異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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今回の章では、イザベルとツンガの対話を通して、森に潜む禁忌の一端が明らかになります。
一方、デレクは容赦なくアンデッドを薙ぎ払いながら、再びあの“司祭”と対峙することに──。
徐々に核心へと迫っていく展開、ぜひ最後までお楽しみください。


第68話 ― 死者の森と偽りのメサイア

イザベル・ブラックウッドは剣を構えたまま、微動だにしなかった。

獲物を前にした獣のごとく、肌の下で力がうごめいた。

 

燃え盛る巨木の幹は、幼い頃に寺院の壁やノービスの巻物で見た「悪魔」を彷彿とさせた。

朽ちた樹皮が炎に包まれ、ちらつく影が下草に映り込む。赤と橙に染まった葉は、まるで森そのものが出血しているかのようだった。

 

煙が厚く立ち昇り、灰と死の臭いが鼻腔を塞ぎ、喉を焼いた。

火はパチパチと音を立ててはじけ、枝がバキバキと折れる音は、骨が砕けるそれに似ていた。他の音はもうなかった。

 

枝は昆虫の脚のようにぎこちなく暴れ、魔法の炎を払い落とそうと自らを叩いていたが、かえって火は広がるばかりだった。

動きが徐々に鈍り、命を繋いでいた魔力の尽きかけていることが見て取れた。

 

それでも、イザベルの視線は一点を見据えたままだった。

 

これまでに何度も、アンデッドが致命傷を負いながらも平然と動き続ける姿を目の当たりにしてきた。

最後まで油断はできない。

 

この場所は、デレク、アリラ、それにあの異端のスパイも通る可能性が高い。

脅威が完全に排除されたことを確認せねばならないのは、ナルカラのワーデンである彼女の責務だった。

 

ロスメアに戻ったらウリエラ・ヴァレンに報告する。後は聖護衛団の出番だ。

――もっとも、彼らがまだ動いていないのは奇妙だった。ウリエラが事態の異常性に気づいていないだけかもしれない。

 

まさか、たかが鉄級の()()ひとつでこれほどの惨状になるとは。

 

木の動きはほとんど止まり、残った枝が断続的に痙攣しているだけだった。

 

イザベルはようやく肩の力を抜いた。

――終わりは近い。

 

そのとき、隣でツンガ・ンカタが唸った。

 

【イザベル】「どうしたの、シャーマン?」

 

【ツンガ】「ここ……死と生、混じってる。おかしい」

 

【イザベル】「当然でしょう。《生命の《球体》》が割れて、ずっと魔力が漏れ続けてるのよ。自然のバランスが崩れてもおかしくないわ」

 

ツンガは苛立ちをあらわにして、首を大きく横に振った。

 

【ツンガ】「違う。前からおかしかった。()()が落ちる前からだ。

獣の精霊が見せた。()()は、それを加速させただけ」

 

イザベルは眉をひそめた。

 

【イザベル】「――死のカルトの話ね。あの異端審問官が言っていた」

 

【ツンガ】「知らん。ただ精霊は、この地で禁じられた儀式があったと語った。

お前たちだけじゃない。俺たちの部族にとっても、やっちゃいけねぇ儀式だ」

 

杖を握り締め、歯を食いしばった。

 

【ツンガ】「エボンシェイドの奴ら……死者と暮らしてた。変なことしてた」

 

イザベルの目が鋭くなった。

 

【イザベル】「どんな儀式?」

 

【ツンガ】「死んだやつを、一年に一度、蘇らせてた」

 

【イザベル】「アンデッドを? ロスメアのすぐ近くの村で、そんなことを……?」

 

【ツンガ】「家族に会って、夜だけ話して、朝には土に戻す。それを毎年やってた」

 

イザベルは言葉を失い、ツンガを見つめた。

()()を使った禁忌が、教会の鼻先で行われていた――。

 

【イザベル】「……本当なの?」

 

【ツンガ】「ああ。精霊が、そう見せた」

 

イザベルは黙り込み、思案に沈んだ。

 

【イザベル】「でも、その精霊って……デレクが世界を滅ぼす「悪魔」だとも言ってたわよね」

 

ツンガは杖を地面に打ちつけた。

 

【ツンガ】「そうだ。奴は悪魔だ。

だがな、死のカルトはエボンシェイドだけじゃねぇ。教会も知ってる。上の連中はな」

 

