異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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NOVAの修理は、ただの整備じゃない――混沌と信仰、科学と魔法の衝突の火種だった。
デレクが見つめる“意志”の正体とは……?


第59話 ― ノードの囁き、神の沈黙

修理ボットの唸りは、不気味に心地よかった。

 

【デレク】は眉をひそめながら、NOVAと、床にぶちまけられた光る結晶の山のあいだを右往左往するボットたちを見つめていた。

 

部屋はまるで竜巻の通ったあと。

魔道具がそこら中に転がり、コードと金属片、未分類の部品が入り乱れている。

 

【イサラ・ミレス】は道具を一つつかんでは、NOVAの装甲にスキャンをかけ、そして投げ捨てる。また次の道具へ。

まるでカフェイン中毒のリス。しかも錬金術オタク。

 

何度か、【デレク】は彼女が自分で放り投げた工具につまずきそうになるのを支えてやらねばならなかった。

 

……彼女にとって、NOVAの不具合は贖罪。

まるで世界の運命が、点滅するルーン一つに懸かってるみたいだ。

 

が、今回ばかりは【デレク】もただ眺めている気はなかった。

 

これまで――あまりにも多くの「予定外のアップグレード」や、時に物理的惨事すら、彼らの手に委ねた結果だったからだ。

 

今の彼は、修理ボット一体一体の動きをチェックしていた。

 

そして、見たことのない何かを見つけるたびに――というのは異様に頻繁だった――

それを「魔法のせいだ」と仮定して、【イサラ】に問いかけた。

 

彼女はすぐに作業の手を止めて答えようとするが、その半分は、そもそも本人すら何が起きているのか理解していなかった。

 

NOVAの内部は――もはや「地獄」だった。

秩序という概念が消え失せた完全な混沌。

 

10歳児がグロウストーンにドはまりして、核融合炉を飾りつけたような惨状だ。

 

【デレク】「なあ、イサラ」

 

彼は、二本のダクトの間に詰まった脈動する結晶を睨みながら、声をかけた。

 

【デレク】「この点滅してるやつ、外していいか?

ノードマトリックスに干渉してて、ダクトの流れがぐにゃぐにゃになってる。まるで渋滞を回避しようとするクソナビみたいに」

 

【イサラ・ミレス】「だ、だめだめ!」

 

彼女の目が見開かれた。

 

【イサラ・ミレス】「それ、四肢に魔力を送るチャネルなんだから!

外したら流れが崩れて、武器が暴発する可能性あるし……下手したら次の発射で――」

 

彼女は両手を広げ、爆発のジェスチャー。

 

【イサラ・ミレス】「……ボンッ!ってなるよ!」

 

【デレク】(頭をかきながら)

「了解。爆発スティックには触るな、と。納得したよ」

 

【ツンガ】が近づき、杖でNOVAの装甲をコンッと叩いた。

金属の鈍い音が実験室に響く。

 

彼の目は、祖霊を侮辱されたような鋭さでNOVAを睨みつけていた。

 

【ツンガ】「ダメだ、これ」

 

低く、唸るような声。

 

【デレク】「否定はしないさ、ジャングルマン」

 

確かに今のNOVAは、魔法のスクラップ置き場を後ろ向きに転がったような見た目だった。

 

部屋の隅には【イザベル】もいたが、回路や結晶に夢中な二人を眺めて、明らかに退屈していた。

 

【イザベル】が【ツンガ】の傍にいるのは、あの野人が《砦》で誰かを殺さないように見張っているかららしい。

特に【ガラス】に対しては、あのシャーマンの敵意は隠そうともしていなかった。

 

橋の事件のあとの尋問が、それに拍車をかけたのは明白だ。

 

もちろん【ガラス】は職務を果たしていただけだが、【ツンガ】にとってはただの「口ばっかりの邪魔者」に見えていた。

 

【イザベル】(あくびをかみ殺しながら)

「それで?シミュレーターで何があったの?……正確に言ってくれる?」

 

退屈を紛らわせるための質問にすぎなかった。

既に三回は同じやり取りをしていたのだから。

 

【イサラ・ミレス】は工具を置き、【イザベル】を見た。

だがその視線は、彼女を通り抜けて、どこか遠くを見ていた。

 

【イサラ・ミレス】「そればっかり考えてるんだけど……」

 

ぽつりと、つぶやく。

 

【イサラ・ミレス】「でも今のところ、答えは同じ。わからないの、ワーデン。

あんな現象、今まで見たことも聞いたこともない。

ステータスを何時間もチェックしたけど、それらしい原因は何一つ出てこなかった。

もし危険があるって知ってたら、カシュナールにあそこでテストなんて……絶対にさせなかったよ」

 

【イザベル】は首を横に振る。

 

【イザベル】「あの新兵器を試してたんでしょ?

