異世界で科学の戦士が無双する話:Messiah of Steel   作:DrakeSteel

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今回の舞台はちょっと薄暗〜い納骨堂。
ちょっと怖いかもですが、まあまあ……最後まで読めば大丈夫(?)です!
それでは、本編どうぞ!


第70話 ― 双子の死者と閉ざされた納骨堂

アリラは立ちすくんでいた。口をわずかに開け、《地下納骨堂》の冷たい空気が喉を滑り落ちる――湿っていて、土と死の臭いが混じっていた。

 

本当に……あれ、聞こえたの? それとも、ただの幻……?

 

シエレリスは、氷のような無表情で階段を見下ろしていた。

 

まるで顔全体が凍りついたみたいに。

 

彼女がいなければ、アリラはあれが幻聴だったと信じていたかもしれない。

 

でも――違った。あの階下に眠っている《双子の死者》が……話しかけてきたんだ。

 

言葉は聞き取れなかった。ただ、風に乗った囁きのように、意味も曖昧で……でも声の調子だけは覚えていた。

 

あまりにも――楽しげで、無邪気で。

 

自分たちが死んでいることに、気づいていないような声だった。

 

アリラは、あの《地下納骨堂》に潜む「何か」に出会いたくなかった。

 

息が浅く早くなり、震える吐息が空気を曇らせる。

 

彼女は扉の金属の取っ手に手を伸ばした。

 

その瞬間――何かに腕を掴まれ、ぐいっと引き戻された。

 

凍った自分の腕を見下ろす。なにこれ? どうして……?

 

【シエレリス】「もう一歩でも進んだら、気絶させるわよ」

 

彼女の手はアリラの腕をがっちりと掴んでいた。

 

【シエレリス】「限界なのよ、アリラ。今度こそ――台無しにされるわけにはいかないの」

 

【シエレリス】「外には腹ペコのゾンビがうろついてる。気づかれたら、あっという間におしまい。出るなんて無理」

 

【シエレリス】「扉? 開けさせないから」

 

アリラは固まったまま、扉を見つめた。

 

開けることは、ひとつの悪夢から逃げて、別の地獄に飛び込むこと。

 

異端者の言うとおりだった。でも……この下には、何がいるの?

 

喉が乾きすぎて、何かで塞がれているみたい。

 

【アリラ】「納骨堂の中に……」と震える声で囁き、下を指差した。

 

【シエレリス】「聞こえてるわよ。耳は飾りじゃないの」

 

【シエレリス】「しかもあれ、ただの女の子たちだったわ。あれくらい、私たちで片づけられる」

 

【シエレリス】「でも外は違う。だから、扉なんて絶対に開けないで」

 

しぶしぶ手を下ろし、アリラは階段を見やった。

 

【アリラ】「……こわいよ」涙が頬を伝う。

 

シエレリスの目元が、ほんの少しだけやわらいだ。

 

【シエレリス】「そりゃそうでしょ。でも、オルビサルに仕えたいんでしょう?」

 

【シエレリス】「イザベルみたいな《ウォーデン》になりたいなら――もっと怖いものにも立ち向かえるようにならなきゃ」

 

アリラは鼻をすすり、小さく頷いた。

 

そうだ。彼女の言うことは正しい。

 

訓練も頑張ってきたし……ずっと夢見てた。イザベルと一緒に戦う日を――パートナーとして。

 

そして《デレク・スティール》と三人で、《ナルカラ》を《魔物》から守る日を。

 

あんな夢を本気で叶えたいなら……たったふたりの子に怯えているようじゃ、そんな夢なんて到底叶えられない。

 

アリラは、今度ははっきりと頷いた。深呼吸して、拳を握り、顔を上げた。

 

シエレリスは一瞬彼女を見て、くっと頷いた。

 

【シエレリス】「よし。それでいい。準備して」

 

彼女の手に、黒い刃の短剣が現れた。

 

アリラはそれを初めて見た。

 

