異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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今回はいつもと少し雰囲気が違う回です。
群衆、幻術、そして《命令》。
鋼のメシアが、初めて“何か”を選びます。


第44話 ― その娘を殺すな――鋼のメシア、初めての命令

デレクはロスメアの門をくぐった。狭い入り口の先には広場があるはずだったが、その先は見えなかった。腕に抱えた《神聖な箱》をぐっと抱きしめる。黒く鈍く光る表面には、謎めいた紋様が刻まれていた。

 

どこからか、ぼそぼそとした声が聞こえた。最初は風かと思った。だが――違う。祈りだった。

 

葉一枚すら揺れていない。

 

イザベルが前を歩く。その手は剣の柄に添えられていた。気休めなんかじゃない。本気だ。左右に視線を送る彼女の様子は、まるで戦地を歩く兵士そのもの。

 

いや……もしかして、マジでそうなのか?

 

雨で濡れた石畳が、夕闇の中で鈍く光っている。ランタンの炎は小さく揺れ、まるで街全体が《息をひそめて》いるかのようだった。

 

広場に出た。デレクは一歩踏み出し、周囲を見渡す。

 

人、人、人。

 

白と青のチュニックを着た群衆が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。オルビサーの《神聖な色》だとか。みんなフードを下ろし、空を見上げ、うっとりとした顔で立ち尽くしている。中には、十二本の光を放つ目をかたどった木製のアイコンを掲げている者もいた。

――通るたびに、それをさらに高く掲げてきやがる。

 

子どもたちはロウソクや小さなカシュナール人形を握りしめて、目を見開いていた。足元には花びらが撒かれていたが、今ではすっかり泥にまみれ、ぐちゃぐちゃだ。バルコニーや窓からは、開いた本の上に輝く目――教会の紋章が描かれた旗がはためいていた。

 

風のようなささやきが群衆を駆け抜ける。

 

「……あれがそうか?」

「まさか、本当に……」

「カシュナール……?」

 

バルコニーからトランペットが鳴り響いた。その瞬間、魔法が解けたように、群衆が爆発した。

 

歓声。叫び。祈り。

 

ひざまずく者。泣き出す者。ロウソクや人形を振り回して、「祝福の言葉」とやらを絶叫する子どもたち。

 

上からは花びらが、雨のように降ってきた。泥と光が入り混じり、まるでこの街そのものが《狂喜》という名の祝福に包まれたかのようだった。

 

デレクは、大きく息を吐いた。

 

生まれてこのかた、一番深くて長いため息だ。

 

【デレク】(……くっだらねぇ。なんでこうなった?)

 

群衆の中で、聖職者たちが波のように左右に分かれる。

その中心に――ウリエラ・ヴァレンがいた。

 

堂々と立つ大祭司。

銀髪は編み込まれ、光を受けて煌めく冠が載せられている。金と濃紺の糸で織られたマントが肩を包み、首からはオルビサーの象が下がっていた。

手は静かに組まれていたが、目だけは違った。鋭く、冷たく、じっとこちらを見ている。

 

あれは信仰の目じゃない。

【デレク】(……計算だな、あれは)

 

数歩手前で立ち止まる。広場が静まり返る。

 

――いや、空気そのものが止まったようだった。

 

デレクは、ゆっくりと箱を持ち上げた。

高くは掲げない。敬意も込めない。ただ、《見せる》だけ。

――連中が見たがってるものを。

 

咳払い一つ。

その声は、葬儀場の鐘のように広場を貫いた。

 

【デレク】「……遺物、持ってきたよ」

 

群衆からざわめきが広がる。どよめき、歓声、信じられないという声が入り混じる。

 

ウリエラは動かない。ただ、ほんのわずかに頭を下げただけ。

感謝でも、称賛でもない。ただの《儀礼》。

 

当然だ。

あんな物、こんな場で開けるはずがない。

うっかり力が解放されでもしたら、街ごと吹っ飛ぶかもしれない。オーラ核が弱い奴なら、精神をねじ曲げられる。

 

