趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第二十五話 『双子』の魔女

 

 

 ――私には、大好きだった母親と姉がいた(・・)。しかしそのどちらもが、今となっては夢のように曖昧で。どれだけ手を伸ばそうと届かない蜃気楼のような存在であった。

 

 

 

 

 薄暗いリビングの中で、唯一灯っているのは誕生日ケーキに刺さっている十三本の蝋燭。それによって陽炎のように影が揺らめいているのは、本日の主役である私達――双子の姉妹の月森陽奈と月森静であった。

 

 

 ちなみに陽奈()が妹で、静が姉である。私達の見た目はとても似ていて――一卵性双生児という奴らしい――、仲の良い友達でもどちらがどっちか判断に迷う時が度々あった。

 それほどまでにそっくりでも、私達をここまで愛情深く育ててくれた母親は完璧に見分けてくれた。記憶にある限り、ただの一度も間違うこともなく。

 

 

 それだけ私達のことをきちんと見てくれている母親はもちろんのこと、細かい所が抜け落ちている私をサポートしてくれる()

 私の大切な家族だった。

 

 

「ハッピーバースデー、トゥ、ユー。ハッピーバースデー――」

 

 

 母親が、優しい音色でバースデーソングを歌ってくれる。耳奥を撫でるような旋律がくすぐったさを感じさせるが、それも心地よい。母親が浮かべている表情も、見ているこちらの心がぽかぽかしてくるような笑顔だった。端的に言うと、すっごい綺麗だ。

 我が母親ながら、とても中学生になる子供がいる年齢には全く見えない。それもそのはず、私や静と母親の間に血の繋がりはない。

 

 

 と言っても、私達の誰もそんなことを気にしたことはなく。あんなクソみたいな実の両親(・・・・・・・・・・・・・)よりも、私と静は育ての母親のことを本当の母親だと思って、これまでの日々を過ごしてきた。私達の自慢な母親なのだ。

 

 

 歌が終わると同時に、私と静は一斉に息を吹きかける。蝋燭の火が消える。そのせいでリビングは真っ暗になるが、それも一瞬。リモコンを操作して、昼間以上の明るさを取り戻す。

 

 

「――今日はお誕生日おめでとうね、静。陽奈」

 

 

 パチパチと音を立てながら拍手をして、母親は我がことのように笑顔で祝福してくれる。また胸の中がじんわりと温かくなる。

 

 

「……ありがとう、お母さん」

「ありがとうね! お母さん! 大好きだよ!」

 

 

 二人それぞれで、お礼の言葉を告げる。気恥ずかしそうに言う静に対して。私は嬉しさが爆発して席を立ち、そのままの勢いで母親に抱きついてしまう。

 

 

「あらあら、陽奈はいつまで経っても甘えん坊さんね。うふふ」

 

 

 母親も飛びついてくる私を拒否することもなく、快く抱き返してくれる。私達の様子を、羨ましそうに見てくる静。そんな彼女を見かねて、母親が一言。

 

 

「恥ずかしがることはないのよ、静。貴女もいらっしゃい」

「……うん!」

 

 

 その言葉に背を押されて、静も母親に抱きつく。スペースは先ほどよりも狭くなってしまったが、それ以上に温かくて気持ちが良い。

 母親が両手で、私達の頭を優しい手つきで撫でてくれる。多幸感で脳みそが蕩けそうだ。

 

 

 間違いなく断言できる。今の私は、世界一の幸せ者だと。母親や静も、同じ風に思っていてくれたら嬉しいな……。

 

 

 ――だけど、その幸せは永遠のものではなかった。しかも、この時点では私を始めとして、誰もそんなことは微塵も考えていなかった。

 

 

 ――ピンポーン。

 

 

 私達の家族の団らんを邪魔するように、来客を告げるチャイムが鳴る。水を差された気分になり、私はちょっとだけ不機嫌になってしまう。隣にいる姉の静も似たような反応だ。

 そんな私達を宥めるように、最後にもう一度頭を撫でると母親は玄関の方に向かっていった。

 

 

 後に残されたのは、姉妹の私達だけ。一年に一回しかない三人のみ(・・・・)の誕生会はちょうどいい所で中断されてしまったが、母親が戻ってきたらその分だけさらに甘えるとしよう。

 そう考えていると、斜めになっていた機嫌も徐々に回復してくる。この気持ちをお裾分けしたい気分になり、姉の静にこう尋ねる。

 

 

「楽しいね! 静!」

「……うん、そうだね。陽奈」

 

 

 静も小さな笑みを浮かべて、答えてくれる。鏡合わせのように、だけど活発な私と違う彼女の笑顔は、非常に魅力的だった。同性で、妹である私が赤面しそうになるぐらいには。

 

 

(……静に悪い虫がつかないように、学校でも目を光らせておかないと!)

