不死、宇宙、原始と機関。4人と歩む英雄道中   作:灰色の男

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壱 コンタクト……転生完了を確認

「……」

 

 

俺は、知らない真っ暗な部屋で目が覚めた。

知らない天井、知らない壁紙、知らないベッド。

時計を見れば、未だ深夜であることが見てとれる。

 

……いや、知らない訳じゃない、か。

 

徐々に記憶がはっきりしてきた。俺は(めぐる)

示略(しりゃく)(めぐる)だ。

今年の今日で……15になる。

 

俺はあの扉を潜り、転生し、廻としての新たな生を得た。

ただし《無個性》として。

 

この世界は"個性"という前世で言う超能力を人々が得る時代となった。

剛力、爆炎、飛行、変化、放水、巨大化……

無数にあるその"個性"があることが、人々にとっての「当たり前」となる時代になった。

 

故に、"個性"を持たない少数側の人間は、非常に窮屈な暮らしを強いられていた。

かく言う俺も、そんな窮屈な思いをしてきた人間だ。

"個性"は基本的に幼少期に発現する。

が、俺は発現しなかった。

 

それが原因で少なくない数のいじめにあってきたし、不遇に涙したことだって1度や2度じゃなかった。

みんなが持ってる"あたりまえ"が、羨ましい幼少時代だった。

『両親』という存在も、またそのひとつだった。

俺の両親は俗に言う『毒親』というやつだったようで、家には自分一人でいることがほとんどだった。

育児放棄(ネグレクト)、というやつだろう。

それが行くところまで行った結果、1年前に金だけ残して蒸発した。

 

最低限金を残したのは多少なりとも情はあった、ということだろうか。

今となっては知る由もないが。

 

 

「……さて、と」

 

 

ベッドから起き上がり、近くの棚からカードケースを取り出し、苦笑する

 

 

「この世界でもやっぱり、俺はカードが好きなんだな」

 

 

前世で熱中したカードとはまた別の、所謂コレクションカードがいっぱいに詰まったカードケースだ。

 

この世界では、"個性"を生かし、人助けをすることを仕事とする《ヒーロー》という職業が存在する。

そんな彼らは勿論注目を浴びる人気者で、多くのヒーローがプロモーションの意味も込めて商品化されている。

 

彼らは、間違いなく"無個性"であった俺にとっての憧れで、いきる希望だったのだろう。

一つ一つがスリーブに入れられ、近くに置かれていたノートにはナンバー順に彼らのプロフィールや分析がびっしりと書き込まれていた。

 

 

「……ははっ、皮肉だな」

 

 

カードゲームと同じだ。

 

(パーツ)を持たない者は、憧れ(勝利)に近付くことはできても圧倒的な力(環境デッキ)には叶わない。

 

そして前提(碌なデッキ)を持たないものには、憧れ(勝利)を目指すことすら許されない。

 

それでもやはり、憧れ(勝利への羨望)は止められないものだ。

 

 

どうにか力をつけようと、必死に努力した。

机の下の引き出しには、びっしりと書き込まれたノートがあった。

ヒーロー研究ではない、シンプルな勉強のためのノートだ。

びっしりと、されど見返しやすいように配慮されたノートは、吐きそうになりながらも書き込み続けたこの身体の記憶を想起させる。

 

 

棚を開けば、トレーニング用具がこれでもかと詰まっていた。

金属製のトレーニングウェア、ダンベル、アンクルのような一般的なトレーニング用品から始まり。

ステッパーやベンチプレス、腹筋台にエアロバイクなどのジムにあるような本格的なソレまでもがしっかりと揃っていた。

 

記憶を辿れば10になる前から過酷なトレーニングを積み続け早5年。

体質だろうか。不思議と目に見えるような派手な筋肉がつくこともなく、同級生からのいじめも絶えなかった。

 

 

「報われないな……」

 

 

いくら身体を鍛えようと身体強化系や異形系の"個性"持ちには敵わず。

かといっていくら勉強しようと、記憶力や思考力に関わる個性持ちには手も足もでなかった。

 

 

「……ん?」

 

 

……ため息をついて棚の扉を閉じ、振り替えると机の上に4枚のカードが置かれていることに気がついた。

 

 

「これは……あぁ、ちゃんとくれたんだな、あの天使は」

 

 

 

それは前世、全力で嵌まっていたカードゲーム《デュエル・マスターズ》で使用した、特に大事にしていた4枚だった。

 

 

「ゲームの方で登場してから、余計に好きになったっけ」

 

 

スマホゲームでは、その姿を人の姿に落とし込んだキャラクターも登場し、より好む感情を強めたのはよく覚えている。

 