【デレク】(まあ、大丈夫だ。――《それっぽく》見せときゃいい)

 

ウリエラが硬い足取りで近づき、目の前で立ち止まる。

両手をゆっくりと差し出す。その所作は明らかに、何かの儀式の一部だった。

 

【デレク】(……知らねーし、興味もねぇ)

 

彼は肩をすくめ、ただの荷物でも渡すかのように箱を手渡した。

 

ウリエラの目が、金属すら切り裂きそうな鋭さで睨んでくる。

が、彼女は微動だにせず、氷のような威厳をまとったまま振り返った。

 

容器を高々と掲げ、広場に向かって叫ぶ。

 

【ウリエラ】「これぞ、聖なるオルビサーの聖櫃――!」

 

歓声が炸裂した。

旗が振られ、トランペットが鳴り響く。

 

デレクはヘルメットを外して、口元に笑みを浮かべた。

 

――《本物の》青銅スフィアを持って帰ってきた、と、そう思ってるんだろうな。

つまり俺は《メシア》ってことか。

 

【デレク】(理想的とは言えねぇが……処刑よりはマシか。計画通り……の、はず)

 

だが、なぜか――口の中がカラカラだった。

まるで、靴底が溶けるほどの砂漠を歩いてきたかのように。

 

イザベルの方を見るが、彼女は群衆に目を向けていた。

剣の柄を握るその手に、白く血の気が引いている。

 

……おかしい。

 

しかも、それは箱の中のスフィアが《すでに枯れている》こととは関係なさそうだった。

 

デレクはぼそっと呟く。

 

【デレク】「……ヴァンダ、群衆の中に異常がないかスキャンしとけ。何かしようとしてる奴がいたら――始まる前に止めてやる」

 

【ヴァンダ】(通信)「了解しました、デレク」

 

白と青の衣をまとった聖職者が二人、足早にウリエラのもとへ駆け寄る。彼女の手から容器を受け取ると、まるでそれが爆弾であるかのように、慎重すぎるほど慎重に扱いながら寺院へと運んでいった。背筋はまっすぐ、顔は能面のように硬い。

 

ウリエラが両手を天に掲げ、声を響かせる。

 

【ウリエラ】「オルビサーに感謝を!

カシュナールは試練を越え、一人で旅をし、スフィアを持ち帰った!

もはや、誰もその正体を疑うことはできません――

聖典の言葉通り、救世主はついにこの地に降臨されたのです!」

 

彼女がデレクの方へ振り返り、そして改めて群衆に向けて宣言する。

 

【ウリエラ】「オルビサーを讃えよ! 鋼のメシアを讃えよ!」

 

轟音のような歓声が広場を揺らす。数千の声が狂ったように重なり合い、石畳まで震えた気がした。

 

デレクはにやりと笑ったが、その笑みは引きつっていた。

顎には無意識の力が入り、頬もこわばっていた。

 

【デレク】(あー……もう無理。こういう見世物、本気で嫌いなんだよ。

なあヴァンダ、何か見つかったって言え。爆弾でも怪物でも、何でもいい。マジで助かる)

 

【ヴァンダ】(通信)「今のところ異常はありません、デレク。ただし、これだけの騒ぎと人の動きがある状況では、正確な検出は困難です。

現在、護衛と聖職者の中に高エネルギー反応を持つ者が複数確認されています。

もし何かが起こるとすれば、自爆型の攻撃の可能性が高いでしょう」

 

【デレク】「……はあ? それが《安心させる》つもりなら、完全に失敗だぞ」

 

【ヴァンダ】「……デレク。いま異常反応を検出しました」

わずかに緊張を含んだ声。

 

デレクは即座にヘルメットを閉じた。

 

【デレク】「誰だ? 対象をディスプレイにマークしてくれ」

 

【ヴァンダ】「発信源は群衆ではありません。……上空です」

 

デレクは顔を上げ、空を見た。

そこにあったのは――

 