 

 

 内心で決意を固める私に対して、これまた無自覚に、普段のクールな印象とはギャップ差が生まれそうな感じで、あざとっぽく首を傾ける静。

 そんな姉を見て、より決心が深まるという永久機関が完成しそうになっていると。

 

 

「――静っ!? 陽奈っ!? 早く逃げなさ――んぐっ!?」

 

 

 玄関の方から、激しく争い合うような音と母親の悲鳴に近い懇願が聞こえてくる。それに反応して、二人してビクッと動いてしまう。

 

 

(――え、え? いったい何が起きているの?)

 

 

 想定外の事態に、私達の体は彫像のように固まってしまい、その場から動けそうになかった。理性や本能でも、母親の指示に従って、すぐにでも逃げ出すべきと分かっていたが、不思議な程に私達は留まってしまった。

 せめて携帯で警察に通報なりすれば良かったと、後から振り返った時に私は思った。まあ、全ては無駄な仮定に過ぎないのだが。

 

 

 やがて争い合う音と、母親のうめき声すら聞こえなくなる。私達の耳に去来するのは、耳が痛くなる程の不気味な静寂。

 

 

 玄関からリビングに向かって、歩いてくる足音と気配。重たい何かを引きずるような音。心拍数が加速しているのが感覚的に理解できた。静も同じだろうか。

 

 

 リビングの扉がゆっくりと開けられる。そこにいるのは、愛して止まない家族であると信じて――。

 

 

「――は?」

「……!」

 

 

 ――開け放たれた扉の先にいたのは、一応家族ではあった(・・・・・・・)。しかしその数は二人で、もう片方の顔を見た瞬間に私の中には嫌悪感とともに、忌々しい記憶が濁流してきた。

 

 

「――やあ、久しぶり。愛しい娘達(・・)

 

 

 ――そいつは、二度と会いたくもなかった実母であった。

 

 

 

 

「あらー、せっかくの再会だってのに冷たい娘達ね。そこは、私と会えたことに感動して胸に飛び込んでくる場面でしょうに。……やっぱり、あの女(・・・)の洗脳が強いのかしら? でも、大丈夫よ。本当のお母さんが、貴女達を解放して正気に戻して上げる」

 

 

 呆然としている私と静の顔を見て、一人で好き勝手なことを延々と喋り続け、自分の言葉に酔ったまま、私達に空いた右手を差し出してくる。

 未だに混乱や恐怖は収まっていないが、それでも私達の答えは一致していた。こんなクソ野郎の手を取ることは絶対にないと。

 

 

 ――私達の実母にあたる、目の前の女。若い内から数えるのも馬鹿らしくなる程の男と関係を持ち、その一人との間に産まれたのが私達だった。

 と言っても、私達は血縁上の父親の顔も知らず。産みの親が、その寂しさを埋めてくれる程の愛情を注いでくれることもなく。むしろ私達の存在が邪魔だったのか、いないものとして扱われて、女は毎日別々の男を連れ込む始末。

 

 

 物心がついた時から、私達は地獄のような環境に置かれていたのだが、よく生きてこれたと疑問で仕方がなかった。だって、そうだろう。愛情の一片ももらうこともできず、その日の食べるものに困るぐらいの困窮ぶり。

 女が気紛れで投げて渡してくる、消費期限が過ぎた菓子パンがなければ、とっくに飢えて私達は死んでいただろう。

 

 

 自分もお腹が減っているのに、静は自分が食べる分を私に分けてくれたことも度々あった。当時の私は、姉が我慢している事実にも気づかずに、呑気に分けてもらった分をがっついていた。

 もしも今の私がその場にいたら、真っ先に昔の自分自身を叱りに行くことだろう。

 

 

 あの女や、連れ込んできた男の暴力の矛先にならないように、私達はいつも隅で縮こまっていた。その間は、年齢は同じで自分も不安であるのにも関わらず、静は震える私をぎゅっと抱きしめてくれていた。

 その時の温もりは、今も覚えている。

 

 