名前……ミサイル? それが原因なんじゃない?」

 

【デレク】(顎をさすりながら、学者ぶった口調で)

「ほう、つまり俺の改造ミサイルが、勝手にシミュレーターを再プログラムして、俺がピラミッドで遭遇した怪物を忠実に再現してくれたと?」

 

一拍置いて、皮肉な笑み。

 

【デレク】「いやあ、素晴らしい仮説だな。

ぜひ続きを聞かせてくれ、ワーデン」

 

【イザベル】は顔をしかめ、【デレク】は首を振った。

 

【デレク】「原因は、コラール・ノードの干渉だと思ってる」

 

そう言って、彼は端末に目をやった。

 

【デレク】「ウォーディライのアーティファクトが、シミュレーターに何らかの影響を与えたんだ」

 

【イサラ・ミレス】は顔をしかめ、【デレク】の方を向く。

 

【イサラ・ミレス】「どうしてそんなに断言できるの?……悪いけど、あなたってシミュレーターの構造すら分かってないでしょ?」

 

【デレク】(肩をすくめて)

「不可能なことが起きるときは、必ずノードが関係してる。俺の経験上な」

 

彼は三本の指を立てた。

 

【デレク】「その一。俺がこの世界にぶっ飛ばされたとき」

 

一本指を下ろす。

 

【デレク】「その二。カインとの戦いで死にかけたあと、どこからか回復したとき」

 

さらに一本。

 

【デレク】「三つ目。今日、シミュレーターに現実が侵入して、俺を殺しかけたとき」

 

【イザベル】(眉をひそめて)

「その三つに、何か共通点でも?」

 

【デレク】「どれも、理屈じゃ説明がつかない」

 

彼は、はっきりと答える。

 

【デレク】「そしてそのすべてで、ノードが反応していた。それが唯一の共通項だ」

 

【イサラ・ミレス】「でも、そのノードって……どこにあるの?

あなたが何度も言ってるその古代の装置、私はNOVAを上から下まで分解したけど、それらしいものなんてなかったよ?」

 

【デレク】(顎髭を掻きながら)

「ヴァンダによれば、ノードのエネルギー反応は今もNOVA内部にあるらしい。

つまり、物理的な装置じゃなくなった。転送されたんだ。装甲システムのどこかに。まるでウイルスみたいにな」

 

【ヴァンダ】「デレク」

 

スピーカーから静かな声が響いた。

 

【ヴァンダ】「皆様の中に、コンピューターウイルスという概念をご存知の方がいらっしゃるかどうか、やや疑問でございます」

 

【デレク】は、【イザベル】、【イサラ】、【ツンガ】を順に見た。

三人とも、ポカンと口を開けていた。

 

【デレク】(ため息交じりに)

「……そうだったな。お前ら、全員、石器時代の民だった」

 

彼は手を振りながら、説明を始める。

 

【デレク】「ウイルスってのは、機械に感染して、勝手に挙動を変えちまうやつだ。

ノードも同じだ。俺の推測では、NOVAのどっかに引っかかって、凍った状態で潜伏してる。

再起動するのは、特定の条件が揃ったときだけ。まるで状況を読んでるみたいに動いてる――で、その助けがたまに命取りになりかける」

 

【イザベル】(腕を組んで、やや思案気味に)

「……つまり、それって生きてるってこと?

