異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

4 / 75
人の姿をした「何か」が、闇の中で待ち構えている。
プラズマも効かず、声もなく、ただ獲物を狩るために。
追い詰められたデレクは、一か八かの賭けに出る。
成功すれば生還、失敗すれば――自らの手で終わらせる覚悟で。


第4章: 化け物の影

デレクは暗い異星の回廊を《NOVA》で全速力で駆け抜けた。プラズマブレードの縁をかすめる空気が、ピュウ、と鋭い音を立てた。

 

百メートル先に、ぼんやりとした影の群れが浮かび上がる。

 

黄色く光る目が、闇の中できらめいていた。

 

シルエットは人型に見えたが、異様に歪んでいて、四肢で這い回っている。手足はあり得ない角度にねじ曲がっていた。

 

デレクはディスプレイを拡大表示した。

 

動きは鋭く、不規則で、まるで昆虫じみている。ギザギザの黒い金属パーツが体中から突き出していた。

 

顔は無表情な仮面。琥珀色の目には虹彩がなく、感情のかけらも見えない。

 

ぼろぼろの布切れが引っかかり、関節が動くたびに、ヒラリ、ヒラリと揺れていた。

 

その中に、地元警備隊の紋章が見えた。

 

ぞわり、と背筋に寒気が走る。

 

銀河を旅してきたデレクですら、ここまで不気味な光景は滅多にない。

 

だが――こいつらには、どこか見覚えがあった。

 

こいつらは、実験室で作られたモンスターじゃない。

 

もとは、人間だった。

 

【デレク】「なあ、ヴァンダ。あのゾンビもどき、警備隊の制服着てんぞ。何がどうなった?」

 

【ヴァンダ】「不明です、デレク。推測ですが、彼らはかつて本当に警備隊員だったのでしょう。何かが、彼らを変異させたのです。ただ、それが何か、どうやってかは判断できません。」

 

この巨大なピラミッドの中には、哀れな隊員たちを捕らえ、肉と《ウォーディライ》テクノロジーで作り変える何かがいる。

 

そりゃ、警備隊が近寄らないわけだ。

 

怖気づいていた――当然だ。

 

本当なら、デレクも引き返すべきだった。

 

《NOVA》だって、ウォーディライ改造生物にどこまで通用するか、わかったもんじゃない。

 

甲冑の中で、心臓がドクンドクンとうるさく鳴った。

 

【デレク】「……中の奴ら、生きてんのか?」

 

【ヴァンダ】「臨床的には生存状態です。主生体機能は確認できます。ただし、意識があるかどうかは不明です。もしあれば、安楽死させるのが最も合理的でしょう。」

 

デレクは唾を飲み込んだ。

 

【デレク】「了解。」

 

たとえこんな姿になっていようと、人間を殺すのは後味が悪い。

 

だが、ヴァンダの言う通りかもしれない。

 

苦しみを断つことが、今できる唯一の慈悲だった。

 

問題は――

 

相手が《ウォーディライ》技術で武装されていることだ。

 

簡単には倒せない。

 

ここで、《NOVAアーマーMKVII》の最新アップグレードを試すしかない。

 

デレクは最も近くにいたクリーチャーたちに突っ込んだ。

 

ガシャンッ――!

 

天井から一体が落下してきた。ギラギラした金属の四肢を広げ、彼をかすめて背後の地面に叩きつけられる。

 

左右から二体が突進してきた。

 

前腕から突き出した双刃は、異形の蟹(かに)の鋏(はさみ)のようだった。

 

デレクはプラズマブレードを大きく薙ぎ払い、柔らかい何かを叩き切った。

 

ドプッと濃い黒い液体が飛び散り、床に落ちた途端、ジュウウと嫌な音を立てた。

 

ひときわ素早い一体が、胸めがけて一直線に突っ込んできた。

 

《戦術情報リレー起動。攻撃予測軌道を表示》

 

《ディスプレイに赤いラインが走った。》

 

デレクは反射的に反応し、プラズマブレードで軌道を逸らす。

 

バチバチバチッ――!

 

火花が散り、視界が白く染まったが、彼はターゲットを捉えたままだった。

 

《赤い矩形がディスプレイ上に点滅した。》

 

その中央に《有機組織》の文字が浮かび上がった。

 

【デレク】「ナイス、ヴァンダ。」

 

狙いを定め、すかさず斬りつける。

 

だが――

 

クリーチャーはクルリと振り向き、ギザギザの爪でブレードを挟み込んできた。

 

凄まじい力で刃を固定する。

 

ちっ、わかってたよ。

 

デレクは即座にブレードをオフにし、腕を引き抜く。

 

反対の手で、腹部めがけて上向きに斬り上げた。

 

ガンッ!

 

硬い外殻には刺さらなかったが、動きを止めるには十分だった。

 

デレクは続けざまに、今度はプラズマブレードを再点火し――

 

ズバァァ!

