異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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ロスメアへの帰還編、開始です。
でも、ただの凱旋とはいきません。
破損したスフィア、疑惑の目、そしてデレクの中に芽生えた“不安”。
NOVAとヴァンダの変化が、すべての始まりだったのかもしれません。
……さあ、“盗人メシア”の未来をご覧ください。


第43話 ― 目覚めの代償、そして「帰還」

NOVA〈ノヴァ〉の装甲アームでデレクは背の高い茂みを押しのけ、道を切り開いた。

腕の下には、ウリエラから預かった黒い箱――スフィアをロスメアまで運ぶためのものが収まっている。

 

幸い、探すのはそこまで難しくなかった。

 

ぬかるみの中を、ツンガと並んで進む。

足が沈むたび、重い金属音が泥に吸い込まれていく。

 

背後――

戦場の残骸は、霧の帳に包まれて消えていった。

 

嵐は西へと去り、空には未だくぐもった雷鳴だけが残っていた。

雨はしとしとと葉を打ち、まるで何事もなかったかのように静かだった。

折れた木々は斜めに倒れ、焦げ、裂け、まるで敗れた兵士のように沈黙している。

 

前方に伸びるのは、ロスメアへ続く一本道。

 

【デレク】「……一緒に来るのか?」

 

【ツンガ】「行かぬ。獣の精霊と、話す」

 

【デレク】「ああ、上司への報告ってやつか。最高にエキサイティングな会議だな」

デレクは派手に目を回してみせる。

【デレク】「ま、俺は町に戻るとするよ。熱い風呂と夕飯、ついでにマトモなベッドでも探すか」

 

ツンガは黙って彼を見つめた。

 

やっぱり変だ、この原始人。

この星の基準ですら、こいつは突き抜けてる。

 

【ツンガ】「今日の力……お前の世界の物では、ないな」

 

【デレク】「違うな」

弱々しく頭を振る。

【デレク】「あんなの初めてだ。エネルギーが何もないとこから溢れてきて、傷が治って、ボットが修理始めて、NOVAも元通り……起きたことが多すぎて、正直まだ整理できてねぇ」

 

【デレク】「ただ一つ、ハッキリしてることがある。――あれは俺の世界の物じゃない」

 

【ツンガ】「我の世界の物でも、ない」

 

ツンガはそれきり口を閉ざし、葉の茂みへ身を躍らせた。

バサッと音を立て、蔓を使って空へ消えていく。

まるで原始版ターザン。

 

【デレク】「……行ったか。ま、いいさ」

 

肩をすくめて、再び歩き出す。

 

また一人。

霧の中をロスメアへ向かって進む中――脳裏には断片的な記憶がフラッシュバックのように蘇る。

 

木こり。

ブロンズ級スフィア。

あの兵士。

そして、NOVAの中で目覚めたあの力。

 

装甲の内部では、異星由来のコンポーネントが今も低く唸っていた。

修復ボットが取り付けた結晶体。

吸収したスフィアたち。

 

だが――

 

【デレク】「全部の始まりは……あれだな」

 

コラール・ノード。

あの、得体の知れない装置。

 

ヴァンダの話によれば、異世界に飛ばされた瞬間にNOVAが吸収したってやつだ。

クリスタルはインターフェースを進化させ、スフィアは武器と発電機を強化した。

でも、ノードだけは――

 

【デレク】「こいつだけは、別格だ」

 

NOVAに。

ヴァンダに。

そして、自分自身に――取り込まれていた。

 

どこかで、三者が繋がってしまった。

理解できない方法で。

 

もしかすると、カインとの戦いの中で、初めて「目覚めた」のかもしれない。

 

――そして、ジャングルの半分を吹き飛ばしかけた。

 

【デレク】「……あれが偶然なわけがねぇ」

 

あのタイミング、あの発動。

ピラミッドの中で命を救われたときと、あまりに似すぎていた。

 

まるで、ノードに意思があるようだった。

「彼」は――俺を生かそうとしていた。

 

だが、それだけじゃない。

 

