趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第四話 ようこそドールハウスへ

 

 

 初めての『お人形さん』のゲットに成功した僕は、運良く誰にも見つかることなく夜道を歩き切り、自宅へとたどり着いた。

 何故か(・・・)周囲は魔法少女や警察のパトカーがたくさんいたので、こんな時間帯に一人で出歩いているのを見つかってしまうと少々面倒くさいことになること間違いなし。

 補導されて、その連絡が家に行ってしまい両親の雷が僕に降り注ぐことになるだろう。だって、気づかれないように家族には黙って家を抜け出してきたのだから。

 まあ、その心配は杞憂に終わったけど。

 

 

 庭を抜き足差し足で移動して、裏口に回る。音がなるべく鳴らないように、ゆっくりと扉を開けていく。というか何で普段はほとんど音が鳴らないくせに、こういう時に限っていやに響く音が鳴るのだろうか。

 地味に前世から続く課題の一つである。

 

 

 そんなどうでもいい思考も、すぐに達成感に上書きされる。無事に家の中に侵入して、扉も閉めることができた。後は二階の自分の部屋に行こうと思って、振り返ろうとした瞬間。背後から声がかけられた。

 

 

「――(みさお)。こんな遅い時間帯にこそこそとお帰りで、いったいどうしたのかしら?」

「ふぁ!? な、何者!? あ、……姉さんですか。驚かせないでよ。寿命が一年分は縮んだ気がします」

「そんな冗談言っても誤魔化されないわよ。それでどこに行ってたの?」

 

 

 僕を今世としての名前である『操』と呼び、夜遅くの外出を咎めるのは今の僕よりも年上の少女。名前は、本条優衣。僕の姉にあたる人物だ。ちなみに、中学二年生。

 

 

(ま、まさか姉さんにバレているとは迂闊だった……でも、両親の姿は見えないし伝えてはないのかな? なら、やりようはいくらでもある)

 

 

 最悪な事態は何とか回避できそうだ。姉さんは厳しい口調で話しかけてきたが、両親に伝えていないのは彼女なりの優しさなのだろう。

 実に妹思いで、僕にはもったいないぐらいに良い姉である。

 

 

 それでも、そんな彼女に対しても本当のこと(・・・・・)は口が裂けても言えない。

 

 

 なのでこれまでやってきたように、表情を取り繕い申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

 

「……ごめんなさい、姉さん。大事な探し物(・・・)があったので、居ても立っても居られずに……」

「ふーん。そういうこと。……良かったら、教えてもらってもいい?」

「え!? そこはあえて聞かない場面ではないのですか、姉さん!? ……まあ、いいですけど。フィギュアです」

「え? 貴女って、そういうの持ってたかしら? ちなみに見せてもらうのは?」

「……流石にそれは恥ずかしいので」

 

 

 そう言えば、妹思いの姉さんはこれ以上追求はしてこない。だよね?

 

 

「……そう。そんなに大事な物だったら、落としたりしないようにね。それと、もしも今度からこういう時間帯に出かけるなら、せめて私には一言言うように。

 それを守ってくれるならお母さんやお父さんには、今夜の件は言わないでおくから」

「ありがとうございます! 姉さん!」

「ちょっと! いきなり抱きついてこないの! ……あんまりうるさくしていると、お母さん達にバレるわよ?」

 

 

 呆れた風に声を出す姉さんが、突然飛び込んできた僕の頭を優しく撫でてくれる。

 

 

(……よしよし、何とか誤魔化せたな)

 

 

 心の中で安堵のため息を吐く。その後は「おやすみなさい」と小さな笑みを浮かべながら言い、姉さんと別れた。

 

 

 

 

「おやすみなさい、姉さん」

「ええ、おやすみなさい。操」

 

 

 就寝の挨拶を交わして、二階の自室に行く妹を見送った。

 

 

(……あの子も、あんな表情をするのね)

 

 

 私の実の妹、本条操。彼女が可愛いのは当たり前だが、普段からあまり感情を面に出すような性格ではない。と言っても、全く笑わない訳ではないのだが――。

 

 

 先ほど見た操の笑顔。偶に浮かべていた微笑よりも、喜悦の感情が漏れ出ていた。見つけることができた探し物(・・・)というのは、よほど大事な物だったのだろう。

 欲を言えば、それを見てみたかったが本人が拒否しているのに無理やりは良くない。と自分を戒める。

 

 

 だけど、拭えない違和感がある。女――いや、姉としての勘であろうか。昨日までの、より正確に言えば、今朝学校に行く為に別れるまで接していた妹とまるで別人のように(・・・・・・・・・)感じられた。

 

 

(いやいや気のせいでしょ……。笑い方が少し変なだけで、妹に変に疑うだなんて。……あれ? でも――)

 

 

 ――あの子って、そもそもフィギュアというか人形に興味があったかしら?

 

 

 両親から毎月のお小遣いはもらっているので、それで今日のどこかのタイミングで彼女の言う『大切な人形(フィギュア)』を買ったというのであれば、一応の説明はつく。

 だけど、どうしても一度抱いてしまった疑心は心の片隅に残り続けていた。

 

 

 

 

 姉さんという強敵を突破することができた僕は、自室に入りしっかりと鍵をかけておく。乱入者(両親や姉さん)の存在を警戒しておくのは、必須事項である。

 

 

(ではではー、お楽しみターイム!)

