異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

48 / 75
第48話をお届けします!
今回は市場の喧騒の中で、デレクたちの次なる目的地「砦」への道が描かれます。そして再び現れるあの女……。
静かに忍び寄る陰謀と、新たな試練の始まりをどうぞお楽しみください!


第48話 ― 市場、幻術、そして毒蛇の砦へ

市場には汗や香辛料、そして……言葉では言い表せない何かの匂いが漂っていた。

 

木製の屋台が狭い通りを埋め尽くし、果物や布地、焼けた肉が積み上げられている。その合間には、水晶や瓶詰めの稲妻、瞬きをするたびに色が変わる粉などが、微かに光を放ちながら並んでいた。

 

デレクはこれまでに数多くの異星バザールを見てきたが、これはまるで歴史再現イベント、ファンタジーの祭典、そして暴走したテクノロジー展示会が混ざり合ったような光景だった。

 

いくつかの品は、実際に彼の興味を引いた。もし商人が目を離したら、研究目的で「借りて」しまいたくなるほどに。

 

特に目を引いたのは、水晶だった。洞窟で見つけたものよりもはるかに澄み切っており、鮮やかだった。まるで小さな嵐が中に閉じ込められているように、色彩が脈打ち、うねり、今にも解き放たれそうだった。触れると暖かく、まるで鼓動があるかのようだった。

 

「ご覧になりますか?」

 

しゃがれた声にデレクは驚いて身を引いた。顔を上げると、ずんぐりとした汗だくの男が落ち着きなく指を動かしていた。

 

明らかに緊張している。だが理由は不明だ。慎重にいくべきだろう。

 

【デレク】「ん? ああ、大丈夫だよ」

 

彼は軽く笑ってみせた。

 

 

【デレク】「今は金がないんだ。でもこの光る石、なかなか興味深いね。いずれ金を手に入れたら――――」

 

「い、いえ! もしカシュナール様のお役に立てるのであれば、この石はどうぞお持ちください!」

 

【デレク】(チョロいな……)

 

彼はさらに笑みを深めた。やってらんねえ。メシアごっこも悪くないかもしれない。

 

【デレク】「じゃあ、ありがたく受け取っておくよ。ちょっと研究に使うだけ。オルビサルのご加護を。」

 

男は光り輝く表情で深々と頭を下げた。まるで聖剣でも授かったような勢いだった。

 

数個の石をポーチに滑り込ませると、デレクは満足げに人混みに紛れた。

 

【ヴァンダ】「『オルビサルのご加護を』……それ、あなたの口から出たの?」

 

【デレク】「思い出せ。俺の専門分野は未知の技術の剽窃。しかも今回はプラズマキャノンの出番すらない。楽勝だろ?」

 

【ヴァンダ】「それ、ただの盗みじゃないの?」

 

【デレク】「命がけでスフィア追いかけたんだぜ? 殺人植物、狂信者、処刑寸前。これは hazard pay(危険手当)だ。」

 

 

【ヴァンダ】「せめて、何に使うのかくらい教えてくれてもいいでしょう?」

 

【デレク】「分析する。純度が高いし、地元の使い方がわかれば、応用の余地もある。アーマーの強化だって視野に入る。」

 

【ヴァンダ】「商人に聞けばよかったのでは?」

 

【デレク】「無理だろ。あいつ、緊張で泡吹きそうだった。質問は砦に着いてからだな。そこには学者が集まってるらしい。」

 

【ヴァンダ】「また魅了する気ね。評議会でやったみたいに。」

 

【デレク】(うっ……やめろ、その話は今はまだ無理だ)

 

彼はしかめっ面で返事を濁した。

 

「デレク!」

 

鋭い声に振り返ると、イザベルがこちらを睨んでいた。白銀の鎧、背中に背負った大剣、そして胸に輝くオルビサルの聖印。貴婦人というより戦場の騎士。貫禄すらある。

 

【イザベル】「探していました。鎧も装備せず、私も連れずに……危険すぎます。」

 

【デレク】「今や俺は「メシア様」。熱心な信者が刺してくる確率も減ったし、ヴァンダが上空から監視中。目立たないように動いてる。」

 

【イザベル】「それで? 評議会で何があったのか、説明してください。ユリエラ様があそこまで取り乱していたのは初めてです。誰も口を開こうとしない。」

 

【デレク】(うーん、あれは……)

 

彼は肩をすくめた。

 

【デレク】「よくわからんが、冒涜とか言って俺を処刑しようとしてた。頭おかしいだろ。」

 

【イザベル】「…………」

 

彼女の無言が逆に痛い。

 

【デレク】「だから緊急プロトコル3を発動した。できれば使いたくなかったが。プロトコル1と2に「天井ぶち破って突入」はなかったしな。」

 

【イザベル】「……プロトコル3? 何の話か分かりませんが、説明してもらえますか?」

 

【デレク】「ヴァンダと一緒に非常時シナリオを用意しておいたんだ。選択肢その4は、「ミサイルぶち込んでダッシュで逃走」だった。」

 

