俺は妹がクローンだと知っている。私は兄がクローンだと知っている。 作:☆☆☆宮☆☆☆太郎
俺には一つ下の妹が
いつもお兄ちゃんお兄ちゃんと俺にくっついてくる愛らしい妹が
西園愛莉という名前の妹が
そして今の俺には偽りの妹がいる。
いつも男をとっかえひっかえしている妹がいる。
西園愛莉の名前を与えられた偽物の妹がいる。
「ちょっと、そこどいてくれない?邪魔なんだけど」
妹を名乗る偽物は鏡前でポージングを決めていた俺を汚物を見るような目で見てきた。
☆☆☆
私には一つ上の兄が
程よく筋肉のついた細マッチョで頼りがいのあるカッコイイ兄が
西園司と言う名前の兄が
そして今の私には偽りの兄がいる。
筋トレばかりしていて肥大化した筋肉を見て満足げにポージングを決める暑苦しい兄がいる。
西園司の名前を与えられた偽物の兄がいる。
今日も洗面台にいくとポージングを決めていた。
身支度の邪魔だ。
「ちょっと、そこどいてくれない?邪魔なんだけど」
「ああ、すまない。サイドチェストが話しかけてきてな」
兄の偽物は頭に妖精でも飼っているのか意味の分からないことをいう。
兄の顔で、兄の声で変なことを言うな!そう言ってやりたいけど、流石にそれは酷だろう。何故なら、この西園司を名乗る人間は私の兄の西園司のクローンなのだから
☆☆☆
俺こと西園司にとって目下の悩みは新しい妹である西園愛莉の目に余る男遊びについてだった。
聞くところによると自分から告白して三日で振るのは当たり前、二人三人と同時に付き合っているという話も聞く。流石に不純異性交遊まではしていないようだが、それでも学内の口さがない者からは顔がいいだけのビッチと影で囁かれている。
本当なら兄である俺がちゃんと話を聞いてやらなければいけないのだろうが、西園愛莉のクローンであるあの子にどんな態度で接してやればいいのかが分からない。
俺の本当の妹である愛莉のことに関してもまだ整理がついていないのだ。それなのに父は自らの心の傷を埋めるために勝手に新しい愛莉を生み出した。俺が愛しているのは本物の愛莉であって愛莉の容姿と記憶を持っている別人なんかじゃない。
けれど、今の愛莉は父が愛莉を求めて作った代替品。その生まれを哀れに思う気持ちはある。
だからこそ、彼女に対する適切な接し方が分からないのだ。特に顔は同じでも性格は全然違う。
「はぁ」
俺は自分用に作った鶏胸肉とブロッコリーのサラダを頬張りながら器用にも溜息をつく。
愛莉用に作ったフレンチトースト、サラダ、ポトフ食べてくれるだろうか?お昼のお弁当は持っていってくれるだろうか?
一応昔妹の愛莉に作っていたように彼女のご飯も俺が作っているのだが、愛莉と違って今の妹は俺のご飯を食べてくれない。いつも外食やコンビニ、購買などで済ませているようなのだ。とはいえ、それだと健康に良くない。
ちゃんと食べなさい!そう言えたらどれだけ良かっただろうか
「考えても仕方ない…か」
朝食を手早く済ませ、食器を洗うと愛莉が支度を終える前に家を出る。今の妹は俺と一緒に家を出るのを極端に嫌うため、このような措置を取っている。
いや…それだけじゃない。俺自身彼女と出来るだけ距離を置きたいのだ。
☆☆☆
玄関の扉が開いた音を確認した私はそっと自室から顔を出し、あの筋肉ダルマが家を出たことを確認した。
「まったく、早く行けってんだ」
本当のお兄ちゃんであれば一緒に家を出るのも吝かではない、どころか早起きしてでも時間を合わせる所だが、あれは兄の皮を被った筋肉ダルマだ。隣を歩くなんて怖気が走る。
私はリビングに向かうと床下の収納スペースからコーンフレークを取り出し皿に移す。
どうやら兄は今日も懲りずに私の朝食と弁当を作っているようだが、良く知らない男が作った物等食べる筈もない。それであいつが悲し気に眉尻を下げたとしても…しったことではない。
「あいつはお兄ちゃんじゃないんだ」