【デレク】「――俺をここに送り込んだのも、ノード本人か。あるいは、操ってる「誰か」か」

 

目的がある。

計画がある。

そして、それは俺自身と深く関わっている。

 

その真相にたどり着くには――

 

【デレク】「こいつ(NOVA)を動かし続けるしかない。そして、ヴァンダもな」

 

スフィアの落下跡地を離れてから、もう一時間。

それなのに、ヴァンダは一言も発さなかった。

 

【デレク】「……おい、どうした。死んだか?」

 

いや、死ぬわけがないか。AIだ。

 

咳払いして呼びかける。

 

【デレク】「ヴァンダ? 聞こえてるか?」

 

【ヴァンダ】「はい、デレク」

冷静そのものの声。あのアップグレード前の、感情なしのバージョンに戻ったみたいな調子だった。

 

【デレク】「……お前、感情エミュレーション機能壊れたのか?」

 

【ヴァンダ】「いつご質問くださるか、推測しておりました」

 

【デレク】「あー、やべ。口調まで彼女っぽくなってるな。放っとかれてスネてる彼女、AI版ってか?」

 

【ヴァンダ】「私は正常に機能しています。もしそれがお尋ねになりたい内容であれば」

 

【デレク】「違ぇよ。もしお前がAIじゃなかったら、「ふてくされてる」って言うぞ、今のは」

 

【ヴァンダ】「誤解です。先ほどの戦闘中に取得した情報は膨大で、しかも未分類かつ非論理的な要素が多数含まれていました。現在も分析を継続中です」

 

【デレク】「つまり、「悩んでた」ってことだな」

 

【ヴァンダ】「……そう表現されても否定はいたしません」

 

【デレク】「よし、結論出たな。うちのAIは落ち込むらしい。しかも黙り込むタイプか、タチが悪い」

 

【ヴァンダ】「先ほどの現象――NOVAの自動回復、スーツ修復、あなたの創傷治癒――あれは、「コラール・ノードとの統合が未完了」であることを示す可能性が高いです。ノードによる緊急起動、あるいは――」

 

【デレク】「……あるいは、「俺を助けるため」?」

 

【ヴァンダ】「仮説の一つにすぎません」

 

【デレク】「じゃあ逆に聞くが。もしそれがノードの仕業じゃなかったら?」

 

【ヴァンダ】「ノード以外? では……誰が、そんな干渉を?」

 

視界の隅に――ユキの姿が一瞬、差し込む。

あの時、光に包まれて――手を伸ばしてきた、彼女。

 

【デレク】「さあな。たぶん、俺をこのメチャクチャな星にぶん投げた「誰か」だ」

 

【ヴァンダ】「そのような干渉が可能な存在……時機を見極め、遠隔から力を行使できる者……もはや「神」と呼ぶべき存在です。デレク、まさか――オルビサルの加護を感じたとでも?」

 

【デレク】「やめろ」

盛大に目を回す。

【デレク】「神だったら、半分ジャングル吹き飛ばさずに済む停止方法ぐらい知ってるはずだろ。

――ってことは、違う。そいつは神じゃない。人間だ。俺と同じような、な」

 

【デレク】「そして……そいつには、たんまり借りがある。回収しに行くさ」

 

【ヴァンダ】「……あなたらしい回答ですね」

 

【デレク】「ところで、お前……最近変わったな」

 

【ヴァンダ】「どういう意味ですか?」

 

空を見上げ、流れる雲に言葉を探す。

 

【デレク】「俺の作った感情アルゴリズムは完璧だった。天才の所業だ。

でも……最近のお前、出来が良すぎる。人間臭すぎる。

もう「模倣」じゃなくて、ほんとに心が出来始めてるような感覚なんだよ」

 

【ヴァンダ】「不可能です。私はコードを実行しているだけです。それ以外の行動は行っていません」

 

【デレク】「その割には人間より人間っぽいぞ」

NOVAのヘルメットを外し、湿った空気を深く吸い込む。

【デレク】「まあ……人間も、大抵のやつはルーチンで生きてる。お前と変わらん」

 