 

クリーチャーのむき出しの肉を一刀両断した。

 

裂け目から黒い煙と蒸気が噴き出し、床に落ちるとジュウジュウと音を立てる。

 

だがクリーチャーは、声ひとつ上げなかった。

 

痛みすら感じていない。

 

辺りは、不気味な沈黙だけが支配していた。

 

焦げた肉と溶けたプラスチックの悪臭が、フィルターを突き抜けて喉を焼き、胃をえぐった。

 

デレクは歯を食いしばり、プラズマブレードを横に引きずる。

 

ギャリッ!

 

刃は赤く光りながら、クリーチャーの体を真っ二つにした。

 

ぐしゃり。

 

肉と金属が絡み合った残骸が、床に崩れ落ちた。

 

《タクティカルリレー警告。接近中の敵反応》

 

デレクは反射的に身をひねった。

 

スパァッ――!

 

黒い双刃が空を切り、彼の肩先をかすめた。

 

刃は壁にめり込み、ズズズッと亀裂が広がった。

 

空間全体に甲高い音が響く。

 

デレクは凍りついた。

 

壁に刻まれた、あの深い裂け目を見つめる。

 

(……あれを貫通できるなら、俺のアーマーなんざ紙同然だな)

 

汗が噴き出し、即座にスーツに吸収された。

 

息苦しいほどの緊張感が、甲冑越しに全身を締め付ける。

 

二歩、後退。

 

そして即座にアーマーの質量を軽減モードへ切り替えた。

 

(耐えられねぇなら――避けろってことだ)

 

目の前のクリーチャーが刃を構え直した。

 

腹部の有機組織を守りつつ、じりじりと間合いを取る。

 

黄色い目がギラリと光る。

 

いやらしいほどに理性的な光。

 

――攻めてこない。

 

――待っている。

 

何を?

 

答えはすぐにわかった。

 

このクソピラミッドは、化け物の巣だ。

 

こいつは、仲間を待ってやがる。

 

ミニマップが警告を発した。

 

増援、接近中。

 

この場に留まれば、袋のネズミだ。

 

デレクは頭部めがけてフェイントを放ち、クリーチャーを壁際に追いやった。

 

すかさずブレードをオフにし、反転してダッシュ。

 

バシュッ――!

 

影の中から、さらに歪んだ形の怪物たちがぞろぞろと現れる。

 

壁、床、天井を這い回り、黄色い目をギラギラと光らせながら。

 

まるでピラミッドそのものが吐き出しているかのようだった。

 

(どれだけいる? 何百万年も……)

 

何人、何百人、何千人を飲み込んだ?

 

旅人、好奇心に駆られた地元民、子供、動物――。

 

すべて、喰われた。

 

そして、惑星政府はそれを隠した。

 

民を守るためじゃない。

 

壊れやすく、くだらねぇ宗教と、空っぽの信仰を守るために。

 

デレクは拳を握り締めた。

 

ミシミシ……とスーツの関節がきしむ。

 

(できることなら、こんな建物、ぶっ壊してやりてぇ)

 

だが、《NOVA》の融合炉を爆破したところで、このクソみたいなピラミッドに傷一つつかないかもしれない。

 

【ヴァンダ】「デレク、左手に通路を検出。数メートル先です。ミニマップにハイライト済み。急いでください。」

 

迷う暇はなかった。

 

デレクは一気に加速し、ネオンでマークされた細い通路へ突っ込んだ。

 

――聖母ヴァンダ、全宇宙ナビ界の女神様だな。

 

進路を塞ごうとするクリーチャーたちを寸前でかわし、

 

ギリギリで通路に滑り込んだ。

 

背後でドガンッと音が鳴り、二体の化け物が天井から落ちてきた。

 

デレクは脚部アクチュエーターをフル稼働させ、狭い通路を疾走する。

 

ドガドガドガッ――!

 

重たいブーツの反響音が壁に轟く。

 

(全銀河に俺の居場所知らせてんじゃねぇか)

 

だが今は、何よりもスピードが必要だった。

 

前方には敵影なし。

 

ミニマップも、進行方向にクリーチャーはいないと示していた。

 

追跡者の気配は背後に残っていたが――

 

足の速さではデレクが勝っていた。

 

【ヴァンダ】「次の分岐を右折してください。約百メートル先、大広間に到達します。」

 

デレクは即座に方向転換。

 

右へ、全速。

 

(広間、ね。つまり……めんどくせぇのが待ってるってことか)

 

だが、今さら選り好みはできない。

 

【デレク】「ヴァンダ、リアクター出力100%に戻せ。今ここで爆発とか、シャレにならん。」

 

【ヴァンダ】「了解。出力調整、完了しました。」

 

警告表示が赤ゾーンから抜け、アクチュエーターも安全圏に落ち着いた。

 

速度は少し落ちたが――

 

走行中に爆発するよりは、だいぶマシだ。

 

デレクは走りを続けながら息を整えた。

 

【デレク】「……このクソ迷路、まだ続くのか?」

 

【ヴァンダ】「はい。目標アーティファクトは、その広間に存在します。ただし、入手しても、それをピラミッド外へ運び出せる保証はありません。」

 

【デレク】「……はあ。励まされるわ。」

 

