異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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第51話、投稿します。

イサラの「研究室」へようこそ。
ドアの見た目は物置、中身はカオス。
ガチャガチャ動く謎の生き物と、うさんくさいルーン付きハンマー。
そして何より、「球体」と「魔力の正体」についての話が、ついに深掘りされます。

……まあ、途中でまた色々壊れましたが。

今回もお楽しみください。


第51章 ― イサラの研究室と《球体》の秘密

黄色い石が等間隔に壁に埋め込まれた長い廊下は、どこか奇妙なナイトクラブを思わせる雰囲気を漂わせていた。

 

オルビサルの《砦》に仕える敬虔な学者たちが、そんな効果を狙っていたとはデレクには思えなかったが、一度そう見えてしまうと、もうその印象は拭えなかった。

 

彼の前を、イサラが軽やかな足取りで進んでいく。

 

長いローブが床を引きずり、歩くたびにお守りがチャラチャラと鳴り響いた。

 

その華奢な体には衣装が二回りほど大きく見え、ぼさぼさの髪を揺らしながら、どこか夢の中にいるような目で周囲を見回していた。

 

まるで、今歩いている場所すら忘れてしまったかのように。

 

デレク、イザベル、そしてツンガの三人は、その後を追っていた。

 

彼女が「試験室」と呼んだ場所を目指して。

 

【イサラ・ミレス】「えーっと……」

 

イサラが独り言のように呟きながら、交差点で左に曲がりかけたが、すぐに「あれ?」と首を傾げ、反対側へくるりと回れ右した。

 

三人は顔を見合わせ、混乱しながらもそのままついていく。

 

彼女の現実感覚はどこかふわふわしていたが、デレクにはその奇抜さの奥に隠された才気が見えていた。

 

大学時代も、すべてが崩れる前の短いキャリアの中でも、彼はこういった「変人の天才」を何度も目にしている。

 

【デレク】「なあ、イサラ」

 

「さっき言ってた試験室――どこにあるか教えてくれるか?」

 

イサラは、まるで今はじめて彼の存在を思い出したかのように振り返った。

 

【イサラ・ミレス】「えっ!? ああ、そうだったそうだった!……ついてきて、こっち!」

 

(……あれ、もうついてきてたっけ?)

 

【ツンガ】「もうついてる。女、頭おかしいか?」

 

【イザベル】「……やめなさい」

 

冷たい視線だけで、ツンガを制止した。

 

だがツンガは気にせず、顎を撫でて呟いた。

 

【ツンガ】「部族にもいた。何もかも忘れるやつ。草取り行くって言って……それっきり」

 

イサラは立ち止まり、目を丸くした。

 

【イサラ・ミレス】「えっ、そうなの? それ、かわいそうすぎじゃない? ……食べられたのかな? それとも……気が変わったとか?」

 

ツンガは無言で肩をすくめた。

 

デレクは頭をかいた。

 

この女は現実感ゼロに見えるが、いざ作業が始まれば集中して結果を出すタイプだろう――そう願いたかった。

 

【デレク】「……で、結局その部屋はどこにあるんだ?」

 

【イサラ・ミレス】「これよ!」

 

イサラが、数メートル先のなんの変哲もない木の扉を指差して言った。どう見ても物置にしか見えない。

 

イザベルが疑わしげに眉をひそめ、デレクに視線を送る。

 

デレクは肩をすくめ、扉を開けた。

 

――正直、モップとバケツが積み上がっていると予想していた。

 

だが、その中にあったのは、それどころではない混沌の巣だった。

 

部屋は広く、石の壁には無造作に打ち付けられた木の板が貼りつけられ、そこに巻物や図面がびっしりと並んでいた。

 

中央の机は紙や道具で埋まり、よく見るとその中には、ルーンが刻まれたハンマーや、クリスタルのドライバーといった奇妙な道具も混じっている。

 

空気には、焼けた金属と焦げた薬草、そしてオゾンのような匂いが漂っていた。

 

デレクが一歩足を踏み入れた瞬間、床の隅で何かがピクッと動いた。

 

金属とガラスでできた小さな機械生物たちが、あちこちをバタバタと走り回っていた。

 

互いにぶつかり、壁に激突し、完全にランダムな動きだった。

 

青銅の鳥が不協和音の口笛を鳴らし、機械のカエルががちゃがちゃ跳ね回っている。

 

イザベルは言葉を失い、ぽかんと口を開けたまま見つめていた。

 

ツンガは眉をひそめ、明らかに不快そうな顔をしていた。

 

だがデレクは、笑みを浮かべた。混沌の中に、明確な才能が見えたからだ。

 

【デレク】「……お前の研究って、てっきり宗教のもんかと思ってたけどな。それって何だ? 「神のからくりオモチャ」か?」

 