 

S級……最強格の3枚と、禁断の力を秘めた殿堂。

どれも俺にとっては掛け替えのないカードだ。

スリーブに入れられないまま送られてきたようで、傷ついてややボロくなっているカードがそのまま机におかれていると言う事実に気がつくと、急いでスリーブとマグネットローダーを取り出し収納、ヒーロー達のカードのとなりに貼り付けた。

 

 

……持ち歩くわけにもいかないもんな、と苦笑しひとつ大あくびをする。

よく考えてみればまだ深夜、普段はまだ寝てる時間だ。

難しいことは明日にでも考えよう、と布団に潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、壁に飾ったカードが淡く、何かを呼ぶように光っていることに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、辺りを照らすのは等間隔に配置された電灯のみ。

そんな道の中に、不思議な格好の4人組が現れていた。

 

 

「コンタクト…………」

 

 

一人は水色の長髪を靡かせ、どこか非人間味を感じさせる少女

 

 

「おいアダムスキー。この家で間違いないのか?」

 

 

一人は上裸の筋骨隆々な、どこか原始人を思わせる男

 

 

「なんかの間違いじゃねぇのか?ただの民家じゃねぇか。

 こんなとこにS級侵略者(同類)がいるとか、なんの冗談だよ?」

 

 

一人は青白い肌に藍色の髪をし、首に赤いマフラーを巻いた気の荒そうな女

 

 

「……わ、わたしもここだと思う。どこか、禁断の力を感じるよ、デッドゾーンさん」

 

 

一人は、どこか気の弱そうな、コートのような、あるいは拘束具のような服装に灰色の髪と金色の瞳の少女

 

 

「ミステリー……力を感じるのは確か。ただし、出力が嫌に低い」

 

 

眉間にシワを寄せ、アダムスキーと呼ばれた少女はそう答える。

 

 

「このレベルなら、死にかけているか、あるいは生まれようとしているかの二択。ただ、私達とシグナルが気味が悪いほど似通っている」

 

「俺達と……か?」

 

 

男もまた、眉間にシワを寄せて耳を傾ける。

 

 

「それは……オレ達のクローンとか、そういう話か?」

 

 

その問いかけを、灰色の髪の少女が否定する。

 

 

「ううん、それ以上。出力を除けば、完全に一致する。お父さんでも再現できない精密さのレベルだよ」

 

 

劣化コピーですらない、最早自分達がもう一人いると理解した方が早いのだと少女は言う。

 

 

「それに……《鍵》の気配も感じる。たぶん同じ場所にあるよ」

 

 

「ケッ、ならさっさと突入すりゃいいだろ。どうせ碌なことじゃねぇ」

 

 

デッドゾーンと呼ばれた女は荒っぽくそう言い捨てる。

 

 

「ミステリー。なぜ貴女はそう喧嘩っ早いのか。二階のベランダが開いてる。そこから侵入する」

 

 

そう言うと一同は浮遊感に包まれる。一帯を無重力空間にしたのだ。

アダムスキーが先導し、壁を蹴って件の民家のベランダに着地。後から3人が追って同じ場所に着地することになる。

奇しくもそのタイミングは、廻が瞳を閉じ寝息を立てた直後のことだった。

 

 

「ここは……寝室か?」

 

「静かに物色しろよサンマッド……だが、そうみてェだな。このガキの部屋らしい」

 

 

サンマッドと呼ばれた男とデッドゾーンは、小声で会話しながら部屋を物色する。

 

 

「……!アダムスキーさん、これ」

 

「……?………!サプライズ。"コレ"が今回の目当て?」

 

「間違いないよ、《私達のカード》だ」

 

 

ヴィヴィとアダムスキーが見つけたのは、壁に貼り付けられたローダー入りの4枚のカード。

 

【S級不死(ゾンビ) デッドゾーン】

 

【S級原始(トライブ) サンマッド】

 

【S級宇宙(スペース) アダムスキー】

 

【禁断機関 VV-8】

 

 

この4人のクリーチャーとしての勇姿が描かれたカード達だった。

 

 

「……なんだ、見つけたのか?」

 

「それならさっさと回収して……おい、これオレらのカードじゃねぇか?」

 

 

部屋の反対側にいたサンマッドとデッドゾーンが、二人の様子に気付いて確認にやってくる。

 

 

「クエッション。あなたは、私?」

 

 

アダムスキーはローダーのうえから手を添え、普段自分の分身と交信する時のように思考を飛ばす。

すると返ってきたのは、想定していたものとは違う、男の声だった。

 

 

