異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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※読者の皆さまへ

今回の第64話は、これまでの中でも特に緊張感のある展開になっています。
禁じられた力、揺らぐ信念、そして過去と向き合う意志。
それぞれの選択が、物語を大きく動かしていきます。

ごゆっくりお楽しみください。


第64話 ― 禁呪と鉄の意志:不死者に満ちた森を突破せよ

かつて人間だった無数の影が、四方八方からじわじわと迫ってきていた。

 

顔には表情がなく、身体は腐り、崩れている――それでも、遅くはなかった。まるで、全身が覚束ない死体などではないかのように。

 

エリアス・モルヴェインは、その群れの中心に立っていた。ねじれた木製の杖を握り、その先端には《生命》の《球体》が据えられていた。

 

その表面には深い亀裂が走り、そこから緑のエネルギーが触手のように漏れ、空気中へと滲み出していた。

 

デレク・スティールは、さっき発射した《死》エネルギーを帯びたマイクロミサイルのテレメトリを見つめていた。

 

ミサイルは天へと上昇し、真っ黒な煙の軌跡を空に描いていた。蛇が空を這うかのように。

 

こめかみに滲んだ一滴の汗は、NOVAの内部循環システムによって即座に吸い取られた。

 

心拍の鼓動が、NOVAの装甲内でこだました。規則正しく、だが重々しく――まるで戦の太鼓。

 

ツンガ・ンカタとイザベル・ブラックウッドが、デレクの両脇に並び立ち、武器を構えていた。

 

イザベルが振り返り、灰色の瞳を大きく見開いた。

 

【イザベル】「デレク……あれは何なの?」

 

デレクは肩をすくめる。

 

【デレク】「イサラと作った「副産物」だ。あれで道をこじ開ける。構えとけ。……見た目は最悪だがな。」

 

彼は次のミサイルを装填する。今度は、紫のやつ。

 

小さな金属製のシリンダーが、ランチャーにカチッとはまり込む。

 

その瞬間、二発の黒いミサイルが空中で旋回し、急角度で地面に向かって突っ込んだ。

 

周囲を包むのは――異様なほどの静けさ。

 

死者の群れが突撃してくるというのに、鳥のさえずりがまだ聞こえる。

 

虫の羽音も、風の揺らぎも――日常そのままだ。

 

戦の怒声も、悲鳴も、ない。

 

あるのは、無音と……草を踏む足音だけ。

 

何十、何百という、足音――

 

――そして、ミサイルが着弾した。

 

群れの中心、わずか十メートル先。

 

ずしん。

 

重く鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。濡れた土に岩を投げ込んだような音だった。

 

デレクは息をひそめ、身をこわばらせた。胸の奥が、締めつけられるように痛む。

 

……だが、何も起きない。聞こえるのは、鈍い衝突音だけ。

 

【デレク】「……クソが」歯を食いしばって、吐き捨てる。「不発ってか?」

 

その時、大地が震えた。

 

地中深くで、何か――古く、凶悪なものが目を覚ましたかのような、低く不穏な振動。

 

黒い霧が着弾点から吹き出し、まるで羊皮紙に零れたインクのように、じわりと地面を這っていく。

 

闇はゆっくりと、だが確実に広がった。草も、土も、低木も、虫たちも――そして、死者の群れの大半も、その中へと呑み込まれていく。

 

エリアスも、その渦中にあった。

 

効果範囲の外にいた死者たちは、まるで指示を失った操り人形のように、ぴたりと動きを止めた。

 

ツンガは一歩退き、口を開けたまま硬直する。

 

イザベルがデレクに向き直り、怒りに燃える目で叫んだ。

 

【イザベル】「何をしたの!? その魔法は禁じられているのよ! 理由があるからこそ、禁じられているの!」

 

デレクは無表情で、麻痺した死者たちを顎でしゃくった。

 

【デレク】「効くのは《死》だけだった。それ以外は全部無駄。理由? 知ったこっちゃねえな。」

 

イザベルは何かを言いかけたが、結局、ただ強く頭を振った。

 

黒い霧は依然として広がっていた。けれど、その勢いは次第に落ち――

 

這うように、探るように……じりじりと前進を続けていた。

 

ツンガとイザベルは、足元まで迫る闇にたじろいで、無意識に後ずさる。

 

そして、闇は止まった。

 

ほんの数歩手前で、ピタリと。

 

闇の外に取り残された死者たちは、硬直したまま微動だにしない。

 

デレクには、やつらの顔、服装、そのおぞましい姿までもがはっきりと見えていた。

 

農民。羊飼い。職人。

 

どこにでもいる、普通の人間だった。

 