自分の意思があるの?」

 

【デレク】「自我があるかって話か?」

 

彼は小さく笑う。

 

【デレク】「だったらヴァンダだって、時々そう見えるぞ。あいつはただのAIなのに」

 

【ヴァンダ】「ありがとうございます、デレク」

 

その声は、例によって完璧に平坦だった。

 

【デレク】「どういたしまして」

 

彼は周囲を見渡す。

 

【デレク】「ともかく。ヴァンダですらそんな風に見えるんだ。

ノードがもし、自律思考っぽい挙動をしてても――別に驚かない。

まあ、ちょっとビビるけどな」

 

【イザベル】は、まっすぐ彼の目を見た。

灰色の瞳が、決して揺るがない信念を宿している。

 

【イザベル】「……でも、私にはあなたが信仰で説明できることから、意図的に逃げてるようにしか見えない」

 

【デレク】(目を回しながら)

「出たよ。オルビサル様の出番ってわけか。

じゃあ聞かせてくれよ、神のご計画ってやつを」

 

【イザベル】は指を三本立てた。

 

【イザベル】「一つ。神はあなたをこの世界に導いた。

別の世界から、運命を果たさせるために。

それは聖典にも記されているわ」

 

【デレク】「導いた? いや、誘拐したの間違いだろ」

 

一本、指が下ろされる。

 

【イザベル】「二つ。カインとの戦いで、あなたが死にかけたとき――

神はあなたを救った。

気づいてない? 神はあなたを護ってくださっているの。

あなたが使命を果たすまで」

 

【デレク】(鼻で笑いながら)

「守った? いや、半殺しのが近いだろ」

 

わずかに表情を引き締めながらも、【イザベル】は続ける。

 

【イザベル】「三つ。神はあなたを試した。シミュレーターで。

そして装甲に眠る力を目覚めさせる機会を――あなたに与えた。

その結果、あなたは今、以前よりも強くなっている。違う?」

 

その声には、かすかな自信と期待が混じっていた。

 

【デレク】(NOVAを指差しながら)

「強化? これのどこが?

見ろよ、ボロ雑巾みたいだぞ。

これでどうやって戦うって言うんだよ」

 

【イザベル】「装甲は修復されるわ。

神のご計画は、すべて進行中。

あなたは常人を超える力を見せた――それは聖典に記されているしるしそのもの。

……なのに、なぜまだ疑い続けるの?」

 

【デレク】(薄く笑って)

「お前がそんなに必死で俺を説得してるってことは――

逆に、お前自身がまだ信じきれてないって証拠じゃないのか?」

 

【イザベル】「違うわ、デレク!」

 

声が一段高くなる。

 

【イザベル】「私は……あなたが救世主だから、信じてるの!

だから説得してるの! 

いつかあなたが自覚してくれるって、信じてるから……

だから私は、ここにいるのよ!」

 

【デレク】はまばたきをした。

初めて、その声に混ざった苛立ちと感情に気づいた。

 

……まあ、当然か。

 

彼女はすべてを賭けてここにいる。

人生も、立場も、信仰も。

そして、自分を救世主と信じてきた――

その相手が、ただの皮肉屋で無神論の科学バカだったとしたら。

 

【デレク】(静かに)

「イザベル。俺はお前の救世主なんかじゃないし――

これからも、なる気はない」

 

「もし俺がある日、聖人ぶって語り出したらな――

その時はツンガにぶっ殺されたいもんだ」

 

【ツンガ】(肩をすくめて)

「いいぞ」

 

【デレク】は軽くうなずき、再び【イザベル】へ向き直る。

 

【デレク】「俺はユリエラや《砦》の評議会連中みたいな奴になるくらいなら、死んだ方がマシだ」

 

「……わかったか?

俺が変わることを期待してるなら、やめとけ。

ジャングルに帰って、村を守ってやれ。

ユリエラは喜ぶし……正直、お前もそっちのが幸せになれるかもな」

 

【イサラ・ミレス】は気まずそうに視線を逸らし、体をよじらせた。

 

【ツンガ】はあくびをした。

 

【イザベル】(片眉を上げて)

「つまり、私を追い払いたいってこと?」

 

【デレク】「違う」

 

首を振る。

 

【デレク】「お前を俺から解放したいだけだ。

……俺と一緒にいても、お前のためにはならない。

俺がやってるのは、お前の信仰を揺らし、ユリエラへの信頼を壊し……

お前の土台そのものを、ぶち壊してるだけだ」

 

彼は、一拍置いた。

 

【デレク】「正直になれよ、イザベル。

お前……なんでまだここにいる?」

 

【イザベル】の灰色の瞳が、【デレク】の目を捕らえて離さなかった。

 

