俺は妹がクローンだと知っている。私は兄がクローンだと知っている。 作:☆☆☆宮☆☆☆太郎
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「だから俺は親父とお袋の仇を討っただけなんだよ!!」
電気スタンドの明かりだけが六畳ある部屋を淡く照らす。その灯りと灯りを置いている机を挟んで二人の男が椅子に腰かけている。一人は涙を零し目の前の男に必死に訴えかけている。大してもう一人の男はその様子を冷たい眼差しで眺めていた。
「…今日はもういい。また話を聞くぞ」
冷たい眼差しを向けていた男は涙を流す男から視線を切ると席を立ち部屋から出る。
すると、部屋の外でその様子をずっと聞いていた中年の男が寄りかかっていた壁から背を離し部屋から出て来た男に声をかける。
「今日もあの調子か朝倉」
「ええ、こちらがご両親は生きていると伝えてもそんな筈はないの一点張り」
「ご両親に合わせられれば良かったんですがね」
「親御さんは面会を拒否してる。まぁ、自分の息子が犯罪者になったなんて、親としてもどんな顔をして子供に会いに行けばいいか、分からんだろうなぁ」
「まったくとんだ親不孝者ですよ」
朝倉と呼ばれた男は頭を掻くと今も泣いている男がいる扉へと視線を向ける。正義感が強い朝倉は必ず罪を認めさせて償わせてやろうと決心を固めていたが、実を言うと彼を部屋の外で待っていた男
「なぁ朝倉。あいつの話をどう思うよ」
「竜胆の話ですか?どう考えても判断能力の不十分を理由に刑の軽減を狙ってるとしか思えません。まぁ本当に何らかの精神疾患を患っている可能性もありますが…」
「そうだよなぁ。普通そう思うよなぁ。でも俺の刑事としての勘が囁いてんだよ。この事件はそんな簡単な話じゃないってよぉ」
「もっと大きい組織が絡んでるってことですか?
…まぁ確かに竜胆は以前から多くの非行に手を染めていたようですし、その可能性もありますが…それならあの兄妹を狙う理由はなんですか?」
「そこなんだよなぁ…仮にでけぇ組織が後ろにいたとしても自動車なんて決して安くないものを貸す理由がない。それにあのステーションワゴンは一体どこから調達した?何故足がつかない?」
「それは…」
ここで初めて朝倉は夜上が疑っている根拠について行き着く。確かにこの事件においてステーションワゴンの足が一向についていない。車なんて大掛かりなものを盗めば被害届が必ず届く筈なのにだ。それを踏まえると竜胆の背後にいる組織は余程大きいことになる。
「…今すぐ車を徹底的に調べましょう」
焦燥感を募らせながらも夜上を真っ直ぐと見据えて朝倉は進言した。けれど、朝倉は力なく
首を横に振るう。
「もう既に調べた後だ。結果は十年以上前に製造されたということ以外何も分からなかった。」
「そんなことあるんですか⁉」
「…わからん」
二人は共に黙り込む。正義感の強い朝倉は元より夜上もまた刑事としてのプライドがあった。いや、現状朝倉よりも夜上の方がこの事件に執着していると言ってもいい。故に夜上は歩き出す。
「どこに行くんですか?」
「こんな所で悩んでたってしょうがねぇだろ?俺たちは椅子に座って事件を解決する探偵じゃなく自分の足で事件を嗅ぎまわる刑事なんだからよ」
「宛は!?」
「あるぜ。だが、今回は俺一人に行かせてくれ」
「はぁ!ちょっと待ってください」
夜上を引き留めようとする朝倉。けれど夜上が止まることは無い。自分と違い朝倉には未来がある。こんな所できな臭い事件を追う必要はない。刑事の勘が告げているのだ。この事件に足を突っ込んだら二度と元の生活には戻れないと、それだけ大きな組織が裏にいると。
それこそ、
(最悪うちの上層部と繋がっていることも考慮しねぇとな…)
そう最悪の仮想敵に当たりを付けながらもそれでも夜上は止まらない。何故なら彼はそんな難事件を解決するフィクションの中の刑事に憧れてこの仕事に就いたのだから。朝倉からは見えなかったが彼は笑っていた。餌を前にした猛獣のように嗤っていたのだ。
☆☆☆
校庭の屋上心地の良い風に晒されながら弁当箱を開く。周りの生徒が友人や恋人と食卓を囲んでいる中で一人だけボッチ飯を食べることに少しの居心地の悪さも感じないと言えば嘘になるが、一人屋上で食べるのも今日が初めてという訳ではない。俺は周囲の人間には目もくれず屋上から見えるこの街の風景を一望する。
この街にきてから早二年大分愛着も湧いて来た。けれど、やはりふとした時に思い出してしまう。俺の一番目の妹である西園愛莉と過ごしたあの街のことを
「そろそろ帰ってやらないとな…」
次の週明けの月曜日が愛莉の命日だ。表向きあの子は生きているためあの子の墓も無い。それでも、いやだからこそ兄として愛莉の死を知っている人間の一人として命日には必ず一緒に過ごすようにしていた。
「やっと見つけた!」
聞き馴染みのある声、それこそ物心ついた頃から知っている愛しい妹の声が聞こえ屋上の塔屋へと視線を移す。すると、入り口前で今の愛莉が腰に手を当てこちらを睨みつけていた。愛莉の背後には彼女の友人である彩香ちゃんが立っておりこちらに手を振っている。
どうやら、俺を探していたようだが、一体なんのようだろうか?