 いや、それらだけではない。あの女から受けてきた虐待。それと反比例するように、私のことを助けてくれた()の優しさ。

 そして、そんな地獄から私達を救ってくれた母親との出会い。どういった経緯があったのかは詳しくは知らないが、母親に引き取られることになった私達。初めこそ警戒はしていたが、あの女の実妹とは思えない程に母親の愛情を注いでくれる彼女に、私達が素で甘えるようになるには時間はかからなかった。

 それまで女の元で過ごしてきた日々が嘘であったと思えるぐらいに、母親や()と私の三人で紡いできた毎日は優しさや温もりで満ちていて、私にとっても宝物に等しい記憶だ。

 

 

 その全てが一気に脳裏を過った。思い出したくないものまで全部が。

 

 

 しかし、私達を産んだだけの女はよほど頭がめでたいらしい。あれだけの仕打ちを受けてきた私達が、お涙頂戴の展開と言わんばかりに駆け寄って抱きつくとでも思っていたのだろうか。

 そうだとしたら、実に救いようのないクズだ。

 

 

 混乱が収まり、思考が徐々に冷静になってくると、怒りがふつふつと沸いて出てくる。その衝動のままに、女に向かって嫌味の一つでも言ってやろうと思っていたら。それよりも前に、隣に私の手を握ってくれていた静が口を開く。

 

 

「……私達を捨てた癖に、今さら何の用ですか? それに私達の母さんはあの人だけです。今すぐにでも帰ってください」

 

 

 決して大きな声ではなかったが、しっかりとした意志が込められた言葉だった。それに便乗する形で、私も長年溜め込んでいた鬱憤をぶつける。

 

 

「お前なんか、お呼びじゃないの……! 静も言ってたけど、私達のお母さんはあの人だけなんだから! さっさと帰ってよ!」

 

 

 言った、言ってやった。そんな小さな達成感が、私の中で満ちる。

 

 

 でも、あの女には何も響いていない様子で。むしろ私達に非があるような、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるような感じで、わざとらしくゆっくりと話し始めた。

 

 

「……それで、もう気は済んだかしら? すぐに私達の家に帰りましょう? 新しいダーリンも、貴女達に会いたいって言ってたし」

 

 

 自分達の中に、この女の血が半分でも流れていることに嫌悪感を抱きながらも、拒絶の意思を再び伝えようとした瞬間。女が左手で持っていた――いや、引きずっていた物の正体に今さらに気がついてしまった。

 

 

「ひっ!?」

「……どうしたの、陽奈!? っ!?」

 

 

 私の異変を察知した静も、遅れてソレ(・・)の存在に気づく。女は私達の様子に、若干の不機嫌さはどこにやら。満面の笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

「あら、ようやく気がついたの? 薄情な子達ね。仮とはいえ、多少は育ててもらった人間に気がつかないなんて」

 

 

 そう言いながら、女はソレ(・・)を私達の方へ投げてきた。鈍い音を立てながら、ソレ(・・)が転がる。光のない瞳が私達を捉えることはなく、虚空を向くばかり。

 

 

「う、嘘でしょ!? 母さん!?」

 

 

 ソレ(・・)の正体とは、力なく四肢が地面に投げ出された母親だった。胸も上下していない。一目見ただけで、既に手遅れということが私にも分かった。

 

 

 それでも、私達は床に転がる母親の体に駆け寄る。

 

 

「母さんっ!? 母さんっ!? お願いっ!? 目を開けてよっ!?」

「落ち着いて、陽奈っ!? こういう時は確か……!」

 

 

 たとえ、もう間に合わないとしても諦めるということをしたくなかった。その思いは、静も同じだった。

 

 

 しかしあの女にとって、それは面白くなかったようで。一気に顔を不快げな表情に変化させると、床を強く鳴らしながら私達の方に近づいてくる。

 

 

「あのね! 貴女達の母親は私なの!? そっちはただの泥棒よ!? 何度言ったら、それが分かるのかしら……! すぐに帰るわよ!」

「い、痛いっ!? 止めてよっ!?」

「陽奈を離してっ!?」

「もう、うるさいわよっ!」

「きゃっ!?」

 

 

 激昂した女が、私の髪を掴み母親から無理やりに引き離そうとしてくる。それを止めようとしてくれた静が、女に吹き飛ばされてテーブルの角に強く頭をぶつけた。

 鈍い音が鳴る。静の体が一瞬だけ痙攣したと思ったら、それっきり動かなくなってしまった。頭から大量の血が流れる。

 

