「うんうん。そうなんだ。良いお友達だね。僕も会ってみたいな。えっ!? お姉さんも手伝ってくれるの!? 嬉しい。ありがとう!」
自室にて、西洋風のお屋敷のような外観をした『
もちろん、ただのお遊びではなく本当に『お人形さん』と化したマジカルライトと仲良く小声で会話していた。
時々会話に夢中になり過ぎて、声が大きくなりかけたがなけなしの理性を総動員して声のボリュームを一定に保つ努力をしていた。
今の時間帯は深夜0時を回っているので、両親や姉さんにも不審がられない為というのが主な理由となる。後他にも近所迷惑にもなっちゃうからね。
マジカルライトとお話した結果。以下の情報が手に入った。
あのメルルとかいう妖精も言っていたが、彼女のお友達――名前は小夜ちゃんと言うらしい――が魔女になってしまい、そのお友達を悪魔からの呪縛から解放する為に、マジカルライトは魔法少女になる選択をしたようだ。
――実に友達思いで、王道な動機だねぇ。小夜ちゃんが一般人だったら、『お人形遊び』の対象外だし食指も動かないから手を出さないつもりだったけど、魔女だったら魔法で彼女も『
魔女は怖い子が多そうな上に、僕の趣味からは外れそうだったがこのままではマジカルライトも寂しいだろう。『お人形さん』のメンタルケアも持ち主の責任だしね。
今のマジカルライトは一時的に正気を失っているが、恐らくはお友達の姿を見たら多少は精神的にも立ち直れるはず。
それが彼女にとって幸せかどうかは分からない。だが、僕には大きなメリットが一つある。簡単に言えば、
寂しさで人肌恋しくなっているマジカルライトは、同じく『お人形さん』となったお友達と再会したら、どんな表情をしてくれるのかなぁ?
あ、そうだ。マジカルライトにもお友達をお迎えする為に手伝ってもらわないと。僕自身の戦闘能力は皆無に近いから、完全に
「……とりあえず、詳しい計画はそのお友達の情報を集めてから考えるか。それにもう朝が来ちゃうし。いやー、お話に夢中になりすぎちゃった。今日は学校もあるし、お姉さんはここで大人しく待っていてね?
え? 独りぼっちは寂しいから、ここにいて? それはちょっと無理かなー。僕にも普通の生活がある訳でして。じゃあ喋るのも制限させてもらって、さっきみたいに意識
――声にならない『
■
――私は幸せ者
だけど、そんな私の幸せは唐突に奪われてしまった。元は人間でありながら、人として培ったはずの倫理観が全く感じられない怪物どもの手によって。
――全てが狂った
■
私――八神小夜はいつもと同じように、自宅のリビングで家族と一緒に夕食を摂っていた。四人がけのテーブルで、両親が並んで座り、その向かい側に私が座っていた。
確か献立は、私の大好きなハンバーグだったような。家に遊びに来た一番の親友である朱里にも好評であった、母が作ってくれるハンバーグ。
もう二度と食べられない味が、私達家族が全員揃っての最後の晩餐だった。
「小夜。今日は貴女が大好きなハンバーグよ」
「! ありがとう! お母さん!」
「そうか。父さんも母さんのハンバーグは好きだから嬉しいよ。早めに仕事を切り上げて、帰ってきた甲斐がある」
父と協力して配膳を手伝い、ほぼ同じタイミングで全員が椅子に腰かける。
「「「いただきます」」」
三人が揃って、食事の挨拶をした直後に。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「ん? こんな時間に来客か? 誰か荷物でも頼んだのか?」
「いいえ。……でも、誰か来るなんて話も聞いていませんし……」
「まあ、いいか。俺が見に行くよ。二人は先に食べてくれ。せっかくの母さんのハンバーグが冷めちゃうからな」
「早く戻ってきてよ、お父さん」
「ああ」
そう言って父は立ち上がり、玄関の方に向かっていった。
「あれ? お母さんは食べないの?」
「ええ。どうせそんなに時間もかからないでしょうし、私は待つわ。小夜の方こそ、温かい内に食べたらどう?」
