趣味が『魔法少女集め』のTS魔女さん   作:廃棄工場長

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第六話 そんな虫のいい話はあると思うかい?

 

 

「朱里っ!? どうして貴女が魔女を助けようとするのっ!?」

 

 

 私の声に、朱里は応えてくれない。瞳だけではなく、表情にも何の色も浮かんでいなかった。だけど、今のギリギリの精神状態の私には、朱里の無表情が魔女()を責めているように感じてしまう。

 

 

 ――ああ、止めて。そんな目で、表情で私を見ないで。貴女にまで否定されてしまったら、私の心は――。

 

 

「――何をやっているんですか。『刃』の魔女。貴女の使命は、この世全ての魔女の根絶ですよね。復讐の為に。友の為に。こんな所で止まっていいのですか?」

「……シミター。そんなこと、悪魔であるお前に言われなくても分かっているわよっ!? 一々うるさいっ!? ……私は全部の魔女を殺さないといけないのに、朱里が邪魔をしてくるの。まるで今まで魔女を殺したことを否定するみたいに。……いや、みたいにじゃなくて実際に朱里はそこの魔女を庇って……あれ? やっぱり私が間違ってたの? お母さんやお父さんを殺した奴らの同類を殺そうとすることは。殺したことは悪いことだった? え? あれ? いやいやいやいや違うちがうチガウ!? 私は正しいことをしたのよ!? 世の中の為になることを!? ……魔女()否定(拒絶)しないでよぉ……朱里」

 

 

 正体不明の魔女や何故かそいつに協力(?)している朱里がいるというのに。魔法で創り出した剣を地面に放り投げて、私は両手で頭を抱えて蹲ってしまう。

 

 

 つい少し前までは、あれだけ朱里に会いたいと思っていたのに。私が殺そうとした魔女を庇うように立つ彼女の姿を見たくはなかった。

 

 

 私の大切な(朱里)を奪われたみたいで、心の中にぽっかりと大きな穴が空いてしまい、喪失感が凄まじい。戦う気力が湧いて出てこない。

 

 

 私が現実から逃避する為に出す絶叫だけしか、私の耳には入らなかった。

 

 

 

 

「――もしもし。『刃』の魔女。聞こえていますか……駄目みたいですね。いくら契約前から精神的に不安定だったとはいえ、こんなにも簡単に壊れてしまうとは。かける言葉を間違えましたかね? それとも、私の見る目がなかったのでしょうか」

 

 

 私――シミターは、現在の自分の契約者である少女――『刃』の魔女の体たらくに思わずため息を吐く。そこで、ようやく私は意識を『刃』の魔女(玩具)を壊してくれた同業者(ろくでなし)に向ける。

 

 

「こんな夜更けにどうも。小さな魔女さん。初めて見るお顔ですね。お名前をお伺いしても?」

 

 

 私の質問に、マジカルライトの後ろで『刃』の魔女が一人で勝手に壊れていく一部始終を笑顔で鑑賞していた藍色のエプロンドレス姿の魔女は、表情はそのままに返答してきた。

 

 

「うーん。あの、それって魔女としての名前だよね?」

「そうですが」

「あー、そう言えばまだ決まってなかったなー。あの黒猫悪魔、知識は中途半端に勝手に植えつけて後は知らんぷりだったから。そこら辺の常識が欠けていてごめんなさい。……という訳で、魔女としての名前は考えておくよ」

「……知識を勝手に植えつける? 契約してから一度も悪魔の姿を見ていない? ……あの、申し訳ありませんが、貴女と契約している悪魔をこの場に呼び出すことはできますか?」

 

 

 小さな魔女の発言の内容は、悪魔である私にとっても不可解なものばかりだった。

 とりあえず事の詳細を尋ねるべく、彼女の契約悪魔に話を聞きたかったが、それは次の彼女の一言によって否定される。

 

 

「えーと……どうやったら連絡が取れるのか、むしろ僕の方が聞きたいんだけど。確か基本的には妖精と同じで、契約悪魔限定とはいえ念話ができるんだよね? 分からないことがあるからそれを聞きたくて、どれだけ呼びかけても全く返事がないの。酷くない? えっと……」

「シミターです」

「失礼……シミターさんはどう思う? もしかして僕の知識が実は間違いで、契約者を放置するのが普通なのかな?」

 

 

 そう首を傾げながら、「契約悪魔とは一度も意思疎通を行ったことがない」という旨の返事がきた。

 しかし、この魔女が話した内容の全てが我々悪魔にとっては常識ではあり得ないものだ。確かに以前契約者に語った通り、悪魔に同族意識はなく群れることはない。

 ただ一つの目的(娯楽)を除いて。魔女に名前をつけることは、我々にとっては自分の契約者(玩具)を同族に自慢(宣伝)する意味合いも込められている。それをしない悪魔なんて、いるはずがない。