[アンサー。昰にして否。我等はただのカード。思いが宿ったに過ぎない紙切れである]

 

 

本来ならば帰ってくるはずのない返事。

当然ながら、そのカードは廻が前世に愛用していただけのカード。

前世はただの現実世界。

デュエ粒子などと言うものはなく、クリーチャーワールドなど存在しない、ただの現実世界であったからだ。

……しかしなんの因果か。

世界を越えたことによる影響か、はたまた運命の悪戯か。

そのカード達には薄く意志が宿った。

 

彼等のように実体化できるわけでもなければ、自分の主と言葉を交わすことができるわけでもない。

ただただ、意思を持っただけではあったが。

 

しかしその前提は、《同じ存在》かつ《テレパシー》を持つアダムスキーがいることによりひっくり返る。

アダムスキーは分身した《同一個体とのテレパシー通信》が可能だ。

これを活かし、紙のアダムスキーはクリーチャーのアダムスキーと交信を行うことに成功した。

 

 

[同じシグナル、されど異なる、大いなるエネルギー]

 

[想定するに、君は恐らく時間軸を旅する真なるアダムスキー]

 

[我々は贋物に過ぎない]

 

 

「そんなことはない。こうして交信できている」

 

 

[アンサー。それはただの奇跡に過ぎない]

 

[我々は……]

 

そうしてカードのアダムスキーは明かす。

自分達が異なる世界から転生した主に呼ばれたカードであること。

世界を越える過程で意思を持ったこと。

自分達が主の側を離れるつもりはないこと。

 

そして

 

 

[我等は所詮カードに過ぎない。いくら強いからとデッキを組まれても、殿堂……制限カードに指定されては抜き去る者も多かった]

 

[事実、主の友も好きだと言って憚らないカードが制限されたからとデッキを取り替える者が多かった]

 

[しかし主はそうしなかった。共に入れるカードや戦略を変えることはあれど、我等をデッキから全て除くことはなかった]

 

[異世界への旅路に、他はいらないと我らを連れてくれた]

 

[故にどうか。主が焦がれた"アダムスキー"に……否、S級侵略者と禁断機関に乞い願う]

 

[我らは主からの恩に報いたい。どうか、力を貸して欲しい]

 

 

「……」

 

「おい、どうなったんだ」

 

「交信一時停止。情報共有を開始する」

 

 

アダムスキーは、他の3人に聞いた情報を共有する。

 

 

「……メリットがない」

 

 

暫くの沈黙のあと、サンマッドが口を開く。

 

 

「恩義に報いたいのは理解した。しかしだ。俺達には侵略ウイルスの残量というタイムリミットが存在する」

 

 

それを無視してもここに留まり、それに応えるメリットがないと、そう主張した。

逆に、その問題を解決できるならば別にそれくらい構わないのではないかとも。

 

 

「コンタクト……クエッション。聞いていた?」

 

[コンタクト……無論。応えてくれるならば我等の身を捧げる。これは総意だ。]

 

 

無論主から許可を得た上でだが、と前置きをして。

 

 

[今回、我等は世界線のボーダーを超えた。それは時間軸を普段から移動する君達ならばともかく、普通ならば成し得ない奇跡だ]

 

[故に、その過程で膨大な量のエネルギーを吸収し、我等には意思が発生した。ならばこの身に宿るエネルギーを君たちの生命活動を補うエネルギーと変換するならば?]

 

 

「……少なくとも一時的な侵略ウイルスの代替品にはなる?」

 

 

[可能性は大いにある。少なくとも向こう500年は枯渇することはないだろうと私は見ている]

 

 

「そこまでの代価で、何を要求する?」

 

 

[主の"力"となってほしい]

 

 

アダムスキーは先の廻の情報収集の際に理解した"個性"について伝えた。

 

 

[主はその力がない。故に多大なる屈辱と怒り、悲しみを飲み込みここまで生きてきた]

 

[この度の転生とて、その特典となり得るようなものは一切所持せぬままこの世界に来た。であらば……]

 

 

「新たな意識が浮上した今もその力はないと?」

 

 

[我等はそう見ている。……否、むしろ我らのカードを取り出す、というのがその力となっている節すらある]

 

 

そう、廻は転生の前。《魂にカードをしまい込んだ》のだ。故に"カード4枚を取り出すだけの個性"となっている可能性が非常に高いと、そうアダムスキーは考察する。

 

 

「アンダスタン。でもそれは……」

 

 

[昰。余りにも残酷だ。早々に主は己に力が宿らぬことを理解したようだが……]

 

 

「だから私達に、彼の刻に付き合って欲しいと」

 