【イサラ・ミレス】「違う違う、そんなのじゃないってば! これは魔石で動く「自動機械」なの! ただね、今のところは単純な動作しかできなくて……「知性」を与えるには、もっと強い魔力が必要なのよ。それも、《球体》から直接引き出せるような、高位のやつじゃないとダメっぽいの」

 

【デレク】「魔石と球体って、別の力なんだろ?」

 

【イサラ・ミレス】「ううん、源はひとつよ。全部、オルビサル様から。魔力は《球体》を通して私たちに与えられるの。でも、落下した《球体》って、まわりに力を漏らすのよ。損傷があれば全部抜けるし……そしたら土地そのものが変わっちゃうの」

 

【イサラ・ミレス】「ナルカラの密林、あそこ昔は砂漠だったって言われてる。大昔に「生命」の《球体》が落ちて、森が生まれたの」

 

【デレク】「……マジか。じゃあ、《球体》をいくつか集めりゃ、星の環境そのものを変えられるってわけか。……理屈が通じないレベルだな」

 

【イサラ・ミレス】「でね、一部の鉱石は特定のエネルギーを「捕まえる」ことができるの。結晶の色で「属性」が分かるし、光の強さで「量」もだいたい推測できる。高レベルの《球体》が落ちた地域だと、昼間みたいに明るい石が採れるの!」

 

【デレク】「……つまり、その石を電池代わりにすりゃ、何でも動かせるってことか?」

 

【イサラ・ミレス】「そうそう! ただし、《球体》の魔力を「全部」取り込めるのは、生き物のチャクラだけよ。物体じゃ無理。でもあなたのアーマー……あれは別みたいね?」

 

【デレク】「ふーん……」

 

【イサラ・ミレス】「でも魔石は無機物でしょ? だからチャクラなんていらないの。ちゃんと手順を踏めば、石の中に溜まった力を、ほかの道具に「移す」ことができるの!」

 

イザベルが、光るルーンが彫られた大きなハンマーを手に取った。

 

【イザベル】「これは? 武器に見えるけど……?」

 

【イサラ・ミレス】「違うよ。これは「石」のルーンが入ってるの。建設に使うとね――叩いた構造物の安定性が上がるの。ぐっとね!」

 

【デレク】「叩くだけで? 壊すどころか強くなるって……ずいぶん合理的な暴力だな。嫌いじゃない」

 

【デレク】「他には?」

 

【イサラ・ミレス】「こっちこっち! これね、触ってみて!」

 

イサラは頬を赤らめながら、部屋の隅にあった木製の台車を指差す。

 

台車はまるで紙のようにスッと動いた。

 

デレクが手を当てると、しっかりした質感があったのに、異様なほど軽かった。

 

【デレク】「……これは?」

 

【イサラ・ミレス】「「生命」のエネルギーと「力」のルーンを使ってるの。触れた人の筋力を一時的に高めて、結果として台車が軽く感じるの。実際は重いけど、力が増してるから軽いのよ」

 

【デレク】「はは……すげぇな。「力を与える記号」を刻むだけでそんなことができるわけ?」

 

【イサラ・ミレス】「あー、それがね、単純じゃないの。エネルギーの種類によってできることは違うし、全部が相性いいわけでもない。「死」の力で「力」は付与できないし。でも――正しいエネルギー、正しいルーン、そして完璧な精度で彫刻すれば、理論的には何でもアリ!」

 

デレクの視線が、部屋の隅でピクピク動いている金属の生き物たちに戻る。

 

そのフレームには細かく彫られたルーンが見えた。

 

【デレク】「あいつらには、どんなルーンを使ったんだ?」

 

【イサラ・ミレス】「動かすためのルーンと……目的を与えるためのルーン。「心」に近いものね。でもね――さっきも言ったけど、うまくいってないの。あなたのアーマー……ヴァンダが「話す」なんて、私の技術じゃ到底できない」

 

【デレク】「……すげえな。お前、マジでヤバいわ」

 

【イザベル】「エラスムス・モーチャントは……この研究室での活動を知っているの? これを黙認するとは思えないけど――」

 

背後から、品のある声が響いた。

 

【エラスムス】「ええ、残念ながら存じておりますよ」

 

ゆっくりとした足取りで、ひょろりと背の高い男が部屋に入ってきた。

 

年齢は中年、金刺繍のローブが暗がりで淡く輝いている。

 

彼は一瞥で部屋を見回し、軽く顔をしかめた後、形式的にデレクに頭を下げた。

 

【エラスムス】「あなたが……カシュナル殿ですね?」

 

【デレク】「名前で呼べ。デレク・スティールだ」

 

【エラスムス】「私は書記長官、エラスムス・モーチャントと申します。この《砦》の管理を、できる範囲で務めております。本来なら到着時にお迎えするべきでしたが、手違いで――到着時にはすでに、イサラが対応しておりましたので」

