人によって、好き嫌いが激しく分かれそうな性格の主人公ですが、なるべく多くのキャラクター達が笑顔になれるようなハッピーエンドを目指したいと思いますので、今後ともお付き合いください。
もちろん、主人公も含まれますよ(小声)
「――
「き、気のせいじゃないですか? 姉さん」
「そう。ならなんで、私から目を逸らすのかしら? 正直に白状するなら、こっちも穏便な対応を考えるわよ? あー、何でか急に最近夜遊びをする悪ーい子の話をしたくなっちゃうなー」
「許してください! お母さんやお父さんには言わないでください! ……少しだけ、友達と電話で盛り上がってしまって」
そう私に頭を下げながら謝る妹の姿に、罪悪感で胸がチクリと痛むがここは我慢、我慢。下手に甘い顔を見せてしまったら、調子に乗ってしまう。
ただでさえ操が夜中に家を抜け出している件を両親に黙っているので、これ以上は許してはいけない。彼女自身の将来の為にも。
と言っても、あまり引き締め過ぎて過度なストレスは健やかな成長に悪影響を与えてしまう。友人関係という第三者である私が深く関わるには、デリケートな問題であることも躊躇の一因にもなっている。
だけど、姉として何かは言わなければ。
「操。お友達とお話するのが楽しいのは分かるけど、夜中まで電話するのは流石に向こうにも迷惑になるから控えなさい」
「はい……」
少しだけ厳しめに注意すると、操はしょんぼりと頭を下げながら返事をしてくる。
「分かってくれたならいいわ。今日こそは真っ直ぐ帰ってくるのよ?」
「は、はい……。では、行ってきます!」
先ほどとは違って、曖昧な返答をした操は近くにあったランドセルを背負うと、早足で玄関の方に向かっていった。
そんな操の様子を見て、軽くため息を吐く。
「はあ……あれじゃ駄目そうかな?」
私個人の力ではこれ以上は限界そうだ。私の
――本当であれば、両親を始めとした周りにいる大人に頼るのが正解だと分かっていたが、どうしても私にはそれができなかった。
ある日突然、操が私の前からいなくなってしまう。そんな妄想のせいで。
――それから、私も操に遅れるように家を出て中学校へ登校した。近所のおじさんやおばさんに、校門の前に立つ先生、知っている同級生達に挨拶をする。挨拶はコミュニケーションの基本で大事だからね。
私は下駄箱で靴を履き替えて、『2―B』と札のある教室へと行く。扉付近にいたクラスメイト達にも「おはよう」と挨拶をしながら、自分の席に向かう。
机の上に荷物を置いて、一息吐いていた所。背後から声がかけられる。
「優衣さん。おはようー」
「おはよう、利恵」
私も挨拶を返しながら、声の方向に振り返る。そこにいたのは、私と同じ学校指定のセーラー服に身を包む少女――神崎利恵だった。
彼女こそが私の友人であり、魔法少女である人物だ。
私と利恵の友人関係が始まったのは、中学一年生の時の
始まりはどうあれ、利恵のことを私の中では少なくとも他の友人達とは一線を画すぐらいには信頼している。
だから、家族のことについても相談できる。と言っても、朝の慌ただしい時間で手短に説明できるものでもない。
もっと時間的にゆとりのある昼休みや放課後にすべきだろう。
「ねえ、利恵。後でちょっと相談したいことがあるんだけど……」
「え? 別にいいですよ。優衣さんにはいつもお世話になっていますから」
年齢の割にはそこそこ膨らみのある胸を叩く友人の姿に、私も笑みを浮かべて雑談をしながら一限目の準備を始めた。
■
――時間は昼休み。午前中の授業で酷使された脳や体を癒す為に、エネルギー補給を行う時間。ちなみに私達が通う中学校は給食ではなく、弁当だ。
一部の人達は給食の方がいいと言っていたが、私としては面と向かって友人とお話できる弁当の方が小回りが利いて好きである。
――私は名前は神崎利恵。ただの普通の女子中学生――という訳ではなく、魔法少女も兼任している。
魔法少女と言っても、なったのに壮大なドラマがあった訳でもなく。小学校を卒業する間近に妖精に突然声をかけられて、成り行きで契約して魔法少女になっただけだ。
ただ単に「魔法少女は可愛いなー」程度の認識だったので、なってからは非常に苦労をした。契約して直後に、自宅に『管理委員会』の職員さんが来て、難しい書類を渡されたり、両親と一緒に説明を受けたり。
それはまだ序の口で、悪魔と契約した魔法少女の対的な存在である魔女との戦闘は命懸けで死を覚悟したことも数回はあった。
まあ、何とか無事に生きているが。
けれど、命の危険に常に晒されているのは非常にストレスだったようで。魔法少女として活動を始めて、数カ月程で私は進学した中学校にも不登校になりつつあった。
それでも魔女の『保護』の仕事は入ってきて、任務の頻度は落ちても休むことは許されなかった。というか、その穴を埋めるように次々と別の仕事が入ってくるようになった。
職員さんの無茶振りな指示に、元が一般人とは思えない魔女との戦闘だけではなく。魔法少女をアイドルか何かと勘違いしている市民への対応。
色々と限界だった。
(……もう疲れちゃった)
精神的に壊れそうになっていたけれど、偶々学校に来ていた時。一人の女の子が――優衣さんが「……大丈夫?」と心配そうな声をかけてくれた。
