異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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デレクがようやく鎧を脱ぎ、ベッドに倒れ込んだところから始まりますが――休息の時間は、長くは続きません。

祝賀の裏に潜む陰謀、揺らぐ信仰、そして彼に託される「希望」という名の重荷。

今回の話は、デレクとイザベルの関係が一歩深まる重要な章でもあります。
そして、最後に――あの名前がついに登場します。


第45話 ― 鉄の救世主、光と影の間で

デレクは、ぼふっ、と音を立ててふかふかの羽毛マットレスに身を投げた。

パワーアーマー NOVA を脱いで休める時間――それは、もはや小さな奇跡だった。

どうやら、自分の「凱旋」とやらはそれなりに評価されたらしい。部屋は「救世主」に相応しいものが与えられた。寺院に隣接する建物の一室で、祝賀のあった広場からもそう遠くない。

部屋は広く、天井は高く、壁には神聖な場面を描いたレリーフ。おそらく《カシュナール》の伝説にまつわるものだろう。滑らかな石のパネルには【オルビサル】の紋章が刻まれていて、部屋全体にどこか幻想的な雰囲気を与えていた。

隅に置かれた肘掛け椅子は――いや、「生えてきた」という表現の方が正確だろう。まるで床から突き出た奇妙な花のように、そこに存在していた。

灯りをともしているのは、例の「魔石」らしきものを使ったランプだった。あの洞窟で初めて見た、あの不可思議な光源と同じ素材だ。

ほんのりとした、温かい輝きが部屋に広がる。

今でこそ、スフィアの持つ「力」のヤバさはある程度把握できている。

だが――

あの魔石。

その性質も、スフィアとの関係も、いまだ何一つわかっていない。

この世界には、合理性が通じない現象が多すぎる。そして、自分がそれらを解明する側になっているという事実が――デレクをわずかに興奮させた。

(サンプルを持ち帰って、全部調べてやる…)

思考の海に沈んでいたそのとき――

ノック音が静かに部屋を満たした。

トン、トン。

「入れ」

肘で上体を起こしながら短く声をかける。

ぎぃ…

扉がゆっくりと開く。入ってきたのは――イザベルだった。

彼女は重たい鎧を脱ぎ、今は軽やかな白のワンピース姿だった。腰には編まれたベルトが巻かれており、そこには【オルビサル】の象徴――放射状の光を描く金の円――があしらわれていた。

髪は丁寧に編み込まれ、野草と花の香りをほのかに漂わせている。

(早いな…)

デレクは眉をひそめた。

身なりを整えて、シャワーも浴びて、ようやく一息つけたところだったというのに。

(もう何か起きたのか?)

ベッドから脚を下ろしながら様子をうかがう。イザベルは静かにドアを閉め、数歩進んだところでぴたりと止まり、冷静な面持ちで立っていた。

 

【イザベル】「…盛大な式だったわね」

 

 

【デレク】「ああ。俺もすっかり「宗教イベント」のプロになってきた。…座るか?」

 

彼は部屋の隅にある椅子を顎で示す。

イザベルは無表情でそれを一瞥し、首を振った。

 

【イザベル】「民は《カシュナール》の帰還を心から祝ってたわ。でも都合よく、「空のスフィア」を持って帰ってきたことには誰も気づかなかったみたいね」

 

 

【デレク】「ま、ウリエラにはいずれバレるだろ」

 

 

【イザベル】「あなたは「カシュナール」なのよ?《聖なる箱》を開けさせるなと命じることだってできる。スフィアを自分の手元に置いても、誰も文句は――」

 

 

【デレク】「それやったら、逆に怪しまれるだろ」

 

彼は肩をすくめ、ふっと笑った。

 

【デレク】「どうせ誰かが「中身見せろ」って言い出す。だったら最初から見せてやればいい。NOVAにエネルギーが吸収された証拠なら出せる」

 

 

