のんびり閉鎖空間 〜ランダムで出現するキャラ達と日常は過ごせるのか?〜   作:賭博馬鹿2号

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第5話 かすかな変化

「戻ってきたかい」

 

俺らはキッチンで待つロキに声をかけられた。

 

「ほぅ、中々に可愛らしいお嬢さんだ。

後何年かすれば、ベレッタに迫る程魅力的な女性になりそうな位にね。数年後が楽しみだ」

「おい何言ってんだ、ロキのおっさん!」

 

リッカを後ろに庇いながら、そういうスピードワゴン。

紳士だ、完全にジョナサンの紳士を受け継いでる。

 

「これは失礼。

ワインセラーに居たのは、そのお嬢さんだったのかい?

なら、警戒するだけ損だったね」

「まぁ、それは確かにそうかもですね」

 

そうは言っても、変身すればこの中で多分1番強いんだけどな。

 

「貴方が科学者のロキさん、ですよね。

初めまして、私はリッカって言います」

 

リッカは、恐る恐るといったようにそう言う。

この性格のモンスターに散々酷い目に遭わされてるリッカとしては、人間であるロキからも似たものを感じとれるのだろうか。

 

「そう身構えなくても良いじゃないか。

なに、その綺麗な長い黒髪で狙っていた女の事を思い出しただけの話さ。

気にしないでくれ」

 

それは無理があるだろ。

リッカも完全に身構えてる。

 

「ま、まぁ、屋敷でこれからやってく訳だし?

仲良く行きましょうよ」

「僕はそのつもりさ。

お嬢さん、いやリッカはどうかな?」

「そ、そうですよね!

よろしくお願いします!」

 

笑顔でそういうリッカ。

うーん、やはり根が善人すぎるな。

 

「ところで、このキッチンにある道具は全部調理器具なんですか?

私はさっきも見たんですけど、見た事がない物がほとんどで……」

「どうやらそうみてぇだぜ。

俺も驚いたが、イーフェが分かるって事はこれは未来の料理器具。

いや嬢ちゃんからすると……さっきの言い方だと異世界とか呼んでたか?

そんな感じの場所の道具と思っておいた方がいいぜ」

「そうなんですね!」

 

興味深そうにリッカは道具を眺める。

電子レンジなんかは、あの世界にはなさそうだ。

リッカの世界は文明技術がいまいち謎なファンタジー世界なので、どのくらいの調理器具があるかは不明だが、それにしてもここまでの物は揃ってないだろう。

 

というか、元いた地球でもここまでの物が揃ってる家庭は少ない。

普通にプロの料理人が使う様な器具まで、ここには置いてある。

……というか待て。

これ使い方聞かれたら、俺も答えられなくね?

 

「ほな、俺はリッカさんに料理を任せてクールに去るぜ」

「おいイーフェ待ちなぁ!

いざという時、誰がリッカに道具の使い方を教えるんだ!

未来の道具の使い方を教えるのはアンタの役目だ! そういう約束だったろうが!」

「う」

 

電子レンジくらいなら分かるけど、正直、俺も分からん器具の方が多いぞこれ。

異世界の調理器具が混じってますと言われても、普通に納得出来てしまう。

 

「ま、まぁ、教えられる範囲でなら?」

「えっと、分かる範囲の道具で作ろうと思ってたんですけど……。

でも、気になる事は気になるなぁ。

イーフェさん、例えばこれは何に使うものなんですか?」

 

リッカはそういって、俺に銀の輪っかを見せてきた。

 

「えーと……ほら型だよ。クッキーとかを焼くときの」

「クッキー?

そういえば、昔王都に行った時にそんなお菓子があったような。

これで作るんですね! 初めて見ました」

 

よし、合ってるか知らんけどセーフ!

凌いだぜ!

 

「じゃあ、この小さいハンマーは?」

 

ハンマー!? ハンマーなんてあるの?!

ま、まぁでもあれだ。

料理で叩く物といったら。

 

「肉を柔らかくする為の物だよ。

肉は叩くと繊維が砕けて柔らかくなるから」

「お肉ですか!

私の村だと、お肉自体が行商人さんがたまーに持ってくる位の貴重品なので……。

まさか叩く為だけの道具があるなんて、驚きです!」

「うん、あるんだよ?」

 

多分。

 

「じゃあ……」

 

まだ聞くの!?

頼む、次は電子レンジとか聞いてくれ。

なんでそんなよく分からん小道具ばっか聞いてくるんだ。

異世界人からすれば、もっと不思議なデカブツが目の前にあるだろ!