イザベルは疑いの目を向けたが、彼の表情には一切の迷いがなかった。

 

死者と語らうという誘惑――抗える自信など、どこにもない。自分でも抗えるかどうか、わからない。

 

【イザベル】「……死者って、蘇生直後なら少しだけ意識がある。だから会話ができたのね。どうやって蘇らせて、また眠らせたの?」

 

ツンガはあたりを見回した。

 

【ツンガ】「《生命の《球体》》で起こす。《死の《球体》》で眠らせる。他に方法はない。

だが、《球体》がどこにあるかまでは精霊も言わなかった。ただ、「近づくな」とだけ」

 

【イザベル】「何が危険なのか、説明はなかったの?」

 

【ツンガ】「魔力が儀式で溢れ、この地に蓄積された。それが「危険」だと精霊は言ってた。

けど、どう危険かまでは……言わなかった」

 

【イザベル】「……《砦》でなら解析できるかもしれないわね。ありがとう、ツンガ。もっとあなたたちと協力できれば、ナルカラはもっと安全になるのに」

 

【ツンガ】「街の人間は、壁の向こうにいれば「安全」だと信じてる」

 

イザベルは小さくため息をついた。反論できなかった。

 

エボンシェイドで起きた悲劇は、教会が村々の防衛を軽んじてきた結果だった。

エリアス・モルヴェインは有能なアセンダントだったが、一人で抱えきれる問題ではなかった。

 

イザベルは小さく唇を引き結んだ。

 

ロスメアに戻ったら、彼のために祈ろう。そして、すべてをウリエラ・ヴァレンに報告しなければ。

 

燃え尽きた枝を足で脇に払った。

 

【イザベル】「……精霊の言ってた通りね。特にエリアスの件は――許されることじゃない」

 

ツンガは低く呟いた。

 

【ツンガ】「狂った司祭がアンデッドを操ってる。

自分自身がアンデッドのくせによ」

 

【イザベル】「そう……エリアスは、ただのアンデッドじゃない。彼が鍵よ。

彼に安息を与えて、()()を回収できれば、事態は収まるはず」

 

その瞬間、巨木の枝が最後にひくつき、地面に崩れ落ちた。

もはや、ただの炭と化した植物にしか見えなかった。

 

魔法の炎は消え、黒く焦げた幹だけが、静かに煙を吐いていた。

 

イザベルは剣を滑らかに鞘へと納めた。

 

【イザベル】「――終わったわね」

 

空から、低く唸るような雷鳴が響いた。

ぽつり、ぽつりと落ちてきた雨粒はすぐに土砂降りとなり、焦げた幹に触れるたび、白い蒸気を上げた。

 

その蒸気がシュウウと音を立てる中、ツンガが彼女をじっと見つめていた。

 

【ツンガ】「……お前、忘れっぽいな。もう一人、探さにゃならん奴がいるだろ」

 

イザベルは眉をひそめた。

 

【イザベル】「……あのスパイのことなら、さっきも言ったわよ」

 

【ツンガ】「若い娘だ。馬鹿な考えで頭がいっぱいだが、

お前も昔はそうだったろ。それに……あいつは、強くなる」

 

【イザベル】「強さがすべてじゃないわ、ツンガ」

 

【ツンガ】「それは……ジャングル知らねぇ奴の言葉だな」

 

【イザベル】「だからこそ、私は毎日、オルビサルに感謝してるのよ」

 

ツンガは喉の奥で静かに笑った。

 

イザベルは、デレクとアリラが消えていった森を見つめた。

彼はまだ戻っていない。探しに行くべきか……だが、ジャングルは複雑で、すぐに迷ってしまう。互いを探して時間を浪費するのは避けたかった。

 

その時、ツンガが不意に咳払いした。

 

【ツンガ】「本当に、あいつがメサイアだと信じてるのか?」

 

イザベルは一瞬、驚いた。彼がそんなふうに直接聞いてきたのは初めてだった。

だが、静かに、そして穏やかに返した。

 

【イザベル】「じゃあ、あなたは――彼が本当に「悪魔」だと?」

 

ツンガは頷いた。

 

【ツンガ】「ああ、悪魔だ。……だが、悪魔にだって、この世界での役割はある」

 

【イザベル】「……正直、わからないわ。

あんな人、初めてよ。ただの鎧でも、奇妙な魔法技術でもない。あの人「自身」が異質なの」

 

