のんびり閉鎖空間 〜ランダムで出現するキャラ達と日常は過ごせるのか?〜 作:賭博馬鹿2号
「戻ってきたかい」
俺らはキッチンで待つロキに声をかけられた。
「ほぅ、中々に可愛らしいお嬢さんだ。
後何年かすれば、ベレッタに迫る程魅力的な女性になりそうな位にね。数年後が楽しみだ」
「おい何言ってんだ、ロキのおっさん!」
リッカを後ろに庇いながら、そういうスピードワゴン。
紳士だ、完全にジョナサンの紳士を受け継いでる。
「これは失礼。
ワインセラーに居たのは、そのお嬢さんだったのかい?
なら、警戒するだけ損だったね」
「まぁ、それは確かにそうかもですね」
そうは言っても、変身すればこの中で多分1番強いんだけどな。
「貴方が科学者のロキさん、ですよね。
初めまして、私はリッカって言います」
リッカは、恐る恐るといったようにそう言う。
この性格のモンスターに散々酷い目に遭わされてるリッカとしては、人間であるロキからも似たものを感じとれるのだろうか。
「そう身構えなくても良いじゃないか。
なに、その綺麗な長い黒髪で狙っていた女の事を思い出しただけの話さ。
気にしないでくれ」
それは無理があるだろ。
リッカも完全に身構えてる。
「ま、まぁ、屋敷でこれからやってく訳だし?
仲良く行きましょうよ」
「僕はそのつもりさ。
お嬢さん、いやリッカはどうかな?」
「そ、そうですよね!
よろしくお願いします!」
笑顔でそういうリッカ。
うーん、やはり根が善人すぎるな。
「ところで、このキッチンにある道具は全部調理器具なんですか?
私はさっきも見たんですけど、見た事がない物がほとんどで……」
「どうやらそうみてぇだぜ。
俺も驚いたが、イーフェが分かるって事はこれは未来の料理器具。
いや嬢ちゃんからすると……さっきの言い方だと異世界とか呼んでたか?
そんな感じの場所の道具と思っておいた方がいいぜ」
「そうなんですね!」
興味深そうにリッカは道具を眺める。
電子レンジなんかは、あの世界にはなさそうだ。
リッカの世界は文明技術がいまいち謎なファンタジー世界なので、どのくらいの調理器具があるかは不明だが、それにしてもここまでの物は揃ってないだろう。
というか、元いた地球でもここまでの物が揃ってる家庭は少ない。
普通にプロの料理人が使う様な器具まで、ここには置いてある。
……というか待て。
これ使い方聞かれたら、俺も答えられなくね?
「ほな、俺はリッカさんに料理を任せてクールに去るぜ」
「おいイーフェ待ちなぁ!
いざという時、誰がリッカに道具の使い方を教えるんだ!
未来の道具の使い方を教えるのはアンタの役目だ! そういう約束だったろうが!」
「う」
電子レンジくらいなら分かるけど、正直、俺も分からん器具の方が多いぞこれ。
異世界の調理器具が混じってますと言われても、普通に納得出来てしまう。
「ま、まぁ、教えられる範囲でなら?」
「えっと、分かる範囲の道具で作ろうと思ってたんですけど……。
でも、気になる事は気になるなぁ。
イーフェさん、例えばこれは何に使うものなんですか?」
リッカはそういって、俺に銀の輪っかを見せてきた。
「えーと……ほら型だよ。クッキーとかを焼くときの」
「クッキー?
そういえば、昔王都に行った時にそんなお菓子があったような。
これで作るんですね! 初めて見ました」
よし、合ってるか知らんけどセーフ!
凌いだぜ!
「じゃあ、この小さいハンマーは?」
ハンマー!? ハンマーなんてあるの?!
ま、まぁでもあれだ。
料理で叩く物といったら。
「肉を柔らかくする為の物だよ。
肉は叩くと繊維が砕けて柔らかくなるから」
「お肉ですか!
私の村だと、お肉自体が行商人さんがたまーに持ってくる位の貴重品なので……。
まさか叩く為だけの道具があるなんて、驚きです!」
「うん、あるんだよ?」
多分。
「じゃあ……」
まだ聞くの!?
頼む、次は電子レンジとか聞いてくれ。
なんでそんなよく分からん小道具ばっか聞いてくるんだ。
異世界人からすれば、もっと不思議なデカブツが目の前にあるだろ!
