◇
うちに遊びに来ていた瑠美の友達、秋津茜もとい隠岐さんを外が暗くなってきたからと家まで送ることになったが……正直気まずい。普段どうりなら問題ないのだが隠岐さんがずっと下を向いている。何か、何か話題を探さねば。
「そういえば隠岐さん、シャンフロのアバター
「えぁっ、はい、始めるのが待ちきれなくてうっかりそのまま……」
「へぇーそうなんだ」
「「……」」
まずいまずいまずい、会話が続かねぇ!クソッ、どうして付いてきてくれなかったのだ妹よ!
「あの、」
「ん?どうかした?」
「いえ、ただサンラクさんの体つきがしっかりしていて何かスポーツをしているのかなと、」
「あー、スポーツはしてないけど週末にランニングはしてるよ。フルダイブゲーマーは体が資本だからさ」
「なるほど、いつもはこの辺りを走ってるんですか?」
「そうだね」
「そうなんですか!実は私もこの道を走っているんです!」
そうなのか。そういえば確かにシャンフロでもよく走っていたな。
「サンラクさん!折角ですから一緒に走りませんか?」
「ああ、いいぞ。それとリアルではサンラクじゃなくて楽郞って呼んでくれ」
「了解です!それじゃあ楽郞さんも名字ではなく紅音って呼んでください!」
「わかったよ紅音さん」
「紅音です!」
「え、うんだから紅音さん「『紅音』です」……」
「あ、紅音」
「はい!」
なんだろう、凄く押しきられた感じがする……
「あ、お家着いちゃいました。送ってくれてありがとうございました楽郞さん!」
「おう。それで、ランニングは日曜日に紅音の家の前集合でいいか?」
「いいんですか?」
「これくらいの距離ならウォーミングアップに丁度いいからな」
「ありがとうございます!それではまた!」
「っ、おう、」
一瞬、時間にすれば3秒もなかったであろう。紅音の笑顔から目が離せなくなった。なんだ今の感覚は?顔が熱い。鼓動も速くなっている。いつだったか、同じ感覚になったことがあるような気がする。風邪か?だとしたら困るな、今日は早く寝よう。ああ、
◇
「よぉー陽務ェ……」
登校してすぐだっていうのになんて死にそうな顔をしているんだこいつは。
「あ?どうした暁ハート先生、スランプにでもなったか?」
「そうなんだよ最近筆が乗らなくてな……じゃなくて!陽務よ、昨日は随分とお楽しみだったそうじゃないか」
「ば?なにがだ「可愛らしい女の子と一緒に歩いてたよな?」
「!!!」
何故こいつがそれを知っているんだ!?
「何故お前がそれを?って顔だな。部活帰りの山本から密告があったんだ」
「山本おぉぉぉ!!」
「すまん陽務、でもお前が悪いんだ。斎賀さんだけでなく隠岐さんにまで手を出そうとするから」
クソっ、後ろには柔道部、教室の出口には陸上部、ダメだ逃げられない布陣が完璧すぎる。
「隠岐さんはみんなのだろうが!」
「紅音は誰のものでもないだろ」
「紅音呼びだと!?もう話すことはない!処刑だァ!!!」
「縄とラグビー部を連れてこい!!」
「牛裂きか!?ガチ処刑じゃねーか!!」
「おうバカ共とっとと席につけチャイムなるぞー」
ナイスタイミング先生!学校大好き!!
「待ってください先生!この浮気野郎を処刑しないといけないんです!」
「やるなら俺の目の届かない所でやれよー。あと浮気なら牛裂きじゃなくて石打ち刑だぞ」
先生ェ!?
────────────
──────
さて、授業も終わったし購買にでも……
「そんなに急いでどこ行くんだぁ陽務クン?」
チッ、逃げられなかったか
「やだこの子舌打ちしたわ!そんな子に育てた覚えはありません!」
「誰もお前には育てられてねーよ」
「そんなことより陽務、実際のところ斎賀さんと隠岐さん、どっちが本命なんだ?」
「本命もなにも斎賀さんはゲーム仲間で紅音はうちの妹の友達だぞ」
「その割には随分仲が良さそうだったな」
「趣味が同じだったんだよ」
「ダウト。あの隠岐さんがお前と合うわけがない」
「『あの』って、そんなに有名なのか?」
「お前知らないのか?隠岐さんは陸上で全国ベスト8に入る人なんだぞ」
そうだったのか、凄いな。毎朝ランニングもしているらしいし努力家なんだな。
「で?お前らはその紅音と俺が付き合ってると本気で思ってるのか?」
「斎賀さん派が5、隠岐さん派が3、付き合っていない派が2だな」
「2だよ馬鹿共」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」
「だからねえって」
◇
「それじゃあ紅音、聞かせて貰おうか」
「えーと、何を?瑠美ちゃん」
「お兄ちゃんのこと」
ビクッ
「ら、楽郞さんのことは瑠美ちゃんの方がよく知ってると思うよ?」
「そーゆーことじゃなくて」
「単刀直入に聞くけど紅音、お兄ちゃんのこと気になってるでしょ」
「うぅ~なんでわかっちゃうの……」
「お兄ちゃんがいるときだけ赤くなるんだもん」
「なに、紅音ちゃん好きな人できたの!?」
「瑠美のお兄さんってことは2年の楽郎先輩!?」
「もう告白した?」
「俺達の隠岐さんがー!!!」
みんながすごい質問してくる。恥ずかしい……でも、楽郞さんってそんなに有名なのかな?
「まあまあ皆の者、落ち着きなさい」
「「瑠美様!!」」
「ここは私が代表して1つ質問をしよう…」
「お兄ちゃんの何処に惚れたの?」
「「!!!」」
その質問が投げられたとき、教室から音が消えた。それは、紅音の言葉を聞き逃さない為か。それは、今から突きつけられるであろう事実に各々が覚悟を決める為か。
「えっと…初めて会ったのはゲームだったんだけど、楽郞さんはどんなことでも全力で楽しめる人で、すごい尊敬してたの。でも瑠美ちゃんの家で会ったときにそれが好きに変わって、この人と一緒にいたいなって思ったんだ」
「「……」」
このときその場にいた全員が理解した。これガチなやつだ、と。
「紅音、応援してるからね!」
「進展会ったら教えてよ!」
「隠岐さん…ガチじゃん……」
「おい馬鹿泣くな!応援するんだろ!」
その日、紅音のクラスでは女子は恋愛談議に花を咲かせ、男子はお通夜状態で1日を過ごしたらしい。