(いやー、良いものを見せてもらったよ)
――寂しがり屋なマジカルライトの為に、そのお友達である『刃』の魔女を
その作戦は単純で、意識と肉体の自由を奪ったマジカルライトに戦闘をしてもらい、佳境に入った頃に意識
そうして、動揺を誘った所にマジカルライトに強力な一撃を叩き込んでもらう。という内容だ。
そして、この作戦が非常に効果的だったことは結果を見れば明らかだろう。マジカルライトの頑張りのお陰で、『刃』の魔女の無力化に成功したのだ。僕なんて、何の役に立っていないと言っても過言ではない。
だから、この場で一番のMVPであるマジカルライトには、しっかりとお礼の言葉を言って上げないと。
「――という訳で、お姉さんの協力もあってお友達を倒すことができたよ。僕だけじゃ、こうはいかなかった。ありがとうね」
そう言って、顔に笑みを浮かべる。魔女に変身した藍色のエプロンドレス姿と、幼い容姿の組み合わせは我ながら将来が楽しみになる程だ。
そんな可愛らしい見た目の少女が、渾身の笑顔を浮かべながら感謝の言葉を告げているのだ。これには、マジカルライトも喜びの声を上げて――。
「――小夜ちゃん!? 小夜ちゃん!? ごめんなさいっ!? 私……体が勝手に動いて……死んでいないよね? お願いっ!? 死なないでよぉ……もう独りぼっちは嫌なの……」
――普通に無視をされてしまった。若干笑顔が強張るのを自覚しながらも、マジカルライトの取り乱す様を見ることができたので良しとする。
時間が経ってお友達の姿を見たお陰か、会話ができる程度には正気を取り戻したマジカルライト。だけど、それが仇になり、彼女は自分の手が引き起こした現実を直視させられている。
まあ、そうさせたのは僕だけど。
(操られているとはいえ、大切な友人に攻撃を加えたのは結構精神的にきているねぇ。『刃』の魔女が見つかるまでの間は、昼間の時間に
孤独感から久しぶりに出会えた友人に助けを求めたいのに、話す自由もハグを交わす自由もない! それで、ようやく口が動くようになったと思ったら、体は自分の意思に反して友人に戦闘不能になる程のダメージを与えてしまう。
――ああ、本当にイイ声で泣いてくれるよ)
先ほどからハイライトのない目で壊れたスピーカーのように、「小夜ちゃん……小夜ちゃん……」と愛しい友人の名前を繰り返し呟く様子は非常に素晴らしい。
しかし毎晩のお話で聞いた時には、二人の関係性は「とっても大切だけど、仲の良い親友」という感じだったが、マジカルライトの孤独感のせいで
眼福、眼福。良い目の保養になりますわー。
「――初めての『お人形さん』がお姉さんで良かったよ」
心からの本音を呟く。今度は独り言のつもりだったのだが、マジカルライトに届いてしまったようで。涙を流しながらも、僕に向かって憎しみが込められた視線を向けてくれる。
「……お前のせいで、小夜ちゃんが」
「うーん。何か勘違いしているみたいだけど、お姉さんのお友達は死んではいないよ。今はただ気絶しているだけ。
「ねえっ!? ……もしかして、小夜ちゃんのことも!?」
「うんうん。多分だけど、正解だよ」
「お願いっ!? それだけは止めてっ!? ……その代わりに、私のことはいくらでも虐めても構わないから! 小夜ちゃんのことは見逃して!?」
僕の発言で、これから起こることを想像したマジカルライトはすぐに血相を変えて、
ああ、さっきみたいな殺意の籠もった視線もイイけど、お友達の為の献身ぶりはゾクゾクするよ。百点満点。ついつい、言うことを聞きたくなちゃう。
「――でも、駄目。というか、お姉さんがあの時に言ったんだよ。寂しいから、お友達を呼んでほしいって」
「え、あれは違うのっ!? ……そもそも、あれは半分はお前が……!」
「へえー、そういう口利いちゃうんだ。まあ、どっちでも構わないけど。ここまで労力を割いたんだから、お友達を『お人形さん』にしない選択肢はないから」
そこで会話を打ち切って、廃墟のビルの屋上に倒れ伏す『刃』の魔女に歩いて近づく。なおもマジカルライトは話を続けてきそうだったので、操り強制的に口を閉じさせる。モゴモゴといううめき声だけが響く。