「この手袋も調理器具ですか?」
「…………」
て、手袋?
さすがに違うと言いたい所だが、ここにあるって事は調理器具なのか?
ここは……。
「あ、あぁ、勿論そうだ。
ただアレだな。防具みたいなものだ。
包丁で手を切るのを防ぐという……」
「ふふ、惜しいなぁ」
その時、近くから微かな笑い声が聞こえた。
声の主は。
「ろ、ロキさん?」
「イーフェ。
頑張っているけれど、知らないのならそう言えば良いだろう」
「えっ!?
イーフェさんの説明、もしかして違ってたんですか!」
「いや、だいぶ合ってるよ。
大きく間違ってる所はないね。
推測で言ったにしては悪くないと思う」
「なにぃ! イーフェの説明が推測だとぉ!
どおりでさっきから戸惑った目をしてる訳だぜ!」
リッカ以外、何かは察してたのかよ。
一生懸命やったのはなんだったんだ。
「補足すると、その手袋の主な使い道は魚を捌く際の手の怪我を防ぐ為さ。
防具という点では、間違ってはないけどね」
「そうなのか!?」
いや知る訳ねぇ。
そんなの、漁師とか魚屋とか釣りが趣味の人くらいしか使わねぇんじゃ……。
って、なんでロキが詳しいんだよ!
「不思議そうな顔をしてるね。
どうやら、そこまでは物語で描かれてないと見える。
簡単な話さ。これはミッドガルドの器具だろう?
下界にさしたる興味はなかったが、これでも僕は研究者だ。
知識として、ミッドガルドの常識程度は頭に入れてあるんだよ」
「いや、常識の範囲超えてると思うんですけど……」
やっぱ腐っても、ゴリッチュ世界の住人。
小物悪人とはいえ、舐めちゃいけないな。
というかそもそも、あの世界においては北欧神話の1柱に当たる程の人物だし。
「リッカ、良かったら僕が教えてあげようか?」
「えっ、良いんですか?
ありがとうございます、ロキさん!」
「ふふ。なぁに、いつか返してくれれば良いさ。
君が食べ頃になったらね」
「ロキさん?」
「いや……やっぱり何でもないさ」
明らかに、何でもなくないんだが?
なんで、リッカは昔の難聴系主人公みたいに肝心な所、聞こえてないんだよ!
「ヤロウ……ん?」
スピードワゴンはそう静かに言うと……。
「イーフェ、俺らは食卓に行くぜ!」
なぜか俺を移動させようとして来た。
「え? そ、そうですね?
じゃあロキさん、良かったら調理器具の事は教えてあげて下さい。
リッカさん、料理の事は任せましたよ」
「はーい!」
リッカは元気にそう返事し、ロキは静かに微笑んだ。
俺はそれを見ると、キッチンを離れ、食卓に向かう。
「どうしたんですか、スピードワゴンさん」
「変だぜ、ロキの奴」
「変って、リッカさんに対して欲望ダダ漏れな事がですか?」
「違うぜ。
俺も初めはそう思ってた。奴はろくでなしだと」
「まぁ、実際元の話でもそうですし。
違うんですか?」
「何かがおかしい。
奴からクズの匂いがぷんぷんしてるのは間違えねえ。
だが、何か変な感じだ。
あの嬢ちゃんが来てから、その匂いが微妙に薄れてる気がするんだ」
「まさかぁ、つい今も欲まみれだったじゃないですか」
「あぁ、俺もそう思う。
だがッ! 俺は同時に自分の直感も信じてるぜ!
あの嬢ちゃんはロキの何かをほんのちょっぴりだが、変えてるのかもしれねぇ」
んー?
スピードワゴンの分析は信頼できるけど、全くそうは見えなかったぞ? ロキは平常運転じゃないのか?
いやでも待て。
さっきまで、ロキは無気力でアースガルドに対する気力すら無くなっていた。
なのにリッカを見たら、欲が湧いてきたという方がおかしくないか?
……でもそれって、単に悪い方に戻っただけだよな。
ならクズの匂いが強くなると思うんだが……逆に薄れてる? なぜ?
マジで理屈は分からん、分からんが……。
「聖騎士でもない彼女自身の人徳が成せる何かが、もしかしたらあるのかもな」
それはまだ何も見えてこないけど。
でも、もしかしたら運命は良い方に今、転がってるのかもしれない。