この世界のものとは思えない、不吉な気配が漂っていた。

 

【シエレリス】「《死の結晶》が仕込まれてるの。長くは持たないけど、数発なら効く。あの子たち相手なら十分」

 

【アリラ】「でもそれ……禁止されてる《魔法》じゃ……」

 

【シエレリス】「私たちには関係ないわ」

 

【シエレリス】「父の言葉を借りるなら――「死は世界の一部よ。命も火も、オルビサルの《球体》たちも、全部等しく空から落ちてくる」。死だけを禁じるのは、オルビサルに「間違いがあった」って言うようなもの」

 

アリラは顔をしかめた。

 

異端の考え方……でも、教えられてきたほど狂ってもいないし、冒涜的でもない気がする。

 

【アリラ】(……おかしくない。むしろ、すごく……納得できる)

 

シエレリスは短く息を吸い、階段へと一歩踏み出した。

 

短剣を構え、もう片方の手には小さな紫の《球体》がふわりと浮かんでいる。

 

【アリラ】(呪文の準備……?)

 

そのとき――

 

???「あら……いい子たちね!仲直りできたの?じゃあ、みんなで遊びましょう!」

 

シエレリスはピタリと止まった。

 

アリラもすぐ背後で、拳を構えたまま構える。アンデッドに効果があるかどうかも分からないけど、それしか知らないから。

 

そして――ふたりの声が、まるで歌うように、無邪気に響き始めた。

 

 

あそぼ よるがきた

ほしがひかる うんめいよ

おもちゃもって てをつなご

ねむるくにで ゆめをみよう

 

しずかにね なかないで

ひとりじゃ つまらないの

さいごまで いなかったら……

それでも みつけちゃう かわいいおともだち

 

 

階段の上に、ふたりの白い影が姿を現した。手をつないでいる。

 

小さな裸足が、石の階段を軽く叩く。その音が、静かな空間に響いた。

 

アリラは息をのんだ。水晶の淡い青い光が、ふたりの姿を照らしていた。

 

まったく同じ顔、同じ服。忘れ去られた人形のように、じっと動かない。

 

着ているのは、色あせたワンピース。泥だらけで、赤と青の花模様が、かつて誰かに愛されていた証のようだった。

 

足は汚れ、髪は濡れて絡まっている。

 

微笑みを浮かべている。でも――その笑顔は、目に届いていなかった。

 

光を映さない、くすんだ瞳孔。空っぽの目。

 

まるで、自分たちが死んでいることを……知らないか、忘れてしまったみたい。

 

ふたり「こんにちは」

 

ふたり「おもちゃ、持ってきてくれた?」

 

アリラはシエレリスを見た。彼女は目を見開きながら、じっと双子を見返していた。

 

【アリラ】「な、ないです……ご、ごめんなさい……」

気づいたら、拳をまだ握っていた。そっと下ろす。

 

でも、双子は気にしていない様子だった。笑顔が消え、片方が唇をとがらせた。

 

???「みんな、プレゼントくれるのに」

 

【シエレリス】(声のトーン少しやわらげ)「ふふ……じゃあ、これはどう?」

 

彼女は片手を振って、小さなビーズのブレスレットをふたつ出した。どこか不自然に明るい声で。

 

双子は嬉しそうに跳ねるように近づき、手を伸ばした。

 

シエレリスは、それをそっと彼女たちの骨ばった掌に落とした。

 

ギギ……カタ……ッ

 

喜びの声が上がった。でも、それは子供のような笑い声ではなかった。

 

古びたオルゴールが壊れかけで鳴るような、かすれた音色。

 

【アリラ】(ぞっとする……)

 

ブレスレットが骨の手首に緩く滑り落ち、肉のない皮膚が垂れていた。

 

シエレリスの判断は正しかった。《幻術》で誤魔化した。冷静さもすごい。自分だったら叫び出していたかもしれないのに。

 

【アリラ】(どうか気づかないで……それが幻だって)

 