(……しっかし、戦闘タイプの魔法少女や魔女は羨ましいな。戦闘時間はそこまで長くなかったはずなのに、ぽんぽんと戦う場所を変えるせいで、二人に追いつくの大変だったよ……。
変身してなかったら、その辺で息が上がってのびていただろうな……というか、今も若干きつい)
軽く乱れた息を整えつつ、心の中で愚痴る。だが、それだけ苦労をした甲斐は確実にあった。二人の少女がすれ違いながらも、互いを求める様子も。片方がもう一人の為に自分の身を犠牲に捧げようとする献身ぶりも。
その全部が最高だった。
寂しかっただろう。不安だっただろう。
「――だけど、もう大丈夫。これからは、ずっと一緒にいられるからね」
倒れ伏している『刃』の魔女の体に手をかざす。マジカルライトの声なき、制止の言葉が響く。
「――『お人形遊び』」
僕の掌からドス黒い魔力が放出されると、『刃』の魔女の体を『
時間は数秒とかからない。その間、マジカルライトはずっと涙を流し続けていた。
『刃』の魔女が、『お人形さん』に変貌する。これで二体目の
(さてさて、さっさと撤収するかー。さっきまでの戦闘を周辺住民に目撃されて、『管理委員会』に通報がいっているだろうし)
と考えて、行動を移そうとしていると。それまで姿を隠していた一本の喋る剣――『刃』の魔女の契約悪魔のシミターが、僕に声をかけてきた。
「――中々に素晴らしいものを見せてくれて感謝いたします。それにしても、良い手腕ですね。おまけに趣味も合いそうですので、少々お話もいかがでしょうか?」
(……ああ、いたな。こんな奴。二人の相思相愛っぷりで、完全に眼中になかったわ。しかし、どの口が言うかなー。僕に『刃』の魔女をけしかけておいて。あのまま黙ってフェードアウトするなら、気分も良かったし見逃してやったのに。どうせ碌なことを考えていないだろうし、適当に処理するか)
それでも、話は聞こうと思い。僕はシミターと向かい合った。
■
「……そこで、小さな魔女さん。私から一つ提案があるのですが」
「え、何? できれば、手短に済ませてほしいけど」
よし、食いついた。
とりあえず、最初の賭けに勝ったことに私は内心安堵の息を吐いた。
(……元々、期待していませんでしたが傷の一つすら与えることができなかったのは予想外です。それに加えて、もう『刃』の魔女との契約破棄もできない……。これでは、悪魔としての私は終わったようなものですね。『
とは言っても、ただで終わるつもりはない。システム上の契約は不可能でも、
幸いにして、『刃』の魔女とマジカルライトを操っている『無名』の魔女は、悪魔の私をして外道の太鼓判を押せる人物だ。
さっきまでの物事の運びようを見るに、彼女の傍にいれば退屈することはなさそうに感じる。
そして、この提案は『無名』の魔女にとっても悪い話ではない。どういう意図や経緯があって、彼女に
だったら、たとえ正式な契約は交わせなくても
そういう旨の提案を持ちかける。この場で殺されるリスクもあるが、『無名』の魔女にもメリットがある話だ。無視できるはずがない。
(……そうやって懐に潜り込んだら、全力で楽しみ。彼女からの信頼を得つつ、ここ一番の所で『刃』の魔女が物理的に壊れるように――洗脳から解放されるように立ち回る。こうすれば私の契約制限も解除されて、新しい
どれだけ狂っている破綻者であっても、目の前の『無名』の魔女は魔女になってからの日も浅そうであり、年齢相応にこういう腹の探り合いの経験も乏しいだろう。
だから、彼女は頷くはずだ。
ごくりと唾を飲み込む――ような仕草をする。それだけ緊張しているのだ。この私が。
時間がないと言いつつも、『無名』の魔女は腕を組みうんうんと唸って悩む素振りを見せた後。その口を開いた。
「うーん。そのお誘いだけど、断らせてもらうよ」
「な、何故でしょうか? 貴女にもメリットがあるという点は説明したはずですが……」
「そういう問題じゃないんだよ。僕は一人で好き勝手に
それに、どうせ腹の中では碌でもないことを考えているんでしょう?」
そう『無名』の魔女は宣言し、指摘してくる。
(……思ったよりも頭が回りますね! というか、この流れは不味いのでは……?)