「お母さんが待つなら、私も待つよ」
そんなやり取りをしてから、三分が経過しても父は戻って来なかった。玄関の方に耳を澄ませてみても、何も聞こえてこない。
明らかに何かが変だ。私がそう思い、母が様子を見てくると言った瞬間にリビングの扉が開けられて、父が飛び込んできた。
いや、違う。これは父の意思で取った行動ではない。
「きゃあ!?」
「いったい何が!? あなた!? 大丈夫なの!?」
突然のことに驚いてしまい、悲鳴が出てしまう。母も混乱した様子を見せつつも、床に横たわる父の体に駆け寄り安否を確認しようとしていた。
私はその場から動けなかった。それでも父を心配する気持ちが勝り、母に父のことを尋ねた。
「……ね、ねえ、お母さん。お父さんは……」
「嘘でしょう……あなた」
だけど、母には私の声が届いていなかった。父の体に縋り付いて、今まで泣いたことを一度も見たことがない母が、迷子の子供のように涙を流していた。
そんな母の様子を見て。そして、いくつかの関節が本来曲がってはいけない方向に曲がってしまっている父の体を見て。
私は父が死んだ事実をようやく認識した。全く受け入れることはできていないが。
というよりも、このまま立ち尽くしていて大丈夫なのだろうか。何がどうなって父がこんな無惨な姿に変貌したのかは分からないが、少なくとも
そのことに気づいた私は動かない足に活を入れて、ノロノロとした歩みであっても母の傍に近寄った。
一刻も早く母の手を取って、この場から逃げなければ。このままでは私達も死んでしまう。そんな予感があった。
「お願い、お母さん……! 早く逃げようよ!?」
「あなた!? 目を開けて……私を置いていかないでよ……」
「お母さんっ!?」
だけど、駄目だった。さっきと同じで、私の言葉は聞こえていないようで母は父の死体から離れようとはしなかった。
こうなったら、力ずくで引きずってでも連れて行く。そう思って、母の服を掴んで力を込めようとした時に。そいつらはリビングの入口から姿を現した。
「あらあら。まだ逃げてないの? ちょっと危機感が足りていないんじゃない?」
「ただの一般人が突然身内の死体を見て、冷静な判断ができる訳がない。よって、この状況は妥当」
「私はそういうことを聞きたい訳じゃないの。まあ、いいや。残っているのは……へえ、綺麗そうな奥さんと娘さんじゃない。これは
二人組の少女だった。格好は尋常ではなく、控えめに表現してハロウィンのコスプレ衣装のような奇抜なものであった。
状況を考えれば、父を殺したのは彼女達だろう。さらに先の理解したくない発言の内容の常軌を逸した感じから、私は彼女達の正体に思い至る。
「――もしかして、魔女!?」
「あら、正解。まあ、分かった所で無駄だけど」
一人の少女が私の疑問を肯定する。魔女。悪魔と契約した危険人物達の総称。
何でそんな奴らが私の家に来て、父を殺したのだろうか。どんな理由があったとしても納得はできることは絶対にないが、理解はまだできるかもしれない。
けれど、魔女達は愉快そうに嗤うだけ。
「この家をターゲットに選んだ理由? あんたの父親を殺した理由? そんなもの、ある訳ないじゃん。偶々、私達の目に留まっただけ。それよりも、いっぱい
――それからの記憶はほとんど残っていなかった。どうやら私は意識を失っていたようで、目覚めた時には既に日が昇っていた。
あの魔女達の姿はなかった。
よっぽど混乱していたのか、服が若干乱れていたが些細な差異だろう。倦怠感があったが頭を動かして、母の姿を探す。すぐに見つかった。父の死体の傍で、横になっていた。
起こす為に近づき、母の体を揺すろうとした。母の肌に触れる。とても冷たかった。息もしていない。
――あれ? これって、死んでるんじゃ。
その事実を認識した瞬間。色々と我慢していた何かが、ぷつんと音を立てて切れてしまった。
「――いやああああああっ!?」