着ていた衣服は粗布で、飾り気のない作業着がほとんど。もはや原形を留めていない者もいる。

 

中には裸同然のものも、皮膚が剥がれ、筋肉や腱、骨が露出したものもいた。見るべきでないものまで、晒していた。

 

――その時。

 

黒い霧の中心から、異様な声が響いた。ひび割れた笛のような、不快で甲高い声。

 

【エリアス】「貴様……なぜ《死》の魔法を使える?」

 

デレクは舌打ちする。……やっぱり、あれでも死ななかったか。シルバー級の司祭が、あれくらいでくたばるわけがない。

 

せめて、巻き添えで何体か潰せていれば……

 

肩をすくめ、無造作に返す。

 

【デレク】「禁忌とか法律とか、俺にはあんまり縁がなくてな。あと……ゾンビに説教される筋合いもねぇし。」

 

【エリアス】「ゾンビ……だと!?」

 

声が弦の切れたバイオリンのように軋み、甲高く裂ける。

 

【エリアス】「愚か者め! 彼らはオルビサルに忠誠を誓いし信徒たち! 信仰に導かれ、ここに集ったのだ!」

 

デレクはゆっくりとイザベルの方を振り向いた。

 

彼女はわずかに肩をすくめ、小さく呟いた。

 

【イザベル】「《生命》の《球体》が……汚染されてしまったの。……自分が死者だってことすら分かっていない。何をしているのかも……」

 

デレクは口の端を歪め、吐き捨てる。

 

【デレク】「要するに、狂った司祭に盲従するゾンビの群れってわけか。……なるほど、やっぱり「教会」ってのはどこも変わらんな。」

 

イザベルがギロリと鋭い視線を突きつけた。

 

【デレク】「よく聞けよ、ゾンビ牧師。」

 

声を張って言い放つ。

 

【デレク】「こっちはその「信者様たち」もろとも、地図から吹き飛ばすくらいのつもりで動いてんだ。舐めてかかるなよ。」

 

ツンガが一歩前に出て、黒い霧を見つめた。指を伸ばし、震えながら言う。

 

【ツンガ】「あれ……悪いもの。感じる。強い、腐った力。」

 

デレクは彼を横目で見る。

 

【デレク】「今は黙ってろ、ツンガ。こっちはゾンビ司祭と交渉中なんだよ。」

 

木々の間に、またしてもエリアスの声が響く。

 

【エリアス】「貴様ごとき偽りのメサイアの小細工など、オルビサルが恐れるとでも思ったか!」

 

その瞬間、黒い霧の中心で――緑の光が瞬いた。

 

それは最初、小さな点だった。

 

だがすぐに、鼓動のように脈打ち始め、異様な輝きへと膨れ上がっていく。まるで、生きた炎。

 

デレクは顎を固く引き締めた。

 

【デレク】「構えろ。何が来ても突っ切るぞ。ジャングルで迷っても、目的地はエボンシェイドだ。」

 

彼は仲間たちを見渡した。

 

【デレク】「任務は変わらん。少女たちを見つけて、ロスメアへ戻る。それだけだ。」

 

イザベルは短く頷いた。

 

【イザベル】「名誉にかけて。」そう言い、静かに頭を垂れる。

 

ツンガの表情は読めなかった。

 

理解しているのか。受け入れたのか。それとも、別の何かを感じているのか。

 

……だが、それもいつものことだった。

 

――そして。

 

緑の光が、超新星のように炸裂した。

 

爆風のように、黒い霧を吹き飛ばす。

 

信じられねぇ……《死》のエネルギーを、あの野郎、まるでゴミでも掃除するみてぇに浄化しやがった。

 

その結果、現れた光景は――息を呑むものだった。

 

エリアスの周囲に、完全な「死の円」が形成されていた。

 

草も、低木も、虫も、小動物も、鳥すらも――すべてが命を絶たれ、灰色の地面に沈んでいた。

 

まるで、この地から一瞬にして「生命」だけが引き剥がされたように。

 

《死》のフィールドにいたアンデッドたちは、倒れ伏し、二度と動く気配はなかった。まるで、もともとそこで腐っていたかのように。

 

破壊は、完全だった。

 

《死》という存在そのものが、この場所を通過したかのように。

 

唯一、破壊を免れたのは――

 

エリアスの杖にある《生命》の《球体》。

 

その緑の光輪は杖を伝い、彼の体を包み、まばゆいバリアを形作っていた。

 

彼ひとりだけを、生かすために。

 

他すべてを犠牲にして。

 

【デレク】「――今だ!」

 

彼は焼け焦げた死の領域へと飛び込んだ。それは、包囲を突破できる唯一の隙間だった。

 

エリアスの罠を抜ける、たった一つの道。

 