「何をおっしゃいます……! 口が裂けても、「貴女の為に」とは言いませんが、利害は一致しているはずです……!」
「もういいよ。言い訳は聞き飽きたし。素直に最後まで隠れているんだったら、見逃してあげたのに。――『刃』の魔女。初めてのお仕事だよー」
「……」
『無名』の魔女のその言葉に従うように、地面に倒れていた『刃』の魔女が機械的に立ち上がる。
魔法を発動して、一本の長剣が創り出される。凶刃が私に向けられる。
(……流石に万事休すですか。まあ、新たな契約ができなくても復活できます。その後で、他の悪魔達に情報を渡して彼女を討伐してもらい――っ!?)
そんな思考を中断するように、『刃』の魔女によって私の体が半分に両断される。激痛が走る。
剣の持ち手の部分が落下した。体の構造上、血は出ないが痛感はある。
いくら後で復活するとはいえ、痛いものは痛い。それを無理やりに憎しみに変換する。
(……精々、今は享楽に耽るがいい。完全に油断しきった所を――)
「――何か勘違いしているみたいだけど、シミターさんはここでおしまいだよ?」
「は?」
この魔女は、何を言っている?
「妖精は知らないけど、この世界で悪魔は死んでも、元の世界で蘇るのは知っているよ。敵対の意志を表明してくれた間抜けをみすみす逃す訳ないじゃん。
――『刃』の魔女。シミターさんを死なない程度にもっと細かく切り刻んだ後に、
「ま、待ちなさい……!? 魔女が悪魔を喰らうなど、そんな話は聞いたことなど……!?」
『刃』の魔女が剣を振るう度に、私の体はどんどん小さくなっていく。そして、細かい鉄の欠片となった私の体を掴んだ『刃』の魔女は、口を開き中に運ぼうとしてくる。
「『刃』の魔女っ!? 貴女は私の契約悪魔ですよっ!? 今すぐに止めなさいっ!?」
「あ、そうだ。食べる前に、きちんと「いただきます」は言わないと駄目だよ。『刃』の魔女」
「……いただきます」
「止めろっ――!?」
恥も外聞もなく命乞いをしたが、二人の魔女に聞き入られることなく。
バリバリ、と。僅かに残された体が噛み砕かれる音を聞いたのを最期に、私の意識は断絶した。
■
「残さずに、きちんと食べた?」
「……はい、食べました」
「硬くて、口の中傷ついてない?」
「……はい、大丈夫です」
「うんうん、なら良かった。『刃』の魔女はいい子だねー。どこかの誰かさんと違って」
シミターの完全消滅を確認して、それを為してくれた『刃』の魔女に少し屈んでもらい、彼女の頭を撫でる。
離れた場所で、僕らの微笑ましいやり取りを眺めることしかできないマジカルライト。羨ましそうに見てくるなんて、可愛いなあ。
「大丈夫、大丈夫。二人一緒に可愛がってあげるから。楽しみにしててね。お姉さん」
「んっ!? んっ!」
「あはは。そんなに嬉しそうにしなくても、いいよ。『お人形さん』の世話は、持ち主である僕の仕事だからね」
何か言いたげにうめいているマジカルライトを無視して、二人の体に触れて小型化させる。ミニチュアサイズとなった二人を軽く見つめた後、僕は変身を解除して私服姿に戻る。
そして、二人を別々のスカートのポケットに入れる。
(……しかし、我ながら良いアイデアだったね。シミターを食った直後に『刃』の魔女の魔力量が明らかに増えた。『お人形さん』のパワーアップ方法としても、最適な方法かな? いや、今はそれよりも……)
「――まだまだ一緒に触れ合える機会はお預けだよー。そんなに暴れようとしてもダメダメ。寂しいんだったら、家に着くまで僕がぎゅっと握ってあげるから。心配しないでね、うふふ。さて、早く帰らないとまた姉さんに見つかっちゃうからね」
――その独り言を最後に、僕は夜の街を駆けた。そして案の定、また姉さんにバレた。フラグは立てるべきではないと。心底そう思った。