俺は妹がクローンだと知っている。私は兄がクローンだと知っている。   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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第五話

☆☆☆

 

「準備終わったか?愛莉?」

 

土曜日の午前9時。俺は玄関前で愛莉の身支度が終わるのを待っていた。二階からはドタドタと騒々しい物音が聞こえる。この様子だともう少し時間がかかるか?俺がそう思っていると、上から黒いハンドバッグを持った愛莉が降りて来る。

急いできたのか髪は少しだけ乱れているが、服装に関してはなんというか…

 

「随分と気合が入っているな」

 

そう呟いてしまう位には可愛らしい格好をしていた。勿論愛莉を異性として魅力的に感じるというのは問題があるし、俺自身そういうつもりは無いのだが、なんというか、兄の贔屓目なしにトップアイドルや美人女優にだって引けを取らない程綺麗だとそう純粋に感じたのだ。

今の愛莉は夕焼けを綺麗と感じるのと同じように本能に揺さぶりをかける感動を見たものに抱かせる不可侵の魅力を纏っていた。

 

「気合って…悪かったわね。

でも別にあんたとの外出だから気合を入れてるわけじゃなくて、お兄ちゃんのお墓参りだから気合を入れてるの。勘違いしないで」

 

眉間を寄せ冷たい眼差しと突き放すような言葉でもって不快であったことを言外に伝えてくる愛莉に俺もしまったと後頭部を掻く。

確かに気合が入っているという言葉は年頃の女の子がお洒落をしている際に使う言葉として不適切だった。

 

「ごめん。いつも以上に愛莉が可愛かったからつい指摘した。

…本当はもっと素直に褒めたかったんだけど、気恥ずかしくてさ」

「ッ。はぁ?…まぁ、別にいいけど!早く行こ」

「ああ」

 

これは許してくれたと思っても良いのだろうか?

ただ口調はやはり強いし、あくまでも今回は大目に見るということだろう。以後はもっと自分の発言に気を付けないとな。折角、仲も深まって来たのだ。こんな下らないことでまた少し前のような関係には戻りたくない。

 

俺はその後も愛莉の顔色を伺いながら色々な話題を振った。

 

☆☆☆

 

テレビの画面を早送りするように凄まじい早さで切り替わっていく景色。時々大きく揺れるため、転ばないように椅子から伸びる金属の手すりを掴み、バランスを取る。

そんな中、ふと疑問に思ったことを口に出す。愛莉と話したかったのもあったが、情報の確認をしておきたかったのだ。

 

「そう言えば、愛莉の元々暮らしていた場所はどんな所なんだ?」

「え?別にこれと言って名所がある訳でもない普通の街だけど…。ああ、でも家の近くに桜の木が植えてある公園があってそこでよく遊んでたかな。春先位にお祭りもするんだ。後は、大きな商店街もあって夕飯はそこでお惣菜を買うこともあったよ?

逆にスーパーとかシッピングモールとかは近くに無かったんだよね。」

「そうか」

 

愛莉の言葉に俺も故郷のことを思い返し懐かしい気分になった。

その後は特に会話とかが弾んだわけではないが、それは話す内容が無くなった故の沈黙という訳では無かった。俺も愛莉も生まれ育った町、舞橋町に思いを馳せていたのだ。

 

 

だからこそ、実際に町についた俺たちのショックは大きかった。

 

「ここ、どこ?」

「取り敢えず家に向かおう」

 

俺達が辿り着いたのは舞橋町と言う名前の俺たちに馴染みのない町だった。いや、前のお盆から一年経っているのだ。

町並みが変わっていても不思議じゃない。例え、商店街だけでなく、公園すら影も形も無かったとしても家さえあればここに西園愛莉と西園司が暮らしていた証明にはなる筈だ。

そう思い俺たちは家へと向かった。

正直に言うと俺自身はこの可能性も視野に入れていた。

自分自身と愛莉との間にある記憶の齟齬。これが意図的なものだったのだとすれば父さんは記憶を弄ることが出来る。恐らく記憶移植技術の応用だろう。それを用いてオリジナルが暮らしていた町の名称を俺たちの記憶から消し別の名前に書き換えた。

何故そんなことをするのか。そう思われるかもしれないが、むしろ俺からすれば点と点が繋がった気分だった。憶測になってしまうが、俺と愛莉は最初の事故で死んでいる。そして、クローンとして蘇った。

ただ、事故で亡くなった俺たちが次の日には何事もなく過ごしていれば近所の人間は気が付く。だから、家を変える必要があった。そして、二度とその町に戻れぬように町の名前も記憶から消した。

とはいえ、記憶を弄れてもそれで全ての整合性をとるのは難しい。特に父さん自身が上手いこと記憶を操作し、記録を消したつもりでも何か見落としがないとは言えない。特に俺と愛莉が昔同様仲が良かった場合、何気ない日常会話による情報の共有でその小さな違和感に気が付くかもしれない。

そうして、オリジナルが住んでいた町に辿り着くかもしれない。だからこそ父さんは俺達の心理的距離を離すべく敢えて片方はクローンであると記憶を操作した。

そう考えることが出来る。

 

だが、この考えは俺と愛莉の両方がクローンであることを表している。

 