俺が首を傾げているとズンズンという擬音が聞こえてきそうなほど大股で愛莉がこちらに歩み寄ってくる。
「どうかしたか?」
「どうかしたって?あんた教室にもいないでなんでこんな所で一人ご飯食べてんのよ!」
「あ~、要約すると愛莉はお兄ちゃんと一緒にご飯が食べたかったんだよ!って意味です」
「は、はぁ」
「ち、ちがっ!」
一緒にご飯が食べたいと言ってくれるのは素直に嬉しい。まぁ、本人は違うって言ってるけど…。
取り敢えず、向こうも仲良くなろうと努力してくれてるのは素直に嬉しい。
「もし、良かったら一緒にご飯を食べないか?愛莉。何か要件があるのなら食べながら話そう」
「ま、まぁ、良いけど?あんたを探し回ってたら教室でゆっくり食べる時間無くなっちゃったし?」
「愛莉素直じゃなさすぎ~。お兄ちゃんに愛想つかされちゃうよ?」
「彩香は黙ってて!!」
愛莉と彩香ちゃんのやり取りで周囲から奇異の視線を向けられる。二人もそれに気が付いたのか愛莉は気まずそうに俺の隣に腰かけ彩香ちゃんはケラケラと笑いながら愛莉の隣に腰かけた。
「あ~あ、愛莉がおっきな声出すから目立っちゃったじゃん」
「う、うるさいわね」
「まぁ、周りも直ぐに興味を無くすさ」
俺は周りの目を無視して弁当を楽しむ。そのくらいの神経の図太さが無ければこんな活気のある所で一人弁当なんて食べれない。
あ、そうだ。愛莉にもあの事を伝えて置こう。
「そうだ。愛莉、今週の土曜は家を空ける。夕飯は適当に食べてくれ」
「え?アニキも?」
「アニキもってことは愛莉もか?」
「う、うん、だって週明け月曜日がお兄ちゃん…私の一番目のお兄ちゃんの命日だから」
そうか愛莉の兄の命日も同じなのか。
やはり、俺と愛莉の記憶の齟齬はどちらが事故にあって命を落としたかという一点だけか…。
この前父さんに内密で連絡を取れないか試してみたが、一度たりとも繋がらなかった。只単に気まずいから連絡をしないのか、それとも俺たちに明かしていない秘密があるのか…。
それを探るためにもあの事件についてもっと調べる必要がありそうだな。
「アニキ?考え事?」
「え、あ、ああ…。あ、そうだ!出来れば愛莉の一番目の兄の所に挨拶に行かせてくれないか?ほら、二人目の兄として挨拶しておきたいし?」
「え?…う~ん、まぁ、良いけどアニキもその日用事があるんでしょ?」
「それは別に今度でもいいからさ?な!」
「分かったけど…」
「なんだかお兄さん怪しいですね。隠し事?」
愛莉から許可を貰った所で彩香ちゃんが突っ込んだ質問をしてくる。元々、目的地は愛莉と同じだし、ここで断られて後で鉢合わせしたらそれはそれで面倒なのだ。だから出来ればそう言う質問はして欲しくないのだが…。
そう思っていると、彩香ちゃんは先程までの真面目腐った態度を崩し、側頭部に拳を当てて舌を出す。
「な~んて、人のお家事情に首を突っ込むのはマナー違反ですよね!失敬失敬」
「あはは、なんかごめんね?」
俺はそう言うと残りの弁当を口にかき込み、立ち上がる。
「それじゃあ、土曜は俺もいくから、またな!愛莉」
これ以上詮索されたら堪らない。
確証があるのなら兎も角愛莉に余計な心配をさせたくない。だから、俺にも愛莉が死んだ記憶があり、俺にとって今の愛莉は二番目の妹、クローンであるかも知れないなんて話今の愛莉は知らなくて良いのだ。