ふたりがアクセサリーに夢中になっているあいだ、シエレリスはゆっくりとアリラの隣へ移動してきた。目は固く張りつめている。

 

【アリラ】(小声)「……なにか、おかしい?」

 

【シエレリス】「来たときから起きてたの。声を出さなかったのは、怯えてたから。でも、いつからああなってたのかは――わからない」

 

【アリラ】「だから、なに……?」

 

【シエレリス】「《目覚めの儀式》は長く持たないの。時間が経てば……戻れなくなる」

 

【アリラ】「……なんで?」

(すでに、聞きたくない予感があった)

 

【シエレリス】「戻ってきたときはまだ大丈夫。でも長く現世にとどまれば、魔力が身体を壊し始めるの」

 

【シエレリス】「《密林の魔獣》もそう。限界を超えて力を使おうとする人も同じ。自我が崩れて、化け物になるのよ」

 

アリラはふたりの少女を見た。

 

まだブレスレットを眺めながら、嬉しそうにしている。

 

でも――その仕草はどこかおかしい。ポーズは不自然で、動きはねじれていた。

 

【アリラ】(……どれくらい前から起きてたんだろう。あとどれだけで……)

 

【シエレリス】「そう。今、あんたの顔見れば分かる。もう気づいてるんでしょ? 私たちの「問題」に」

 

【アリラ】「……じゃあ、どうするの?」

 

シエレリスは短剣を構えたまま、揺れる緑の瞳でアリラを真っすぐ見つめた。

 

【アリラ】「嘘……でしょ? 本気なの? 見てよ。あの子たち……ブレスレットで遊んでるだけ。誰も――誰も傷つけようなんて思ってないよ!」

 

【シエレリス】「アリラ。あの子たちは――もう死んでる」

 

【シエレリス】「そして私たちも、動かなければすぐに――同じようになる」

 

シエレリスの視線の先で、少女たちは無邪気な笑みを浮かべていた。まるで、自分の身体が朽ち果てていることに気づいていないみたいに。

 

【アリラ】(もしかしたら、あの子たちの家族も……最初は「戻ってきた」って思ったのかもしれない)

 

【アリラ】(でも……どうして気づかなかったの? この恐ろしさに。悲しみって、そこまで目を曇らせるの?)

 

【シエレリス】「ただ、眠らせてあげるだけよ。元の眠りに――ね」

 

アリラは汗ばんだ額を拭った。

 

正しい。シエレリスの言ってることは全部、正しい。

 

でも――どうしても、ただの子供に見えてしまう。

 

何もかもを奪われて……それでも笑ってる子たちに。

 

【アリラ】(殴れって……いうの?)

 

胃がきりきりと痛み、酸が喉までせり上がる。

 

シエレリスはアリラの肩に手を置き、まっすぐに見つめた。

 

【シエレリス】(低く、優しく)「……いい? 私のこと、「異端」だとか、「化け物」だとか思ってるんでしょうけど……それでも、これはやらなきゃいけないの」

 

【シエレリス】「もし相手が一人だけなら、私がやる。でも、ふたりいる。だから……あんたに片方を抑えてほしい」

 

アリラの鼓動が耳を打つ。細胞ひとつひとつが、逃げろと叫んでいた。

 

【アリラ】「抑えるって……どういう意味? ひとりを押さえてる間に……もうひとりが、姉妹が殺されるのを見るの? それをやれって言うの!?」

 

【シエレリス】「……簡単じゃないわよ。あの子たち、本物の「子供」じゃない。こちらの動きに気づけば、反撃してくる」

 

【シエレリス】「あんた、「芽生え」でちゃんと訓練受けたんでしょ?」

 

アリラは唇を噛み、コクリと頷いた。

 

シエレリスはしばし彼女を見て、唇を引き結んだ後、短く頷いた。

 

【シエレリス】「いいわ。じゃあ――」

 

彼女が振り向いた、その瞬間。

 

【アリラ】「……いない」

 