 

[昰だ。クリーチャーである上に別個体分の同一種エネルギーを丸一生分捧げる。ならば寿命や活動時間の問題はなくなるはずだと、そう考察する]

 

 

 

「……だって」

 

伝えられたことを同じように他の3人に伝えるアダムスキー。彼らはやや難しい表情で考え込む。

 

 

「……オレはいいと思うぞ。500年の活動時間が事実上保証されているなら難しいことを考える必要もねぇ。活動時間の問題が解決する礼に付き合うくらいはな」

 

「……意外だな。『んなめんどくさいことやってられっか!』程度は言うと思ったが」

 

「……るせぇよ。自分じゃどうしようもないことが原因の無力で、好きなもんも目指せねぇ。そんなのみてられるかっての」

 

 

……そう言ってデッドゾーンは一冊のノートをサンマッドに渡す。

 

 

「これは……」

 

「そこのガキが書いたらしいノートだ。ヒーロー、ってのになりたかったんだと」

 

 

サンマッドはページを慎重に捲る。

ヒーローコスチュームだろうか。そこにはページごとに人の絵が描かれており、その絵から伸びた線の先にはどこに、どんな能力がついているかなどが書き込まれていた。

 

 

「ほほぉ、中々細部まで書き込まれてるな」

 

「あ、このバイクモチーフかっこいい!」

 

「サプライズ……記入された日付的には8年近く前の作品もある……」

 

 

そう各々が感嘆のコメントをしたところで、デッドゾーンがそのページの右下に小さく書かれた1文を指で示した。

 

 

「……"無個性だから無意味"だとよ。その"個性"ってのが力のことだろ?その力がないから、ここまで熱中しても書き上げた瞬間に現実に引き戻されるんだ。その後にこうやって戒めとして書き込むんだろうよ」

 

 

ページを捲る度、段々と画力が語彙が、イメージや具体性が増していく。

剛力で壁を粉砕し、助けを求める人へと向かっていくヒーロー

重力の力を利用し、相手を傷つけずに無力化するヒーロー

その剛速で地を駆け抜け、最速で助けに向かうヒーロー

 

無理なことは知っている。

でもやっぱり憧れは、《好き》は止められない。

だからまた描き、また力のなさに絶望し、また烙印を己に落とすのだと。

 

 

「オレは……そんな有り様がここから伝わってくるみたいでよ……なんつーか、見てらんねーんだ」

 

 

そう感じるのも、また一種の道理なのかもしれない。

そこ(ノート)は廻の夢の跡。

即ち、諦めた(捨てた)(進化先)のいく墓場(墓地)なのだ。

己で打ち捨てた、想い()の廃棄場所なのだから。

 

 

「……俺も賛成しよう。暫く寄り道して新たに見聞を広めるのも悪くない」

 

「お前って3以上数えられないバカなだけでアホじゃないんだよな……」

 

「……常から思っていたが大分失礼だぞ、デッドゾーン」

 

 

サンマッドもまた、賛成すると意見を挙げる。

 

 

「アンサー、私も異論はない」

 

 

アダムスキーは、一種自分からの嘆願である上にデメリットがないと言うのならばと賛成に票をいれた。

 

 

「わ、私も……賛成。たまにプレイヤーさんに会いにいっていいなら……だけど」

 

「エマージェンシー、抜け駆け禁止。でももしそれが可能なら私としても吝かではない」

 

 

 

ヴィヴィもまた、暫定賛成であると言い、満場一致で意見は可決された。

 

 

「……コンタクト」

 

[コンタクト受諾。感謝する……これで……これで主への恩に報いることができる……!]

 

 

「私達が決めたこと。メリットがある以上、断る必要がなかった。それだけ」

 

[それでもだ。心より感謝する……!]

 

 

そうして夜はふけて行く。

しばらく語り合った後、一度出直すと。

アダムスキー達は去って行った。

 

 

未だ、そのことを廻が知ることはなし。

しかし、物を大事にする心が今回の奇跡を引き起こした。

 

 

 

本編デュエル・マスターズには、このような言葉がある。

今回の〆に引用させて貰おうか。

 

 

 

 

 

主人公と共にゴッドと戦い抜いた無法王は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切にされたボロボロのカードはな……

 

 

 

 

一番大きなキセキを起こすんや!

 

 

 

 

何も、切札の一族にしか適応されないわけではないはずだ。

 

己を大切にしてくれた、共に戦い抜いた戦友への感謝として奇跡を起こす。

 

こんなご都合な奇跡がたまにあっても……いいんじゃないか?

 

私はそう思う。

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