ツンガとイザベルも、すぐに彼の背を追う。

 

残ったアンデッドたちが追ってくるが、すでに《死》の魔法に沈んだ者たちは動かない。

 

それが、唯一の救いだった。

 

あいつらがまた立ち上がっていたら……終わっていた。

 

デレクはNOVAのアクチュエーターを最大出力にはできなかった。仲間を置いて進むわけにはいかない。

 

だが、それでも容赦はしない。

 

【デレク】「ヴァンダ! 三人分のホログラムを作れ。ミサイルに仕込んでジャングルに散らせ。追跡を撹乱して、足跡を消す。」

 

【ヴァンダ】「了解しました、デレク。」

 

彼らはジャングルの縁にたどり着いた。だが、そこに待ち構えていたのは――

 

絡まり合った蔓、枝、下草で構成された、緑の壁だった。

 

分厚く、重く、まるで「ここから先には行かせない」と告げるかのように。

 

ツンガが杖を高く掲げると、植物たちがゆっくりと反応を示し、重いカーテンのように道を開いていった。

 

その隙に、デレクはミサイルを発射した。紫のマイクロミサイルが短く飛翔し、後方で紫煙を噴き上げて爆発する。

 

【ヴァンダ】「投影完了しました。ミサイルの魔力フィールドが持続する限り、ホログラムも有効です。」

 

デレクが振り返ると、ちょうどそのとき――

 

煙の中から三人のホログラムが、十数体の姿となって飛び出した。

 

それぞれ、別方向へと一斉に走り出す。

 

すでに複数のアンデッドが、追跡を始めていた。

 

【デレク】「ヴァンダ、エボンシェイドまでのルートをプロットしろ。このジャングルじゃ、方角がなきゃ詰む。」

 

【ヴァンダ】「了解。進行ルートを設定。リペアボットが周囲のスキャンを継続中です。目標地点――村は小規模。隠れるには適していません。」

 

【デレク】「それでいい。アリラを見つけて、脱出が早く済むなら。」

 

【ヴァンダ】「……デレク、戦闘中にアンデッド群をスキャンしました。アリラの痕跡を確認するために。」

 

デレクの胃が、きゅっと縮む。

 

彼は一言も発さず、前方に集中したまま、ヴァンダに語らせる。

 

進む道の先だけを見つめながら――彼は、アリラを見つけ出す。必ず。

 

【ヴァンダ】「彼女はその中にいませんでした。幻術師の痕跡もなし。……まだ、生存の可能性があります。」

 

胸の奥で、張りつめていた糸が、ほんの少しだけ緩んだ。

 

――希望は、まだある。

 

あの狂気の幻術師――シエレリス。

 

どうやら、エボンシェイドには辿り着いているらしい。

 

……デレクを、連れて行くために。

 

……彼が《カシュナール》であることを、証明するために。

 

だが、なぜ?

 

なぜ彼女にとって、そこまで重要なんだ?

 

あいつは、ただの信者じゃない。何かが違う。頭の切れ方も、仕掛け方も、全てが「計算されていた」。

 

追跡の気配は――もう、なかった。

 

ツンガは杖を掲げながら、密林の奥へ進むたびに、後ろの道を封じていく。

 

草木が絡み直し、まるで「自ら通路を消す」ように閉ざされていく。

 

さらに、幻影の囮たちが四方八方に散ったことで――

 

エリアスの追撃は、完全に撒けたはずだった。

 

少なくとも今は、安全だ。

 

ジャングルの密度は、一歩ごとに増していく。

まるで森そのものが、彼らを締め上げるように。

 

デレクは、もう何日もこの森を歩いてきた。

だが今ほど、緑が「鮮やかすぎる」と感じたことはなかった。

 

蔓と枝の絡まりは、これまでよりも濃く、重く、そして――生々しい。

 

生命そのものが溢れ返り、まるで彼らの犯した「罪」を塗りつぶそうとしているかのようだった。

 

【イザベル】「デレク、教えて。」

 

息を整えながら、イザベルが問いかける。

 

【イザベル】「あなた、《死》の《球体》の力を……取り込んだの?」

 

【デレク】「いや。」

 

前を見たまま、淡々と答える。

 

【デレク】「イサラが作った、ブラックストーンの結晶を使っただけだ。エネルギーは俺の中には残ってない。」

 

【イザベル】「そう……よかった。それなら……」

 

【デレク】「でもな。」

 

彼は小さく息を吐き、続けた。

 

【デレク】「あれであの化け物どもを吹き飛ばせたのを見ちまった今となっては、少しぐらい残ってくれてた方がありがたかったかもな。エリアスごと全部、消せたかもしれん。」

 