雲。

薄明かり。

……何も動いていない。

 

【デレク】「嘘だろ?」

 

【ヴァンダ】「エネルギー反応、上昇中です。

先ほどジャングルで確認した青銅ランクのスフィアの反応と、完全に一致しています」

 

眉がひときわ深く寄る。

 

【デレク】「幻術の類か?」

 

【ヴァンダ】「確証はありません。ただ、可能性はあります」

 

【デレク】(いやいや、ありえねぇだろ。

スフィアのエネルギーならNOVAにもう吸収されてる。制御に問題があったら、ヴァンダが気づいてるはずだ。

ってことは……スフィアは関係ねぇ)

 

イザベルを見る。彼女の様子もおかしい。

まるで、ギリギリ張られた縄のように――今にも切れる寸前の緊張感。

 

【デレク】「……ヴァンダ。プラズマキャノン、即時発射待機。何か動いた瞬間、最大出力で撃ち抜け」

 

【ヴァンダ】「了解です、デレク。ただし、周囲には数千人の民間人がいます。

覚醒者ではない、ただの一般市民です」

 

【デレク】「……わかってるよ、ヴァンダ。俺だってバカじゃない」

 

詠唱を続けていた長髭の聖職者が顔を上げ、唐突な中断に眉をひそめた。

 

ウリエラがデレクの肩に手を置き、声を潜める。

 

【ウリエラ】「……またヘルメットを。何か起こるの?」

 

【デレク】「……ああ。攻撃が来る。もう遅いかもしれないけど……広場は避難させといた方がいい」

 

彼女の目が見開かれる。

 

【ウリエラ】「そんなはずは――真っ昼間よ? 異端者がこんな……!」

 

彼女はイザベルを振り返る。

視線を合わせたイザベルは、無言でうなずいた。目には迷いはない。

 

ウリエラは唇を噛み、背筋を鉄のように伸ばした。

 

【デレク】「さあ、どうする? 大祭司殿」

 

――ほんの一瞬の沈黙。

そして彼女は両手を掲げ、広場に響き渡る声で叫ぶ。

 

【ウリエラ】「信徒の皆さま! やむを得ない事情により、本日の祝祭はここで終了とさせていただきます!」

 

人々がざわめき出す。視線が交差し、困惑が広がる。

 

【ウリエラ】「ご自宅へ、速やかにお戻りください!」

 

だが、誰も動かない。

「今の聞き間違いじゃないよな?」という顔をしている。

 

【ヴァンダ】(通信)「……デレク。もう、遅いです」

 

彼は空を見上げた。

 

そこにあったのは――

 

紫。

 

音もなく、警告もなく、突如として現れた巨大な《球》。

 

浮かび、揺れ、鼓動する。

 

荒ぶる魔力が、塊となって渦巻き、ねじれ、形を変えながら存在していた。

不安定で、異様で、生きているように見えるそれは――

 

明らかに《こちら側》の理ではなかった。

 

群衆に、恐怖が走った。

 

誰かが叫び、誰かが転び、誰かが泣いた。

母親が子どもを抱きしめ、他の者たちは我先にと逃げ出す。

バナーは泥に沈み、花は踏み荒らされて潰れていった。

 

だが、唯一――

 

ウリエラの聖なる護衛たちだけが、その場を動かなかった。

彼らは静かに、しかし明確に戦闘態勢を取っていた。

命令を待っているのだ。たった一言で動き出す用意が、すでに整っている。

 

デレクは、空に浮かぶそれを凝視していた。

 

【デレク】(……これが、ただの《演出》ならいいんだがな。

もしあれが爆弾なら……この都市ごと消し飛ぶぞ)

 

やがて、球体が安定し始める。

 

輪郭が……《顔》になっていく。

鼻。耳。口。

 

そして、数分後――

 

宇宙船並みのサイズを持つ《男の顔》が、ロスメアの中心上空に浮かんでいた。

 

髭は濃く、真っ黒。

緑の目は内側から燃えているかのような異様な光を放っていた。

白すぎる歯が、笑みによって強調される。

 

ざわ……という音が群衆に広がった。

「まさか」「あれは……」と口々にささやかれる。

母親は子どもを引き寄せ、凍りついたように立ち尽くす人々もいた。

 

【デレク】(誰だよ、お前……また自称《選ばれし者》か?)