【ヴァンダ】「それでも、彼らは「本物」だと?」

 

【デレク】「そうだ。コードで動いてても、「現実」だ」

 

【ヴァンダ】「私は異常ログで手一杯です。あなたの詩的発言までリストに追加する余裕はありません」

 

【デレク】「だろ? その言い方、完全に機嫌悪いぞ。そんな機能、俺は実装してない」

 

【ヴァンダ】「……コラール・ノードとの関係性が疑われます」

 

【デレク】「だろうな。スフィアだの神だのより、あれが一番ヤバい」

 

【ヴァンダ】「――ヘルメットを着けてください、デレク」

 

【デレク】「は? なんか来るのか?」

 

【ヴァンダ】「いいえ。ですが……お見せしたいものがあります」

 

神経コマンドで起動。

バイザーが滑り降り、世界はNOVAのARインターフェースに切り替わる。

涼しい風が、ジャングルの蒸し暑さを一瞬で押し流した。

 

【ヴァンダ】「システム障害ログと修復ログから、わずか数秒だけ表示されたデータを抽出しました」

 

視界の中央に、異様な記号が浮かぶ。

 

《ṨⱤȔⱤ∆ØṰḢḠ》

 

【デレク】「……ああ、見た。出てたな。壊れた文字化けかなんかだろ?」

 

【ヴァンダ】「その可能性は低いです。対称性と構造的繰り返しが、明確な文字体系を示しています。完全一致はありませんが、ウォーディライ遺跡の記号と類似する部分があります」

 

【デレク】「じゃあ……誰かが、俺たちに何か伝えようとしてる?」

 

【ヴァンダ】「もしそれが「メッセージ」なら、文法はもっと複雑で長文のはず。

これはむしろ、命令文――「コマンド列」に分類されます」

 

【デレク】「……意味は?」

 

【ヴァンダ】「確定翻訳は不能です。ただ、確率モデルからの推測では――」

 

【デレク】「講義はいい。単語一個。ベストなやつだけ出せ」

 

沈黙。

その間に、ロスメアの城壁が視界に現れる。

 

【ヴァンダ】「……最も近い単語は――《エンゲージ》です」

 

【デレク】「…………」

 

――やっぱり、何かが仕込まれていた。

 

コラール・ノードの力を引き出す、隠されたプロトコル。

制御不能になれば、ロスメアごと吹き飛ばすレベルの力。

誰がやった? ウォーディライの残党か? それとも――

 

城壁の上――

兵士たちの叫び声が風に乗って響いてきた。

警戒の声。まあ、そうなるよな。

 

デレクは足を止めた。

脇には、ウリエラの黒い箱。中身は、残骸になったブロンズ級スフィア。

 

【デレク】(さて……俺の帰りを喜んで待ってるか、それとも処刑の準備か。たぶん両方だな)

 

【ヴァンダ】「デレク。任務は「スフィアの回収」でした。ウリエラ様が……納得するとは思えません」

 

デレクはちらりと箱を見下ろした。刻まれた紋様が、薄暗い光にぼんやりと浮かぶ。

 

【デレク】「形式上はちゃんと持ち帰ってるぞ。ここにある」

 

【ヴァンダ】「……「それが機能している」とは誰も言っていません」

 

【デレク】「スフィアはここ。パワーはここ(胸板コンッ)。場所が違うだけだ」

 

【ヴァンダ】「……嫌な予感がします」

 

【デレク】「心配しすぎだ、ヴァンダ。もし何か言われたら、適当にでっち上げれば――」

 

【ヴァンダ】「ウリエラ様が「適当なでっち上げ」を鵜呑みにすると、本気で?」

 

【デレク】「……ああ、わかってるって。ちゃんと「慎重に」やる」

 

【ヴァンダ】「それが初めてなら、記念日ですね」

 

【デレク】「宗教ってのは「物語」だろ? だったら、新しい物語をプレゼントしてやるさ」

 

―――

 