【デレク】「それに――もし「吸収しただけじゃダメ」とか言い出しても、ウリエラはもう引けない。街中であれだけ偉そうに演説かましたあとで、今さら「やっぱ違いました」なんて言えないだろ。自分の立場、考えたらな」

 

 

【イザベル】「…あなたがスフィアの力を《鋼鉄の救世主》――つまり、その鎧に取り込んだことは、結果的に《カシュナール》の伝説をさらに強化するかもしれない」

 

 

【イザベル】「でも、ウリエラや評議会を甘く見ないで」

 

 

【デレク】「「甘く見るな」って…どういう意味だよ?」

 

 

【イザベル】「あの人たちが、あなたの持ち帰った「空のスフィア」を見てどう判断するか――それは誰にも予測できない。「中身が空だった=中身のない救世主」と結びつける可能性だって、十分ある」

 

一瞬、背筋がぞわっとした。

だが、想定済みだ。

ずっと前から――この展開は。

 

【デレク】「ま、あいつらのことはお前の方が詳しい。…でもな、もう手は打ってある」

 

彼の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

 

【イザベル】「…馬鹿なことじゃないといいけど」

 

 

【デレク】「おい、それヴァンダと同じツッコミだぞ?」

 

彼はふっと顎を上げて笑い――

 

【デレク】「俺の天才的頭脳が生み出すのは、常に完璧なプランだけだ」

 

 

【イザベル】「聞かない方が良さそうね。逮捕しないといけなくなるかもしれないし」

 

 

【デレク】「賢い判断だ」

 

窓の外を指さす。広場には《カシュナール像》がよく見える。たぶん、偶然じゃない。

 

【デレク】「…ウリエラってのは、群衆の操り方をよくわかってる。みんな、あいつの言葉に完全に飲まれてたぜ」

 

 

【イザベル】「…ウリエラが何かしたってわけじゃないわ。あなたがロスメアを救った。それだけよ」

 

彼女は視線を戻し、その大きな灰色の瞳で彼をじっと見つめた。

 

【イザベル】「どうやったのか、知りたいの。ブロンズ級の魔物を相手にしたはずなのに、あなたの鎧には傷一つない。街では噂が飛び交ってる。中には、「オルビサルが天から降りて、あなたにスフィアを手渡した」なんて話もあるわ」

 

 

【デレク】「…まさか、それを信じてるってんじゃないよな?」

 

彼女の表情は揺るがなかった。

 

【イザベル】「じゃあ、本当のことを話して」

 

デレクは顎に手を当てて、ガリガリと無精ひげを掻いた。

(クソ、風呂にあったカミソリじゃ全然剃れなかったな…)

 

【デレク】「森でな――一人の男に会った。木こりだった。で、スフィアが落ちた時に放出されたエネルギーに感染してた」

 

 

【デレク】「幻術系のスフィアだった。アイツ、正真正銘イカれてた。戦術とか皆無。ひたすら殴る蹴る、ぶっ放す、騙す。幻術でこっちの攻撃は全部かわされるし…ぶっちゃけ完敗だった」

 

 

【イザベル】「それで?スフィアは?なぜ《聖なる箱》に入れなかったの?」

 

デレクは口元に皮肉な笑みを浮かべた。

 

【デレク】「クレーターにたどり着いて、スフィアを見つけた瞬間に――最悪のサプライズが待ってた」

 

イザベルは黙ったまま、続きを促すように彼を見つめていた。

デレクはため息を吐いた。

あまり思い出したくはなかったが…この女の目を見る限り、誤魔化しは効かなさそうだった。

 

【デレク】「限界だった。NOVAはボロボロ。前面装甲は吹っ飛んで、サーボもいくつか壊れてた。そして――また襲われた」

 

 

【イザベル】「魔物…だったの?」

 

 

【デレク】「いや、兵士だ。でもあの木こりとは違う。こっちは訓練されてて、経験豊富。間違いなく「プロ」だった」

 

 

【イザベル】「名乗りは?」

 

 