 

 

 部屋に設けられた勉強机の椅子に腰かけて、机の上にはポケットから取り出した小型化したマジカルライトを立たせる。

 まだ彼女の自我は魔法で封じているので、虚ろな目で衣装は魔法少女の物で棒立ちしている。その様は、精巧に作られた本当のお人形のようであった。

 

 

(いやー、素晴らしいね。魔法様々だよ。こうやって見てるだけも満足できる。でも、これだけじゃちょっと(・・・・)足りないよね?)

 

 

 と言っても、直接的に口には出せないような()()()()は僕の趣味ではない。あくまでも可愛くて正義感の強い魔法少女達が、悪い魔女に抵抗も虚しく囚われてしまうというシチュエーションが大好きなだけの元一般人でしかない。

 誰が何と言おうとも。

 

 

 補足すると、囚われの生活の中で最初は助けが来ると信じ切って僅かでも希望が灯っている瞳から、徐々にその光が失われていくのも好きだ。

 うん、どこからどう見ても一般的な性癖だ。問題はない。

 

 

 前世で齧った創作の中には、「できると思うことこそが肝心である」という言葉があった。その理論は、この世界の魔法にも適用される。

 よほど元の魔法の効果から逸脱していなければ、ある程度の応用が可能となる。

 

 

 『お人形遊び』の副次効果で、持ち運びしやすいようにマジカルライトを小さくしたのもそれに関係している。

 それで今回僕が用意したい物は、『お人形さん』を収納していく『お家』である。これから、どれだけの魔法少女を集めていくのかは僕自身でも分からない。

 途中で魔法少女集め自体に飽きてしまうのか、それとも志半ばで魔法少女に捕まってしまうのか、はたまた敵対した魔女に()()()()()()に遭わせられるのか。

 少なくとも、碌な末路にはならないだろうという確信がある。だからと言って、僕はこの趣味に殉じるつもりで止まる気は一切ないのだが。

 

 

 ――話は逸れたが、『お家』を作ることまでは簡単だった。「『お人形さん』を仕舞う為の小道具が欲しい!」という純粋な(邪な)思いが原動力となったのだ。

 ただ一つ未知数であったのは、『お家』の外観。前世も含めて、小さな女の子が好みそうな玩具には縁がほとんどなかったので、どのようなイメージが出力されるのか事前には読めなかった。

 だって、男の子心が惹かれるのはいつだってカラフルな戦隊であったり、バイクを乗り回したりするヒーローなのだから。異論は認める。

 

 

 そして結果的に出来上がったのは、洋風なお屋敷というか大きめサイズの一軒家のような外観の『お家』であった。例えるなら、『何とかファミリー』が暮らしていそうだ。

 家の内部も細部までしっかりと作り込まれていた。家具まで一つ一つご丁寧に。

 

 

(……これだけ大きかったら、いっぱい『お人形さん』が仕舞えそうだね。我ながら良い魔法が発現したよ)

 

 

 『お家』の準備もできた。少しの間、放置してしまっていたマジカルライトを『お家』の中に入れる。場所は、暖炉が設置されている洒落た大部屋のソファに座らせてあげる。

 

 

(じゃあ、そろそろ意識を戻してあげようか。まあ、意識だけ(・・)で体の自由は渡してあげないけど!)

 

 

 ――目が覚めたマジカルライトはどんな表情を、反応をしてくれるのか。楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 ――意識が覚醒する。頭がまだぼんやりとしている。だけど、状況を把握しないと。

 

 

 柔らかい感触のソファに座っている。大きな暖炉が印象深い部屋だ。

 当たり前だが魔法少女であること以外は一般人でしかない私には、こんなどこぞのお金持ちのお屋敷の一室のような内装に見覚えは全くない。

 

 

(えっと……ここはどこだろう? 何で、こんな所に? いつの間にか寝てた? 確か、報告を終わらせて帰る途中で女の子がいたから、声をかけてそれ以降の記憶がない……。とにかく誰か探しに行かないと――嘘!? 体が動かない!?)

 

 

 この屋敷(?)の住人か、事情を知っていそうなあの少女を探す為にソファから立ち上がろうとした私の体は一切動かなかった。

 まるで全身がコンクリートの塊になってしまったかのように。どれだけ力を込めようとも、指先一本に至るまでそれが反映されることはなかった。

 両手はお行儀良く膝の上で揃えられている。

 そして気がつけば着ている物が私服ではなく、魔法少女としてのドレスに変わっている。変身を解除することも、ましてや魔法を行使することも叶わない。

 

 

(え? 何で!? いったい何が起きてるの!? 声も出せないし、何がどうなって……あ、そうだ! メルル! メルルいないの!? 聞こえているなら、返事をして!?)