【ツンガ】「駄目だ。」

 

低く、唸るような声。

 

【ツンガ】「死、中に入れるな。」

 

【デレク】(苦笑)「もう何年も前から、《死》は俺の中に住んでるさ、シャーマン。」

 

【ツンガ】「また、言葉ねじる。聞きたい音しか、聞かぬ。」

 

彼は後方を指さし、続けた。

 

【ツンガ】「あそこ。お前、死を投げた。土地、もう育たぬ。ジャングルは死んだ。あの場所、《死》のものになった。」

 

【デレク】「草なんてまた生えてくるだろ? 《生命》の《球体》でもあれば――」

 

【ツンガ】「無理だ。」

 

短く、はっきりと。

 

【ツンガ】「あそこは終わった。永遠に。」

 

デレクは唾を飲み込んだ。胸が、金床を乗せられたように重くなる。

 

――《死》の魔法。

 

それは、ただ「敵を倒す」力ではない。

 

触れた場所を不毛にし、癒しも、再生も、悔い改めさえも……許さない。

 

彼は、警告されていた。わかっていた。

 

だが、無視した。

なぜなら――自分はデレク・スティールだからだ。

 

誰にも従わず、命令など聞かない。

 

けれど。

 

今、胸に焼き付いて離れないのは――

 

あの灰色の大地。

 

《死》の縁は、ほんの数歩のところで止まっていた。

あのとき、ほんの少しでもズレていれば――皆、死んでいたかもしれない。

 

【イザベル】「デレク。」

 

下草をかき分けながら、力強く言う。

 

【イザベル】「魔法も、信仰も、全部「冗談」みたいに扱うのはやめて。あなたにとっては「遊び」に見えるかもしれない。でも、私たちは……」

 

デレクはNOVAのヘルメットを開き、乱れた髪をかき上げた。

 

湿った熱気が、まるで壁のように彼を包む。重く、息苦しい。

 

【デレク】「……こんな狂った世界、真面目に向き合えるわけないだろ。」

 

彼女を見据え、皮肉気に言う。

 

【デレク】「俺はさっき、文字通り《死》をミサイルに詰めてぶっ放したんだぜ? どう見ても正気じゃねぇ。」

 

イザベルは首を振った。静かに、だが確かに。

 

【イザベル】「それは狂気なんかじゃない、デレク。……これが、私たちの「日常」なの。生まれたときから、ずっと。」

 

デレクは太い蔓を引き裂いて、道をこじ開けた。

 

【デレク】「その「狂気」に適応して生き延びたとしてもな。それが「狂ってる」って事実は、変わらねぇよ。」

 

彼は頭上の鬱蒼とした樹冠を見上げ、ゆっくりと言った。

 

【デレク】「俺には違うんだ、イザベル。」

 

指を空に向ける。

 

【デレク】「俺は星々の間を旅してきた。他の世界を見てきた。でも……ここみたいに狂った場所なんて、宇宙のどこにもなかった。」

 

【デレク】「しかもな。まだ――地獄の入り口にも辿り着いてねぇ気がしてる。」

 

イザベルは、静かに答える。

 

【イザベル】「その通りよ。まだ、見ていない。これから見るものも――すべてはオルビサルの偉大さの一端なの。」

 

デレクは、視線を落とした。

 

【デレク】「……オルビサル、ね。」

 

【デレク】「何者かすら、未だによくわからねぇってのにな。」

 

ツンガが前に出て、杖を絡まる蔓に押し当てる。

 

だが――動かない。

 

彼は眉をひそめ、再び力を込めた。

 

ようやく植物たちは、重たそうに渋々道を開いた。

 

まるで、ジャングルそのものが、彼らの通行を拒んでいるかのように。

 

【ツンガ】「この森……変だ。押し返してくる。」

 

デレクは答えなかった。

 

《生命》と《死》が、かつてないほど激しくぶつかり合っている。

 

そんな「境界」に、今、彼らは立っていた。

 

一歩ずつ。

デレクは緑の圧迫をかき分けて進んでいく。

 

背後には――焼け野原と、死体。

 

その先には――未知だけがあった。

 

進めば進むほど、このジャングルは「おかしく」なっていく。

 

確かに「生きて」いるが、それはもはや「自然」ではなかった。

 

――そして。

 

《エボンシェイド》

 

は、彼の呼吸と共に、確実に近づいていた。

 




※ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

《死》の魔法、その代償と引き換えに得た突破口。
デレクたちは、何を守り、何を壊したのか――

次回、さらに深い森の中へ。
変わり始めた世界の先にあるものとは?

よろしければ、「お気に入り」や「評価」をいただけると励みになります!
次回もどうぞお楽しみに!
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