異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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《囁く森、揺らぐ信頼、そして――叫ぶ木》

沈黙のジャングルに潜むものは、ただの獣ではない。
デレクの「作戦」に募る不信、迫る魔の森、そして現れる新たな“声”。
三人の歩みを、絡みつく蔓が止めようとしていた――。


第65話 ― 信頼は腐った果実のように

デレク・スティール、イザベル・ブラックウッド、ツンガ・ンカタは、しばらく無言で密林を進んでいた。

 

静寂が、妙だった。まるで「何か」が待っている。

 

枝がかすかにしなり、通る者を観察するように揺れた。垂れ下がる蔓は、内臓めいてぶら下がり、空気は動かず、腐った果実のような甘い臭いが鼻を刺す。

 

緑は濃すぎて不自然だった。沈黙もまた、不快なほど完全すぎた。

 

一歩進むたびに、森が通らせまいとしているような感覚が強くなっていく……捕らえようとしているのかもしれない。

 

話す気にもなれなかった。蔓と枝と棘にまみれた道を進むだけで、集中力は削られていく。

 

ツンガ・ンカタは、植物の制御に明らかに苦戦していた。理由は、分からない。

 

何度も立ち止まりながら、イザベル・ブラックウッドの大剣で密集した茂みを切り裂いて進む。

 

何度か、引き返してルートを変えることも考えた。だが振り返るたびに、後ろも前と同じくらい突破不可能だった。

 

……進むしかない。

 

NOVAの内部は涼しかったが、イザベル・ブラックウッドとツンガ・ンカタの汗を見る限り、外はますます蒸し暑くなっていた。

 

イザベル・ブラックウッドは手の甲で額を拭った。

 

【イザベル・ブラックウッド】「デレク・スティール……この方向、本当に合ってるの? 前、ほとんど見えないんだけど」

 

【ヴァンダ】「問題ありません、イザベル・ブラックウッド様」

NOVAのスピーカーから、ヴァンダの快活な声が響く。

「リペアボットが村を発見し、現在リアルタイムでナビゲーションデータを提供中です。直進すれば、約三十七分で目的地に到達できます」

 

イザベル・ブラックウッドはうなずき、蔓を断ち切った。大剣の一閃で。

 

【デレク・スティール】「到着後の段取りはできてる」

 

イザベル・ブラックウッドとツンガ・ンカタが目を見合わせた。言葉はない。だが、「ああ、またか」という空気が漂っていた。

 

【デレク・スティール】「……なに、もう聞く気もないのか?」

 

ツンガ・ンカタは首を横に振る。

 

【イザベル・ブラックウッド】「もちろん、聞くわ。で? 今度は何をするつもり?」

 

【デレク・スティール】「その反応、全然根拠ないぞ。無視してやるが」

 

イザベル・ブラックウッドはこめかみに手を当てた。まるで頭痛に耐えるように。

 

【イザベル・ブラックウッド】「あのヴァンダでさえ、あなたの計画は信用してないのよ? あなたが創ったAIなのに」

 

【ヴァンダ】「事実です。私の予測モデルでも、成功確率は非常に低く――」

 

【デレク・スティール】「はいはい、分かった。俺の知性が、お前らじゃ理解できないってことだ。まあ、仕方ないな。限界あるもんな、脳みそ」

 

イザベル・ブラックウッドはまばたきした。

 

【イザベル・ブラックウッド】「あなた、リペアボットを戦闘に送り込んで囮にしたわよね? しかも、壊れかけた。あれが全滅してたら、NOVAの修理は誰がやるの? それなしじゃ、あなたもう死んでるのよ?」

 

【デレク・スティール】「いや、それは――」

 

【イザベル・ブラックウッド】「それから、ウリエラ・ヴァレンを侮辱したことも忘れてないわよね? 神聖守衛の前で、難民の前で、私の前で。あの人なら、一瞬であなたを消し去れたわよ」

 

【デレク・スティール】「……」

 

【イザベル・ブラックウッド】「ロスメアに着いて二分で、子どもたちに喧嘩売った。あれも作戦だったって言うの?」

 

【デレク・スティール】「……いや、あれは向こうが――」

 