【イザベル】「理由は、もう言ったはずよ」

 

【デレク】「信仰……ってやつか?」

 

【イザベル】「これは、私の運命なの。

たとえ、どんな終わりを迎えようと……私は、受け入れなきゃいけない」

 

【ツンガ】(低く、静かに)

「運命は誰にでもある。

精霊は導く。……たとえ、それが見えなくても」

 

【デレク】は大きく息を吐き、【イサラ】の方を見た。

 

【デレク】「で、お前は? 何か賢そうな一言でも?」

 

【イサラ・ミレス】(必死に首を振って、顔を赤くして)

「ないっ!」

 

【デレク】(目を閉じて、指で眉間をつまみながら)

「よし。じゃあ、神とか運命とかはとりあえず脇に置いとこう」

 

「少なくとも、一つだけ――俺たち全員が一致できることがある」

 

部屋が静まり返った。

全員が【デレク】の言葉を待つ。

 

【デレク】「この世界には、何かがいる。

それがノードか、神か、精霊か、宇宙のいたずらか――それは分からん。

だが、意志を感じるんだ。動いてる、何かが」

 

【イサラ・ミレス】(小さく)

「……意志?」

 

【デレク】(うなずきながら)

「偶然とは思えない。

俺たちがどんなに計画しても無理だったことが、なぜか次々起きてる。

これは、何者かの意思だ。……それだけは確かだ」

 

【イザベル】(声を震わせて)

「……なぜ……なぜそこまでして、オルビサルではないと思いたがるの?

ここまでの経験、目にしてきた奇跡……それでも、違うと?」

 

【デレク】「いいか、イザベル。

オズの魔法使いって知ってるか?」

 

問いかけに答えず、彼は続ける。

 

【デレク】「全部が見せかけだったってオチさ。

あれだって、説明はつく。神のように見えて、実際はただの人間だった。

――それって、オルビサルと同じ問題を抱えてる」

 

彼の声が一瞬だけ、冷えた鋼になる。

 

【デレク】「――存在してねぇんだよ」

 

【イザベル】は言葉を失った。感情を押し殺したまま、冷たい目で彼を見つめていた。

 

【デレク】(声を引き締めて)

「俺がノードを見つけたのは、ウォーディライの遺跡だった。

信じられないほど高度な古代文明。

ノードは、やつらの最高傑作の一つだ。

エネルギー源も構造も、俺たちの理解を遥かに超えてる」

 

【ツンガ】(眉をひそめて)

「その……ウォーディライってやつが、全部仕組んだのか?」

 

【デレク】(短く息を吐いて)

「さあな。記録によれば、あいつらは数百万年前に消えたって話だ」

 

【イザベル】(腕を組み、唇を引き結んで)

「それでも、神の使徒であるはずのあなたが……

消えた文明の方を信じるのね」

 

【デレク】「あるいは――」

 

静かに息を吸って、吐く。

 

【デレク】「誰かが、その技術を見つけて神のフリをしてるだけかもしれない。

信仰の対象を、でっち上げたんだ。信じさせるために」

 

【イザベル】「そんな……正気じゃない。

なぜそんなことを? 自分が何を言ってるか、わかってるの?」

 

【デレク】(短く頷いて)

「ああ、ちゃんとわかってる」

 

彼は頭をかきながら言った。

 

【デレク】「狂ってる話だってのは、俺も重々承知してる。

でも真実ってのは、狂った仮説から始まるもんだ」

 

彼の視線がまっすぐ【イザベル】を貫いた。

 

【デレク】「……さっきの質問の答えだけどな。

誰かがこの世界に仕掛けた理由は、まだわからない。

でも――俺は、それを突き止めるつもりだ」

 

【イザベル】は沈黙し、顎を固く結び、ただ立っていた。

 

その時、【ツンガ】が杖を床に打ちつけた。

鋭い音が、空気を切り裂く。

 

全員が振り返る。

 

【ツンガ】(低く、確信を込めて)

「道を……見失った」

 

【ツンガ】「ワーデン、お前の信仰は揺れてる。

俺の精霊たちは……沈黙している」

 

彼はゆっくりと【デレク】を指差した。

 

【ツンガ】「そしてお前、シャイタニ。

お前の科学は、お前を裏切った」

 