 

ウリエラは、歯を食いしばって声を絞り出す。

 

【ウリエラ】「コリガン……! この神聖な日に、その顔を晒すとは……ッ!」

 

空に浮かぶ男の目がウリエラをとらえ、笑みが深くなる。

 

【コリガン】「ウリエラ・ヴァレン!」

 

声が雷鳴のように広場全体に轟く。

 

【コリガン】「……随分、久しぶりだな。まったく、歳を取ってないじゃないか」

 

ウリエラは腰に手を組み、力がこもって指の節が白くなっていた。

 

【ウリエラ】「変わったのはあなたよ。あの闇……かつての比じゃないわ」

 

コリガンは一瞬まばたきし――爆笑する。

その声で、窓が震えた。

 

【コリガン】「おいおい、冗談なんて言えるようになったのか?

ウリエラ、お前にそんな芸当があったとはな!」

 

嘲笑を込めた笑みを浮かべ、続ける。

 

【コリガン】「闇について俺が学んだものがあるとすれば……ほとんどは、お前からの《授業》だったよ。

ナーカラの巫女様?」

 

ウリエラはぎゅっと顎を引き締める。

 

【ウリエラ】「下らない。……話があるなら、早く済ませて。

演説をして帰るつもり?」

 

視線が、デレクに滑る。

 

【コリガン】「まあ、見るからに明白だろう。

《カシュナールの到来》を祝うためさ」

 

ウリエラの唇が吊り上がる。

 

【ウリエラ】「祝う? それなら直接来なさいよ。

幻術に隠れて、握手もできないって? カシュナールがガッカリするわね」

 

【デレク】(ああ、そうかい。まるで俺がいない前提で話してんな……。

それ、失点だからな。今のうちに学習しとけ)

 

デレクは軽く咳払いし、口を開いた。

 

【デレク】「ウリエラの口調、気にすんなよ。

あの人、基本的に《命令形》しか喋れないんだ」

 

ウリエラは一瞬むっとするが、ぐっとこらえて黙る。

 

【デレク】「こっちは《丁寧な挨拶》ってやつを知ってるんでね。改めて。

俺の名はデレク・スティール。よろしくどうぞ」

 

コリガンの目が細くなる。

 

【コリガン】「聞かせてくれ、デレク・スティール。

お前は……《本物》の人間か? それとも、誰かに操られる金属の操り人形か?」

 

またしても、視線がウリエラへ流れる。

 

デレクはため息混じりにヘルメットを開いた。

 

湿った空気が肌に触れる。

 

【デレク】「見ての通り、血と肉でできてるさ。

で? そっちはどうだ。でかい顔で空に浮いて、演説三昧のアンタは?」

 

コリガンは目を見開いたあと――また笑った。

あまりの笑い声に、逃げ遅れていた市民も本格的に逃げ出す。

 

やがて笑いが収まり、唇に余韻だけを残す。

 

【コリガン】「……まったく。

反論できねぇな。だが、こっちにも事情がある。

……この《大祭司様》が、な」

 

わざとらしくウリエラに目をやる。

 

【コリガン】「本当は、今日ここに直接来る予定だったんだが――どうしても無理でね」

 

【デレク】(腕を組み)「なるほどね。で、

異端者と正規教会の両方が《カシュナールの到来》を叫んでるってのは、どういう構図なんだ?