【デレク】「なかった。会話なんて最初から期待できなかった。殺しに来てた。それだけだ」

 

イザベルの表情がわずかに強張った。

灰色の瞳が、デレクを刺すように見据える。

 

【イザベル】「そんな状態で…どうやって生き延びたの?鎧も満身創痍、相手はブロンズ級の実力者――普通なら即死よ」

 

デレクは目を閉じ、こめかみを押さえた。

 

【デレク】「俺をマジで救世主だとでも思ってるのか?」

 

彼はゆっくりと首を振る。

 

【デレク】「なんか…変なことが起きた。ヴァンダと今、解析中だが、原因は不明。説明はつかない。……でも一つだけ言える」

 

 

【デレク】「「神様が助けてくれた」ってオチなら、俺は絶対気づいてたはずだ」

 

 

【イザベル】「…話したくないなら、それでいいわ」

 

彼女はわずかに背筋を正し、いつもの落ち着いた雰囲気に戻った。

 

【イザベル】「ツンガは、一緒にいたの?」

 

デレクの顔に、初めて安堵の色が浮かぶ。

 

【デレク】「ああ。あの野郎、俺がやられそうになった瞬間に飛びかかって――助けてくれた。命拾いしたよ」

 

 

【デレク】「で?お前が送り出したのか、あいつ?」

 

イザベルは一瞬だけ視線を逸らしてから、うなずいた。

 

【イザベル】「そう。でも私が頼む前から、もう彼は出る準備をしてた」

 

 

【イザベル】「しかも、私への「言葉の暴力」はなかなかだったわ。あなたを一人で行かせたことに、激怒してた。私にも、ウリエラにも」

 

デレクは小さく肩をすくめ、皮肉交じりに頭を下げた。

 

【デレク】「…まあ、ありがとな。おかげで「救世主様」はここに無事に立ってる」

 

―――

 

【イザベル】「…で、その兵士は誰に雇われたと思うの?紋章や所属を示すものは?」

 

 

【デレク】「一切なし。装甲はスクラップの寄せ集め。まともに動いてたのが奇跡ってレベル。軍所属とは思えなかったな」

 

 

【イザベル】「…なら、傭兵の可能性が高いわね」

 

デレクは立ち上がり、背中を伸ばすように腕をぐいっと上げた。

 

【デレク】「ってことはだ――問題は「誰が送り込んだか」だな。コリガン?それとも俺を偽物だと思ってキレてる貴族か?……あるいは、ウリエラ?」

 

その名前を聞いた瞬間、イザベルの瞳が大きく開かれた。

 

【イザベル】「ウリエラが…? まさか、あの人があなたを殺そうとしたって言いたいの?」

 

 

【デレク】「「そうだ」とは言ってない。「可能性を排除しない」ってだけだ」

 

皮肉げな笑みを浮かべながら、彼は続ける。

 

【デレク】「悪いな。お前にとってウリエラがどれだけ「特別な存在」かは知ってる。でも俺の目には、別のものが見えてる」

 

イザベルは黙ったまま視線を落とした。

その沈黙の奥に――迷いがある。

デレクにはわかっていた。

その目に、いつも一瞬だけ浮かぶ「揺らぎ」。

それは、自分の命を救ってくれた相手を疑うという、背信に近い感情。

信仰の中心にいる人物を「疑ってしまった自分」を、必死で否定しようとしている目だった。

デレクはため息をついて話題を変える。

 

【デレク】「で? 昨日のこと聞くためだけに来たのか?」

 

イザベルはしばらく考え込むように床を見つめていたが、やがて何かを思い出したように顔を上げた。

 

【イザベル】「違うわ。囚人の身柄を確保したって知らせに来たの。いつでも尋問できる」

 

 

【デレク】「…牢にぶち込んだのか?」

 

イザベルは静かに首を横に振る。

 

【イザベル】「いいえ。あなたの指示通りにしたわ。寺院内の一室を与えて、外に衛兵を配置してある。彼女の力を考えるとリスクは高いけど…あなたの判断を尊重した」

 