その声は野太く、だが揺るぎなかった。

 

【ツンガ】「俺たちは、新しい道を見つけねばならん。

さもなくば、迷い続ける。

そして迷い続ければ……この世界も滅びる」

 

一人一人を、順に見回す。

 

【ツンガ】「共にしか、できぬ。

共にしか――」

 

【デレク】は、じっと【ツンガ】を見つめた。

 

この野人は――時折、原始の哲学者みたいな真実を突きつけてくる。

 

【デレク】「……たぶん、お前の言うとおりだな、ツンガ」

 

【ツンガ】は何も言わず、ただ石像のような無表情で見返していた。

 

その時、廊下の奥から足音が響いた。

重く、ゆっくり。だが、迷いのない足取り。

 

全員が出入り口へと目を向けた。

 

長い影が床を這い――続いて、咳払いの音。

 

【ガラス・ドレイヴン】が現れた。

黒いローブのフードを払い、険しい表情を露わにする。

その顔には、焦りと疑念が入り混じっていた。

 

【ガラス】「邪魔でなければいいのだが」

 

その声は、遠慮する気はないという意思をはっきりと伝えていた。

 

【デレク】(ため息をつきながら)

「お前が来る時って、大抵ろくなことが起きないんだよな、ガラス」

 

【ツンガ】が低く唸った。

 

異端審問官は、無駄のない動きで部屋へ入り、腰の革袋がかすかに鳴った。

冷たい視線が、部屋の全員を順に射抜いていく。

 

【ガラス】「確認したいことがある」

 

石の床に足音を響かせながら、部屋の中央へと進む。

 

そして、静かに、だがはっきりと告げた。

 

【ガラス】「シミュレーターで何が起こったのか――

公式見解ではなく、真実を聞きたい」

 

その視線が【デレク】に向けられる。

 

【ガラス】「すべてだ」

 

【デレク】(低く)

「俺も知りたいところだよ……だが、まだ真相には届いてない」

 

【ガラス】「では……橋の件と同様、攻撃の可能性は?」

 

【デレク】(すぐに否定する)

「それを結びつけるのは、見当違いだな」

 

【ガラス】「その自信の根拠は?」

 

【ツンガ】(一歩前に出て、歯をむき出しにして)

「また部族のせいにする気か」

 

【イザベル】が手を伸ばし、【ツンガ】の肩に軽く触れた。

 

【イザベル】(静かに)

「ガラスは任務を果たしているだけ。……落ち着いて、ツンガ」

 

【ツンガ】は動きを止めたが、その瞳にはまだ怒りの炎が残っていた。

まるで今にも飛びかかろうとする猛獣のように。

 

【デレク】「ガラス。あの時、シミュレーターに現れた情報は、この世界の人間が知ってるはずのないものだった」

 

【ガラス】(目を細めて)

「つまり……お前の世界の者か?

お前以外にも、この世界に来た人間がいる可能性が?」

 

【デレク】の心臓が、一拍跳ねた。

 

……なんてこった。

今まで、その可能性を考えたことすらなかった。

 

まさか、他にも誰かがこの世界に送り込まれていて――

背後で何かを仕掛けている?

 

【デレク】「……否定はできないな」

 

彼は皮肉げに笑いながら続けた。

 

【デレク】「やるじゃん、ガラス。急にちょっとだけマシに見えてきたぞ」

 

【ガラス】は唇の端をわずかに持ち上げた。

だがその笑みは、まったく笑っていなかった。

 

【ガラス】「光栄だ。では、もう一つ質問を。

……今朝、お前たちはどこにいた?」

 

【イザベル】の背筋がピンと伸び、手が自然と剣の柄に伸びる。

 

【イザベル】「なぜ、その質問を?」

 

【デレク】(【イザベル】の隣に立ちながら)

「ご存じの通り、俺は【イサラ】と一緒にシミュレーターにいた。

【イザベル】と【ツンガ】も、すぐに駆けつけてくれた」

 

彼は、修理中のNOVAを指差す。

 

【ガラス】はしばらくそれを見つめ、息を吐いた。

 

【ガラス】「すまんが……お前たちの証言を、そのまま信じるわけにはいかん」

 

そう言って、ポーチから奇妙な装置を取り出した。

砂時計のような形。黒と緑の結晶がそれぞれ脈動していた。

 

【デレク】(眉をひそめて)

「なんだそれ。変な追跡装置か?」

 

【イザベル】(声を引き締めて)

「魔力署名の照合器よ。

対象の気を採取して、現場に残ってる痕跡と照合するためのもの」

 

【デレク】(言葉を詰まらせながら)

「……ちょっと待て。事件……?