私しか残っていない家の中に、悲鳴が虚しく響いた。
結果的に言えば、両親はあの二人の魔女に殺されて私だけが生き残ってしまった。あの後何があったのか、また記憶が飛び飛びになっていたが、近所からの通報を受けた魔法少女や警察がいっぱい来て、事件については当事者の私にも箝口令が出された。
ニュースにもなることはなく、世間がこの悲劇を知ることはなかった。
私を保護してくれた警察官の一人が言う。
「……辛い目にあっただろうが、魔女によるこういった事件は少なくない。君のご両親を殺した魔女達は、必ず魔法少女達が捕まえてくれる。だから、安心して待っていてほしい」
――何を安心すればいいのか。無責任なことを言いやがって。あれだけ日頃から持て囃されて、アイドルのような扱いをされている魔法少女はたくさんいるはずなのに、私の両親は魔女によって殺されてしまった。
それに警察は無責任なことを言うばかりで、直接的ではないが両親の死を「ありふれた悲劇」と表現し、揉み消そうとしている。
魔法少女だけではなく、この国や世界の在り方に私は不信感と怒りを抱かずにはいられなかった。
両親が亡くなったことが影響し家にも住めなくなり、『管理委員会』が運営する魔女被害者の子供達が暮らす施設に私は送られることになった。
つまり、それは生まれ育った街を去らないといけないだけではなく、親友の朱里にも何も告げられずに離れ離れになるのだ。
納得できる訳がなかったが、所詮まだ子供の私にはどうすることもできず、国の息がかかった施設で生活をするという選択肢しかない。
悶々とした感情を抱えながら、一人で街をぶらついていると何故か誰かに呼ばれたような気がして、路地裏に入ってしまった。
「――いやはや。中々に素晴らしい憎悪をお持ちですね、お嬢さん」
そこにいたのは、宙に浮かび人の言葉を話す禍々しい一本の剣であった。
「……剣が喋ってる?」
「いきなり声をかけられたら、驚くのが普通ですね。とんだ失礼を。私は所謂悪魔と呼ばれる存在です」
「……悪魔」
剣が口(?)にした言葉を舌の上で転がす。悪魔。私の両親を死に追いやった魔女を生み出した元凶。
それを認識した瞬間、私は心の中に溜まっていた全てを目の前の自称悪魔にぶつける。
「……よくも悪魔が私の前に顔を出せたね。お前達のせいで、お母さんとお父さんは……!」
「おやおや。実に心地よい憎しみですが、その様子だと私以外の悪魔――いえ、魔女にご両親が何かされたようですね。
一言言い訳させて頂きますが、別に我々悪魔に同族意識はありませんし、基本的に悪魔や魔女同士で手を組むことはありません。よって、私を恨むのはお門違いですよ」
「……そんなこと言って! なら、私のこの気持ちはいったいどうすればいいのよっ!?」
「――あ、そうそう。そこで一つ、素晴らしい提案があるのですが。私と契約して、魔女になりませんか? 貴女が望む力が、復讐を果たすのに必要な力が手に入りますよ?」
そう甘い言葉を囁く悪魔の提案に、私は頷きあの化け物どもの仲間入りをしてしまった。全身に力が満ちていく。この力があれば、あいつらを――。
「魔女としての名前はどうしますか?」
「名前? 名無しじゃいけないの?」
「名前は大切ですよ。悪魔にとっても、魔女にとってもね」
私の契約悪魔となった喋る剣――シミターが、魔女としての名前を決めるように催促してくる。正直に言って、どうでもいいのだが、五月蝿そうなので適当に決めることにした。
「――『刃』の魔女。これでどうかしら?」
「ええ。良い名前です。よろしくお願いしますね、『刃』の魔女」
「私の両親を殺した魔女に――いや、この世に存在する全ての魔女を断罪するまでの関係性だけどね。最後はお前を殺した後で、私も自害するつもりよ」
「別に私は構いませんよ。我々悪魔は刹那主義ですので。その場その時が楽しければ、無問題ですから……まあ、時間はかかりますが復活するんですが」