 

【デレク】「よし」

彼はドアの方へ歩き出す。

【デレク】「じゃ、さっそく挨拶してくるとするか」

 

だがその肩に、イザベルの手が静かに添えられた。

 

【イザベル】「待って。その格好で行くの? 鎧も着けずに?」

 

 

【デレク】「ああ。NOVAはスタンバイ状態。ヴァンダが診断中だ」

 

 

【デレク】「妙な現象がスーツに起きた。正体が分からない以上、再発の可能性もある。そしてもし再発したら…俺一人の問題じゃ済まない」

 

 

【イザベル】「わかった。…でも彼女に会うときは気をつけて。鎧を着ていないこと以上に、あなたはこの国の「よそ者」。政治の空気を完全に読み取れる立場じゃない」

 

デレクの目が鋭くなる。

 

【デレク】「…つまり、「何か言っておきたいことがある」ってわけか?」

 

イザベルはわずかに息を吐き、頷いた。

 

【イザベル】「ええ…。デレク、教会の中にも派閥があるの」

 

 

【デレク】「異端者のことか?」

 

 

【イザベル】「それだけじゃない。教会内部にも――政治的な対立が存在する」

 

デレクは顔をしかめて、こめかみを押さえた。

 

【デレク】「宗教と政治。俺の嫌いなツートップだな。…もしかして、俺もう死んでて、ここが地獄だったりしない?」

 

 

【デレク】「で、あの少女に「味方」がいるってオチか?」

 

イザベルは静かにうなずいた。

 

【イザベル】「コリガンには、教会内部に協力者がいる可能性がある。ここロスメアにもね」

 

 

【イザベル】「ウリエラは確かに強い。でも、彼女は敵に対して一切の慈悲を持たない。そのやり方で――敵も多く作ってきた」

 

 

【デレク】「そりゃあ意外だな。…って顔してほしい?」

 

イザベルはその皮肉を無視して続けた。

 

【イザベル】「ウリエラに反発する勢力が、裏でコリガンを支援している可能性もある。そして彼らが《カシュナール》であるあなたを「危険人物」と見なしたら…」

 

 

【デレク】「力を持ち始める前に、消しておこうって話になるわけだ。…異端者の中ですらな」

 

イザベルの顎が固く引き締まる。

 

【イザベル】「だから、あなたが鎧なしで出歩くのは危険すぎるの。今のあなたは――殺されるには、あまりにも簡単すぎる」

 

 

【イザベル】「私も一緒に行くわ。彼女に会いに」

 

…それも、悪くない案だ。

この世界の「力ある者」たちから見れば、自分はまるで裸の赤子だろう。

たまには守られる側になっても――バチは当たらない。

彼はうなずき、イザベルの心配そうな灰色の瞳をまっすぐ見返した。

ここでは、人を殺すのも、殺されるのも――

あまりにも、たやすい。

そして今日――

それを、痛感したばかりだった。

―――

 

【デレク】「今日…二人を殺した。そのうち一人は…ただ怯えて、自分の家族を心配してただけの男だった」

 

イザベルは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに静かにうなずいた。

 

【イザベル】「…お気の毒に」

【イザベル】「その男…スフィアの影響を受けてたの?」

 

 

【デレク】「…ああ。話しかけてきた。「変なこと」を言いながらな」

 

 

【イザベル】「オーラレベルを超えた力を吸収した者は、精神を保てなくなる場合が――」

 

 

【デレク】「知ってる。「力に喰われる」ってやつだろ」

 

 

【イザベル】「そう。正気を失って、意味不明な言葉を口にするようになるわ」

 

 

【デレク】「…ただな、アイツの言葉は――どこか妙に、筋が通ってた。まるで、俺が「何者か」知ってるような口ぶりだった」

 

 

【イザベル】「「救世主」って呼ばれた?」

 

 