……誰か、死んだのか?」

 

思いたくなかった。

だが、脳裏に浮かぶ顔を振り払えなかった。

 

――違う。

彼女じゃない。

そんなはずがない。

 

【ガラス】は黙って順番に装置をかざしていく。

【デレク】、【イザベル】、【イサラ】――そして最後に【ツンガ】の前で立ち止まった。

彼は低く唸ったが、幸い装置を噛み砕くことはなかった。

 

結晶は脈動するだけで、色に変化はなかった。

 

【イザベル】(鋭く)

「反応がなかった以上、今度はあなたの番ね。説明してもらうわ」

 

【ガラス】は装置を戻し、背を向けて出て行こうとする。

 

だが、【イザベル】が肩を掴み、その足を止めた。

 

【イザベル】(声を上げて)

「誰が死んだの?」

 

【デレク】の喉が鳴った。

 

……違うと言ってくれ。

どうか、彼女じゃないと――

 

【ガラス】は唇をわずかに歪め、冷たい笑みを浮かべた。

 

【ガラス】「詳細は話せない。だが――」

 

周囲を見渡し、首を振る。

 

【ガラス】「死んだかどうかは、まだ不明だ」

 

【デレク】「彼女?」

 

ほとんど、叫ぶような声になっていた。

 

【ガラス】は肩を振りほどいた。

 

【ガラス】「あの新入りのノービスだ。

お前と何かしらの繋がりがあると聞いている。

報告によれば、お前と【イザベル】が訓練場で彼女と会っていた。

そして、その直後に――姿を消した」

 

その目が、鋭く【デレク】を射抜いた。

 

【ガラス】「それに、事件の直前にお前がやったあの劇場――

どうにも、下手な目くらましにしか見えなかったな」

 

【デレク】は一歩、静かに前に出た。

 

その一歩に、【ガラス】は思わず後ずさる。

 

【デレク】(低く、鋼を引きずるような声で)

「お前の浅い脳みそが捻り出した下らない仮説なんて興味はない」

 

「――今すぐ、時間を言え。

いつ起きた?」

 

【ガラス】(一瞬たじろぎながら)

「今朝早く。訓練場で最後に目撃されている」

 

【デレク】の胸に、氷の刃が突き刺さったようだった。

 

その冷たさは、肋骨の奥にまで染み込んでくる。

 

【デレク】は視線を逸らした。

脳裏に浮かんだのは、アリラの顔。

 

訓練中に見せた、あの小さな笑顔。

ふざけて脅して、守っているように見せかけた――あの瞬間。

 

……そして今。

自分が彼女に標的を付けてしまったのかもしれない。

大事に思っていると、あまりにも明白に見せすぎた。

 

――【イザベル】は、あれほど警告してくれていたのに。

 

【イザベル】(静かに、だがはっきりと)

「デレク。あなたが考えていることは、分かる。

でもこれは……あなたのせいじゃない」

 

【デレク】は顔をしかめた。

 

……まただ。

その台詞。

 

「君のせいじゃない」

 

何度も聞いてきた。

 

最初は、ユキのとき。

 

今度は、アリラ。

 

俺は、いつだって巻き込まれた側ってやつか?

 

……責任はない。

……ただの被害者。

 

――本当に、そうか?

 

彼は拳を握りしめた。

指の骨が白くなるほどに、強く。

 

【デレク】(低く、唸るように)

「誰だ……

誰がこんなことを?」

 

【ガラス】は首をわずかに傾げた。

 

【ガラス】「まだ調査中だ……カシュナール」

 

もちろんだ。

こいつは、俺たちが関与していると疑ってここへ来た。

 

だが――

 

この男が真実にたどり着けるわけがない。

 

【デレク】は顎を固く結び、【ガラス】を睨みつけた。

 

【デレク】「彼女が最後に目撃された場所まで――

今すぐ案内しろ」

 

 

 

 




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