その事実が、人肌の温もりを求めている私に麻薬以上の快楽を齎す。

 

 

「ん? そんなに喜んじゃって……遊んで(・・・)上げるのはお話を聞いた後だからね」

 

 

 ――も、もちろんです。

 

 

 『お人形さん(使い魔)』としてご主人様と繋がっているせいか、考えていることだけではなく、感情の細かい機敏まで把握されている事実を改めて突きつけられると、やっぱり恥ずかしい。

 

 

 しかし、何を話すべきだろうか。ここに連れて来られた時点で、だいたいのことは伝えたような気がするが――。

 

 

 ――脳裏にフラッシュバックするのは、糸が切れた人形のように冷たく動かなくなった両親の遺体。代わる代わる二人の魔女から与えられる痛み。

 

 

 そのどれもが、今の私にとっても悪い意味で劇物だった。『お人形さん』にしてもらって(・・・・・・)から何も口にしていないのに、吐き気がこみ上げてくる。

 

 

 そんな私の様子を見かねたのか、慌ててご主人様は駆け寄ってくれて、そのまま背中を擦ってくれる。

 

 

「……えっと、大丈夫?」

 

 

 心配の眼差しが心地よい。ご主人様の手の温かさが、衣服越しに伝わってくる。ああ、脳みそが蕩けそうになるぐらいに気持ちが良い。

 

 

 ご主人様の気遣いが心に染み渡り、混乱が落ち着いてきた。

 

 

 ――ますます取り返しができない所まで、堕ちていくような感覚があったが、今の私にはどうでも良かった。

 

 

 ――ありがとうございます、ご主人様。

 

 

「……よし、落ち着いたみたいだね」

 

 

 そう言って、ご主人様が私の隣に座ってくれる。同じ魔女という区分にありながら、ご主人様は私はもちろんのこと、あの二人組とも比較にならない程に優しい。

 そんなご主人様の『お人形さん』になれて、私は幸せものだ。最近、顔を全く合わせる機会はないけど、朱里や他の『お人形さん』も同じことを思ってくれているに違いない。

 

 

 無理をしない程度に、例の記憶を振り返る。

 

 

 ――そういえば、あの魔女の内の一人はもう一人のことを「お姉ちゃん」と呼んでいたような気が……。でも、その程度じゃ役に立たないですよね?

 

 

 私の話を聞いたご主人様は、ここしばらくの間の中で一番嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

 

「――いや、そんなことないよ。今後の方針……新しい『お人形さん』候補を決めるのに、とても参考になったから、そんなに不安がらないで安心して?」

 

 

 ――ありがとうございます。……なら、ご褒美をお願いしても良いですか?

 

 

「うん、良いよ……って、言いたいんだけど時間がなくてね。また今度でも構わない?」

 

 

 ご主人様は申し訳なさそうな声色で言う。とっても残念だが、それを顔に出す訳にはいかない。

 

 

 ――私は大丈夫ですから、次はもっとお話ししてくださいね?

 

 

「うんうん、もちろんだよー。またねー」

 

 

 手を振りながら、ご主人様はどこかへ行ってしまった。

 

 

 ――その後、ご主人様が私の元を訪れることはしばらくなかった。まるで飽きられた玩具のような扱いだと、ひび割れだらけの心の片隅で考えてしまった。

 

 

 

 

 ――『刃』の魔女から望んでいた情報は手に入れることができて僕は満足していた。これで、次の『お人形さん』候補は決まった。姉妹揃って、魔女になっているとは中々素晴らしい逸材ではないか。

 本命(姉さん)の前の練習という面だけではなく、新しい玩具としても優秀そうだ。しっかりと二人セットで、『お人形さん』にして上げるとしよう。僕って、やっぱり優しいな!

 

 

(……じゃあ、ブルームーンの魔法で適当な一般人を操って、その魔女達の情報でも集めるか。『刃』の魔女から聞いた限り、僕の好みそうな見た目だから今から楽しみだよ。ぐふふ、自分よりも頭のおかしい存在に出会ったら、その魔女達はどんな表情をしてくれるのかな?)

 

 

 ――しかし、久しぶりにまともにお喋りしてみたのだが、『刃』の魔女ってあんなに従順な性格だったけ? マジカルライト(お友達)と別々の部屋に飾って、被害者の少女達が魔女になった理由を読み聞かせして上げて、その反応を面白可笑しく見ていただけなのに。

 

 

 ある時を境にして、反応が返ってこなくなったからちょっと飽きて、用がある時以外は放置していたのだが、まさかあんな風に壊れるとは……。

 

 

「――まだまだ遊び方(・・・)のバリエーションはあって、退屈しそうにないね!」

 

 

 と言っても、あれではつまらない。さっきは情報を円滑に聞き出す為とはいえ、親切に接し過ぎた。なので、もう少しお独りライフ(孤独感)を堪能してもらうとしよう。本当に壊れそうになったら、また会いに行けば問題ないよね!

 

 

 

 

 

 

 

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