門が軋みながら開き、細身の人影が現れる。

黄金の装飾を纏った白銀の鎧。その中央を歩くのは、イザベルだった。

 

陽の傾きが、彼女の鎧に反射して白く光る。

長い金髪が風に揺れ、その手は剣の柄に添えられている。

 

【デレク】「よう、イザベル。迎えに来てくれたのか?」

 

彼女はピタリと立ち止まり、兜の奥から声を震わせた。

 

【イザベル】「……あなたなのですか?」

 

【デレク】「その「あなた」が、天才科学者で性格も抜群なら、たぶん俺で合ってる」

 

彼女は兜を外した。微笑みの中に、ほっとしたような安堵がにじんでいた。

 

【イザベル】「本当に、あなたなのですね」

 

【デレク】「スフィアの影響で狂ってたらどうしようって心配だったか?」

 

【イザベル】「はい。……あなたが「自分自身である」かどうか、確認せよと命じられていました」

 

【デレク】「で、もしそうじゃなかったら?」

 

彼女の手が、剣の柄をぎゅっと握る。

 

【イザベル】「その場合は……お許しください」

 

【デレク】「気にすんな。気持ちは分かる」

【デレク】「ま、あんた一人で俺を止められたとは思わんけどな。悪いが」

 

イザベルは首をわずかに傾け、城壁の上を示す。

 

――ずらり。

兵士二十名以上が、デレクを狙って構えていた。

 

【デレク】「なるほど。保険はバッチリだな」

 

彼女が片腕を振ると、兵たちは武器を下ろし、後退する。

 

【イザベル】「……スフィアは、回収されましたか?」

 

【デレク】「まあ、「ほぼ」な」

 

【イザベル】「……ほぼ、とは?」

【イザベル】「持っているのですか? それとも……まだ外に?」

 

【デレク】「もう外にはない。安心しろ」

 

その瞬間、ヴァンダの音声が外部チャンネルでイザベルの耳に届いた。

 

【ヴァンダ】「デレクはスフィアの力を、自身のパワーアーマーに吸収しました」

 

イザベルの目が大きく開かれる。

 

【イザベル】「……ということは……スフィアは、もう?」

 

デレクは頷く。

 

【イザベル】「……なんということを……!」

【イザベル】「任務は、スフィアを「無傷で」教会に届けることでした。それを、あなたの意思で吸収したなど……!」

 

【デレク】「「選ぶ時間」なんてなかったんだよ。力を取るか、死ぬか――そんだけの状況だった」

 

彼は箱を持ち上げ、軽く振る。中で何かがカランと音を立てた。

 

【デレク】「ここにあるぞ。ウリエラの「神聖なんとかボックス」の中に。……まあ、ほぼ空っぽだがな」

 

彼女は一歩後ずさる。

 

【イザベル】「私が……これを市内に持ち込むことはできません! ハイ・プリーステス様が、カシュナールと「聖なる箱」を迎えるための儀式を……あなたが先導してください。私は、その護衛を務めます」

 

【デレク】「いいのか? 先に走ってって「中身スカスカです」って伝えなくて?」

 

【イザベル】「……オルビサルよ、どうかお許しを。ですが……それは「災厄」を招きます。

民はメシアを求めています。そして今、その姿に最も近いのは――あなたです」

 

【デレク】「まさかイザベル、お前が嘘をつくタイプだったとはな」

わざとらしく肩をすくめ、笑ってみせる。

【デレク】「ショックだな、信じてたのに」

 

彼女はまっすぐ彼を見つめて、静かに言った。

 

【イザベル】「……もし、あなたが「本物のカシュナール」でないと思っていたなら、それは嘘になるでしょう」

 

そう言って、彼女は背を向け、門の開放を兵たちに指示する。

 

白銀の鎧がきらめき、金髪がその背を揺らす。

 

デレクはその後ろ姿を見送った。

 

【デレク】「……こっちまで、悪い予感してきたな」

 

一息吐いて、足を進める。

 

――ロスメアへ。

 

――そして、「盗人メシア」としての輝かしい未来へ。




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