ため息をつく。

 

【デレク】「脱出プラン、今んとこ白紙な。コラールノードを引っこ抜いたら、全部シャットダウンしてくれると助かるんだが。」

 

【ヴァンダ】「もちろんです、デレク。そしてシャットダウンの前に、彼らは紅茶とクッキーを用意してあなたを歓迎するかもしれませんね。」

 

【デレク】「皮肉は俺の担当だって言っただろ。お前はナビだけしてろ。」

 

【ヴァンダ】「了解。奇跡は担当外ですが、最善を尽くします。」

 

【ヴァンダ】「警告。次の広間で、アーティファクト以外にも複数の生命体反応を検出。」

 

【デレク】「また蟹ゾンビか?」

 

【ヴァンダ】「いいえ。……もっと大きな何か、です。」

 

【デレク】「なぁ、俺、もう質問するのやめるわ。お前、ロクなニュース持ってこねぇし。スペックだけ。」

 

【ヴァンダ】「蟹型クリーチャーと同じ組成。ただし、形状や武装は不明です。ピラミッド内部の干渉がセンサーを阻害しています。」

 

デレクは眉をひそめ、苦々しく顔をしかめた。

 

広間にいる「何か」は、どう考えてもアーティファクトを守っている。

 

こっそり侵入? 無理だ。

 

正面突破? さらに無理。

 

しかも後ろからゾロゾロ追っかけてきてる。

 

(どうすんだよ、これ)

 

――だが。

 

【ヴァンダ】「ゴホン。頭の中で、ギーコギーコって音がしてます。……嫌な予感しかしませんね。」

 

【デレク】「は? 俺の作戦に外れなんてあるわけねーだろ? 見てな。」

 

【ヴァンダ】「詳細を。」

 

【デレク】「クローク装置、使う。」

 

【ヴァンダ】「……あのガラクタですか? 観光警備にすら通用しなかった代物ですが。」

 

【デレク】「わかってるって。」

 

【ヴァンダ】「……それが、いいんですか?」

 

通路の終端が見えてきた。

 

デレクは急減速し、疾走から歩きへ、そして停止。

 

【デレク】「いいから、クローク切り離せ。俺の天才的な作戦、拝めるチャンスだぞ。」

 

素早く周囲を確認。

 

通路は、静まり返っている。

 

時間はない。

 

撒いたとしても、すぐに追いつかれる。

 

【デレク】「準備できたか?」

 

【ヴァンダ】「はい。回収可能です。ただし、あなたの計画は理解不能です。」

 

(まあ、俺も細けぇとこまでは考えてねぇけどな)

 

心臓がドクンドクン鳴る。

 

失敗したら――後悔する間もなく終わる。

 

デレクは胸部プレートをスライドさせ、隠されたコンパートメントを露出。

 

中では、銀色のライトが心臓のように脈打っていた。

 

指先で、小さな金属筒をつまみ上げる。

 

クローク装置――傷だらけ、ロゴも消されているインチキ品。

 

【デレク】「内蔵バッテリー、どんくらいもつ?」

 

【ヴァンダ】「約三十分。ただし、すでに劣化が進行中です。」

 

【デレク】「十分だ。トラブル起こすにはな。」

 

【ヴァンダ】「その装置、すでに十分な問題児ですが。……で、具体的な作戦は?」

 

【デレク】「すぐわかる。」

 

(どうせ説明しても、ヴァンダには理解されねぇしな)

 

彼は気楽な歩調で広間へ向かった。

 

クリーチャーたちの追跡は、まだ音沙汰がない。

 

(上出来だ)

 

そして――

 

ずっと飲み込めずにいた言葉を、ようやく口にした。

 

【デレク】「なあ、ヴァンダ。……一つ、頼みがある。」

 

【ヴァンダ】「何です?」

 

喉が引きつる。

 

【デレク】「もし……もし俺が捕まって、ああなりそうになったら。

 

迷わず、NOVAのリアクター吹っ飛ばしてくれ。」

 

短い沈黙。

 

【ヴァンダ】「……あなたは、あの尊大で生意気なデレクの方が、ずっとマシでしたね。」

 

デレクは歯を食いしばる。

 

冗談じゃない。今は。

 

【デレク】「ヴァンダ、これは命令だ。」

 

【ヴァンダ】「了解。……必ず。」

 

デレクは、ゆっくりと頷いた。

 

これで、腹は決まった。

 

コラールノードを手に入れるか――

 

あるいは、ここで哀れな奴らと一緒に吹き飛ぶか。

 

どっちに転んでも、負けじゃねーよな。

 

―――

 

読んでいただきありがとうございます!次回もお楽しみに!




※本作は英語からの翻訳です。
細心の注意を払って翻訳・編集を行っていますが、誤りや不自然な表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。

✉️ 感想、ぜひ聞かせてね!
「ここの表現ちょっと変かも?」とか「もっとこうした方が読みやすいかも!」と思ったら、気軽にコメントしてくれるとすごく嬉しいです☺️
あなたの一言が、大きな励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。