姿が、なかった。

 

一切の音もなく、消えていた。

 

【アリラ】「ど、どこに……?」

 

シエレリスは、階段へとにじり寄る。

 

【シエレリス】「下に戻ったのね。他に隠れる場所なんてないし」

 

【アリラ】「うん……行かないと。壊れる前に……終わらせなきゃ」

 

そして――

 

???「ブレスレット……ただの幻だったのね。騙したのね」

 

その声に、シエレリスの目が見開かれる。

 

彼女は短剣を素早く構え、階段に向けた。

 

【シエレリス】「アリラ、下がって。来るわよ」

 

???「アウレリア、すごく悲しんでるの……」

 

【シエレリス】「ごめんなさい、マリン。次はちゃんとしたのを持ってくる。約束するわ」

 

アリラはすぐ脇へと移動した。横から狙うつもりだった……でも、そんな勇気が自分にあるのかは分からなかった。

 

???「だめええ!! お姉ちゃん泣いたもん……! だから、もうここからは出られないよ!!」

 

アリラは訓練通りに身構えた。

 

全身の筋肉が引き絞られ、弓のように固くなる。

 

汗が髪を伝い、濡れた服に染み込む。心臓の鼓動が、耳の奥で大砲のように響く。

 

――そして。

 

影が走った。

 

それに続くのは――人のものとは思えない、裂けたような叫び。

 

まるで、地獄から這い出てきた《捕食者》。

 

一瞬前まで短剣を構えていたシエレリスが――次の瞬間には床に叩きつけられ、《それ》の重みに押し潰されていた。

 

アリラには、何が起こったのか理解できなかった。

 

少女――もう「少女」とすら呼べない《もの》が、鉤爪でシエレリスを引き裂こうとしていた。

 

【アリラ】「――っ!」

 

彼女が一歩踏み出したその時、背後から二つ目の叫びが――

 

アウレリアの虚ろな目が、目の前に迫っていた。

 

砕けた歯をむき出しにし、獣のような唸り声。

 

そして、胸に鈍い衝撃が走った。

 

肺から空気が一気に抜けて。

 

意識がぐらつく。

 

背中に石床の硬さが叩きつけられる。

 

アウレリアが、上にいた。

 

喉元へと伸びる口。

 

必死に押し返す。

 

【アリラ】(だめ、強すぎる……!)

 

『油断しないで』――シエレリスの声が、頭の奥で響く。

 

アリラは脚を引き寄せ、膝を《それ》の腹に叩き込んだ。

 

アウレリアは吹き飛ばされたが、すぐに四つん這いで着地し――獣のような声で、再び跳びかかる。

 

アリラはその顔面に拳を叩き込んだ。

 

全力で。

 

――バキィ!

 

骨が砕ける感触。

 

アウレリアは揺らいだ。

 

でも、倒れない。

 

戻ってくる。

 

アリラはもう一度。さらにもう一発。

 

拳が骨を砕く感触。皮膚は紙のように薄く、冷たく、肉体は壊れかけていた。

 

でも――それでも。

 

《それ》は――止まらない。

 

技術なんてない。ただ、狂ったような怒りの塊――まるで獣だった。

 

あるのは狂気と怒りだけだった。

 

そして、なにより恐ろしいのは――

 

止まらないということ。

 

アリラは、もう疲れていた。拳に力が入らなくなってきていた。

 

力が足りない。

 

視界の隅に、地面でもがくシエレリスの姿が映った。

 

負ける……!

 

【アリラ】(私は《ウォーデン》じゃない……)

 

【アリラ】(私は、ただの芽生え(スプラウト)……!)

 

ここで死ぬ……

いや、それよりも恐ろしいのは――

 

ここで《それ》になってしまうことだ。

 

……永遠に、閉じ込められる。

 

アリラの頬を、涙が伝った。

 

――そしてその瞬間。

 

轟音が鳴り響いた。

 

何かが、《納骨堂》の扉に叩きつけられた――




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