 

「この手袋も調理器具ですか?」

「…………」

 

て、手袋?

さすがに違うと言いたい所だが、ここにあるって事は調理器具なのか?

ここは……。

 

「あ、あぁ、勿論そうだ。

ただアレだな。防具みたいなものだ。

包丁で手を切るのを防ぐという……」

「ふふ、惜しいなぁ」

 

その時、近くから微かな笑い声が聞こえた。

声の主は。

 

「ろ、ロキさん?」

「イーフェ。

頑張っているけれど、知らないのならそう言えば良いだろう」

「えっ!?

イーフェさんの説明、もしかして違ってたんですか!」

「いや、だいぶ合ってるよ。

大きく間違ってる所はないね。

推測で言ったにしては悪くないと思う」

「なにぃ! イーフェの説明が推測だとぉ!

どおりでさっきから戸惑った目をしてる訳だぜ!」

 

リッカ以外、何かは察してたのかよ。

一生懸命やったのはなんだったんだ。

 

「補足すると、その手袋の主な使い道は魚を捌く際の手の怪我を防ぐ為さ。

防具という点では、間違ってはないけどね」

「そうなのか!?」

 

いや知る訳ねぇ。

そんなの、漁師とか魚屋とか釣りが趣味の人くらいしか使わねぇんじゃ……。

って、なんでロキが詳しいんだよ!

 

「不思議そうな顔をしてるね。

どうやら、そこまでは物語で描かれてないと見える。

簡単な話さ。これはミッドガルドの器具だろう?

下界にさしたる興味はなかったが、これでも僕は研究者だ。

知識として、ミッドガルドの常識程度は頭に入れてあるんだよ」

「いや、常識の範囲超えてると思うんですけど……」

 

やっぱ腐っても、ゴリッチュ世界の住人。

小物悪人とはいえ、舐めちゃいけないな。

というかそもそも、あの世界においては北欧神話の1柱に当たる程の人物だし。

 

「リッカ、良かったら僕が教えてあげようか?」

「えっ、良いんですか?

ありがとうございます、ロキさん!」

「ふふ。なぁに、いつか返してくれれば良いさ。

君が食べ頃になったらね」

「ロキさん?」

「いや……やっぱり何でもないさ」

 

明らかに、何でもなくないんだが?

なんで、リッカは昔の難聴系主人公みたいに肝心な所、聞こえてないんだよ!

 

「ヤロウ……ん?」

 

スピードワゴンはそう静かに言うと……。

 

「イーフェ、俺らは食卓に行くぜ!」

 

なぜか俺を移動させようとして来た。

 

「え? そ、そうですね?

じゃあロキさん、良かったら調理器具の事は教えてあげて下さい。

リッカさん、料理の事は任せましたよ」

「はーい!」

 

リッカは元気にそう返事し、ロキは静かに微笑んだ。

俺はそれを見ると、キッチンを離れ、食卓に向かう。

 

「どうしたんですか、スピードワゴンさん」

「変だぜ、ロキの奴」

「変って、リッカさんに対して欲望ダダ漏れな事がですか?」

「違うぜ。

俺も初めはそう思ってた。奴はろくでなしだと」

「まぁ、実際元の話でもそうですし。

違うんですか?」

「何かがおかしい。

奴からクズの匂いがぷんぷんしてるのは間違えねえ。

だが、何か変な感じだ。

あの嬢ちゃんが来てから、その匂いが微妙に薄れてる気がするんだ」

「まさかぁ、つい今も欲まみれだったじゃないですか」

「あぁ、俺もそう思う。

だがッ! 俺は同時に自分の直感も信じてるぜ!

あの嬢ちゃんはロキの何かをほんのちょっぴりだが、変えてるのかもしれねぇ」

 

んー?

スピードワゴンの分析は信頼できるけど、全くそうは見えなかったぞ? ロキは平常運転じゃないのか?

いやでも待て。

さっきまで、ロキは無気力でアースガルドに対する気力すら無くなっていた。

なのにリッカを見たら、欲が湧いてきたという方がおかしくないか?

 

……でもそれって、単に悪い方に戻っただけだよな。

ならクズの匂いが強くなると思うんだが……逆に薄れてる? なぜ?

マジで理屈は分からん、分からんが……。

 

「聖騎士でもない彼女自身の人徳が成せる何かが、もしかしたらあるのかもな」

 

それはまだ何も見えてこないけど。

でも、もしかしたら運命は良い方に今、転がってるのかもしれない。

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