 

 

 けれど、現に目の前の魔女は『名無し』で彼女の周囲に悪魔(同族)が隠れている気配はない。基本的に、契約悪魔は主の傍を離れられないというのに。

 何もかもが、私の常識に当てはまらない魔女である。

 

 

(……いったい、どこの馬鹿ですか。彼女と契約したのは。発現している魔法や魔力の質から判断して、中々に良い逸材であることは共感しますが。しかし、良い趣味の魔法ですね。魔法少女を意のままに傀儡にする魔法なんて――待ちなさい。

 何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 契約妖精と思わしき気配はない……ということは、妖精ごと操っている訳ではない。であるなら、妖精達がこんな状態の契約者を許せるはずがあり得ない。契約を妖精側で勝手に破棄するでしょう。

 一時的にはまだしも、永続的に洗脳した魔法少女の力を運用することは原理的に不可能なはず……!)

 

 

 ここまで思考を巡らせて、嫌な想像が次々と湧いて出てくる。契約者システムは、()()()()()()()()基本的に一体に一人が原則である。こちら側での契約の一方的な破棄は可能であるが、少なくとも目の前の操られているマジカルライトには適用されているようには見えない。

 つまり契約関係が続いたままでありながら、契約者が妖精の側から完全に手が離れているのだ。下手をしたら契約の破棄もできないせいで、新たな契約も不可能な線もある。

 流石に妖精側の事情なので、一介の悪魔にしか過ぎない私では予想することしかできないが、一つだけは断言できる。

 この魔女は生かしておくべきではない、と。

 

 

 植えつけられたという知識も完璧ではないようだが、その内容を人類に共有されるのも困る為、その防止をする必要もある。

 

 

 私が今切れる手札は、壊れかけの契約者(玩具)しかないのは不安ではあるが――。

 

 

(……まあ、やれるだけやりましょう。もしも私の予想が正しくて、彼女の支配が魔女にも有効であった場合。困るのは私ですからね)

 

 

 視線を契約者の方に向ける。言葉を弄するのは、悪魔の十八番である。それに、たとえ壊れる寸前の契約者(玩具)であったとしても、後一度くらいは働いて(遊ばせて)くれるだろう。

 

 

 

 

「――『刃』の魔女。聞こえますか。もう一度尋ねますよ。貴女は何の為に魔女になったのですか? 復讐だけではなく、大切なご友人の為でもあるのでしょう? そのご友人が断罪すべき、悪しき魔女に囚われているのですよ? 彼女を救えるのは、貴女だけです。

 ほら、聞こえませんか。ご友人が貴女に助けを求める声なき声が」

「……私は――」

 

 

 全てを放棄しようとしていた私に、再びシミターが声をかけてきた。泣き喚いたせいか、錯乱していた精神が一時的に落ち着き、耳を傾ける程度の余裕が戻ってくる。

 

 

 悪魔であるこいつの言葉に従うようで非常に腹だたしいが、言うことには一理ある。

 家族を失ってしまった私には、もう朱里しか残っていない。大切な彼女が憎むべき魔女によって、あの時と同じように奪われようとしている。

 そんなことを許容できる訳がない。

 

 

 アドレナリンでも出ているのせいか、魔女とはいえ幼い少女を手にかけることに対する吐き気や、既に殺してしまった被害者達の幻聴も今は聞こえてこない。

 これなら短時間の戦闘は可能そうだ。

 

 

「……礼は言わないわよ」

「別にそんなものはいりませんよ。貴女がいつもと同じように、あの魔女を殺す様子さえ見せてくれれば結構ですので」

 

 

 私は膝に力を入れて立ち上がり、再度魔法を使用して一本の長剣を創造し構える。私が臨戦態勢を整える間、朱里とその後ろでニヤニヤと笑っている魔女は何も仕掛けてこなかった。

 舐められているのか。それなら、それで構わない。その隙を突いて、私は朱里を救い出してみせるっ!