演出の整合性はどうしてんの?」

 

【コリガン】「預言書にあった《異界より来たる者》……

まさか、比喩じゃなかったとはな」

 

その目に、興味が宿る。

 

【コリガン】「お前、本当にこの世界の人間じゃないんだな?」

 

【デレク】「ああ、間違いなく外様だ。……そろそろ元の世界が恋しくなってきたよ」

 

【デレク】「ピーナッツとピザが、な」

 

コリガンが口元を緩めた。

 

【コリガン】「……俺たちと教会の違い。それは信仰じゃない。

カシュナールを信じる心は、同じだ。

違うのは、《スフィアの力をどう扱うか》だ」

 

彼の声は熱を帯びていた。

 

【コリガン】「俺たちはこう考えている。

神が与えた力は、皆のものだ。

スフィアによって誰もが試練を受けるなら、その報酬もまた――等しくあるべきだ。

教会の手の内に独占されるべきじゃない」

 

【デレク】「あー……なるほど、よくあるやつね。

《これは革命じゃない、正義だ》ってやつ」

 

【ウリエラ】「もう、黙りなさい!」

 

その声は怒気に満ちていた。頬は紅潮し、目には炎。

 

【ウリエラ】「コリガン、用件を言いなさい。でなければ、そのまま消えなさい!」

 

彼女の周囲に、青白い光が立ちのぼる。

神聖というより――危険な雰囲気だった。

 

【ヴァンダ】(通信)「デレク、ウリエラのエネルギー反応、危険域に達しています。

現在、計測不能です」

 

【デレク】「イザベルは……?」

 

姿がない。

話してる間に、どこかへ消えていた。

 

【コリガン】(ため息)「やれやれ……やっぱりお前は変わらねぇな、ウリエラ。

《力》に頼る。それが唯一の手段だと、まだ信じてる」

 

【コリガン】「目的はただ一つ。メシアとされる者を、この目で確かめに来ただけだ」

 

視線が再び、デレクへ。

 

【コリガン】「そして今日、確信した。

これだけは……お前の仕組んだ茶番じゃないな、ウリエラ」

 

【デレク】「初めて気が合ったな。……気持ち悪いけど」

 

【ウリエラ】「もう十分でしょう。それだけが目的だったなら――」

 

【コリガン】「まだ、ひとつだけ」

 

彼の目が、デレクをまっすぐ見つめた。

 

【コリガン】「会えてよかったよ、カシュナール。

次はもっと静かな場所で……邪魔の入らない場で話せることを願ってる」

 

【デレク】「それは俺も――」

 

その時、背後でざわめきが起こる。デレクが振り向くと――

 

イザベルが戻ってきていた。

彼女の手には、上品な装いの少女が捕らえられていた。軽く拘束し、逃げ場を与えないように押さえている。

 

【ウリエラ】「ウォーデン、その者は?」

 

【イザベル】「幻術師です。この投影の維持に魔力を使っていました。

気配を追って、術者を探し……この者を見つけました」

 

【ウリエラ】「……よくやったわ」

 

イザベルが一礼する。

 

空のコリガンは黙ったまま、表情を変えない。

 

【ウリエラ】「……やっぱり、あなたは変わってない。派手な演出と陰での工作――昔から同じ。

でも、おかげで密偵をひとり捕まえられたわ」

 

コリガンは口を引き結び、黙っている。

 

【ウリエラ】「この女に、カシュナールと接触させるつもりはないわ。

処刑される日までね」

 

【デレク】(……来たな)

 

【コリガン】「彼女を……どうする気だ」

 

【ウリエラ】「牢に入れて、尋問するわ。

力も情報も、絞れるだけ絞る。

そのあとは――当然、処刑よ」

 

デレクが顔を上げる。少女の表情は静かだった。

……もう覚悟を決めてる。あきらめの顔。

 

【コリガン】「ウリエラ、頼む、それだけは――」

 

【デレク】「やめろ!!」

 

怒鳴っていた。

 

広場の全員が動きを止め、彼を見た。

ウリエラ、イザベル、コリガン、護衛兵、そして少女までも。

 

デレクは咳払いし、もう一度――今度は冷静に、はっきりと。

 

【デレク】「やめろ」

 

【ウリエラ】「あなたには決定権など――」

 

【デレク】「俺はカシュナールだろ?」

 