【デレク】「いや、それはなかった。でも、「俺がこの世界の人間じゃない」ってことは、確実に見抜いてた」

 

イザベルは眉を寄せ、首を傾げる。

 

【イザベル】「…おかしいわね。でも、狂人の言葉に意味を探すのは危険よ。自分まで狂ってしまうわ」

 

 

【デレク】「「狂ってる」かどうかなんて、結局は視点の違いだろ」

 

彼は鼻で笑う。

 

【デレク】「俺の世界じゃ、「空から降ってくる球体に神の力が宿ってる」とか真顔で言ってる奴の方が、よっぽど正気を疑われるわ」

 

 

【イザベル】「……でも、私たちが「狂ってる」と?」

 

 

【デレク】「違う。「バカだ」って言ってるだけだ」

 

イザベルは眉一つ動かさず、静かに言った。

 

【イザベル】「…それが、「救世主」の口から出る言葉なの?あなたを信じてる人たちに、そう言って向き合うの?」

 

デレクは眉をひそめる。

 

【デレク】「「救世主」って称号は、勝手に貼られたもんだ。信仰とか知らんし、俺はただの科学者だ。幻想を演じる気はない」

 

 

【デレク】「信者の相手はお前らがやれ。俺の仕事じゃない」

 

 

【イザベル】「…人は、自分の責任を選べるとは限らない。でも、それが「現実」を軽くするわけじゃないわ」

 

 

【デレク】「責任?あぁ、「救世主のフリしろ」ってやつか。あんたらが勝手に作った嘘を、俺に演じろって?」

 

イザベルの目が鋭くなった。

 

【イザベル】「あなた、自分では天才だって思ってるんでしょ?でも驚くほど、周りが見えてないわ」

 

 

【デレク】「ほう。じゃあ「啓蒙」ってやつを頼むわ。俺が何を見落としてるって?」

 

 

【イザベル】「オルビサルのスフィアが、空から落ちてくる頻度が上がってる。それだけじゃない。レベルも――確実に上昇してるの」

 

 

【イザベル】「あなたはブロンズ級のスフィアが、どれだけ危険か知ってるわよね? じゃあ、もし二つ同時に落ちたら?シルバー級が落ちたら?」

 

デレクは不快そうに顔をしかめる。

 

【デレク】「それが俺に何の関係があるって?」

 

【イザベル】「話は終わってない」

彼女の語気が強くなる。

 

【イザベル】「消息を絶った村がある。探索隊も戻らない。そして――異端者たちが動いてる」

 

 

【イザベル】「あなたは《オルビサル教会》がこの世界を牛耳ってると思ってるかもしれないけど、それは違うわ」

 

 

【デレク】「……」

 

 

【イザベル】「教会の外には、新興の勢力が台頭してる。彼らは、街一つ焼き払ってでも、スフィアや信仰を奪い取る」

 

 

【イザベル】「さらに、異なる神を崇拝する国家もある。魔獣を「聖なる存在」として崇め、殺すこと自体が「冒涜」とされてる」

 

 

【イザベル】「聖戦が始まるのよ、デレク。これはもう、誰の目にも明らか」

 

沈黙のあと、デレクの声が低く響く。

 

【デレク】「……で?俺に何をしろって?世界を救えってか?」

 

イザベルは一歩近づき、両肩をしっかりと掴む。

 

【イザベル】「そう。希望になって」

 

 

【イザベル】「この世界の人々にとって、あなたは「しるし」なの。まだ終わってないって。まだ、闇の中に光があるって。そう信じさせてくれる存在」

 

――その手には力がこもっていないのに、

重く、鉄のように感じた。

息が苦しい。

「自分の人生すら支えきれなかった男」に、

「世界の希望になれ」だと?