 

 

 魔法少女は契約している妖精と、ある程度の距離であれば離れていてもテレパシーという形で意思疎通を取ることができる。

 魔法を使うことができなくても、頼れるメルルが傍にいてくれるのであればどうにかなる。そんな淡い希望はすぐに潰される。

 どれだけメルルに呼びかけても、応答はなかった。

 

 

 基本的に契約者の傍を妖精が離れることはない。この状況を合わせても意味不明であった。私に許されていたのは思考のみで、何度目かの自問自答の末に一つの仮説にたどり着く。

 

 

(……もしかして、私メルルに見捨てられたのかな? 体も動かせないし、声も出せない。大事な友達を、小夜ちゃんを魔女の呪縛から解放することもできない、役立たずな私に愛想を尽かしちゃったのかな……? 別の、もっと才能のある子の所に行っちゃったのかな……?)

 

 

 それは今の私にとって、何よりも受け入れたくない答え。もしもそれが本当だったとしたら、小夜ちゃんから冷たい決別の言葉を言われたばかりの不安定な精神状態から立ち直れそうにない。

 

 

『うーん。マジカルライト。君ってば弱いよね。正直に言って、私の契約者には相応しくないかな? じゃあ、これでお疲れ様。私はもっと強い子を探しに行くから。一人で惨めに自分の弱さを悔いていれば? ばいばーい』

 

 

 嫌になる程の静寂が、聞こえないはずの幻聴を生み出してしまう。しかも、膝の上から全く動かせない両手で耳すら塞ぐことのできない事実に。感情のままに喚き散らすこともできない事実に。

 私の精神は徐々に削れていった。

 

 

 そんな身動きが一切できない精神的拷問がどれくらい続いたのか。時間の感覚は既に麻痺していた。

 偶然(・・)動いた視線の先には窓があり、巨大なスクリーン(?)があった。本能が訴える。第六感が警鐘を鳴らす。それを見てはならないと。

 

 

 すぐに視線を逸らそうとしたが遅かった。視線も、先ほどまでのように固定されてしまう。瞼も閉じられない。

 

 

 真っ黒であったスクリーン(?)に明かりが点き、映像が再生される。

 

 

『止めてよ!? マジカルライト!? 私だよ!? 君の契約妖精のメルルだよ!?』

『……』

『忘れたの、マジカルライト!? 君は魔女になってしまったお友達を助ける為に、魔法少女になったんじゃないの!?』

 

 

 ――記憶にない映像が流れる。

 

 

 ――何故か魔法少女に変身した私が、メルルに攻撃している。ステッキから放たれた魔法が、着実にメルルの命を削っていく。

 

 

(こ、こんなの知らないよ! 何で私がメルルを攻撃しているの!?)

 

 

 私の心の中の疑問には、誰も答えてくれない。

 

 

 ――映像は続く。

 

 

 ――虚ろな瞳のままどこかを軽く見たマジカルライト()は、すぐに妖精(メルル)に向き直りステッキを構え直して、魔法の発動準備に入る。

 

 

『……マジカルライト。お願いだよ、元の君に戻って――』

『――『マジカルフラッシュ』』

 

 

 マジカルライト()の必殺技に相当する魔法が放たれて、無慈悲にも妖精(メルル)の命を刈り取っていく。

 煙が収まった後には、何も残っていない。そこで映像は終わりスクリーン(?)はなくなっていた。

 いや、今はそんなことどうでもいい。

 

 

 メルルはどうなったのか。あまり頭の良くない私でも分かる。

 妖精(メルル)が死んでしまった。マジカルライト()妖精(メルル)を殺したのだ。

 

 

 さっきの映像が偽物である可能性もあるが、直感的に本当にあった出来事だと分かってしまう。理由は私にも不明だが。

 

 

 ――やっぱり見るんじゃなかった。見るべきじゃなかった。これじゃあ、メルルに見捨てられたのが現実な方がマシじゃない。

 

 

 心のどこかが、決定的に壊れる音が聞こえた。

 

 

 私の頭の中から、始めにあった誰かを探そうという意思や、あの少女の存在はすっかりと抜け落ちていた。

 それだけではない。もう戦えそうにない。

 今着ている魔法少女としての可愛いらしい衣装すらも、私を追い詰める小道具でしかなかった。

 

 

 孤独感や無音が、より私を壊そうとしてくる。

 

 

(誰か……誰か助けて。私の傍にいてよぉ……)

 

 

 弱り切った私の心は、ある少女の名前を呟く。

 

 

(小夜ちゃん……)

 

 

「――それがお友達の名前なんだ」

 

 

 聞き覚えのある少女の声がした。だけど、今の私にはその声の持ち主にまで気を回す余裕はなかった。

 

 

 少女の甘い誘惑の言葉が、私の脳髄を揺らす。

 

 

「うんうん。独りぼっちは寂しいよね。良かったら、お姉さんのお友達も迎えに行かない?」

 

 

 その言葉に、私はいつの間にか自由になっていた(・・・・・・・・・・・・・・)首を縦に振っていた。

 

 

「それは良かった。じゃあ、そのお友達のお話を聞かせてくれる?」

 

 

 うん。いいよ。小夜ちゃんはね、優しい子なんだよ。それにね――。

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