不死、宇宙、原始と機関。4人と歩む英雄道中 作:灰色の男
零 始まり
なにもない空間。
上も下も、右も左も。
遥かな大空も、踏みしめるべき大地もなにもない。
生命の息吹きなど微塵も感じない。
言うならば"虚無"
そうとさえ表現できる空間。
己の形すら曖昧で、人魂のような形を取っている。
強いて言うならば。
ごく稀に、目の前に扉が出現することがある。
中からは人に羽が生え、頭には光の輪が浮いた……所謂天使が出てくるのだ。
そして何度でも問いかけるのだ。
「成仏する準備はできましたか」と。
俺は答えるのだ。
「まだだ。まだ考えたいことが山ほどある」と。
どうにも俺の転生する先は決まっているらしい。
輪廻転生とやらを体験できるのは光栄だが、やはりと言うべきか。
"俺"としての記憶は全て消えてしまうそうだ。
「まーだ居座ってるんですか?そろそろ10年ですよ10年。いい加減飽きないんですか?」
ほら来た。私が飽きる訳がないだろう。
追憶も思考も10年で足りるわけがない。
人がおらずとも、道具がなくとも。
人に"考える"という機能があるならば俺が飽きることはない。
「無駄に強情なんですよねぇあなた!それで考えてるのはずっとカードのことじゃないですか!」
失礼な。たまには他のことも思い出すぞ。
物語のこととか、知り合いのこととか。
「全く……こんなんだから特例を作る羽目になるんですよねぇ」
あきれたようにため息をついて、そう言う天使。
はて、特例とな?
「本来なら魂を洗浄、漂白して次の転生先に流すんですが。あなたがあんまりにも動かないもので本来流す予定だった転生先から文句が来てるんですよ。クレーム対応するこっちの身にもなってください」
おつかれ。
「軽い!?……まあそんなこんなが2年前。いい加減向こうさんが痺れを切らして『もう漂白しなくていいから送ってくれ!』なんて言い出したのが1時間ほど前のお話です」
……じゃあ俺はどうなるんだ?
「今の自我のまま転生です。まったく、どうしてこうなったのやら……」
ほほぉ……それはまた嬉しい話だ。
第二の生、というやつだろう?
「そうなりますね。存分に堪能してきやがれください」
面倒臭そうに指を鳴らす天使、すると俺の前に普段天使が使っているものとはまた別の扉が現れた。
俺はそこを潜ろうとして、その直前で振り返って言った。
……なあ、一つだけ頼みがあるんだが。
「なんですか?特典とかくだらないこと言い出さないでくださいよ。私この後始末書を書かないと行けないので」
そんな大層なものじゃない。
俺の大事にしてたカードがあるだろ?
あの4枚をお守り代わりに持っていきたいんだが。
「えー……」
露骨に嫌そうな顔をするな。
「だって確実に始末書モノじゃないですか。嫌ですよ私これ以上反省文書くの……」
いいじゃないか。これで俺関連の始末書は終わりだろ。
「いやまあそりゃそうなんですけども……はぁ……」
しばらく言い合いを続けていると、天使が折れた。
「仕方ないですねぇ……ほら。これでいいですか」
俺の手元には4枚のカードが。俺はそれを大事に魂にしまいこんだ。
ありがとう。これで臆することなく旅立てる。
「そう思うならさっさと行ってください。私の胃のためにもね」
そうさせてもらう。世話になったな。
「はいはい行ってらっしゃい。戻ってこないだくださいねー」
しかしまあ、この天使も考えることはなかっただろう。
よもやこのカードに命が宿るなど。
否、この表現は正しくないか。
このカードに引き付けられてきた4人が、
俺のカードに宿り、
俺と共に歩むことになるなど、
誰にも解り得ることではなかったな。
初回なので短めです