 

【デレク】「彼女は最高だ。治療も早かったし、今はこうして俺に面白い発明を見せてくれてる」

 

(わざと満面の笑みを添えて)

 

エラスムスの目つきが一瞬だけ鋭くなり、イサラに火を向けるような視線を送る。

 

【エラスムス】「……実に喜ばしい限りですな」

 

【デレク】(あー……これ、典型的だな)

 

【デレク】(形だけの礼儀、言葉は丁寧、でも態度が全部ウザい。さっさと帰ってほしいやつ)

 

【デレク】「ま、もう見たいもんは見れたしな。こっちは十分だ」

 

【エラスムス】「テオドリック・ブレイデン評議員より、今回の滞在が一時的なものではないと伺っております。つまり――しばらくこちらにご滞在のご予定で?」

 

【デレク】「ああ。少し研究したくてな。《球体》についてだ。迷惑じゃなきゃいいけど?」

 

【エラスムス】「とんでもございません。我々としては光栄の至りでございます」

 

そしてツンガに視線を移す。

 

【エラスムス】「そちらの……護衛の方々も、ご一緒に滞在されるのですか?」

 

【デレク】「ああ。俺の護衛だ。大神官ユリエラの命令でついてきてる。何か問題でも?」

 

【エラスムス】「いえ、《砦》の治安維持は異端審問官ガラスが責任を持っておりますので、護衛の必要性は――」

 

【デレク】「必要性? だったら言わせてもらうが……壁の中にすら入る前に殺されかけた俺に、「十分な監視」とか言われてもな。ご遠慮願う」

 

【エラスムス】「……承知いたしました。カシュナル殿」

 

【デレク】「それと――俺は上級学者のイサラ・ミレスと協力する予定だ。彼女も、それに同意してくれた」

 

【イサラ・ミレス】「もちろん! 喜んでっ!」

 

【エラスムス】「ただ一言、申し上げておきます。イサラは、宗教的な義務よりも、こうした……「実験」に耽溺する傾向がありましてな」

 

【デレク】「それ、最高じゃないか。こんなに創造的で、技術への好奇心に満ちた空間が、あんたらの「厳格な砦」の中にあるなんてさ――マジで英雄的だと思うぞ?」

 

(イサラの肩をポン、と叩く)

 

【イサラ・ミレス】「へへ……!」

 

イザベルはずっと無言で立ち尽くし、足元を見ていた。

 

カンッ!

 

金属音が響いた。

 

イサラの機械カエルが、床でぺしゃんこになっていた。

 

ツンガがその上に立ち、杖でさらに二度、無造作に叩き潰す。

 

【ツンガ】「こいつ、危険。病気、持ってる」

 

【デレク】「あれ、金属とガラスだろうが。作り物だって分かるだろ」

 

【ツンガ】「……だとしても、殺しとく。死ぬよりマシ」

 

【エラスムス】「……実に「愉快」ですな」

 

【デレク】(あーもう、こいつジャングルに帰したい)

 

【エラスムス】「では、これにて失礼いたします。職務がございますので」

 

【デレク】(……はい、またひとり追加っと)

 

(俺のこと嫌いな《砦》の連中リストに)

 

【イザベル】「……イサラと親しくするの、エラスムスは気に入らないみたいね。この《砦》で何か成し遂げたいなら、あの人を敵に回すのは得策じゃないわよ。影響力が強いから」

 

【デレク】「そりゃ残念。メシアになったんだから、みんな俺に頭下げると思ってたのに」

 

【イザベル】「……ふざけないで。彼は甘くない。そして、そこまでする理由が「彼女」なら――ちょっと驚いたわ」

 

彼女は、地面にしゃがみ込んでカエルの残骸を拾い集めているイサラをちらりと見る。

 

【デレク】「違う。あいつのためじゃない。エラスムスはテオドリックの仲間で、しかも救いようのないバカだ。遅かれ早かれ敵だった」

 

【デレク】「……お前は? 平気か?」

 

【イザベル】「……大丈夫。行きましょう」

 

イザベルは顔を上げずにその場を離れた。

 

その去り際は、先ほどのエラスムスと――どこか似ていた。

 

【デレク】(……やれやれ)

 

(楽になるどころか、悪くなる予感しかしない)




読んでいただきありがとうございます。

ようやく明かされた「球体」の秘密、いかがでしたか?
エネルギーの源、ルーンとの組み合わせ、そしてアーマーとの関係…。
イサラのテンションとともに情報量も爆増中です。

一方で、また一人増えました。
面倒くさい上司枠、エラスムス登場です。
あとツンガ、マジでやめろ。

次回もよろしくお願いします。
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