俺に妹なんていない。そうなんだよ。じゃあ、ユダヤをはじめとする4人娘は嘘なのか? 冗談だっていうのか? いやいや。それはありえないだろう。
「なぜありえないと思うんだ?」
うるせーな、俺。お前は俺なんだから、口を開かずただ俺に従ってろよ。
嘘でも冗談でもない理由なんて簡単だよ。あの香りは、絶対に現実のものだった。あれがもし夢だったら、俺はもう何も信じることができないだろう。
では、俺は夢を見ていた? それもありえない。なぜ断言できるかといえば、俺は産まれてから現在に至るまで、寝ているときに夢を見た覚えがないからだ。とはいえ、ただ単に、記憶できていないという話かもしれない。否定はできない。
だが! 心が言っているんだ...。彼女らは、本物の俺の妹だって。は? 俺は頭がおかしいのかもしれない。けれども、いいんだ、別に。
「なあ!? お前ら‼︎ 狂ってて何がいけないんだ? いや待て。お前らって誰のことだ?」
「うるせーな、俺。お前は俺なんだろ?」
「...なんなんだお前。俺は俺でお前はお前...いや、どっちなんだ? どちらが正しい?」
「お前は俺なんだから分かるはずだろ」
俺、花ヲあいすは狂ってしまった。人生の歯車も、頭に巻かれたネジも、おかしくなった。あるいは、ずっとずっと前からネジは外されていた...。
ぐおおおおあああ‼︎‼︎ と、俺は頭を掻き毟むしる。落ち着けよ〜マジ。俺は冷静、冷静なんだよ。冷製パスタ食いてえ〜! は? おい、思考を派生させてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ。俺は大丈夫。
これは夢だ。違いないね。あえて断言させてもらうぜ。うふふ♡
ほう、とため息。一旦気を抜くと、腹が減ってきた...。今日は朝から何も食べていない。俺はベッドから起き上がる。くあああ〜ん☆ と、頭がぼんやりと赤く染まる。思考が止まる。息も止まる、少しの間だけ。ふう。大丈夫。息もしている。
ベッドの端に手をついたとき、ギシリ、と嫌な音が鳴る。俺はよくベッドの上でアダルトなプロレスごっこをする。そのせいか知らないが、スプリングがバグりかけているのだろうと思った。実際、どうなっているのかは確かめていないし、今後確かめることもないだろう。
「...あぁあ。ヨイショのヨイショ。ドッコイショ。掛け声大切、やめるなよ〜♪」
優雅に歌いながらベッドから降りる。チラリと金魚が目に入る。それと、白と赤も。水草も。俺は思う。なぜ、赤や白や黒の金魚ばかりであるのに、名前に金という漢字が入っているのか? いや、どうでもいいか、こんなことは。
風船のように、真っ赤な金魚が膨らんでいく。どんどんどんどん膨張していく様子を、俺は何もせず眺めていた。随分長い間、眺めていたような気がする。
赤金魚くんがそのデッカい口を開く。もごおお、と空気が吸い込まれる音。
「おおおお...。あいすよ。花ヲあいすよ。私を見なさい」
さもなくば、殺す。殺す。と、赤金魚くんは繰り返し言った。俺は困惑した。眉毛がピクピクと動いたのが分かる。
「なんで殺すんだよ?」
「り、りり、りゆうは、ない。ない!」
「じゃあ殺すなよ...」
「だ、駄目だ。お前は、絶対に死ぬべきなんだ!」
びゅごおおお! と轟音を立てて、赤金魚くんは言葉になっていない叫び声のようなものを出した。
びょぐっ、びょぐっ、とそのデッカい身体を痙攣させて、また喋り出す。
「おおおおお‼︎ お前っ! おま、」
バトゥーン、と俺は無言で斬り刻む。ザサン...という幻聴を聞く。そのくらい、静かすぎたのだ。
「また2つ、4つ、8つ...。ふぐふぐ。どこまでも増える...。お前を殺すまで...」
「あれー?」
俺が斬り刻みすぎたせいで、凄まじい数に増殖してしまった。一つひとつは小さいにせよ、それゆえの厄介さもある。
ギョロギョロ。俺は思わずギョッとするw 笑えるところではないが。すべての瞳が、俺を見ている。見つめている。
チビ金魚くんたちは、あまりに小さな口を一斉にモゴモゴし出して、俺はより警戒する。やがて、ぼぇぇええええ...とクッソ汚い音を出しながら、さらに極小の金魚を吐き出していく。小さすぎて、もはや赤いということしか分からない。
ビチャリと大量に落下した。そしてすぐに、フワフワと浮遊し出す。俺は気分が非常に悪くなった。誰であっても、この光景にはドン引きするに違いないと思った。きええ!
俺は神だ、破壊の神。どんなにくだらない、ありえない思い込みであれ、想像は創造に繋がる。言葉の形は重要なんだよ。分かるか? きっと、このクソファック金魚どもには一生分かるまい...。
いいんだ、どうでも。お前らはすぐ死ぬんだから。
「...なあ! おい‼︎」
俺の背中から、真っ黒い腕のようなモノが伸びる。それは1本から2本、3本、4本と、次第に数を増やしていき...13本で打ち止めとなる。
「カモーン!」
叫ぶ。さらに増える。増える増える。そして、100本を優に超える数となった。俺は無敵なんだよ、誰がどう言おうと。そう思えば、信じ込めば無敵なんだ。
「ゴーゴーゴー‼︎ はっはっはぁ!」
神だった。破壊よ破壊!
暗黒の腕たちは、数十匹あるいは数百匹の金魚たちを一気に握り潰していく。誰にも止められない。俺は暴走している。力の暴走。抑えきれない、破壊衝動。
ハハハハハ、ハハハハハハハ‼︎
潰しまくってすべてが赤に染まった頃、俺は冷静さを取り戻す。目を閉じる。外界の景色をシャットアウトする。
しかし、この静寂は、ふと破られる。
「おいっ君! あいすくん、一体何をしているんだい⁉︎」
息急き切って、相も変わらずくっせえ体臭を撒き散らしながら、登場するはブラウン博士。
なんだと...? ねえ、これは夢ではなさそうだぞ? 俺は首を傾げるしかなかった。しかし...夢? まるで夢のようではないか?
まあ待てよ。俺はベッドで寝ていただろうか。
あの4人娘に囲まれていたとき、俺はこのベッドにいたはずはない。水中を泳ぐ金魚たちの模様が入ったベッドシーツは、俺の部屋にあるものだ。
はあ? 全然、わけが分からなくなってきた。現実感のある夢。夢のような現実。
笑っててほしいから