私の兄は二年前に事故で死んだのだ。青信号で道路を渡っていた私に飲酒運転をしていたステーションワゴンが突っ込んできて、それを庇った兄が私の代わりに死んだ。
今私と一つ屋根の下で暮らしてる兄を名乗る筋肉ダルマは父が兄の死を悲しみ生み出した瓜二つのクローンでしかない。いや、瓜二つと言うのも兄に失礼だろう。なんせ私の兄は細マッチョのイケメンだったのだから。
「っと、いけない早く行こう」
まったく、本当はもう少し早く家を出たいのにあの筋肉ダルマが家を出るのを待たないといけないから登校時間すら自由に決められない。本当に迷惑だ。
☆☆☆
教室につくとこの学校に入ってから仲良くなった奴らに挨拶をしていく。因みに中学からの知り合いは一人もいない。父の要望で妹が亡くなった後この街に引っ越すことになったのだ。その父も今は職場から帰って来ていない。妹と同じ顔でけれど妹ではないあの子を見るのが辛くなったのだろう。自分で作っておいて無責任だが、俺自身自分に同じような技術と資金があったとして父と同じ選択を取らないと自信をもっていうことは出来ない。きっとあの父あって俺ありなのだろう。
「そう言えば聞いたか?愛莉ちゃんのこと」
挨拶をしていると一人の男子生徒が俺に話しかけてくる。彼も俺の友人の一人だ。
けれど、愛莉…今の愛莉についてなにかあったのだろうか?
「あの子がどうかしたのか?」
「…それがさ、竜胆先輩があの子狙ってるんだって」
「あの竜胆先輩がか?」
「そう!今日愛莉ちゃんが来たら告白するってさ」
「そうか、教えてくれてありがとう」
竜胆勝。この学校ではちょっとした有名人の男子生徒だ。容姿に優れ、成績優秀、運動神経も抜群。けれど、女性関係では良い噂を全くと言っていい程聞かない生徒だ。特に酷いものだと当時竜胆先輩と付き合っていた女子生徒が暴力を振るわれ全治一か月の大怪我を負ったというものや実際に竜胆先輩と付き合っていた女子生徒が妊娠を理由に自主退学をした例もある。
あの子もこの話は当然知っているとは思うが、万が一の場合は俺が割って入る必要があるだろう。
俺は教師が近くにいないことをいいことに廊下を駆け足で移動して愛莉の教室を目指す。
そして、愛莉の教室に着くと愛莉の友人が校舎裏に連れていかれたと教えてくれたため、礼を言い、校舎から飛び降りる。二階であるため、俺程度の五点着地の腕でも怪我せずに降りることが出来た。
上では「今人が飛び降りた!」「大丈夫なのか今の!」などの声が聞こえてくるが、気にしている暇はない。兎に角手遅れになる前に愛莉の下に辿り着かないと。
俺は全速力で、風を切り走る。そのおかげもあり十数秒ほどで校舎裏まで辿り着いた。
「てめぇ、なに俺の誘い断ってんだよ!」
「痛い!離して!」
目の前に広がるのは竜胆先輩が愛莉の手を無理やり掴み、自らの方へと引き寄せようとしている光景だった。
許せない。俺の視界は真っ赤に染まり、竜胆先輩の腕を掴み強く握る。
「痛ってぇ!」
竜胆先輩は突然の痛みに思わず愛莉の手を離す。けれど、自身に危害を加えて来たのが俺だと分かると同時思い切り俺の腹に膝蹴り入れてきた。普通の男子生徒なら痛みに腹を抱えていた
ことだろう。だが、俺は普通とは少し違った。愛莉を助けられなかったあの日。目の前でステーションワゴンに轢かれる愛莉を見ていることしか出来なかったあの日から俺は自らの体を鍛えぬいた。妹に付くチャラ男の蹴りなど痛くも痒くも無い。
俺はお返しとばかりに竜胆先輩の顔を鷲掴みにすると思い切り投げ飛ばす。
草むらがクッションになり大事には至っていない。当然態とその場所を狙った。
竜胆先輩の前まで移動し、肩に手を当てると思い切り力を入れる。
「次妹に手を出したら、この程度じゃ済まないからな?」
「クソっ、覚えてろよ」
捨て台詞を吐いて立ち去る竜胆先輩を横目に愛莉へと駆け寄る。
「大丈夫か!愛莉!」