私をちゃんと見てくれることが嬉しく、頑張れる力が湧いて出てきて、気持ちにも多少の余裕もできた。そのお陰で、私の方から一方的に拒絶していた両親や契約妖精は、一生懸命に私に寄り添おうとしたり、元気づけようとしてくれていたことに気づけた。
私を取り巻く世界は、想像以上に厳しいことや目を逸らしたいこともあったけど。その分、優しさに満ちていたのだ。
そのことに気づかせてくれた優衣さんにはとても感謝している。あの時彼女が言葉をかけてくれなかったら、もしかしたら私はこうして笑うことができていないと思うから。
そのことがきっかけとなり、私にとって優衣さんは友達以上に、ある意味命の恩人とも言える。それほどの大きな存在だった。
今は契約妖精――見た目は花びらのような羽を持った、可愛いらしい少女で、名前はペタル――が、『管理委員会』に掛け合ってくれて、私に回される仕事は前よりも格段に少なくなり。
学業にも専念できるというか、普通の中学生らしい生活を送れるようにもなった。精神的に追いつめられていた時には、憎いとさえ思っていたペタルは私に勿体ないぐらいな相棒だったのだ。
そんなペタルを伴って――普段は契約者以外に姿が見えないように透明化しているが――私は、優衣さんに連れられて屋上に向かう。
どんな話をするか分からないが、昼休みでもあまり人が寄りつかないので密談にはうってつけだろう。
扉を開けて、屋上に出る。五月上旬の日差しと風が心地よく、日々の任務で疲れがリフレッシュされる。
「それで優衣さん。改まって、私に相談事って何ですか?」
私の後からついてきた優衣さんに、振り返りながら質問をする。まずは、どんな内容か把握するのが先だろう。
「……友達の利恵に相談するのは違うかもしれないけど、ちょっと両親には言いづらくて。妹の操のことについてなんだけど」
「操ちゃんがどうかしたのですか?」
事前にいくつか予想していたものと違っていた。優衣さんの妹である操ちゃん。確か、今年で小学二年生だっただろうか。
度々優衣さんに「操が可愛いのよ! 見て見て!」と携帯の写真を見せられているので顔は知っている。
何なら優衣さんの家に遊びに誘われた時に、会ったこともある。
私から見た操ちゃんの印象は、可愛らしく年齢からは考えられないぐらいに礼儀正しい子供であった。残念なことに私は一人っ子だったが、これだけ可愛いのであれば優衣さんがシスコン気味になる気持ちも分かる。
今度両親に妹がほしいと言ってみようかな? 冗談だが。
しかし、いくら私が会った時の態度がよそ行きのものだったとしても、優衣さんの話を聞く限り全く問題児とはほど遠い子なはず。
いったい操ちゃんに何があったのだろうか。
「……あのね、利恵。最近、操の様子がおかしいのよ」
そんな前置きをしてから、優衣さんが語った内容を頭の中で整理する。
(……確かに、大事な妹が夜遅くまで外を出歩いていたら心配ですよね。だけど、両親には伝えていないと。「操ちゃんがどこかに行ってしまいそう」……余計な心配だと思いますけど、優衣さんのこういう時の勘ってよく当たりますから……)
そこまで整理が終わり、私は一つの考えが思い浮かぶ。
「良かったら、私が操ちゃんの後をつけてみましょうか?」
「え? そんなこと頼んでいいの?」
「別に構いませんよ。ちょうどよく二、三日程度は魔法少女としてのお仕事はおやすみですし、最近はこの辺でも魔女による被害が多いですから。一般人の優衣さんに、夜の街は危険ですので」
「助かるよ、利恵。ありがとう!」
そう言いながら、私に抱きついてくる優衣さん。彼女の柔らかい胸の感触がダイレクトに伝わってくる。女性同士であるのにも関わらず、顔が熱くなってしまい。思考がショートしてしまった。
肝心の理由は、当の私にも分からなかった。
「おーい! 利恵! 大丈夫!? しっかりして!?」
優衣さんの声を聞きながら、私は軽く意識を失ってしまった。
■
「いやー、見ものだったね。あの時の利恵のだらしない顔。写真に撮って、後で見せたかったよ」
「……黙ってください。ペタル。さもないと、今日のおやつは抜きにしますよ?」
「ええー、それは勘弁してほしいかな。いいよ、この件についてはもう喋らないからさ」
契約者である私をおちょくる悪い妖精には脅しをかけていないと、すぐに調子に乗ってしまう。揉み手をしてくるペタルに向かって、冷たい視線を送っておく。
――時間は既に放課後。優衣さんからの了承をもらった私は、現在少し離れた物陰から操ちゃんの後をつけていた。
少々犯罪チックな構図のような気もするが、実の姉である優衣さんの許可は頂いているのだ。何も問題はない。
優衣さんからのお話では、操ちゃんは一応朝の約束を守って真っ直ぐに帰ってきたらしいが、その後すぐにまた出かけたらしい。友達の家に遊びに行くと言っていたようだが、先ほどから観察していても一向にその友達の家とやらに向かっている様子は見られない。
単純に目的地が遠い、という話であればよかっただが。操ちゃんは、だんだんと人気が無い道を選んでいるかのように進んで行く。その段階で、私の中から楽観的な気持ちは消え去っていた。
(……操ちゃんが嘘を吐いている? だとしたら、いったい何の為に? もしかして誰かに脅されて、こんな場所に来るように指示されているのでしょうか? その相手とは……?)