ツンガは何も言わず、彼女を見守っていた。

 

イザベルは、言葉を探すように唇を噛んだ。

 

【イザベル】「物の見方が、変なのよ。この世界を知らない子どもみたいで。

思ったこと全部、すぐ口にするし、時々、殴ってやりたくなるくらいイラつく」

 

【イザベル】「でも……実は鋭くて、頭が切れるの。いつも私たちより一歩先を見てる。

ウリエラ様でさえ、あの人を御しきれなかった」

 

ツンガはニヤリと笑った。

 

【ツンガ】「野生の精霊ってやつだ。幽霊追いかけるのをやめりゃ、立派なシャーマンになるかもな」

 

イザベルは視線を落とした。

 

【イザベル】「……背負ってるものが大きすぎるのよ。あの「ユキ」って女性のこと。

彼、まるで世界すべてを敵にしてるような顔をするの」

 

そして、再びツンガを見上げた。

 

【イザベル】「……本当に、あんな人は初めて。

想像してたカシュナールとは全然違うけど――それでも……彼こそが、メサイアなのかもしれない。本人は、まだ気づいてないけど」

 

その時だった。

 

地響きがし、周囲の木々が震えた。豪雨がさらに激しく打ちつける。

 

何かが――起きている。

 

イザベルが空を見上げると、灰色の雲の向こうへ、黒煙が昇っていた。

 

振り返ると、ツンガが歯をむき出しにして笑っていた。

 

【ツンガ】「お前の「メサイア」、居場所が分かったぞ」

 

―――

 

【デレク】「ヴァンダ!」

 

デレクは叫びながら、腐りかけた腕をプラズマブレードで一刀両断した。

 

腕はぬちゃりと音を立てて地面に落ち、太った芋虫のようにのたうち回る。

 

周囲の地面には、すでに腕や頭部、そして何かわからない肉塊が散乱していた。NOVAの装甲ブーツの下で、それらがぐしゃりと砕ける感触が一歩ごとに伝わってくる。

 

《ウォーデン》の言葉が頭をよぎる――「刻め。細切れにするしかない」。

今回は、珍しく言うとおりにしている。

 

【ヴァンダ】「どうされました、デレク?」

 

【デレク】「やつらが二百メートル以上離れた瞬間、知らせろ。」

 

【ヴァンダ】「了解しました。ですが……目的を伺っても?」

 

ゾンビが二体、こちらへ飛びかかってくる。デレクは一歩横にずれてそれを回避。

奴らは空振りし、絡まり合って地面に転がった。ありがたいことに、動きは鈍い。

 

立ち上がろうとした瞬間、デレクは装甲の重い足を振り下ろした。

一発、二発――二つの頭蓋が音もなく潰れた。

 

ずしゃっ。熟れすぎたスイカを踏んだみたいな音だ。

 

【デレク】「……後で掃除するのが憂鬱だな。」

 

茂みの奥から、またアンデッドが這い出してくる。

ジャングルの雑草みたいに、次から次へと。

土砂降りの中じゃ視界も悪い。ミニマップの脅威インジケーターがなければ、すでに囲まれてただろう。

 

【デレク】「ミサイルで掃除する。赤弾、全弾装填。」

 

【ヴァンダ】「本気で……ジャングルを焼き払うつもりですか?」

 

【デレク】「ああ。ぶっちゃけ――もう二度と木なんて見たくもねえ。」

 

背後から、マイクロミサイルの装填を知らせるリズム音が鳴る。

クリック、クリック、クリック――準備完了だ。

 

手加減は終わりだ。

 

【ヴァンダ】「ミサイル、ロック完了。NOVAは耐火構造ですが……あの弾頭の火は、通常のものではありません。ご注意を。」

 

デレクは無言で頷いた。

最後の一発が飛んだ瞬間には、とっくにここから消えている。

この地獄に、これ以上付き合うつもりはない。

 

左の視界で緑色の閃光が瞬く。それに気づいた彼は、即座に振り向いた。

 

それは地面から漏れていた。

エリアスを踏み潰した場所――そこから、ボロボロの司祭服を通して、緑の光がじわりと染み出している。

 

【デレク】「……また動き出すのか、あの()()。くそが。」

 