 

 その一部始終を見ていた私は、髪を引っ張られる痛みも気にならなくなる程に絶望した。

 だって、ドラマでよく見る奴だから分かる。あれは即死だ。つまり、私を助けようとした静が死んでしまったのだ。

 

 

 立て続けに家族を失ってしまった私には、もう抵抗する気力などなかった。

 一方の女は静を殺したことに動揺すら見せずに、残念そうに呟くのみ。

 

 

「あーあ、勿体ないことしちゃったわ。まあ、いいかしら。一人でもいれば、ダーリンも満足してくれるでしょうし。……貴女は、これ以上我儘を言わないでね?」

 

 

 私の耳元で脅しの言葉を囁く女。それを最後に、私が全てを諦めようとしたタイミングで、救いの手が差し伸べられた。

 

 

「――おやおや、中々に絶望的な状況ですがお嬢さん。助けてほしいかしら?」

「……え?」

 

 

 私やあの女、動かなくなってしまった母親と静のものでもない、第三者の声が聞こえてきた。若い女性のように感じられた。

 髪を掴まれているせいで首の可動域は狭いけれど、その範囲内で声の主を探す。もしかしたら、その人物が今の絶望的な状況をひっくり返してくれる。そんな予感がしたから。

 

 

 抵抗を諦めたはずの私の不可解な行動に、女は再び表情を不愉快極まりないといった風に歪める。

 

 

「は? 貴女まで頭がおかしくなっちゃったの? 勘弁してよね……」

 

 

 女が何かを言っているが、今の私には蚊の羽音以下の雑音でしかなかった。首はほとんど動かせなかったので、視線で周囲をきょろきょろと見渡す。

 中々見つからず焦りが出始めた頃に、声の主らしき人物を視界の端に捉えた。開きっぱなしのリビングの扉の傍に、彼女は立っていた。

 

 

 その女性の容姿は非常に整っていた。髪は腰まで届く程に長く、流れるような銀白色。深いサファイアブルーの瞳。半透明な素材で作られた軽やかなドレスを身に纏っていて、彼女の僅かな身動き一つで色彩が変化し、幻想的な夜空で連想した。

 こんな状況でありながらも、女性の美しさに見惚れてしまう。浮世離れした雰囲気を放つ女性と目が合う。にっこりと微笑まれた。

 

 

 しかし、女にはこの女性の姿は見えていないようだ。でなければ、何かしらのアクションを女は示すはずだから。

 

 

 なら、女性の正体はいったい何だろうか。私にだけ声が聞こえ、姿が見える不思議な彼女は。もしかして、少女達に力を貸し与えてくれる妖精という存在なのだろうか。

 

 

 そんなことを考えていると、女には一切の興味を見せることなく、女性は膝を曲げて私の顔を覗き込んでくる。

 再度、女性の宝玉のような鮮やかな瞳と私の視線が交差する。

 

 

「――ねえ、可哀想なお嬢さん。もう一度尋ねてみるけど、この状況から助けてほしい?」

 

 

 若く瑞々しい唇から、甘く響く鈴の音のような高く澄んだ声が紡がれる。麻薬に似た何かが脳を溶かしていく。そんな感覚に襲われた。

 

 

 それでも、思考は止まらない。女性は何と言っただろうか。助けてほしいって? そんなの答えは決まっている。

 

 

「……お願い、します。どうか私を……家族を助けてください……!」

 

 

 消え入るような、か細い懇願。だが、女性は浮かべた笑みはそのままに、私に最後にもう一つの質問をしてきた。

 

 

「……最終確認なんだけど、お姉さんとお母さん。どっちが好きかしら?」

 

 

 普段であれば悩みこそすれど、それほど気にすることはなかっただろう問いかけ。しかし、何故か答えてはいけない。そんな気がした。

 でも、女性の視線が私を射抜いてくる。返答を急かしてくる。

 

 

 その重圧感に負けて、私は口を滑らせてしまった。

 

 

「――静の方が大好きです!」

 

 

 そう答えてしまう。本当は、母親も同じくらいに大大大好きだ。比べられるものじゃない。けれど、どちらかに絞って答えないと、この女性は助けてくれない。と、無意識の内に思ってしまった。

 

 

 女性は満足そうにより笑みを深めると、「家族を助ける」という願いを聞き届けてくれた。

 