静かに、重く言い放つ。

 

【デレク】「……あんた、自分の口で言ったよな。

この場で、群衆の前で、《救世主は現れた》って。

……今さら否定するつもりか?」

 

ウリエラの顔がこわばる。

 

【デレク】「だったら命じる。

この少女を解放しろ。

彼女はただ投影に協力しただけだ。罪もなければ、悪意もない。

オルビサーの意志として、《無傷で解放せよ》」

 

その言葉は、群衆全体に響き渡った。

 

そしてウリエラの胸に、突き刺さるように届いた。

 

イザベルが立ち位置を変える。視線をウリエラとデレクの間に往復させながら、何も言わない。

 

空のコリガンも沈黙したまま見守っている。

 

ウリエラは、息を大きく吐いた。

そして――しぶしぶながら、うなずいた。

 

【ウリエラ】「……もちろん。それがカシュナールのご意志であり、

我らの主、オルビサーの導きであるならば。逆らうことはできません」

 

そして、形式的な一礼。

 

【デレク】(……折れたな。歯ぎしりが聞こえそうな勢いで)

 

少女がデレクを見上げる。その目に、驚きと感謝――そして、何か別の感情。

 

顔立ちが……コリガンに似ていた。血がつながっている。

娘か、あるいはもっと複雑な関係か。

 

イザベルが手を離すと、少女はデレクの足元にひざまずいた。

 

【少女】「カシュナール万歳! 鋼のメシア万歳! 命を、自由をくださって……ありがとうございます!」

 

【デレク】「……立て」

 

【デレク】(何なんだよ、この空気……

人一人助けるだけで、救世主扱いって……

しかも、一番まともな判断してるのが俺って……気持ち悪っ)

 

少女が立ち上がる。

 

【デレク】「解放するとは言ってねぇ。ついてきてもらうぞ。

話がある」

 

少女は驚きつつも、すぐにうなずいた。

 

空の顔が静かに消える。少女がコリガンに合図を送ったのだ。

 

【少女】「はい……カシュナール。何でもお答えします」

 

【デレク】「……いい返事だ。イザベル、客人を部屋に通してやってくれ。俺が後で行く」

 

イザベルは一歩前に出る。

 

【イザベル】「彼女はスパイです。監視なしでは――」

 

【デレク】「なら、兵でも立たせてろ。何人でもな」

 

イザベルは、ちらりとウリエラを見た。

だが、大祭司は何も言わなかった。硬直したまま。

 

イザベルは無言でうなずき、少女を連れて去っていく。

 

デレクは肩を伸ばし、大きく息を吐いた。

 

【デレク】「……なあ、ウリエラ様。素敵なサプライズパーティー、感謝するよ」

 

彼女の肩を軽く叩く。

 

ウリエラの眉間に深いしわが寄った。

 

【デレク】「もう疲れた。部屋に戻らせてもらう。風呂入りてぇ。

……まあ、《メシア様》専用の風呂くらい、用意してあるだろ?」

 

【ウリエラ】「……もちろん。護衛をつけます」

 

手を振ると、兵士が一人ついてくる。

 

【デレク】「じゃ、行ってくる」

 

彼は口笛を吹きながら歩き出した。

 

【ウリエラ】「……カシュナール」

 

彼は立ち止まり、振り返る。

 

【ウリエラ】「……近く、民や評議会の前で《あなたの旅》を語っていただくことになるでしょう。

皆、奇跡の詳細を知りたがっています」

 

【デレク】「……もちろん。《とても光栄》だよ」

 

【デレク】(……評議会? なにそれ初耳。

この街の権力構造、マジで知らねぇな。……まずいな、色々)

 

兵士とともに歩く。

 

【デレク】(とりあえず、しばらくは《救世主ごっこ》に付き合ってやるさ。

でも、この教会の裏側……異端者の正体……あの女が――

何か、知ってる)

 




ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
デレクの命令で、ひとつの命が救われました。……が、これはただの始まりです。

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