【イザベル】「……」

 

【デレク】「なってないだけマシだろ?」

 

【イザベル】「あなた、評議会全体に恥をかかせました。敵を増やしただけです。誰もが、あなたが偽者だと証明したくて仕方ないのです。」

 

【デレク】(芝居がかった動きで胸に手を当て)

「信仰に駆られる群衆……美しいじゃないか。感動したよ。」

 

【デレク】「だがな、敵には変わりなかったろ。俺が信用できるのは――――お前と、意外にもツンガだけだ。」

 

【イザベル】「それでも砦に行くおつもりですか?」

 

【デレク】「もちろん。議場壊してまで来ない理由があるか?」

 

【イザベル】「知識と奇跡が眠る場所……でも、陰謀と闇も渦巻いています。ジャングルより安全だなんて思わないで。」

 

【デレク】「てっきりホコリかぶった書棚と古文書のオタクばかりかと。」

 

【イザベル】「そこは、禁術の研究も行われている秘密の場所。スフィアを分解し、組み合わせ、新しい力を創っているの。」

 

【デレク】「要するに研究所だな。興味出てきた。」

 

【デレク】「……待てよ、スフィアっていじっちゃダメなんじゃ?」

 

【イザベル】「そう。でも彼らは特別。神聖宰相の許可を得ているのです。」

 

【デレク】「新しい組み合わせ、か。面白くなってきたな。」

 

 

【イザベル】「何を企んでいるか分かりませんが、言っておきます。あなたは学者ではない。勝手な実験は許されません。」

 

【デレク】「俺は「カシュナール様」だ。ちょっとくらい大目に見てくれるさ。」

 

【イザベル】「……あり得る話ね。彼ら、銅級スフィアに目の色を変えてたもの。」

 

【デレク】「それもいいが、異世界製のアーマーの方が目を引くかもな。しかもスフィアを吸収したやつ。」

 

【イザベル】「まさか……アーマーを解析させる気?」

 

【デレク】「は? そんなわけないだろ。自分で調べるに決まってる。こっちにまともなツールがあるとは思えんけど、何かは掴めるかもな。」

 

【イザベル】「私、あなたの話の半分も理解できていません。」

 

【デレク】「半分? 上出来だ。大抵の奴は一割も理解できてないと思って喋ってるからな。」

 

彼は彼女の肩を軽く叩いた。

 

【デレク】「半分理解できるなんて、たいしたもんだ。ブラボー。」

 

【イザベル】(ため息)「……やれやれ。」

 

【デレク】「で、俺が砦に行ってる間、お前はどうするんだ? ジャングル戻ってモンスター狩り? 村救ってウォーデン様ごっこでもやるのか?」

 

【イザベル】(ギリッ)「違います。あなたが行くなら、私も行きます。」

 

【デレク】「……本気かよ。次はトイレまでついて来る気か?」

 

【デレク】「意味わからん。あそこにボディガードなんて要らないだろ。」

 

【イザベル】「私の話、聞いていませんね? 砦の危険はジャングル以上です。あそこは……毒蛇の巣。」

 

【デレク】「知れば知るほど、信仰の人間が好きになるよ。面白すぎだろ。」

 

【イザベル】「中には善人もいます。でも見極めが必要です。あなたに、それができますか?」

 

【デレク】「だからヴァンダがいる。」

 

【ヴァンダ】「いい加減、私の言うこと聞いてください!」

(イヤーピースから叫ぶ)

 

【デレク】(顔をしかめ、ため息)「……わかったよ。ついて来い。だが退屈でも文句言うなよ。」

 

【デレク】「よう、ツンガ」

「いたのか。で、獣の精霊とおしゃべりはどうだった?」

 

【ツンガ】「…………ダメだった。」

 

デレクとイザベルは顔を見合わせた。

 

【イザベル】「どういう意味?」

 

【ツンガ】(低くうなるように)「……獣の精霊……沈黙した。」

 

【デレク】「なるほどな。まあ、霊にもスケジュールってもんがあるんだろ。忙しいんじゃね?」

 

【ツンガ】(さらに低い唸り声)

 

【デレク】(……野生化が進行してるな、こいつ)

 

イザベルはそっと近づき、ツンガの肩に手を置いた。

 

【イザベル】「気にしないで。きっと戻ってくるわ、精霊は。」

 

【デレク】(小声で)「……完全に置いてけぼりなんだけど。」

 

【ツンガ】「……おかしい。いつも来た。今は……何もない。」

 

【デレク】「なあ……誰か俺にも分かるように説明してくれない? 精霊ザルが電話出なかっただけだろ? そんなにヤバいことか?」

 

【イザベル】(真剣な表情で振り返る)

「ニキシ族では、精霊が沈黙するのは加護を失った証。それはつまり――――シャーマンではいられなくなるということ。」

 

【デレク】「……そんなに深刻なのか?」

 

【イザベル】「精霊が見捨てるのは、許されざる行いをした時だけ。部族を傷つけたり、罪なき者を殺したり……。そうなれば、精霊は縁を切る。そして部族はそのシャーマンを……永久追放する。」

 

(デレクは重い沈黙に包まれた)

 

【デレク】(こいつは命を賭けて仲間を救った。俺の命すら助けた。そんな奴が見捨てられるなら、誰が許されるってんだ……)

 

彼はツンガの隣に立ち、肩に手を置いた。

 

【デレク】「気の毒に思うよ。でもな、お前を見捨てる猿神様の方が狂ってる。」

 

【ツンガ】(うなる)「……俺が……やったこと……やらなかったこと……」

 

【デレク】(やらなかったこと? まさか、俺を殺さなかったことが原因か!?)