【イザベル・ブラックウッド】「議場で天井ぶち破って登場したわよね。カシュナールを迎える神聖な儀式中に。教会全体に対する侮辱としか言えないわ」

 

【デレク・スティール】「……ちょっと待て、それは――」

 

【イザベル・ブラックウッド】「その直後、幻術で《議会》を騙そうとした。ウリエラも、予言者たちもいる中で。本気で通じると思ったの? 本当に、自分の「戦略」が機能してると思ってるの?」

 

彼女の目が突き刺さる。

 

【デレク・スティール】「……いや、その言い方はちょっと――」

 

【ツンガ・ンカタ】「お前、自分以外バカと思ってる。それが問題」

 

ツンガ・ンカタが、NOVAの脛を杖で小突いた。

 

デレク・スティールは片手でそれを払いのけ、しかめ面で言った。

 

【デレク・スティール】「俺は博士号持ち。お前は、骸骨刺さった棒持ってるだけ。比べる意味ある?」

 

【ツンガ・ンカタ】「あれ、子供の頃に飼ってたペットだったんだ」

 

イザベル・ブラックウッドは頭を振り、怒りをぶつけるように、密林を切り裂いていった。

 

デレク・スティールは深く息を吐いた。

 

疑いが生まれている。リーダーとしての信頼が揺らぎ始めた。

 

そろそろ、俺が主導権を握り直す時だ。

 

【デレク・スティール】「よし」

NOVAの装甲手をパンと鳴らして声を張る。

「《エボンシェイド》に着いたら、まずエリアスと話す」

 

二人がぴたりと止まった。

 

イザベル・ブラックウッドがゆっくりと振り返り、その灰色の目で睨んだ。剣を握る手に、ほんのわずかに力がこもっていた。

 

【イザベル・ブラックウッド】「……嘘よね?」

 

【デレク・スティール】「冗談でこんなこと言うか? 戦術的に見て、こっちは圧倒的不利なんだよ。《エボンシェイド》は小さな村。なのに、あの狂った司祭はアンデッドを何十体も抱えてる。隠れて動き回るのは無理だ」

 

【イザベル・ブラックウッド】「エリアスはアンデッドなのよ? 正気を失ってて、今も私たちを殺そうとしてる可能性が――」

 

【デレク・スティール】「知ってる。けどな、エリアスはただのゾンビじゃない。「混乱してる」だけだ。話をして、誤解だったって納得させて、こっちが味方だって思わせる。それで十分」

 

【ツンガ・ンカタ】「シャイタニの味方? 俺、死んだ者と組まん!」

 

怒鳴りながら、杖を地面に叩きつける。

 

【デレク・スティール】「落ち着け、ツンガ・ンカタ。「仲間になる」んじゃない。「そう思わせる」だけでいい。こっちの狙いは時間稼ぎだ。アンデッドに追われず、《エボンシェイド》で数時間。そしたら、アリラとシエレリスを見つけて消える」

 

【ヴァンダ】「ですが、デレク・スティールさん。あなたの計画の多くは『そしたら撤退』で終わります。そして、実際に撤退できた例は……」

 

【デレク・スティール】「……」

 

【イザベル・ブラックウッド】「それに――あなたがミサイル撃ち込んだせいで、エリアスはあなたを《偽りのメサイア》だと信じ込んでるのよ? どうやって話すつもり? あの力……私は感じた。あいつ、私たち三人をまとめても敵わない。近づいた瞬間、あなたは虫のように潰されるわ」

 

【デレク・スティール】「だからだよ。お前が行くんだ」

 

彼女は一瞬、言葉を失った。

 

ツンガ・ンカタは目を丸くする。

 

デレク・スティールは笑顔を崩さず、肩を軽く叩く。

 

【デレク・スティール】「大丈夫、お前ならできるさ。俺、全幅の信頼を置いてるからな」

 

イザベル・ブラックウッドの口は開いたままだったが、やがて閉じた。

 

そして剣を地面から引き抜いた。まるで湿った鞘から抜くように、ゆっくりと。

 

【イザベル・ブラックウッド】「……私、言葉より剣の方が得意なのよ」

 