最後の方は小声で聞き取れなかったが、特に重要なことは言っていないだろう。
――こうして歪な契約関係が生まれて、私の
「え? 小夜ちゃん?」
今一番会いたくない人間に会ってしまった。
親友である朱里を、事情の知らない彼女を巻き込みたくなくて、私は嘘を吐いてしまう。
「――ごめんなさい、朱里。もう私に二度と関わらないで」
「ねえ、待ってよ!? 小夜ちゃん!?」
親友の制止の言葉を振り切り、私は非日常の中に足を踏み入れた。
――どうか願わくば、朱里は
■
「ご苦労さまです、『刃』の魔女。これで狩った魔女の数は五人になりましたね」
「……ねえ、それは嫌味のつもり? まだたったの五人よ? この国だけじゃなくて、世界中に魔女がどれだけいると思っているの? こんなペースじゃ、全然足りないわよ!?」
私の焦った声が、最近寝泊まりに使っている廃墟のビルに響く。
彼女達があの化け物どもと同じように、悪人であったかどうかは知らない。知りたくもない。
もう後戻りはできる段階は、とっくに過ぎ去っている。
少女達の体を剣で突き刺した感触がずっと頭の中から消えず、夢の世界でも彼女達が私に恨み言を延々とリピートしてくる悪夢っぷり。
心の休まる時は一切なく、何なら今も幻聴が絶えない。
そんな私の憔悴ぶりについて、シミターは何も言わない。何なら嬉しそうに見てくるだけだ。と言っても、表情がないのでよく分からないが。それすらも、私の思い込みかもしれない。
たった五人を殺しただけで、この調子だったら目的を達成できる気が全くしない。
(……朱里。もう一度貴女に会いたいよ)
弱り切った心が、親友の名前を呼ぶ。
大切な私の親友。両親が死んでしまった今では、彼女の存在だけが私の心の支えだった。
彼女が私のようにならない為にも、私は魔女狩りを続けていたのに。何を間違ったのか、彼女は魔法少女になっていた。
『お願い、小夜ちゃん! もうこれ以上、手を汚すのは止めて! 悪魔に操られて……脅されているなら、魔法少女私達が必ず助けるから!』
『……貴女は』
『――いい加減に鬱陶しいのよ、朱里。何度も言ってるよね、私にはもう関わらないでって。私が何の為に魔女になったのか、その理由も知らないくせに』
『小夜ちゃん……』
『もう友達ごっこなんか、おしまいにしましょう?』
『……ねえ、小夜ちゃん。嘘だって言ってよ!?』
『――さようなら。勘違いの魔法少女さん』
三度目になる激突で、朱里には今度こそ本当の決別の言葉を叩きつけてしまった。そんな私が彼女に助けを求めるなんて、滑稽でしかない。
全く眠れる気がしないが、今日はもう寝るとしよう。少なくとも朱里のことを考えているよりも、夢の中で暴言や恨み言を言われ続ける方がマシだ。
相変わらず黙ったままのシミターを無視して、硬いコンクリートの床で横になろうとした瞬間。
「――ようやくみつけたよ。『刃』の魔女」
「!」
一瞬で魔女に変身する。衣服が魔女としての黒一色のドレスに変化する。魔法で一本の剣を創造し、その切っ先を侵入者に向ける。
「貴女は……その格好や魔力の質から見て、魔女ね?」
「うん、そうだよ。僕は魔女だ」
私の問いを肯定したのは、小学生低学年ぐらいと思わしき藍色のエプロンドレス姿の少女だった。
――こんな小さな少女も、私は。
吐き気が込み上げてきたが、それを無理やり抑え込む。少女がどんな目的で私に接触してきたか分からないが、余計な問答を重ねる必要はない。
魔女である時点で、私の粛清対象だ。
そう覚悟を決めて、少女が何かをするよりも先にその脳天に剣を叩き込もうとした。
――しかし、その一撃はもう一人の乱入者によって防がれる。ガキン、と金属質な音が響き私は乱入者から距離を取る。
そこまでは良かった。だけど、乱入者の正体を視界に収めた瞬間。私の壊れかけの心に、止めを刺されたような錯覚をした。
「――何で、貴女がここにいるのよっ!?」
乱入者はピンク色のドレスを着た魔法少女で、私が今一番