想定するうえで最悪の一歩手前だった。

一応、記憶だけを操作する術があり、俺と愛莉の記憶を操作した、というだけの可能性もあるが、それならなんのためにそんなことをするのか、という問題が浮上する。

何らかの実験か、政府の陰謀か、なんて幾らなんでも発想が飛躍しすぎているし、正直考えたくもない。

 

(いや、そういう可能性も視野に入れておくべきか)

 

ちらりと愛莉の方を振り向けば不安そうに胸元で両手を握っていた。無理もない。自分の信じていたものが壊れる感覚は大半の人間にとって耐え難いものだ。

特に、兄がクローンであると知っているこの子からすれば、自分もクローンで全て偽りの記憶だったという発想に至るのは想像に難くない。

俺は愛莉の手をギュッと握ると安心させるために敢えて明るい声を出す。

 

「何があっても俺は愛莉の味方だから」

「…うん」

「折角だ。この後この街を少し散策しよう。」

「…そうだね」

 

愛莉の返事は芳しくない。

難しいな。こういう時なんて言えばいいのかが全然分からない。

オリジナルであればもっと気の利いた言葉がかけられていたのか?なんて益体のないことを思ってしまう。

どうせ、俺とオリジナルとの間に差なんて無いだろうに…。

その後も俺は愛莉の気を逸らそうと目についた物をネタに色々と話しかけた。だが、それは結果的に彼女にこの街をよく見せることに繋がり、不安を煽ってしまった。

見たことがないという意識をより強く根付かせてしまったようだった。

 

その後は学校の話などに話を変えてはみたが心ここに非ずといったようで、生返事が続くばかり、そうこうしていると、家の前についてしまった。

見覚えのない一軒家の前に。

 

けれど、西園と表札に書かれた家の前に。

愛莉と繋いでいる右手がより強い力で握られるのを感じる。

ここで帰ることも出来るだろう。同じ名前の別の家についてしまったと、そう言って有耶無耶にしてこの場を後にするのだってなしじゃない。

けれど、俺は知りたいと思ってしまった。愛莉のためではなく自分の為に俺達が何のために存在しているのか推論ではなく真実を父さんの口から聞き出したかった。

俺は愛莉と繋いでいる右手を離すと、自身の鞄から以前住んでいた家の鍵を取り出す。

これで開かなければ諦めよう。

そう思って鍵穴に鍵を差し込み一拍置いてから回した。

息が止まるような緊張の中、確かに家の鍵はしっかりと回りきりこの家の扉が開いた。

 

「嘘…」

 

後ろで愛莉がそう呟く声が聞こえた。俺自身も同じ気持ちだ。

心のどこかでは開かないでくれと願っていたのだろう。

けれど、扉は開いた。まるで俺たちを中へと誘う様に。

 

「お兄ちゃん、やっぱり帰ろうよ。この家見覚えも無いし、なんだか怖いよ」

「…見覚えが無いのはきっと父さんがリフォームしたからだよ。中に入ってみよう。」

 

俺は半ば愛莉の気持ちを無視する形で中に入る。

靴が何足か置いてある。俺は念のため、靴を玄関に置いておくことはせずにレジ袋が有料化してから持ち歩く様にしている以前買ったビニール袋の中に靴を仕舞う。

 

「愛莉、ほら、お前もこの中に靴を仕舞って置け」

「ねぇ、こんなことしなくてもいいでしょ?だってほら、私たちの家な訳だし…もし悪いことをしようとしてるならそんなのやめようよ?ね?」

「別に悪いことはしないさ。ただ、父さんは俺と愛莉を避けているようだから、バレない様に靴を隠そうってだけの話だよ」

 

俺がそう言えば愛莉は渋々ながら靴をレジ袋の中に入れてくれた。

愛莉自身も自身の違和感を解消したいと思っているのだろう。

 

その後俺は目についた扉を開けた。

中はどうやらリビングとキッチンが併設された作りのようでテレビやソファ、食事用の大きなテーブル、冷蔵庫などが置かれている。

俺はそのテーブルを指なぞる。長年使われてなかったら相当埃が指につく筈だが、テーブルから離した指には埃どころから汚れ一つついていなかった。

確実にこの家は今も使われているのだろう。

俺は次に目についた冷蔵庫を開ける。中には肉、納豆、卵、豆腐、ソーセージ、ベーコンと多種多様な食材が入っている。野菜庫や冷凍庫も同様でそれぞれにそこそこの量の食材が入っている。一人で食べるには多い量が。

 

となると、複数の人間が一緒に暮らしている?一体誰が?もしかして、父さんの本当の家族か?

 

「…取り敢えず二階も見て見ようか」

 

俺は愛莉の一瞥し足早に二階の階段を上る。愛莉は相も変わらず不安そうな表情をしているが、父さんを問い詰め、真相を聞き出すそれこそがこの不安を払拭するうえで最善だ。だから、決してここで帰る訳にはいかない。

そう自身に言い聞かせる。

 

言い聞かせて足を絶えず動かす。二階には俺の部屋と、愛莉の部屋が用意されている。流石に年頃の妹の部屋に勝手に入るのは気が引けるし、俺は自身の名前の書かれた部屋へと入る。

漫画やゲーム機、料理本なんというか以前の俺が好きそうな部屋という印象だ。

より詳しい情報が知りたかった俺は引き出しを開けてアルバムなどが無いか物色する。

そんな最中、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。

 

 

 

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