 

「――お嬢さんのその願いは、この私が叶えて上げる。でも、その対価として私と契約してもらうわよ?」

 

 

 その発言の後に、女性と私との間に不可視の『道』が形成される。その『道』を通じ、彼女の正体と、契約によって自らが何になるのか、与えられた力の性質。そして私が招いた大きな過ちを、瞬時に悟った。

 

 

 女性――いや、悪魔とのやり取りは、素養のない女には私の独り言にしか見えていなかったのだろう。我慢が限界にきたのか、ぶつぶつと呟く私に対し、女が手を振り上げるよりも早く。

 

 

 私の『願い』が反映された魔法が、無意識の内に行使される。頭から血を流して動かなかった静の肉体に、偽りの生命が吹き込まれる。

 手足がぴくりと動いて、死んだはずの静が起き上がったと思った次の瞬間には、私の髪を掴んでいた女の体はリビングの壁に叩きつけられていた。放り出された私は床に転がる。痛い。

 

 

 涙で滲む視界で、何が起きているのかを把握しようとする。その努力の結果、何とか理解できた事実は死んだと思った静が女に攻撃を加えた。それだけだった。

 

 

「――陽奈に散々酷いことをしてくれたね。もう許さないし、産みの親と言っても加減はしないから」

 

 

 生前と同じ声色で、壁に叩きつけられてピクピクと痙攣している女に近づいた静は、拳を振り上げて降ろす。その動作を、女の体が動かなくなるまで繰り返した。

 

 

 その光景を私は呆然と見つめることしかできず、悪魔はニコニコと見守っていた。

 

 

 

 

 ――私に発現した魔法は、『死体再生』。特定の死体の状態を完璧に保つ為に、どんな損傷を受けても瞬時に『再生』させる。そして死体に刻み込まれた記憶を『再生』して、まるで死から蘇ったような状態を演出する。

 それが、私の魔法だった。

 

 

 そのことを私は感覚的に理解し、魔法を母親にも使おうとした。たとえ歪であったとしても、家族三人でまた過ごしたいと思ったから。

 

 

 震える手で魔法を発動したが、効果はなかった。何度試しても、不発という事実は変わらない。私の背後から、悪魔――セレニスと名乗った――は残酷な現実を告げる。

 

 

「――残念だけど、貴女の魔法で操作できるのはお姉さんだけよ。だってお母さんよりも、大事な『家族』なのでしょう? 私はお嬢さんの願いごと通りに、『家族』(お姉さん)を二度と失わないようにするのにうってつけの魔法をチョイスして上げただけ。何も問題はないでしょう? 貴女がそう言ったのよ」

 

 

 現実が受け入れられず、私は床に突っ伏して泣き喚くしかできなかった。そんな私を慰める為に、生きている時と同じように静の死体(・・)は、私の背中を擦ってくれた。

 

 

 

 

 ――あの後今まで過ごしてきた家を、母親の死体を担いで飛び出してきた私は、『双子』の魔女と名乗るようになった。母親だけではなく、静までを喪失した現実から目を背ける為に。

 

 

 それから私はある目的を持って、目についた少女がいる幸せそうな家庭を襲い始めた。わざと悲劇を起こして、その家族で娘だけを生き残らせるのだ。

 幸せな境遇から一転して、絶望のどん底に落ちた少女は必ず妖精か悪魔と契約する。契約先はどっちでも構わない。

 私が重要視しているのは、彼女達が発現する魔法。その中には、きっと死者を『正しい意味』で蘇らせることが可能な魔法があるはず。

 そう信じて、私は今日も悲劇を量産し続ける。何人も、何人も。数え切れない程に。

 

 

 

 

 

 

「この家をターゲットに選んだ理由? あんたの父親を殺した理由? そんなもの、ある訳ないじゃん。偶々、私達の目に留まっただけ」

 

 

 

 ――目の前には、あの時の私と同じように絶望の表情を浮かべる少女と、その母親。部屋の中央で横たわる父親の骸。胸は痛むが、自分の家族が最優先だ。動揺する感情を押し殺して、悪い魔女として振る舞い、享楽に耽る。

 そうしている間は、罪悪感を多少なりとも誤魔化すことができたから。

 

 

「――まあ、運がなかったと思って。私も貴女達もね」

 

 

 

 

 

 

 ――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 

 

 私はただひたすらに、心の中で謝り続けるしかなかった。

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