ふと脳裏に嫌な予感が過る。最悪の想定だが、操ちゃんが魔女に誑かされている可能性がある。
今日の昼間にも優衣さんにも言ったが、最近はここ周辺で魔女による事件が多発して、前述した可能性が全くない訳ではない。
その魔女の内、『管理委員会』が捕捉している一人の魔女は私の同級生の八神小夜さんだ。魔女名は、『刃』の魔女。
魔女に両親を殺された彼女が魔女となり。被害者の身元は公にはされていないが、全員が魔女で。八神さんは復讐に駆られるように同じ魔女を狩り続けているというのは、中々に残酷な話である。
そして八神さんの友人であった上原朱里さんは、彼女を止めるべく魔法少女になったのだが、少し前に行方不明になってしまっている。
そして、それと同時期に『刃』の魔女の目撃情報が途絶えている。
それが何を意味するかは材料が少なく、『管理委員会』でも意見が割れていた。上原さんが八神さんを匿っているのか、それとも逆に八神さんが上原さんを攫ってしまったのか。
未だに判明していない。
このように身近に魔女の脅威は潜んでいる。友人の妹がその毒牙にかかっていない保証はない。何もなければそれでいいのだが、優衣さんを安心させる為にも真実を確かめなければ。
そんなことを考えている内に、周囲から完全に人の気配が消えていた。操ちゃんに気づかれないように尾行するのにも、そろそろ限界が近い。
というか、こんな場所に毎晩一人で来ている時点で魔女に関係なく連れ戻すべきだろう。それでもまた家を抜け出したりするようであれば、優衣さんには悪いがご両親に伝えるつもりだ。
操ちゃんは私にとっても妹のような存在で、そんな彼女が危ない目に遭うのは許容できない。そう結論づけて、深呼吸をして操ちゃんに声をかけようとした時。
――操ちゃんがばっと後ろを振り返った。視線が物陰に隠れていた私を射抜く。心臓が止まる。そんな錯覚に陥ってしまう。
「――ねえ、誰か分からないけど
まるで捕食者のような視線を向けてくるその姿に、私の知る操ちゃんの面影はない。今まで考えないようにしていた最悪の想定を超える最悪。
それが現実である可能性に、思考が徐々に麻痺していく。
「――何も答えるつもりがないのなら、こっちから行くよ」
操ちゃんの体から魔力が放出されたと思ったら、彼女の装いは一瞬で変化していた。藍色のエプロンドレス姿を纏い、黒髪黒目から金髪碧眼に変化した外見は不思議の国に迷い込んだアリスのようで。
されど、浮かべる表情は何故か傲慢なハートの女王を連想させた。
「――じゃあ、試運転も兼ねてネズミさんを炙り出してあげよっか。――『刃』の魔女、お願いね」
「――『ソード・ショット』」
操ちゃんのその言葉に従うように、一つの人影が現れる。黒色のドレス姿の少女は、私にも見覚えのある顔で思考が一瞬だけ止まってしまう。
(――え? なんで、八神さんが――?)
「――利恵っ!? 早く変身するんだ!?」
「――っ!?」
ペタルの必死の呼びかけに私は正気を取り戻して、首にかけていたペンダントに魔力を流し込んで変身を行い。そのまま私が隠れていた場所に放たれた魔法を回避する。
――もう認めるしかなかった。操ちゃんは誰かに脅されているのでも、ましてや友人の所に遊びに行っていた事実はなく。
彼女自身が、悪魔によって人の道を外れた怪物――魔女であるということを。
姿を現した私を見て、苛々としていた操ちゃんの顔に笑みが浮かぶ。
「あれれー、誰かと思ったら利恵さんじゃないですか。……だけど、どうして利恵がここに? ……あー、なるほどなるほど。もしかして、最近僕が夜中に抜け出すから姉さんに陰ながら見守ってほしいとか、頼まれたんだよね? いやー、本当に妹思いの姉だよ。可愛い妹の為に、
――私には到底理解できない内容を、