【デレク・スティール】「それ、見てりゃ分かる。でも今回は、違う武器も必要だ。エリアスは生きてた頃、お前を知ってた。お前の信仰が「本物」だってのもな。あいつがまだ「司祭」のつもりなら……お前にはすぐ手は出せない。多分な」

 

【ツンガ・ンカタ】「俺とお前は?」

 

【デレク・スティール】「イザベル・ブラックウッドがエリアスを騙す。味方のふりして、俺たちを追ってるように見せかけて、嘘の情報を流す。その間に、俺たちが少女たちを探す」

 

沈黙が落ちた。

 

イザベル・ブラックウッドが、必死に別の策を探しているのがわかった。ゾンビ司祭の妄想に付き合う以外の方法を。

 

やがて、彼女の肩が下がり、深いため息がこぼれた。

 

【イザベル・ブラックウッド】「……わかった。話してみる。彼の中に……昔の人間だった頃の一片でも残っていれば……届くかもしれない。《オルビサル》の導きがありますように」

 

【デレク・スティール】「いい返事だ。あいつを「司祭」として扱えば、きっと乗ってくる」

 

――完全に狂いきるまではな。まあ、それは言わなくていい。

 

イザベル・ブラックウッドはうなずき、密林を切り裂いた。刃が何かにぶつかって止まり、抜くと、前方の茂みが揺れた。

 

ツンガ・ンカタが杖を構えると、絡まる蔓が裂け、大きな木の幹が現れた。

 

巨大なセイバ・カポックの木が、《エボンシェイド》への道を塞いでいた。

 

倒れた幹は裂け、中から白くて湿った繊維がのぞき、虫が蠢いていた。まるで、忘れられた神殿の倒れた祭壇。枝はねじれて、死者の手のように空を掴もうとしている。

 

デレク・スティールの背中を冷たいものが這った。空気が変わった。息苦しい熱気が、骨まで冷える気配に変わっていた。

 

【デレク・スティール】(よし、ツンガ・ンカタの出番だな)

 

ジャングルを動かすこの男なら、一本の朽ちた木など――と思ったが、

 

ツンガ・ンカタは首を振った。

 

【ツンガ・ンカタ】「生きてない。俺、命ある草木しか動かせん」

 

デレク・スティールはため息をついて、障害物を見上げた。

 

爆破? ダメだ、音がでかすぎる。プラズマブレード? 火事になる。飛び越える? 置き去りになる。

 

あの太さじゃ、幹は百メートル以上あるかもしれない。

 

【デレク・スティール】「……回り道だな」

 

ツンガ・ンカタは手のひらを幹に当て、目を閉じて何かを呟いた。

 

【イザベル・ブラックウッド】「どうかしたの?」

 

ツンガ・ンカタが口を開こうとした、その瞬間。

 

バキッと枝がねじれ、ツンガ・ンカタの頭に絡みつき、一気に空へと引き上げた。

 

【デレク・スティール】「ツンガ・ンカタ!」

 

彼が反応する前に、NOVAの脚が何かに掴まれた。視界が回転し、ジャングルがぐるぐると回る。

 

巨大な枝が、NOVAを逆さに持ち上げていた。

 

下では、イザベル・ブラックウッドが稲妻のように動いていた。近づく枝を容赦なく切り裂きながら。

 

朽ちた幹から、新たな枝がバキバキと音を立てて飛び出してくる。彼女が一本斬っても、すぐ次が伸びてくる。怒りの嵐のように、早すぎて目が追いつかない。

 

そのとき。

 

幹のスポンジ状の塊が、ブチュッと破裂した。

 

中から虫が大量にあふれ出し、幹を這いながら、脈打つ一塊となって地面に広がっていった。

 

そのまま、イザベル・ブラックウッドの方へ。

 

彼女は気づかない。枝との戦いに集中している。

 

デレク・スティールは歯を食いしばった。

 

【デレク・スティール】(クソ。脱出、警告、ツンガ・ンカタの救出……やることが多すぎる)

 

やることは山ほどあるのに、逆さ吊りはリストに入ってなかったぞ……

 

そのとき。

 

木が、叫んだ。

 

少女の声で。

 




森が静かすぎるとき――それは、何かが動いている証拠。
デレクたちはこの先、さらに深い闇へと足を踏み入れます。

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