 

【デレク】「……希望、ね」

 

彼は笑った。乾いた、空っぽな笑いだった。

 

【デレク】「俺は「人生は良くなる」なんて希望は与えねえよ。なぜかって?良くなんかならねえからさ」

 

 

【デレク】「何かを変えようとする奴が出てこない限り、世界は絶対に変わらない」

 

 

【イザベル】「……それって、どういう意味?」

 

 

【デレク】「「別の世界から来た」って言ってるが、正確には少し違う」

 

彼は指で天井を指した。

 

【デレク】「空の向こうには、何千という世界がある。人が住んでる星がな。俺はそのいくつかを見てきた」

 

 

【デレク】「でもな――どの世界でも、「空から神の球体が降ってくる」なんて生活はしてない」

 

 

【イザベル】「……それが?」

 

 

【デレク】「そこには「科学」があるんだ。飢えも、病気も克服されつつある。太陽が昇る理由も、沈む理由も理解されてる」

 

 

【デレク】「空から何か降ってきたら、信仰じゃなくて艦隊を出す。宗教じゃなくて、科学で解決する。それが「俺の世界」だ」

 

イザベルは静かに言った。

 

【イザベル】「それって…とても素敵な世界ね」

 

デレクは肩をすくめて笑う。

 

【デレク】「完璧じゃないけどな。戦争もあるし、問題も山積み。でも秩序がある。安定がある」

 

 

【デレク】「でもここは違う。「空爆」みたいなもんだ。いつスフィアが落ちてきて、命が終わるか分からない」

 

 

【イザベル】「…じゃああなたの計画は?馬鹿にし続けて、私たちが進化するのを待つの?」

 

デレクは一瞬言葉を失うが――すぐに、言い切った。

 

【デレク】「いや。もっとでかい話だ。誰かがこの世界の進化を止めてる。そいつの正体を突き止める」

 

 

【デレク】「スフィアの構造を解明し、出所を突き止める。そして帰還方法を見つけて、援助を送る」

 

 

【イザベル】「援助…?どんな?」

 

 

【デレク】「スフィアの発生源が軌道上にあるなら、報告して対処させる」

 

 

【イザベル】「…それで、もし私たちに被害が出たら?」

 

 

【デレク】「リスクはどこにでもある。だが、何もしない方がよっぽど危険だ」

 

彼女は彼をじっと見つめ、ゆっくりと口を開く。

 

【イザベル】「あなたの世界は…本当に私たちとは違うのね、デレク・スティール」

 

 

【イザベル】「でも――もしかしたら、言ってることは似ているのかもしれない。ただ、違う言葉で話しているだけ」

 

デレクは無言でうなずいた。

彼女の言葉は、意外にも――否定しきれなかった。

 

【イザベル】「…ところで、あなたの研究のことだけど」

【イザベル】「《コラール・ノード》と…ユキの件。どうするつもり?」

 

デレクはわずかに微笑んだ。

だがその笑みは、どこか寂しげだった。

 

【デレク】「この世界の謎と、《コラール・ノード》、そして――ユキに起きたこと」

 

 

【デレク】「全部つながってる気がしてる。…解こうとしてるんだよ、でかい「結び目」をな」

 

イザベルは静かにうなずく。

 

【イザベル】「そう……。その「結び目」が解けるよう、祈ってるわ」

 

そう言って彼女はドアの方へ向き直った。

 

【イザベル】「よろしければ、例の囚人のもとへご案内するわ」

 

デレクは立ち上がり、無言で彼女の後を追う。

扉に向かう途中、イザベルが肩越しにさらりと言った。

 

【イザベル】「そうそう――身柄を引き取ったとき、彼女が名乗ったの」

 

デレクは眉をひそめる。

 

【デレク】「……誰だ?」

 

イザベルはちらりと彼を見やって、淡々と答えた。

 

【イザベル】「コリガン・マルザーの娘だったわ。名前は――シエレリス・マルザー」




ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

いよいよ物語は第二章の核心へと突入します。
聖都ロスメア、教会、異端者、そしてデレクの過去――すべてが絡み合っていきます。

「救世主」とは何か?
そして、信仰と科学は相容れないのか?

次回、ついに“彼女”との再会。お楽しみに!

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