 

 

 私の雰囲気が変化し、敵意を感じ取ったのか魔女の笑みが小馬鹿にしたものになる。

 

 

「あれれー、もしかしてシミターさんと『刃』の魔女のお姉さん。さっきまで楽しくお話ししていたお仲間を攻撃するつもりなんですか?」

「……どの口が言っているのよ。魔女を殺し回っている私に接触してきた目的は? そもそも朱里に何をしたのよ?」

「質問が多いな……うーん。簡単に言うと、『お人形さん』にしたマジカルライトが寂しそうだったから、お友達のお姉さんを迎えに来たの。これで満足?」

「……お人形さん?」

 

 

 魔女が言った言葉を反芻する。可愛らしい彼女の外見や衣装とも相まって、メルヘンチックな響きを持つ単語ではあるが、私にとっては真逆。

 『お人形さん』にされた(・・・)朱里は、現れてから一度も私の言葉にも反応していない。何なら、あの魔女の指示に従う以外の行動を見せていない。

 自惚れている訳ではないが、一応親友という立場にいる私の呼びかけに朱里が応えてくれないのは異常だ。私と口を交わす気がなくとも、表情に何かしらの変化を見せそうなものだがそれもない。

 

 

 つまり、あの魔女が言う『お人形さん』にされた朱里は、彼女に洗脳されているということになる。そうであるなら、朱里の無反応にも説明がつく。

 

 

(それについては、私も同意見です。彼女の魔法は、洗脳の類でしょう)

 

 

 念話でシミターが話しかけてくるが、返答するつもりはない。だが、シミターの推測も聞いたことでやるべきことは決まった。

 朱里を無力化して、その隙に術者である魔女を倒す(殺す)。そうすれば、朱里は私のことを褒めてくれるかな?

 

 

 

 

 

 ――私の魔法によって創られた剣で、朱里の魔法の産物による光弾の雨を切り裂いていく。距離を詰めようとしても、追撃の光弾がいくつも放たれてそれも叶わない。攻撃が当たらないように、距離を取る。

 

 

 これの繰り返し。ついこの間の攻防の焼き直しに感じられる戦闘も、大きな差異がある。

 それは、朱里が洗脳されていることだ。以前の戦闘では感じられた成長や魔法の冴えがまるでない。今の彼女は、ただ機械的に魔法を適当に放っているだけ。

 

 

 恐らくだが、今の朱里の体を動かしているのは洗脳した術者の魔女本人か、魔法による効果のどちらか。どっちにしても、精度がおざなりで朱里の強みが全く発揮されていない。

 近づけないほどの弾幕は厄介だが、その攻撃には法則性があるのは見破っている。後はタイミングさえ掴めれば、一気に朱里の元に接近できる。

 

 

(近づいた後は朱里を気絶させて、あの魔女を殺すっ!)

 

 

 降り注ぐ弾幕の隙間を縫って、上空で固定砲台と化している朱里に急速に接近する。

 

 

「――朱里っ!」

「……!」

 

 

 私の呼びかけに、無表情なはずの朱里が反応を示した――ような気がする。それまで無数にあった弾幕が消失する。

 

 

 魔女である私が。復讐という理由で魔女とはいえ、五人の少女を手にかけた私が、親友を助けるなんて烏滸がましいかもしれないけど。

 今の私には、もう朱里しか残されていないのだ。私みたいに、彼女の未来は魔女になんか奪われていいものじゃないっ!

 

 

 その声が届いたのか。虚ろだった朱里の瞳に光が宿る。彼女の綺麗な目が、私を映してくれる。

 

 

「朱里っ! 良かった! 正気に戻ってくれて……。それにごめんなさい。貴女に何も言わずに魔女になってしまって……。両親や貴女の為って言い訳して、人も殺しちゃった……。こんな汚い私でも、朱里はまだ友達と呼んでくれる?」

 

 

 正気に戻ったはず(・・)の朱里は、大粒の涙を流しながら叫んだ。

 

 

「――お願い、逃げてっ!? 小夜ちゃん!?」

「――え?」

 

 

 朱里は泣き叫びながらも、彼女の両腕はステッキを私に向けて構えていた。ステッキからピンク色の極光が放たれ、私の無防備な体は呑み込まれてしまった。

 

 

 ――そういえば、何で朱里の洗脳が解けたって勘違いしたんだろう。久しぶりに朱里とちゃんと話せた気になって、油断しちゃったのかな。

 

 

「――やっぱり、壊れかけの玩具ではこの程度ですか。まあ、期待するだけ無駄でしたね」

 

 

 ――私の意識を失う前に聞いたのは、酷くつまらなそうな悪魔(人でなし)の声だった。

 

 

 

 

「――あははっ! 良い見世物だったよ。……だけど、いただけないねぇ。事前に調べて来たから知っているけど、魔女とはいえ五人も既に手にかけているのに、自分だけ救われようだなんて虫がよすぎると思わない? そんな我儘な君には、この僕が罰を与えてあげるよ。

 ――ようこそ二体目の『お人形さん』。これから、いっぱい楽しませてもらうよ。仲の良い友達と一緒にね」

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