一瞬、回収すべきか迷う。

もう十分にやらかしたが、ロスメアに持ち帰れば誰かがどうにかしてくれるかもしれない。

 

そのとき――

 

【???】「やっと見つけたぞ……偽りのメサイア。」

 

音痴なバイオリンのような声が、土の中から響いてきた。

 

エリアスの血に染まったチュニックが、まるで見えない糸に吊られるように、ふわりと持ち上がった。

中にぶら下がっていたのは、ぐったりとした人形のような彼自身の死体だった。

 

……だが、糸などなかった。

 

足元から滲み出る緑光に照らされながら、彼の身体は静かに浮かび上がっていく。

ボキッ、パキッと、骨が一つずつ、元の位置にはまっていく。まるで地獄から這い出すパズルだ。

 

【デレク】「……ふざけんな。さっき確実に止めたはずだろ。」

 

喉が焼ける。胃がねじれる。NOVAの冷却剤が、食道に逆流しそうな酸を抑え込む。

 

エリアスは首をかしげ、寝起きのようにゴキリと音を立てる。

そして、地面に落ちていた杖を拾い上げた。その中の()()が、不気味な緑光を脈打たせている。

 

杖を高く掲げた瞬間、光が爆発的に強まった。

視界が緑一色に染まる。

 

地面に散らばっていた肉片や頭部が、もぞもぞと動き出した。

それらはゆっくりと、しかし確実に、エリアスのもとへ這い寄っていく。

まるで、「肉」だけを引き寄せる磁力に導かれるように。

 

エリアスは動かない。ただ、静かに見下ろしている。

表情などないはずの死に顔が、デレクには――怒りに満ちて見えた。

 

肉片が、エリアスの足元で融合していく。脚、腕、頭部。焼け焦げていようが、腐っていようが関係ない。

骨と肉で構成されたあらゆるものが、そこに吸い込まれていく。

 

【デレク】「ヴァンダ、今の……何だ?」

 

【ヴァンダ】「デレク、異常なエネルギースパイクを確認。規格外の数値です。彼の意図は不明ですが、即時の退避を強く推奨します。」

 

【エリアス】「見るがいい、偽りのメサイア。

これがオルビサルの力だ。貴様の冒涜は、ここで終わる。」

 

さらにアンデッドが茂みから現れた。

だが――襲ってこない。彼らは光る肉塊の前でひざまずき、静かに頭を垂れる。

 

塊から伸びた肉の触手が、彼らをゆっくりと包み込み、その中へと引きずり込んでいく。

 

それは、まるで神聖な儀式のようで……

……だがその実、ただの悪夢だった。

 

雨が地を叩く。雷が空を裂く。

一瞬だけ閃光が走り――

 

ぐちゃぐちゃに混ざり合った手、足、顔、指。

すべてが渦を巻きながら混ざっていく。

緑色のエネルギーが、それを何度もこね直し、見えない手が粘土をこねるように、肉塊を成形していた。

 

【デレク】「くっ……!」

 

胃がまた軋み、喉が焼ける。

ディスプレイに警告が走り、NOVAの回復機構が制吐処置を施す。

 

プラズマブレードを収納し、深く息を吸う。

鼓動を整え、脚を曲げて構える。まるでスタートラインに立つスプリンターのように。

 

【デレク】「ミサイルの射角、垂直にセット。」

 

歯を噛みしめて、低く呟いた。

 

【デレク】「完成する前に、ぶっ潰す。」

 

【エリアス】「逃げるつもりか?

この《エボンシェイド》を、我の許しなく去れると思うなよ――偽りのメサイア。」

 

デレクは、口元を歪めて笑った。

 

【デレク】「そうだな。俺は「お前の」メサイアじゃない。」

「面白いよな。殺そうとしてくる連中に限って、それをちゃんと見抜いてくる。」

 

腫れ上がった肉塊を指差しながら、吐き捨てる。

 

【デレク】「だが、あんな化け物でNOVAを止められると思ってるなら――お前、見た目以上にイカれてるぞ。」

 

【エリアス】「跪け。そして、オルビサルの赦しを請え。さもなくば……永遠にその魂は、救われぬ。」

 

装甲の関節が、ギシッと音を立てる。

 

【デレク】「赦しを請うべきなのは……そっちだろうが。」

 

――そして、引き金を引いた。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
いよいよ物語は核心に近づき、登場人物たちの信念や過去が交錯していきます。
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