 

ツンガは黙って杖を握りしめ、視線を落とした。

 

【ツンガ】「……それなら……精霊、間違ってる。」

 

「カシュナール様!」

 

若い声が響いた。

 

デレクが振り向くと、そこには例の予言者の少女がいた。冷静な表情のまま、じっと彼を見ている。

 

(……なぜここに? 神殿から出ることはないはずだろ)

 

【デレク】「えーっと……やあ、予言者さん。そういや自己紹介もしてなかったな。俺は――――」

 

突然、腕をつかまれて後ろに引き戻された。イザベルだった。すでに剣を抜き、彼と少女の間に割って入っていた。

 

【イザベル】「下がって、デレク。この女は予言者じゃない。予言者が市場を出歩くなんてありえない。」

 

その「予言者」は突如、頭を後ろに反らして高らかに笑い出した。

 

【デレク】(……なんだこれ)

 

【ヴァンダ】(イヤーピースから)「近距離に微弱なエネルギー反応を検出。それと、あなたの心拍数が急上昇しています。状況は?」

 

【デレク】「わからん、ヴァンダ。待機しとけ。」

 

【イザベル】「お前は誰だ!」(剣の切っ先を突きつける)

 

【ツンガ】(低く唸る)「……幻術……」

 

その言葉を皮切りに、少女の姿が揺らぎ出す。輪郭がぼやけ、水に映る影のように滲み、混ざり、崩れ――――そして新たな姿を形作った。

 

通行人は誰も気づかない。世界は歪んでいる。

 

【デレク】(これは……手品なんてレベルじゃねえぞ)

 

そして姿が定まった。

褐色の肌、鋭い頬、エメラルドグリーンの瞳。

 

【デレク】「……シエレリス……? まさか、評議会のあれも……お前だったのか?」

 

【シエレリス】(にっこりと微笑み)「ええ、最初から最後まで見てたわ。面白い劇だった。」

 

デレクは反射的に周囲を確認する。

 

【シエレリス】「安心して。今は幻術で空間をいじってる。周りの人には、ただの雑談にしか見えない。」

 

【デレク】「それにしても、なぜそんなことを? 評議会で……」

 

【シエレリス】「私の任務は、あなたが「本当に」カシュナールかどうかを見極めること。そのための舞台だったのよ。」

 

【デレク】「じゃあ……「予言者」としてスフィアを認定したのは……お前?」

 

【シエレリス】「ええ。信じられないくらい簡単だった。あんな偽物、ちゃんと見れば誰にでもわかる。ユリエラも気づいてたわ。でも、「予言者が支持した」って実績ができた時点で、何も言えなくなったのよ。」

 

【デレク】「……でも、なんで助けた? 俺、お前を牢にぶち込んだはずだが。」

 

【シエレリス】(肩をすくめて笑う)「別に閉じ込められてたわけじゃない。あそこにいたのは気分よ、気分。あなたのおかげで、ユリエラの立場がぐらついた。それだけで十分。」

 

【デレク】「……でもなぜ今、正体を明かす? こっちは3人、お前は1人。そしてウォーデンの前で全部ぶっちゃけるってのは――――どういうつもりだ?」

 

【シエレリス】「ふふ、それは簡単よ。私は「ここにいない」。これも幻影。もし捕まえようとしたら――――あの会議の真相を全部暴露するわよ。偽スフィアの件もね。ユリエラ様、きっと喜んで聞いてくれると思う。」

 

【デレク】(小声で)「つまり……借りを作っちまったってわけか。」

 

彼女の笑みは鋭さを増した。ネズミを仕留めた猫のような目をしていた。

 

【デレク】(ヤバい女だ……でも、学ぶことはありそうだ)

 

【デレク】「で、これからどうする気だ?」

 

【シエレリス】「私の任務はまだ終わってない。あなたが「何者なのか」、まだ見えてこない。父のもとに戻るのは、それが分かってからよ。」

 

【イザベル】「次こそ捕まえてみせる……!」

 

【シエレリス】(優雅に一礼)「期待してるわ、ウォーデン。でも――――今はこれで。」

 

彼女は片目をつぶり、紫煙に包まれて姿を消した。




最後までお読みいただき、ありがとうございます!
市場での出会い、そして幻術の女との再会……今後の展開にご期待ください。
「評価」や「お気に入り登録」で応援していただけると、作者の励みになります!よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。